映像2022.01.05

朴 性厚監督が『劇場版 呪術廻戦 0』の魅力を語る「生き生きしたキャラクターを立体的にするのがアニメの仕事」

Vol.35
『劇場版 呪術廻戦 0』監督
Park Sunghoo
朴 性厚

12月25日発売の18巻でシリーズ累計発行部数6000万部を突破した(※)メガヒットコミック『呪術廻戦』(芥見下々/集英社)を映画化した『劇場版 呪術廻戦 0』。監督は一大ムーブメントを起こしたTVアニメ版と同じ朴 性厚(パク・ソンフ)さんが担当しています。

TVアニメ『呪術廻戦』は、キャラクターの人気をさらに引き出し、美麗な作画、アクションとギャグの絶妙なバランス、アニメならではのテンポ感など、多くの魅力で新たなファンも獲得しました。

本作はその『呪術廻戦』の前日譚で、原点とも言える“愛と呪いの物語”。主人公は、交通事故により幼なじみの祈本里香(おりもと りか)を目の前で失った乙骨憂太(おっこつ ゆうた)。彼は怨霊と化した里香の呪いに苦しんでいたところ、最強の呪術師・五条 悟(ごじょう さとる)に導かれ、呪いを学ぶ学校「呪術高専」に編入することに。

今回は朴監督に、『劇場版 呪術廻戦 0』の見どころをはじめ、原作との向き合い方、作品へのこだわり、監督がクリエイターとして大事にしていること、などを語ってもらいました。

※2021年10月時点、電子版含む

 

緒方恵美さんと共通認識を作るやり取りは勉強になりました

原作を最初に読まれたときの印象を教えてください。

読み始めたら、いきなりスッと入ってきて一気に読んでしまう面白さがありました。

その中でもいいなと思ったのが、やっぱり活き活きしているキャラクターたちです。全員がものすごく魅力的で、この作品のアニメ化において、一番大事にすべきことだと思いました。

アニメ版のキャラクターはとても魅力的に映っています。

原作のキャラクターがとても魅力的なので、それを「立体化」するために、まずは原作の設定を守りつつ、プラスアルファで何ができるかを考えました。それが「動き」です。やはりアニメは動いてこそ、なので、原作の描写と僕らが考える動きなどを合致させて。

世界観は守りつつも、アニメならではの動きがスパイスとなって、キャラクターをより輝かせたと思っています。

アニメならではと言えば声もですよね。主人公・乙骨憂太の声は緒方恵美(おがた めぐみ)さんが担当されています。

緒方さんは本当に素晴らしかったです。もちろん演技力は言わずもがな。自分が演じるキャラクターに対する解釈がとても深くて。

原作を深く読みこんで現場にいらして、いろいろな解釈を持ってきてくれました。そして「ここはこういう気持ちではないんですか?」と積極的に聞いてくださり、私たちも「ここはこうです」とお伝えし、きちんと話し合って乙骨を掘り下げていったんです。

これはキャラクターの枠組みの内側を、解釈によってひとつひとつ埋めていく作業。緒方さんと乙骨についての共通認識を持とうとしたんです。こうしてていねいに、キャラクターを作りあげることができました。この作業はかなり勉強になりましたね。緒方さんと私の他に音響監督の藤田亜紀子(ふじた あきこ)さんも入って、いろいろ話し合いました。

藤田さんの力は本当にありがたかったです。藤田さんは他の声優さんたちと、同様のキャッチボールをしてくださって。彼女がみんなの素晴らしい仕事を引き出してくれたおかげで、最高の作品を生み出せたのだと思います。

 

 

ギャグもアクションもホラーもすべて本気でやり切るのが『呪術廻戦』

キャラクターの魅力を存分に引き出している理由の一つは、アニメならではの「カメラワーク」だと感じました。

アニメはキャラクターが動くので、カメラ、つまり視点をどこに置くかが大事になります。アクションシーンはもちろんですが、2人の会話シーンもセリフごとに視点を変え、より伝えたいことを明確にできます。

アニメ作りには「空間を作る」作業が発生するんです。立体的な空間の中で、実写と同じようにカメラを動かすイメージで、1枚の絵を描いていきます。そこは制作している皆ががんばったところです。

原作の魅力を存分に、より引き出すのがアニメなんですね。

原作の読者が抱くイメージをより広げるのが、原作もの(アニメ)だと思っています。

やっぱりマンガや小説は、2次元の世界なので読みながらみんな想像しているはずで。キャラクターはこういう声でこういう話し方なのかとか、このシーンはどんな音楽が流れているのか、とか。それをどれだけ現実に落とし込み、画面でどう見せるのかが、アニメ制作の醍醐味です。

マンガだったら1コマでさらっと描くモノローグの場面も、アニメだとふくらませて回想シーンにしたり。マンガではほとんど変化がないシーンでも、セリフを発するときのちょっとした表情の描写や流れる音楽、カメラワークなどで、そのセリフをより生かす場面にできます。原作のいいところを残し、アニメ独自のスパイスによって動かしていく、そのバランスが大切です。

あと今回は原作の「呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校」では描いていないオリジナル描写のシーンも作っています。より「キャラクターの関係性が分かるように」意識しました。

こういったことも原作つきアニメの役割かなと思います。 原作の持つ要素をできるだけ網羅したうえで作品の世界観を広げていくことが重要ですね。

 

 

ジャパニーズホラーの怖さを序盤の雰囲気に生かしています

今回の劇場版での、監督のお気に入りシーンを教えてください。

こだわったのは導入のシーンですね。乙骨がいじめられている場面をホラーテイストで作っています。これが『呪術廻戦』らしさかなと。

特にこだわったのは色味ですね。私の中では台風が来る直前の気持ち悪い感じを色にしたつもりです。きれいなのにゾワゾワするような空のオレンジだったり、雨が今にも降りそうな曇り空だったり……。ぜひ注目して見てほしいです。 

色の濃淡で不気味さや、これから何かあるかも……という不吉な予感を表しているんですね

ホラーって色の勝負でもあると思っていて。ちなみに自分にとって日本のホラー映画はトラウマなんですよ。韓国にももちろんホラー映画があるんですが、どちらかといえば夜にお化けが出る作品が多い。

でも日本はそうとは限らない。映画『呪怨』(03年)は昼間にお化けが出てくるんですけど、めちゃくちゃ怖いんですよ。それは見ていて本当にイヤで怖くて(笑)。今でもあの感覚を思い出せるくらいです。

今回はそのトラウマを生かし、色味を寄せていて夜でないのに怖いと思わせることを、意識しています。

ホラーシーンといえば音もこだわっていますね。

音はアニメにとってかなり大きい要素です。音作りは、そもそも呪霊ってどんなものなんですか? というところから始めて、TVアニメ化のときに芥見先生を含めて結構話し合いました。共通認識を持つために、先生にはいろいろ質問しました。やはり気になったのは質感です。今回の映画も呪霊の足音は、ぬるっとした感じが出るようにしています。

 

 

自分で描いたものを再解釈してもらうことでいい作品が生まれる

監督が韓国から日本に留学したきっかけは何だったのですか?

子どものころからアニメが好きでした。『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(84年)が大好きで、小学校5、6年生のころから、大人になったらアニメに関わろうと決めていました。

韓国で美術系の大学に入ったのですが、よりアニメが作れる環境のところでもっと勉強したくて、留学を決めました。やはりアニメを学ぶならアメリカか日本。でも、どちらにするか、かなり悩みましたね。

当時、ピクサーが『トイ・ストーリー』(95年)を発表し、アメリカは2Dから3Dに移ろうとしていた時期で。ただ自分は絵を描くのが好きで、それを動かしたい。それならば、2Dアニメが強い日本だと。

アニメのジャンルにはこだわらなかったです。激しく動くアクションは好きなんですが、他のジャンルの作品も好きでしたから。まずはアニメに携わることを第一に考えました。

自分で描いて動かすということにこだわったんですね。

そうですね。『劇場版 呪術廻戦 0』も絵コンテを切り、原画まで描きました。自分が思っていることを納得できる形にするには、もちろん自分が描いた方が分かりやすいというか。ただ、自分が描いたとしても、それがすべてになってはいけないと今回気づかされたのです。

そもそも多くのアニメーターの力や良さを取り込んで一つの作品にしていくことがアニメ制作だと。

作品を一番理解しているのは監督である自分ですが、それぞれのシーンを優秀な人間によって再解釈してもらうことが大事で。

そうすることで自分が思っていたもの以上のシーンが生まれてきます。今回はそんないいシーンがたくさんあります。その結果、作品が進化するんです。

みんなの力が集結し作品の完成度が高まるんですね。

みんなの力がないとダメですね。今回「現場をプラットフォームとして作りたい」と言っていました。

アニメーターだけではなく、撮影やその他の制作陣みんなが集まって、それぞれのアイデアを出して意見をまとめていく。それがいい作品作りにつながっていく。

今回はそれができた現場だったと思います。

そんな監督がクリエイターにとって大事だと思うことは何ですか?

いろいろな経験をすることですね。アニメーターは絵が描けさえすればいいわけではなく、やはり多彩なアイデアが大事なんですよ。

アニメを見て描くだけではなく、さまざまな経験をして知識を身につけることで、それが制作物に表れてくると思います。

もちろん、スポーツも、旅行もいいのですが、時間がなければ外を歩くだけでもいい。ボーッときれいな夕暮れの空を見ていたら、こういう色味がいいなと思ったり、周囲で話している人たちの会話が面白ければ、それはネタになるし。外に出るだけで新たな発見があります。ちょっとした経験が大きな財産になるのがクリエイターだと思います。

 

取材日:2021年12月10日 ライター:玉置 晴子

『劇場版 呪術廻戦 0』

Ⓒ 2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 Ⓒ芥見下々/集英社

2021年12月24日(金)全国東宝系公開

原作:「呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校」芥見下々(集英社 ジャンプ コミックス刊)

監督:朴 性厚
脚本:瀬古浩司 
キャラクターデザイン:平松禎史
副監督:梅本 唯
制作:MAPPA

CAST:緒方恵美 花澤香菜
     小松未可子 内山昂輝 関 智一
     中村悠一 櫻井孝宏

 

※記事内記載の社名、作品名などは、各社の商標または登録商標です

プロフィール
『劇場版 呪術廻戦 0』監督
朴 性厚
スタジオコメットに入社し、原画担当として「capeta」「おねがいマイメロディ」などの制作に携わる。その後、『劇場版 マクロスF 虚空歌姫~イツワリノウタヒメ~』(09年)『ONE PIECE FILM Z』(12年)など数多くの作品を手がけ、原画のみならず、作画や絵コンテ、演出など多方面を担当。初監督のTVアニメ「牙狼〈GARO〉-炎の刻印-」(14年)でも絵コンテ、演出、作画監督などを担当し、その迫力ある映像で視聴者を魅了した。2020年に監督した「THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール」が全世界同時展開作品として話題に。同2020年から放送された『呪術廻戦』は、日本国内にとどまらず、アメリカやフランスなど海外からも注目を集めている。

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