やりたいと思い続けること。それがチャンスを呼び、ひとつの映画祭を誕生させた

Vol.164
株式会社佐世保映像社 代表取締役社長
Makoto Shiki
志岐 誠

幼い頃から憧れたテレビの世界へ飛び込んで、長きに渡り映像制作に関わってきた志岐誠氏。プロデューサーや監督業だけでなく、現在、渋谷と佐世保の街で連動した映画祭を主宰しています。その「渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保」も今年で第3回を迎えます。渋谷と佐世保だけでなく、多くの自治体や団体を巻き込み、進化を遂げてきたこの企画はなぜ、人々を惹きつけてきたのでしょうか。今回は「渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保」主宰の志岐誠氏の軌跡とこれからについて伺いました。

仕事の撮影場所で出会ったのは運命の場所だった。

映画祭を立ち上げたきっかけを教えてください。

当時、僕がWOWOWの落語番組を制作していまして、座談会で使用する会場を探していました。落語が大好きな人たちが集まるイベントをかっこいいホールでやろうと思い立ったんです。そのための会場を都内で探していると、渋谷区文化総合センター大和田6F伝承ホールというところを見つけまして。かっこよかったんです。しかも区の施設なのでお安く借りられる。これはいいじゃないかと。
そこにはプロジェクターもスクリーンもあり、「あれ?これ映画もできるんじゃないか?」と思ったんです。じゃあ自分の好きな映画で許可が取れるものを上映して、自分映画祭をやってみようと思い立ちました。ひとりで好きな映画を流して見てもらうといった企画です。 その時に、どうせならオリジナルも作りたいということで、短編をひとつ作りました。

そんなに簡単に作れるものなんですか?

作っちゃったんですよね。これが楽しかった。映画を撮ることも脚本を書くこともとても楽しかったんです。完成したところで知り合いの監督にも「作ってみる?」と声をかけてみたところ、短編を作ってくれました。
上映するものができたので会場を押さえて、さあやるぞとなった時に、「僕のもやってください」と何人からか声をかけられました。いつの間にかいい感じに作品数が増えたんです。それが2016年の秋。「渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保」の名前もまだついていない0回にあたるイベントです。
実際にやってみると、やっぱりとても楽しかったんです。じゃあ毎年、これはお祭りとしてやっていいんじゃないかということになり、名前をつけることになりました。どうせやるなら自分の出身である佐世保を名前に入れようと思いました。そこで「佐世保」、短編映画の「TANPEN」、会場の「渋谷」を組み合わせて、「渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保」という名前になったわけです。

自治体を巻き込み、自分ひとりの映画祭が地元のカルチャーと進化した

stff-s 3rd イメージキャラクター 笈川健太/武イリヤ

そして毎年開催されるようになったんですね。

イベントにするからにはせっかくだから宣伝もしなきゃなあって。実は渋谷で僕は前から気になっていたことがありました。渋谷センター商店街に佐世保市の看板が街路灯につけられていたんです。僕も佐世保出身なので、イベントの時にそれをお借りできないかなと思って、商店街の方へ問い合わせをしました。すると偶然にも小野理事長も佐世保出身で、小野理事長が快諾してくださったんです。 街路灯は区の管轄なので、そこからは渋谷区に許可を取ったり、佐世保の名前を使うので佐世保市に許可を取ったりと大変ではありましたが、無事街路灯に広告をつけることができました。

こういった自主的なイベントに1回目から自治体の後援がつくことはあまりないのでは?

そうですよね。こうなると引けないです。2回目をやらざるを得ないじゃないですか。渋谷は人が集まる場所です。例えばハロウィンならお祭りで集まる。ワールドカップならスポーツで集まる。じゃあ映画なら文化で集まるとなればいいと思いました。街に映画が溢れているような街づくりがしたかったんです。 「渋谷と佐世保と言えば短編映画の街だよね」ってことを世界常識にできればいいですよね。短編映画でおもてなしをする感覚です。そこで商店街を映画館にしようって考えたら楽しくなってきて、それがモチベーションかもしれません。

今は映画離れと言われていますが、これは新しい試みですよね。

今、長編映画はシネコンじゃないですか。ちょっと成績が悪いとあっという間に上演終了してしまう。でもスクリーンが商店の数だけあるよってなったら、できないことはないじゃないですか。シネコンらしいシネコンじゃなくて、街がシネコンになったら面白いと思いませんか。従来の長い映画じゃないからできることで、この映画を見たいからあの店に行こう、この店に行こうって選んだり、そこでもまた何をやってもいいんです。カフェなら食事もできるし、お店ならショッピングもできる。自由で開放感がある映画の楽しみ方ができるんじゃないでしょうか。商店街ですからね。日常生活に映画があるんです。外国人の観光客も日本の映画に触れやすくなります。だから夢は外国語字幕をつけることなんです。

ルーツは欽ちゃん。憧れたテレビの世界に入るまで

佐世保のご出身ですが、上京を決めたきっかけはなんでしょうか。

萩本欽一さんが視聴率100%男と言われていた時代、僕は中学、高校を佐世保で過ごしました。テレビの世界がキラキラとしていた。かわいいアイドルさんや面白い芸人さんの漫才。もうテレビの中に入りたくて仕方ないほど大好きで。
中学校の時に好き過ぎて欽ちゃんのCM大賞に応募しました。絵コンテを描いて日テレに送るとスタッフの人が撮りに来てくれるんです。それで準グランプリをいただきました。もう欽ちゃんを好きになるしかないじゃないですか。
だから絶対、大学は東京に行こうと思っていました。

念願叶って東京の大学に進学されたんですね。ご出身は農大ですが、メディア系に強い大学を選ばなかったのはなぜでしょうか。

東京農業大学で造園を学びました。東京農大には本当に悪いことをしたなと。大変失礼な話、欽ちゃんに会うために東京の大学に入りたかったので何学科でも良かったんです。でも僕は成績が悪くて、東京の大学は難しい。そしてたまたま、初めて僕の学校に東京農大の推薦がきたんです。はいはい!って手を上げました。無事合格して入学したんですが、やっぱり申し訳ないので、4年間の授業を2年ですべて終わらせました。高校では成績が良くなかったのに、それだけ必死にやるとノートが学生に回るくらいに評価がよかったです。それがせめてもの農大への恩返しと言えるかもしれません。
そして本当にやりたかった欽ちゃんへの道は3年から始めました。

業界にはどうやって入ったんでしょうか。

CM大賞でお世話になった放送作家さんの久野麗さんのところにご挨拶に行きました。その流れでラジオ番組を制作している会社に入れてもらいました。映像がやりたかったのに、なぜラジオと思いながらも、それでもテレビにつながる道はきっとあるだろうとがんばりました。どうやったらテレビに行けるだろうかって考えているうちに、チャンスがあって、テレビ番組を制作している会社の方に面接してもらうことにはなったんです。でも面接会場に行くと、一緒に受ける人達が東大や慶応、早稲田ばかりなんですよ。そんな中に農大の僕がいる。落ちると思いましたね。局は当然そうなんですが、制作会社に行ってもやっぱり東大早稲田慶応ばかり。だから面接を受けて、僕、そのまま帰らなかったんです。コピーでもなんでもやりますからって、バイト代もいらないって、そのまま居着きました。

そこから仕事につながったんですか?

1ヶ月もした頃、給料が出るようになりました。ADとして働き、朝の情報番組につきました。まだ欽ちゃんにはいけず(笑)。これがまた地獄のようなスケジュールで1ヶ月で2時間しか寝られなかった。みんな嘘だって言いますけど、本当に寝られないんです。もうさすがに辛くて倒れたという体で、車で逃げ出しました。 そこで力尽きて寝ていたら、コンコンと先輩が朝に窓を叩くんです。コイツが行くところはこのへんだってあたりがついていたみたいで。そりゃそうなんですよね、農大の近くだから。
その先輩が社長に交渉して給料を倍に上げてくれました。そうなると揺れますよね。けっこうな額ですから。そこから今まで映像業界にいるので、なんだかんだ水が合ってたんだと思います。

映像は現実ではなくても夢を叶えてくれるもの

それだけ苦労しても映像を続けたのはやはり映像への熱意が大きかったのでしょうか。

映像の面白いところって、すべてを忘れさせてくれるじゃないですか。へこんだ時にすこんと笑わせてくれるものを見ると、何かもう忘れちゃうじゃないですか。欽ちゃんすごいことやってるよって。全国の人を笑わせてるよってなるんです。楽しいし泣けるし、なんてすてきなんだろうって思えるし、人生で現実にならなくても、この映像の中でできればそれでいいんじゃないかって思えるものが提供できるってすばらしいじゃないですか。 そんな楽しいことを人にやらせるより自分がやりたくなりますよね。脚本を書いちゃうじゃないですか。映像を撮っちゃうじゃないですか。お世辞もあるでしょうが面白いと言ってくれる人も現れるわけです。やめらんないですよね。

そのモチベーションが“自分映画祭”から「渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保」の進化に繋がるわけですね。

これまで運営がほぼひとりだったんですが、おかげさまで今年はボランティアスタッフが随分集まってくれました。興味を持って、連絡をくれる人が何人もいて。中には他に就職が決まっている人でも、映画が好きなので関わりたいと言ってくれた人もいます。 運営しているうちに大学も3校ほど関わっていただけるようになりましたし、商店街の方も協力してもらえるようになりました。最初の始まりは渋谷センター商店街ですから。実は佐世保の四ヶ町商店街とは兄弟商店街なんだそうです。このふたつの商店街がなければ実現しませんでした。グランプリにはゴールデンバーガー賞を選出します。佐世保といえばやっぱりバーガーですね。

自分の思いひとつでずっと続いているんですね。

お金じゃないんですよね。一緒に会社を作ってくれた社長からは、会社なんだからお金になることをやりなさいよと言われるんですけど。実は転職するつもりで面接に行ったら、採用じゃなくて会社やる?って言われて。元々映像部門を独立させようというタイミングもあり、それならということで会社を作ることになりました。 お金も大切なんですが、任されているので、やりたいようにやっています。

映画の可能性を模索。ブランデッドムービーが開く新しい映画のあり方

ブランデッドムービーも手がけていらっしゃいますよね。

映画は映画会社が作ってきたものじゃないですか。ブランデッドムービーは一般の企業やお店などが映画を作ります。CMではないんです。完全な娯楽作品。普通、映画でスポンサーになるなんて大変じゃないですか。でもこれならもっと気軽に映画を制作できます。フェローズでも作りました。フェローズも人材派遣会社で映画会社じゃないですよね。 こういう人たちの短編を作ってみようと思ってもらった先に、じゃあお金をいただいて作ろうという新しい挑戦になりました。

今、ストーリー性があるCMが流行ってますよね。それをCMと完全に切り分けて短編映画にしたのはなぜでしょうか。

ブランデッドムービーは使い勝手がいいです。CMじゃないですか。娯楽作品なのでネットに上げてもスキップしないんです。短編は配信を考えてもメリットがあります。短いので配信で見るにしても見やすい長さなんです。
ネットで使える。映画祭で使える。上映会など新商品発表などのイベントにも活用できるといった活用方法があります。

好きなことを続けること。それが未来を作っていく。

若いクリエイターに伝えたいことはありますか?

働き方改革もあり、今はクリエイターには難しい時代です。サラリーマンの面とクリエイターの面を両立させることに悩む人も多いと思います。作りたいもの。依頼されるもの。労働時間。いろんなことが絡み合っていますから。
それでも仕事でやらなければならないことをやって定時で帰ったら、家に帰って好きなものを作ることは諦めないで欲しいなあって思います。好きなことをやっていたら寝なくてもいいじゃないですか。一番の毒であるストレスがない。
それをやり続けて欲しいです。楽しんで欲しい。そうすればきっといいものが生まれます。それが道を開くこともあります。頑張りどころと楽しむところをしっかり持って、諦めずに続ければ、楽しさしかありません。

これからも新しい人たちにどんどん盛り上げてもらいたいということでしょうか。「渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保」もまだ作品を募集していますがどんな作品が集まるか楽しみですね。

はい。5分から25分までの映画であればジャンルは問いません。ただ老若男女のお客様が見るのであまりセクシーなものや、刺激的なものはご遠慮いただければと思います。8月31日まで募集しております。お待ちしています。

 

取材日:2019年6月9日 ライター:久世薫 映像、撮影:村上光廣 編集:遠藤究

渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保

「カンヌと言えば映画祭」ならば「渋谷・佐世保と言えば短編映画祭」を世界常識に!

兄弟商店街である「渋谷センター街」と「佐世保四ヶ町商店街」で繋がる「渋谷」と「佐世保」は、
国内外からのお客様を「短編映画(無料)」でおもてなしします。

本映画祭は、年に一度の渋谷で厳選された優秀な短編映画が
長崎県佐世保市で最高賞のゴールデンバーガー賞を決するコンペティションの他、
両都市で開催される「月いち上映会」など一年を通じで各種上映会を行う短編映画のイベントです。

第3回 コンペティション応募締切 8/31
ゴールデンバーガー賞が決まるCLIMAXat佐世保は2月開催!

詳細は、渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保のホームページにて

プロフィール
株式会社佐世保映像社 代表取締役社長
志岐 誠
渋谷と佐世保、ふたつの街をつなぐ映画祭「渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保」の主宰。映画監督でもあり脚本家でもありプロデューサーでもある。近年では企業のブランデッドムービーに着目し、企業からの出資で短編映画を多数制作。フェローズで制作したブランデッドムービー「がんぱれ」も四季涼の名義で監督・脚本を務めている。

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