「世の中にないものを作る」 テレビへの思いと信念で作ったテレビ番組全録画マシン「SPIDER PRO」

Vol.165
株式会社PTP 取締役 CRO・ファウンダー
Masayasu Ariyoshi
有吉 昌康

好きなタレントや、気になる商品がテレビ番組で紹介されていたことを後で知り、「番組を予約しておけばよかった!」と後悔したことはありませんか?実はテレビ番組すべてを録画できて、インターネットで検索するように、出演者や商品名でテレビ番組を検索し、漏れなくチェックすることができる夢のようなマシンが、開発されていたんです!今回はテレビ番組を全録画できる「SPIDER PRO」を開発した株式会社PTPの有吉昌康氏に、開発に至った経緯などについて、お話を伺いました。

テレビを丸ごと保存できれば、 広告主もテレビ局も視聴者も、みんなハッピーになれる!

まず、「SPIDER PRO」の概要について教えてください。

最大1クール(3ヶ月)すべてのテレビ番組を丸ごと保存できるハードディスクレコーダーを使って、任意のキーワードでテレビを検索・クリッピングできるサービスです。CMも検索できますし、番組については出演者名や番組紹介テキストに載っているキーワードはもちろん、ちょっとした情報番組のコーナーや新聞記事の紹介のようなごく小さな取り上げられ方でも、漏らさず検索して見ることができます。

私も好きなタレントが後からテレビ番組に出演していたことを知り、悔しい思いをよくしているので、これさえあればそんなことはなくなりますね!「SPIDER PRO」を開発するキッカケは何だったのでしょうか?

直接的なキッカケは、1999年にアメリカに出張に行った際、家電量販店に何となく入ったら、世界初のハードディスクレコーダーが売られていたんです。まだ当時、発売されて2ヶ月ぐらいで、容量は16ギガ、3時間録画できる程度のスペックでしたけど、確か10万ほどで、それほど高くなかったんですよ。 私は当時、ちょうど社会人10年目で、入社してからの10年でパソコンのハードディスクの容量が、20メガから16ギガへ約1000倍に劇的に増えたことを体感していました。そう考えると、この世界初のハードディスクレコーダーの容量も、10年後には少なくとも1000倍になる、いや、技術革新が進んできているから、パソコン以上のスピードで容量が増えるかもしれない。そう考えると、5年後には日本のテレビはすべてココに入るようになる!と、すぐに「SPIDER PRO」の概念を想像することができました。また、日本のテレビが丸ごと保存できるようになると、自分が仕事でもプライベートでも抱いていたモヤモヤを解決できると思ったんです。

どんな「モヤモヤ」だったんですか?

私は1990年に野村総合研究所(NRI)に入社してマーケティングの仕事をしていたのですが、当時はテレビCMに莫大な予算が投下される時代でした。ですが、これが売上に本当につながっているのか、誰もハッキリとはわからない。しかも、「テレビCMはブランディングが大切」と言われていて漠然としたCMが多く、そんな状態で莫大なお金がテレビCMに投下されることに、モヤモヤした思いがありました。 また、一方で、プライベートではテレビが大好きだったんです。当時はまだVHSテープにテレビ番組を録画していたのですが、そのテープが壁一面にズラーッと並んでいるような状態でした(笑)。ですが、当時はものすごく忙しかったこともあり、録画予約を忘れたり、野球中継が延長されて録画できていなかったり、「面白いテレビが見たいのに見られない」ことにモヤモヤしていました。しかも、制作側は「見たい人に見せたくて番組を作っている」のに、見たい人が見ていない。このマッチングができていないことについても、釈然としない思いを抱いていました。

テレビ番組を丸ごと録画できるハードディスクレコーダーで、どのようにモヤモヤが解決できると考えたのでしょうか?

まず、プライベートでのテレビ好きとしては、あらかじめ予約しなくても、丸ごと録画されているハードディスクレコーダーを検索して、興味がある番組を漏れなく見ることができるようになるなんて、なんて便利なのだろう!と。面倒な予約が必要ない、“ズボラな自分のためのマシン”ができると興奮しました(笑)。
また、ハードディスクレコーダーを通してテレビ番組を見ることで、誰がどの番組を見たのかがわかるようになる、と考えました。
つまり、現在Googleなどが行っているターゲティング広告と同じように、広告主はテレビ番組の履歴を元にレコメンドしたり、CMを見せたいターゲットに見せることができるようになったり、売上に直接つながるようなCM配信ができるようになると考えたのです。テレビ局でCMを売る営業側も売りやすくなりますし、テレビ番組を作る制作側にとっても、番組を届けたい人に届けられるようになれば、より良いものを作ろうと考えますし、営業がしやすくなることで制作費も回りやすくなる、と想像できますよね。
広告主も、テレビ局や制作会社のコンテンツホルダーも、そして視聴者も、それぞれがハッピーになれる夢のマシンの構想が頭の中にできあがってしまったのです。それで、いても立ってもいられず、すぐに会社を辞めて起業しました。

「世の中にないものを作る」いばらの道のり。 to B向けに絞って製品化を実現。

株式会社PTPは、「SPIDER PRO」を作っている“メーカー”ですが、はじめからハードディスクレコーダーを自ら作ることを想定していたのでしょうか?

いえ、最初はメーカーになるつもりはありませんでした。私自身、理系ではありませんし、マーケティングの仕事しかしたことがなかったので、メーカーとしての経験もスキルもないわけですから。そこで、2000年に起業してすぐに企画書を持って、テレビやビデオデッキを作っている日本の電機メーカーを回りました。当初は一般消費者、つまりコンシューマー向けのtoC製品を想定していたのですが、あらゆるメーカーの技術者に「ありえない」、「無理」と一蹴されましたね。
コンサルティングの仕事を請け負いながら食いつなぎ、日本でもハードディスクレコーダーが徐々に出回ってきた2004年にもう一度電機メーカーを回りましたが、反応は同じ。初めてアメリカでハードディスクレコーダーを見た時に、「あと5年で日本のテレビはココに入る」と感じてから、あっという間にその5年が過ぎようとしていたのに、状況はまったく前に進んでいないんですよ。焦りましたねえ。
そんな時に、IT系の雑誌で自作のハードディスクレコーダーを作って販売している技術者の記事を見かけました。そのハードディスクレコーダーを実際に使ってみると、非常にデキが良く、構想している製品に近いものを感じて、コンタクトを取って会いに行きました。その技術者は東北大の博士課程在籍の大学院生で、勉強のかたわら起業していたのですが、私の夢を語って、ぜひ一緒にやろうと口説き落としました。その技術者は、現在弊社の代表取締役である籠屋健(こもりやたける)です。籠屋と出会い、「世の中の誰も作らないなら、自分たちで作ろう」とメーカーとしての道を歩み始めました。

そんな経緯があったのですね!メーカーとしての開発はスムーズに進んだのでしょうか?

いやいや、名だたる電機メーカーの技術者が、口を揃えて「無理」と言った構想ですからね。いばらの道でしたよ!何度も壁にぶち当たりながらも、3年半かけてようやく商品化にこぎつけ、2007年に企業向けの「SPIDER PRO」を発売することができました。

当初、想定していた一般向けのtoC製品ではなく、企業向けのto B製品として発売した理由は?

まずひとつは、発売した2007年は4年後の2011年にアナログからデジタルテレビ放送への完全移行を控えていました。そうすると、せっかく購入しても4年後には使えなくなる。そうなると、一般消費者は手を出しづらいですよね。
もうひとつ、「ありえない」と言われた構想を現実のものにすることが、まず大切だと考えました。何よりも製品化を目指したので、一般家庭に置くにはちょっと無理な大きさなうえに、価格も50万以上だったので、明らかにto C 製品としては高いんですよ。それでも、まずは世に出すことが重要だと考え、まずはto Bにターゲットを絞り、もともと考えていた製品名「SPIDER」に、プロフェショナル向けである「PRO」を付けて発売しました。

to B製品として、どんなターゲットを考えていましたか?

テレビでよく取り上げられたり、CMを出稿したりしている企業の広報部ですね。もともと、自社関連の新聞記事をクリッピングすることは、広報部の仕事のひとつとして定着していました。ですが、それをテレビではできていなかった。実際のところ、新聞に掲載されるよりも、テレビに取り上げられたほうが電話が鳴り止まなくなるなど、反響が大きいのに、それを追うことができていなかったんです。「SPIDER PRO」があれば、テレビ番組をフリーワードで検索できるので、漏れなくチェックできることをアピールしました。
しかし、最初の100台を売るのは、やはり大変でしたね。今まで世の中になかった製品なので、導入するとどれだけ売上が上がるのか、またはどれくらいコストダウンにつながるのか、明示できるものがないですからね。

漏れなくテレビ露出を一瞬で検索できる! PRやリスクヘッジなど広報活動に威力を発揮。

販売が軌道に乗ったキッカケは?

企業の規模やテレビ出稿量に関わらず、「今まで世になかったものだからこそ、面白い」と思っていただけた担当者がポツポツと導入を決めてくれました。そこから具体的な事例が出てくると、軌道に乗ってきましたね。
例えば、企業が新サービス発表イベントを開催したとき、それがどれくらいテレビのニュースや情報番組で取り上げられたか、露出の数字が広報のKPI(目標達成の指標)になります。今までその数字は、イベント告知を依頼したPR会社や広告代理店から報告されるものでしたが、あるイベントで並行して「SPIDER PRO」を使って広報部が自分たちでチェックしたところ、約2倍の件数が出てきたんです。また、PR会社はネガティブな取り上げられ方は報告しないこともあるのですが(笑)、「SPIDER PRO」は否定的な反応もすべて出てきた、という事例がありました。この「ネガティブな反応も含めて、約2倍の検索結果が出てきた」という事実は、ものすごい説得力があります。また、この検索結果も、一瞬で出てくる。検索結果はcsvで書き出すことができるので、「SPIDER PRO」があるとレポート化にも時間がかからず、すごく便利で人的コストダウンになる、というクチコミも広まっていきました。
このような事例が積み上がっていくことで、徐々に販売が軌道に乗りました。一度導入していただくと、年間解約率は数%、現在のお客様の平均利用年数は7年超。導入してみると、「SPIDER PRO」の便利さや効率の良さがわかっていただけるようです。

この時代、リスクヘッジの意味でも広報担当者には欠かせない製品ですね。

導入している官公庁も多いですよ。省庁はもちろん、都道府県庁や市単位でも導入している自治体があります。例えば、最近話題の年金問題も、「SPIDER PRO」があれば、どのように取り上げられて、世間の動向はどこを向いているのか、すぐにチェックできます。また、約8割の全国の放送局にも導入していただいています。放送局では、編成視点、営業視点、制作視点など、さまざまな視点での使い方があります。

2007年の発売から現在まで、ハードディスクは大容量化と小型化が進み、インターネット環境も大きく変わり、ライフスタイルも変化しています。「SPIDER PRO」はこの環境変化に、どのように対応してきたのでしょうか?

「SPIDER PRO」の容量も増え、当初は1週間の録画でしたが、現在は3ヶ月の録画が可能になりましたし、小型化も進みました。また、CM検索に関しては、当初は首都圏だけでしたが、全国どこの都道府県のCMでも検索できるようになりました。 また、以前は「SPIDER PRO」がつながれているテレビ画面で検索する必要があったのですが、Webサービスの「SPIDER FLY」を開発したので、テレビの前まで行かなくてもPCやスマホで検索できます。複数の人が同時に作業できますし、外出先や会議でもすぐに見ることができるようになりました。さらに、あらかじめキーワードを登録しておけば、決めた時間にSPIDERが自動で検索して、露出がある場合にはメールで知らせてくれたり、レポート化まで自動で行われたり、定形業務のワークフローを自動化できるようになりました。

クリエイティブの力が横一線に公平に評価される時代。 良い作品を作れば、チャンスは必ずやってくる。

般向けの発売を楽しみにしています!最後に、描いた未来を実現した創業者そして、モノを作ったクリエイターとしての立場から、チャレンジを続けているクリエイターへのメッセージをお願いします。

今はクリエイティブの力がシンプルに公平に評価される良い時代だと思います。以前は大御所と呼ばれる人が評価しないと世に出られない閉じた世界でしたが、今はベテランも若手も横一線で競争できる時代です。私自身は映像のクリエイターではありませんが、「SPIDER」はゴールデンタイムだろうが深夜帯だろうが関係なく、面白い作品と出会いたいから作りました。またそれは同時に、良い作品を届けたいと考えているクリエイターのために作ったとも言えます。なぜなら、「SPIDER」でキーワード検索すると、放送時間帯に関係なく、ヒットした番組やコーナーが検索画面に一覧で出てきます。一覧から選ぶのはユーザーです。見てすぐに面白くなければ、また次の映像を選びます。だからこそ、勝負は作品そのものの力。良い作品を作れば、必ずチャンスはやってきます。私自身も、この記事を読んだクリエイターが作った面白い作品に出会うことを楽しみにしています。

プロフィール
株式会社PTP 取締役 CRO・ファウンダー
有吉 昌康
1990年株式会社野村総合研究所入社。マーケティングを専門にコンサルティング業務に従事。2000年に同社を退職し、株式会社パワー・トゥ・ザ・ピープル(現 株式会社PTP)を創業。2006年に日本初の全録型HDDレコーダー SPIDERを販売開始。日本、米国、韓国、中国などで多数の特許を取得している。

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