誰でも書ける、夢を追える。「小説家になろう」が貫く頑固なこだわりの現在地

Vol.182
株式会社ヒナプロジェクト 取締役
Miyuki Hirai
平井 幸

作品掲載数は76万作以上、登録ユーザー数は191万人超え、閲覧数は最大月間20億pv(ともに2020年10月時点)。2004年に開設された「小説家になろう」は、日本最大級の小説投稿サイトとして存在感を放っています。

特徴的なのは「作品をウェブで掲載する“展示場所”に徹していく」というポリシーでしょう。競合サイトが出版などの二次展開で収益化を探る中、「小説家になろう」はあくまでも小説投稿プラットフォームであり続けることを貫き、その収益は、ほぼ広告掲載のみで構成されているのです。

TVアニメ化された『魔法科高校の劣等生』(著者/佐島勤)、『Re:ゼロから始める異世界生活』(著者/長月達平)などの有名作品によって「異世界転移/異世界転生」ジャンルを確立させ、近年では実写版・アニメ版で映画化された『君の膵臓をたべたい』(著者/住野よる)など青春小説のヒット作も生まれ、ますます目が離せない同サイト。運営する株式会社ヒナプロジェクト・平井幸さんへのインタビューを通じて、「書く仕事」のこれからの可能性を探ります。

 

書籍化された「異世界転移/異世界転生」ジャンル作品でアニメ・ゲーム化もされた
『Re:ゼロから始める異世界生活』1巻(©作:長月達平/イラスト:大塚真一郎/KADOKAWA)

「“ついで”でいいから手伝って」。ゲーム制作チームが小説投稿サイトを運営

「小説家になろう」トップページ(2020/10/1時点)https://syosetu.com/

「小説家になろう」は、代表取締役の梅崎祐輔(うめざき ゆうすけ)さんが2004年に開設した個人サイトが発端だと伺いました。平井さんはどのようなきっかけでサイト運営に加わったのでしょうか?

私と梅崎は、大学の同じ学科で学んだ同窓生です。でも学生時代はほとんど縁がなくて、梅崎が「小説家になろう」を個人運営する一方で、私はウェブブラウザのゲーム制作を目指していました。実はヒナプロジェクトは当初、ゲーム制作のために作ったチーム名だったんですよ。

梅崎と知り合ったのも、ゲーム制作のためにプログラマを紹介してもらおうと思ったことがきっかけです。そのとき彼が「小説家になろう」というサイトを運営していて、すでに1人では対応しきれない規模に成長していることを知りました。

そんな状況だったため、梅崎に「ゲームを作る“ついで”でいいから手伝ってほしい」と言われ、デザインや問い合わせ対応などを一緒にやるようになりました。2007年頃だったと思います。

株式会社ヒナプロジェクト(HinaProject Inc.)外観

ヒナプロジェクトが法人化する前ですよね。

そうです。今のような業界最大手の規模になるなんて想像もしていませんでした。

当時、ウェブサービスといえばミクシィが全盛で、掲示板やブログのサービスもたくさん出てきていましたが、小説を投稿するだけのサイトは珍しい存在でした。それでも私が参加した時点で、すでに相当数の作品が投稿されていて「面白いことをやっているなぁ」と思いました。大学卒業を目前に控えていましたが、「このサービスを手伝えるならしばらくフリーターでもいいかな」なんて考えていたのを覚えています。

小説投稿サイト事業を確立して、世の中に影響を与えていると感じるようになったタイミングは?

『魔法科高校の劣等生』のように、大手の出版社から声がかかって書籍化され、ヒットする作品が出るようになってからでしょうか。2010年頃からは出版業界でも、Webサイトから書籍化する流れができてきました。そして2012年頃には専門レーベルを立ち上げる動きが出たように記憶しています。

ヒナプロジェクトを法人化したのは2010年頃です。会社の仲間も少しずつ増えて、現在では役員を除いて約30人のメンバーが働いています。

大切なのは、「書こう」と思った瞬間の瞬発力を逃さないこと

「小説家になろう」掲載小説は250タイトル以上が様々な出版社から書籍化されている。

現在では競合サービスも増えましたが、その多くは自社での出版など、投稿作品の二次展開を狙っています。御社はなぜ、そうせずに「作品の展示場所に徹する」というポリシーを貫いているのでしょうか?

私たちの出発点は個人サイトで、大企業の後ろ盾もありません。収益源はほぼ広告収入のみです。「小説家になろう」は、ユーザーに小説を投稿してもらえないとビジネスにならないんです。

だから大切なのは、作者や作者予備軍(の方々)が「書こう」と思った瞬間の瞬発力を逃さないこと。書こうと思ったときの勢いをそぎたくないし、書きたいときには余計なことを考えないでほしい。そのためには、色のついていないプラットフォームであることが大事なんじゃないかと考えています。

収益の手段を広げようとしていろいろな機能を持つと、純粋な作品の投稿場所ではなくなってしまうと思うんですよね。今はさまざまな企業とのお付き合いがあります。繰り返しますが自分たちではあくまでも色をつけません。

私たちは私たちなりの独自性を強く重視しています。そもそもの成り立ちにしても、代表の梅崎が大のウェブ小説好きで、「もっとウェブ小説を読みたい」と考えて作ったサイトですから。

収益拡大につながる可能性があっても、出版事業や著作権管理などの二次展開は今後もやらない?

はい。ヒナプロジェクトの収益拡大につながるとしても、書き手の「書きたい」という気持ちを高める上で必要ないものはやらないつもりです。

1万字から3000字へ。読者ニーズに応えた変化

「小説家になろう」の特徴の一つに、作者と読者が対話をしながら作品を作っていく風土があると思います。投稿した作品にはさまざまなレビューが寄せられ、そうした読者の声が続編に反映されています。

こうしたコミュニティ性はサイト設立当初からありました。梅崎いわく、「サイト設計の根本は個人サイト運営のノウハウから吸収している」そうです。

自分でサイトを作り、作品を載せ、掲示板に訪問者が感想を書いてくれる。それを見てさらに良いサイトにしていこうと考える。ある意味では、インターネットの原初の喜びに近いものがあるのかもしれません。

運営側としては、コミュニティ形成にどの程度介入しているのですか?

最低限の交通整理をする程度ですね。作者と読者、あるいは作者同士での自由なコミュニケーションが第一だと考えています。一方で作者へはコメントの削除権限を与えています。この権限付与は『小説家になろう』開設時には、やっていた他サービスは少なかったかもしれません。なお、あまりにも大量の“荒らし”行為があれば、運営側で対応することもあります。

ただ、自由なコミュニケーションによって磨かれる、鍛えられるものがあるのも事実だと考えています。そのため運営側の介入は最低限にとどめたいんです。

「小説家になろう」では、作者同士の交流も活発なんですよ。同じ趣味を共有する仲間として、新しい交流が生まれるのは自然だと思います。

こうした交流によって生まれるトレンドもあるのでしょうか?

分かりやすい事例としては、1話ごとの文字数が挙げられると思います。かつては1話で1万字近くにおよぶ作品もたくさん見られましたが、最近では多くが3000字程度で1話を完結させています。

これはトレンドというよりも、作者が読者の動きに対応し、適正化させていった結果なのかもしれません。サイトユーザーの多くは、本の小説をがっつり読むのではなく、「通勤中や休み時間、就寝前などのちょっとした時間で読めるものがほしい」と考えています。必然的に、1話が長い作品は読みづらくなってしまいます。

こうしたニーズは、読者からのレビューや作者間の意見交換などを通じて、「読んでもらいやすい小説」の傾向として共有されています。

とはいえ、短くアップしていけば読んでもらえるというわけでもありません。短い文字数でも起承転結を持たせたり、1話の終わりに次回への伏線を仕掛けたりと、本当にさまざまな工夫が凝らされていると感じます。自分の書きたいものや書けるものと、世間のニーズを一致させられるか。そんな試行錯誤が繰り返されていますね。

「文章を書いて食べていくチャンス」は拡大している

書籍化、アニメ化もされた「なろう」小説の数々。向かって左から
『転生したらスライムだった件』1巻(©作:伏瀬/イラスト:みっつばー/マイクロマガジン社)
『ナイツ&マジック』1巻(©作:天酒之瓢/イラスト:黒銀/主婦の友社インフォス)
『異世界はスマートフォンとともに』1巻(©作:冬原パトラ/イラスト:兎塚エイジ/ホビージャパン)

「小説家になろう」では、主人公が日常世界から異世界へ転移したり転生したりする「異世界転移・転生」ジャンルの作品が人気です。新たなカルチャーの一分野を築き上げてきた側面もあるのでは。

私自身はもともと、時雨沢恵一(しぐさわ けいいち)の「キノの旅」や谷川流(たにがわ ながる)の「涼宮ハルヒシリーズ」などのライトノベルに分類される小説が好きでした。そして異世界転移・転生の作品も大好きで、ここまで広がってきたことは素直にうれしいですね。

しかしそれ以外にも、「小説家になろう」には面白い作品がたくさんあります。書き手はもちろん、読み手も広げていきたいと思います。特定のジャンルに特化しているわけではなく、あくまでも「みんなのための小説サイト」ですから。ただ小説以外に、エッセイや詩などの投稿も増えていくとうれしいですね。

好きなものを読む、共有する、そして書きたいと思ったときに書いてみる。そんなふうに、参加する人が自由に、「自分の好き」を突き詰めてもらえる場所であり続けたいです。

このサイトをプロの小説家への登竜門としてとらえている書き手も多いかもしれません。一方で昨今は「本と印税」にまつわる話がネットでつまびらかに共有されるようになり、小説家という職業にあこがれつつ、現実的な厳しさを感じている人もいると思います。

「小説家になろう」というサイト名は、必ずしもプロを目指してほしいという意図で名付けたわけではありません。一歩を踏み出して投稿し、作品を発表することで「小説家」になれる。だから気軽にもっと投稿してほしいという意味をこめています。

もちろん、小説を投稿する方の中にはプロの小説家を目指している人も少なくないでしょう。そして、職業小説家は簡単に食べていける仕事ではないというのは、現実としてあると思います。

ただ、プロとして活動されている方は、書くことに貪欲で、書くことを諦めない方ばかりです。私は出版社のパーティなどでいろいろな作家さんとお会いする機会があるのですが、やっぱり皆さん「楽しそう」なんですよね。自分の小説が書店に並び、いろいろな人に読んでもらえる。それが唯一無二の喜びなのだということは、見ている私にもよく伝わってきます。

「小説家になろう」はプロを目指す人だけのものではありませんが、プロを目指してサイトに関わってくれている作者には、夢を諦めないでほしいと伝えたいです。

文章を書いて食べていく手段については、今はむしろチャンスが拡大しているとも言えます。小説を書きながら、ゲームのシナリオや漫画の原作などを同時に手がける方も増えていますよね。「コンテンツとしての原作」を求めている企業は非常に多く、「物語を生み出せることの価値」は非常に高く評価されるようになっています。だから、あえて道を狭く見る必要はないのかもしれません。

私たち自身、「小説家になろう」をこれからも全力で運営しながら、新しい何かを始めることにも貪欲であり続けたいと思っています。

 

取材日:7月21日 ライター:多田 慎介
※オンラインにて取材

「小説家になろう」https://syosetu.com/

  • 運営会社:株式会社ヒナプロジェクト(HinaProject Inc.)
  • 設立年月日:2010年3月17日
  • 所在地:〒573-0027大阪府枚方市大垣内町2-17-8
  • URL:https://hinaproject.co.jp/
  • お問い合わせ先:上記コーポレートサイト内「お問い合わせ

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