グラフィック2012.08.01

コーポレートコミュニケーションデザイン

Vol.85
株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ コーポレートコミュニケーション第一部 シニアコンサルタント アートディレクター 金子武史さん 飯野剛伸さん
顧客、株主、投資家、従業員、応募者…。企業は多くのステークホルダーと接点を持ち活動している。誰にどういう情報をいつ発信するのかは、企業にとって重要な課題となっている。今回は「企業を取り巻くあらゆるステークホルダーをコミュニケーションでつなぎ、強い企業をもっと強く、そして愛される企業にしたい」をテーマに、2009年に設立された株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズを訪問。コーポレートコミュニケーション第一部の金子武史さんにIRなどのコーポレートコミュニケーション分野で期待されるビジネスについて、実際に制作に携わられているアートディレクターの飯野剛伸さんにその独特のクリエイティブについてお話をうかがった。

コーポレートコミュニケーションという、新しいビジネス領域(金子さん)

コーポレートコミュニケーションの現状とは?

コーポレートコミュニケーションとは、企業が様々なステークホルダー(顧客、投資家、社員、応募者、取引先、社会等)に対して一貫性のあるコミュニケーションを行うというものです。 5年前と比較すると、コーポレートコミュニケーションに求められる専門性が高まっていると感じています。例えば対投資家のコミュニケーションであるIR領域では、リーマンショック後、予算削減が求められる中で、投資家に訴求すべき本質的な情報をいかに効率的に訴求していくかが命題となり、従来以上にターゲットとなる投資家のことを知る必要が高まっています。また、対応募者領域では、就職活動に関する倫理憲章の影響により、採用活動が大きく様変わりしています。新たな前提条件の中で最適なコミュニケーションを設計していく必要がある点で、難易度が高まっています。

コーポレートコミュニケーションをテーマとした経緯は?

リンクアンドモチベーショングループは、企業とそのステークホルダーとの関係性=コミュニケーションに着目して事業を展開しています。前述のとおり、コーポレートコミュニケーションの各領域の専門性が高まる中、グループ全体の専門的な知見やノウハウなどのリソースを有効活用することができる現状を踏まえ、真に効果的なコーポレートコミュニケーション支援はリンクアンドモチベーショングループにしかできない優位性だと考え、テーマとして設定しました。

これからのコーポレートコミュニケーションはどうあるべきでしょう?

短期的な視点と中長期的な視点に分けて説明します。 まず、短期的には、前述のとおり各領域の専門性をより一層高める必要があるということです。現在、様々な事象がグローバル規模でめまぐるしく変化しています。この環境変化に適合したコミュニケーションのあり方について、各領域で考えを深めていくべきと思います。このため弊社では、対投資家領域(IR領域)と対応募者領域を当面の重点領域として掲げ、専門性のさらなる向上を図っています。 中長期的な視点では、真のコーポレートコミュニケーションの実現に向けて、企業メッセージ発信を統合することです。日本企業(特に大企業)では、まだまだセクショナリズムが横行しているというのが実態だと思います。これでは一貫性のあるメッセージ発信は難しくなり、すべてのステークホルダーとの良好な関係構築も難しくなっていきます。 弊社では、各領域に高い専門性を有するからこそできるサポートにより、この課題の解決を追求し、企業とそのステークホルダーとの適正かつ円滑なコミュニケーションを実現していきたいと考えています。

IRデザインには、広告にはない深いおもしろさがある(飯野さん)

日本と海外、IRデザインの違い

海外は日本とかなり違います。デザインの観点からいうと、まず冊子は用紙サイズが違う。日本ではA4縦版を中心に2~3パターンしか見かけませんが、海外では大小様々で横版のものもたくさんあります。海外企業の冊子ではページ数が日本の3倍くらいあったり、製品写真をたくさん使ったり、雑誌のようなゆとりのあるつくりになっているものが多いですね。日本の場合、とにかく情報をまんべんなくきっちり詰め込む傾向があります(笑)

海外で発行されるアニュアルレポートは、読み物として完成されていると思います。投資家に最後まで読んでもらうために、様々なクリエイティビティが詰め込まれているんですね。投資家の元には、膨大な数のアニュアルレポートが届きます。その中からひとつを手に取ってじっくり読んでもらうためには、工夫をしなければなりません。ヨーロッパの企業には、ストーリーを大切に、キャラクターが最後まで案内するようなアニュアルレポートもありました。どこかに遊び心が盛り込まれているのが、日本との大きな違いのひとつですね。

飯野さんとIRとの出会いは?

弊社の前身のひとつである、株式会社オーディーエスでIRデザイナーを担当したことがきっかけです。その後、ある有名なデザイン事務所に4年間修業にでる機会があり、そこで幅広いジャンルに携わることで、デザインの可能性や影響力を確信しました。それをIRの分野に活かすために、こちらに戻ってきたといってもいいと思います(笑)デザイナーとしては11年目ですが、IRのクリエイティブで弊社のオリジナリティをどうやって創っていくか、それをいつも考えながら仕事をしています。

普段の仕事で心掛けていることは?

アニュアルレポートでは、伝えなければいけない情報が多いので、書体の選び方・使い方にはものすごく気を遣っています。飛ばさずにきちんと読んでもらうために、セクションの見せ方は特に意識するポイントですね。その点、海外のアニュアルレポートには、メリハリがあります。必ず読んでもらうグラフや数字と説明は、はっきり区別されています。説明の文字がすごく小さかったりすると、「読ませる気がないんじゃ?」と思うこともあるくらいです(笑)

企業のIR担当者は保守的な方が多いので、「なぜこのデザインなのか」はきちんと説明しています。もちろんデザインだけでなく、コンセプトやタイトルの言葉選びなど、何か新しいことを取り入れる際は、深く話し合って納得していただくことを心掛けています。ものづくりをする中で、お客様との関係性を構築していくのもIRデザイナーの役割のひとつですね。

IRならではのデザインとは?

アニュアルレポートは、雑誌と違って読者が自発的にお金を出して買うものではありません。しかも1年に1回しか出ない媒体なので、デザイナーには最後まで読んでもらう工夫が特に必要とされていると感じます。冊子全体としては、いろいろなデザインの試みがされてきたと思いますが、IRの分野はまだまだです。今後、デザインが活躍する場面は大きいと思っています。 またWEBと連動した情報発信という意味でも、今後IRデザインはおもしろくなっていくのではないでしょうか。これまで投資家には年配の方が多かったのですが、今後若い人も増えて行くことを考えると、アニュアルレポートのデザインも大きく変化していくでしょう。

企業の顔であるアニュアルレポートでは、そこに掲載する社長の写真の色味などは広告よりもずっと気を使います。私が修行時代にいたデザイン事務所では、広告だとカルチャー寄りの派手な作品が賞を取りやすいという、IRとはまったく違う世界を感じました。とはいえIRのデザインも、広告と同じくらい奥が深いものです。個人的には、こうした賞の1分野として、アニュアルレポートがあってもよいくらいだと思いました(笑)

IRに携わるおもしろさとは?

扱う情報が堅くて難しく、誰でもできるものではありませんが、やりがいはあると思います。狭いからこそ深く追究できるところも魅力ですね。ちょっと大げさかもしれませんが、「上場企業を支えている」という大義もあります。

何年も続くおつきあいをいただく企業の場合、ずっと業績を見ているだけに自然と親身になりますね。広告宣伝とは違った緊張感をもって企業を支える独特の関係性がIRにはあると思います。

IRは制約が多いからこそ、その中でウィットに富んだ表現をどれだけできるか。そこが難しくもあり、おもしろい部分ですね。よりよいアウトプットのためには、外からのインプットも大切です。デザイナーとして専門性を深めるためには、IRと関係ないジャンルからのインプットは欠かせない。そう感じています。

株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ

【インタビュー対象者】
株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ
左:コーポレートコミュニケーション第一部
  シニアコンサルタント 金子武史さん
右:アートディレクター 飯野剛伸さん

これからのIRデザイン

アニュアルレポートでも、WEB化の流れが大きくなっています。WEBでの表現は、新しいキャンバスだと思います。旧来の紙版アニュアルレポートとWEB版との連動企画は、新しい仕組みづくりという意味でとても刺激的です。冊子のみにこだわらず、きちんと情報が伝わることを第一に考えていきたいですね。

これからこの分野を目指すのであれば、物事を深く追究することが好きで、我慢強く、ミーハーではない方が向いていると思います。IRは企業の本質に触れる仕事なので、扱う情報の重さを感じながら表現に挑戦することは、大きな達成感があると思います。私もまた戻ってきたくらい(笑)、1回体験するとやめられない魅力がありますよ。

取材/2012年6月25日 取材・文/ぱうだー

続きを読む

クリエイティブ好奇心をもっと見る

TOP