ネットと放送の融合[2]―ケーススタディⅠ―

vol.11
株式会社日本テレビビデオ・ メディアセンター・デジタルコンテンツ推進部部長、株式会社日本テレビビデオ・ メディアセンター・デジタルコンテンツ推進部 大島涼子さん、菊池栄一郎さん
「ネットと放送の融合」を追いかけると、必然的に「ネットと映像の融合」に行き当たります。映像配信が可能になったネット上で、様々な映像コンテンツが活躍する時代。当然、映像制作の現場にも変化が表れている。 取材に応じてくれたのは、日本テレビ(NTV)のグループ会社/日本テレビビデオ(NTVV)さん。1970年設立。テレビ界で長い歴史を紡いでいる、伝統ある映像制作会社です。同社は、1昨年にデジタルコンテンツ推進部を立ち上げて、ネット関連事業への意欲的取り組みの真っ最中。放送界の老舗が本気を出すくらいだから、ネットの映像配信も本物ということでしょう。 取り組みは試行錯誤の連続のようですが、地歩は着実に固まりつつある。映像制作会社が、ネットに進出する目的は?映像とネットの融合とは、具体的にどんなことなのか?新領域に進出中、ならではのリアルな現場報告をしていただきました。

<取材協力者> 大島涼子さん/ 株式会社日本テレビビデオ・ メディアセンター・デジタルコンテンツ推進部部長

菊池栄一郎さん/ 株式会社日本テレビビデオ・ メディアセンター・デジタルコンテンツ推進部~

ネット向け映像を完パケで納品する。 ありそうでないんです、できる制作会社。

最新の実績は、au・KDDIさんが2月23日からスタートさせたauショッピングモール(http://aumall.jp/)のキャンペーン用の動画制作。『EZアップチャンネル』のウィークエンドプレジャーで配信されます。大手広告代理店が仕切るキャンペーンの映像制作に指名されて、スタッフ一同大いに盛り上がっています。 受注の決め手は、配信用映像(Webの世界では、“動画”と表現)を完パケ(配信可能な状態)で納品できることでした。企画・構成、演出、撮影現場のプロデュース、ディレクションから、ロケ、編集、MA、そして配信用のエンコードだけでなくサイトのデザインまでできて、映像配信サイトに完パケで納品できる。現状、ありそうでないんです、それのできる制作会社。 放送映像の制作会社は放送局納入用マスターテープ作りまでしかできないし、ホームページ制作会社には映像制作のノウハウがない。携帯配信を前提にすると、撮り方を含めて映像企画に特殊な配慮も必要です。今回のような案件を動かそうと思った場合に、企画から納品までをトータルに請け負える会社は、まだほとんどないようですね。 「ネット向け映像を完パケで納品」という特長を活かして、ここしばらくは制作案件をばりばり受注していこうと考えています。

生き残りをかけて、独自路線を切り開く。 せっかくなら、面白いことをやりたい。

当社はNTVのグループ会社です。ですが、NTVが順調なら当社も磐石なんてことはありません。テレビ業界には、制作費抑制という流れが確実にあります。放送メディア以外に活路を見出すために、当社にデジタルコンテンツ推進部が生まれました。簡単に言うと、「著作権を所持できるようなオリジナルコンテンツを作る」ことを目指すのがこの部署です。テレビ界で36年活動していますが、ここまではテレビ局からの下請け制作が主要事業でした。自分たちが精魂込めて作った映像も、当たり前ですが、著作権はすべてテレビ局のもの。ネット配信の2次利用ビジネスが注目されるようになり、その事実を痛感したわけです。<br/ >実績もあるし、ノウハウもある。せっかくなら、マルc(著作権)の持てるコンテンツ作りを目指そうよ!ということです。

2005年に携帯サイトに進出、 ノウハウの蓄積に加速度が。そして……。

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ひとつのエポックになったのは、昨年auの携帯サイトに参入したことだと思います。他のコンテンツプロバイダーと同様に、企画書を書いてauさんに参入プレゼンテーションをしました。そして審査を通って立ち上げたのが、動画配信EZチャンネルの「シンデレラCafe」。メインキャスターに2003年日テレジェニック/山本彩乃ちゃんをキャスティングした、若者向け情報発信番組です。 結論から言うと、7ヵ月で撤退。会員獲得がおもわしくなく、収支に見通しが立ちませんでした。残念な結果でしたが、もとよりチャレンジ精神を優先させていた案件だったので問題はありません。むしろ、携帯配信ではアップを主体にした演出が必要だとか、エンコードすると速い動きがちらつくので気をつけなければならないとか、やってみなければわからないことの経験則獲得の意義は大きかったですね。 しかも、転んでもタダで起きなかった(笑)。今回、立ち上げキャンペーンに参加できたのは、明らかにこの案件でauさんと取り引きがあったおかげです。コンテンツプロバイダーとしては不成功サイトの企画者でしたが、制作会社としては完パケができる稀な存在と認知してもらえたようです。

あくまで、目指すのはオリジナルコンテンツ作り。

制作会社として完パケ納品の強みを活かしていくというのは、道しるべのひとつだと思っています。あくまで、目指すのはオリジナルコンテンツ作り。やってみてつくづく思うのは、インターネットはビジネスになるまでが長いということ。「やったもの勝ち」「やれば明日から大成功」という黎明期は、明らかに終わっていますね。これからは、戦略や資金をちゃんと持って、じっくりと取り組まないと成功はおぼつかないと思います。 当社は、たとえば巨大資本が手がけるようなメガコンテンツを目指すつもりはありません。弱小であることは自覚している。でも、弱小でもアイデアやクオリティで勝負できるのがネットの良さでもあると思う。ハリウッド映画レベルのものは大手さんにお任せして、ネット上で個人と個人がコミュニケーションする中で生まれるようなコンテンツを作っていこうと考えています。スタッフ一同、個人的にいろいろアイデアを温めているようですよ。たとえば、フラッッシュアニメを使った4コマ漫画的な映像コンテンツをキャラクタービジネスに結びつけるとかね。 当部署の究極の目標は、自社ポータルサイトからオリジナルコンテンツを配信すること。当然、その途上で大手ポータルとの提携や連携は必要になるだろうと思っています。

インフラがどうあっても、こちらからニーズを 掘り起こしていける武器を持つことが成功の鍵

ネット配信という巨大メディアが生まれたので、映像制作のニーズは増えている。そういう見方もあるようですが、どうなんでしょう?少々疑問ですね。少なくとも現状は、動画コンテンツの大部分が2次利用もの。新規制作案件に直結しているようには感じられません。新しい作品、つまりオリジナルコンテンツへのニーズがどれくらいあるかはなかなか読みきれないし、絶対に増えるとも言いきれないと思うんです。 たとえば携帯の映像配信。やってみて正直なところ、あの小さい画面を5分、10分という時間じっと見つめてまで何かを観たいと思う人は少ないと思う。携帯の映像配信はニュースや天気予報、ショッピング、ゲームなど、速報性や利便性があるいくつかのジャンルに収束されていくんじゃないでしょうか。 固定端末も、パソコンにも、テレビにも、それぞれに使い勝手の短所がまだある。すべては、ハードウェアとインフラの進展と、ユーザーニーズの変化がどうからみあって行くか次第だと思います。 だからこそ、多くのファンを獲得できるようなコンテンツを作るという発想が必要。インフラがどうあっても、こちらからニーズを掘り起こしていける武器を持つことが成功の鍵だと思います。

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