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「デザイン」の力で「地域活性化」 ~イメージを遠方へ飛ばす方法について~

Vol.146
リベラルラベル デザイナー 小佐原孝幸 氏
Profile
デザイナー。グッドデザイン賞、ひたちなか市功労表彰受賞。クリエイティブグループ「リベラルラベル」所属。
地域活性化が叫ばれている昨今、日本各地で「デザイン」をキーワードにした取り組みが行われています。そこで今回は、「デザイン」×「地域活性化」に着目!廃線の危機にあったローカル鉄道・ひたちなか海浜鉄道湊線で、沿線の史跡や特産物を取り入れた駅名標をデザインした小佐原孝幸(おさはら たかゆき)さんにインタビュー。2015年のグッドデザイン賞も受賞した駅名標に込めた想いや、制作秘話など、今後の展開など幅広いお話を伺いました!

駅名標とアンコウの融合?新しいコミュニケーションデザインが評価され、駅名標初のグッドデザイン賞受賞!

ひたちなか海浜鉄道湊線の駅名標は、どのようなコンセプトでデザインされたのですか?

湊線の沿線にはたくさんの観光資源があります。 例えば、阿字ヶ浦駅には温泉や海水浴場があり、秋口には美味しいアンコウ鍋が食べられます。そこで「阿字ヶ浦」の文字に温泉マーク、釣り針、海藻、アンコウのイラストをとりいれ、湊線に乗ってやって来た人が、地域に興味を持ってくれるような、そんな駅名標を作りました。

駅名標をデザインすることになった経緯は?

10年ほど前、湊線は利用者数が減り、経営状況も赤字で廃線の危機にありました。地域の人々は存続を願い、市に働きかけ、2008年に第3セクターとして「ひたちなか海浜鉄道株式会社」が開業しました。 僕自身は千葉の出身で、茨城のひたちなか市とは縁もゆかりもありませんでしたが、その一連の動きの中で、大学院時代の仲間がアートやデザインでひたちなか市を活性化しようと活動をはじめ、僕にも声がかかりました。デザイナーとして悩んでいる地域になにができるのか、それを考えること自体にも興味があったので、積極的に活動に関わっていきました。

湊線を存続するためには、たくさんの人に来てもらって鉄道に乗ってもらう必要があるのですが、鉄道沿線に魅力的な観光資源がたくさんあるにもかかわらず、それが伝わっていないという課題がまずありました。デザインの役割は課題解決です。リサーチを重ね、各駅の魅力を詰めこんだイデオグラム(表意文字)をつくり、その表現がクリアーに伝わる媒体を探しました。鉄道はさまざまな広告媒体を保有していますが、最終的に選んだのはそういった枠組みの外にある駅名標でした。利用者が必ず目にする駅名標は、土地の顔でもあり、この課題を解決するのに最もふさわしいメディアに思えたのです。

駅名標は駅のホームにありますが、地方の駅に行くと、駅周辺の名所や観光資源の案内板が駅名標の横に設置されているのをよく見かけますね。駅からの距離と簡単な説明だけで、しかもボロボロの状態になっているのがほとんどですが(笑)。

湊線も以前は同じような状態でしたが、それでは観光鉄道としておもてなしできていないですよね。人に来てほしいと思うなら、来てくれた人に地域の良さを伝えて、楽しんでもらわなくては。 その点、この駅名標ならパッと一目見て駅の見所がわかるので、一石二鳥です(笑)。

見ているだけで、「アンコウが食べられるんだ!」「海水浴ができる!」とワクワクします。

駅名標を見た人にワクワク感を与える、これは新しいコミュニケーションデザインとして評価され、2015年にグッドデザイン賞をいただきました。駅名標としては初の受賞で、結果として多くのメディアに取り上げられ、湊線の魅力を多方面へ発信してくれました。 また、ひたちなか海浜鉄道としても、本数を増やして地域の生活の足としての利便性を高めたり、商店街と連携したイベントを定期的に行うなど、地域と一体となった鉄道づくりを進めていきました。そういったさまざまな試みが実を結んで、10年前は年間70万人程度だった利用者数が、今年度はなんと100万人を達成する見込みなんです。さらにひたち海浜公園までの延伸も決まり、湊線はローカル鉄道再生のモデルケースとして全国から注目を集めているんですよ。

地域を見る目を育む観光案内板

小佐原さん自身の仕事も、この駅名標をキッカケに、さらに新しい展開があったそうですね。

駅名標と同じ考え方で、観光資源とイラストが融合した新しい観光案内板を設置するプロジェクトが、ひたちなか市の観光振興課からの依頼でスタートしました。まず2016年度事業として、那珂湊地区13カ所の観光案内板を制作しました。 例えば、「華蔵院」というお寺には、「華」に本殿のファサード、「蔵」に茨城県の指定文化財になっている梵鐘のイラストをとりいれました。「院」には何が入っているかわかりますか?

うーん、動物ですかね...?

ネコの耳です。華蔵院には古くから化け猫の民話が伝わっているんです。

すごい!たった3文字なのに、華蔵院の特徴がよくわかる、すごい情報量ですね!制作する際に大切にしていることはありますか?

リサーチが非常に重要です。観光資源の外観だけを頼りにするのではなく、その歴史を学んだり、地域の人の話を聞いたりしてヒントを得ています。例えば、湊公園は昔、徳川光圀の別荘地でした。今はその建物はありませんが、そう言った地域の文脈も味わってほしいと思い、案内板には葵の御紋を入れました。また、ひたちなか市で行われているアートプロジェクト「みなとメディアミュージアム」に参加している学生やアーティストにもリサーチをお願いしています。さまざまな視点が加わることで、リサーチ結果にも厚みがでていると思います。

どんなイラストにも対応できるオリジナルフォントを開発!

ひたちなか市観光案内板のベースになっているフォントは、「リベラルフォント」といって専用に開発したものです。文字にとりいれるイラストは、モチーフによってさまざまな形状をしていますから、より一体感を高めるためには、ベースとなるフォント自体に柔軟性が必要になってきます。このリベラルフォントの特徴は、正体(1:1の比率)の他、長体(縦長)、平体(横長)にも対応している点にあります。既存のフォントにここまで融通が効くものはなかったので新規に設計しました。この特性によって、どんなイラストと組み合わせてもプロポーションが崩れません。安心してイメージを載せることができます。

クリエイターとして、自分だからこそできた仕事を残したい。

日本文教出版 中学校美術 掲示用資料

駅名標や観光案内板の仕事は、小佐原さんが以前から目指していた仕事に近いのでしょうか?

そうですね。僕は子どもの頃から絵を描くことが得意だったので、自然な流れで美大に進みました。表現には自己表現と、社会の課題解決のための表現があると思うのですが、自己表現は美大に入学して早々に向いていないと気づき、あきらめました(笑)。そこで自分は課題解決のための表現を生業(なりわい)にしていきたいと考え、コミュニケーションデザインを専門に学びました。 ひたちなか海浜鉄道湊線駅名標の仕事は、廃線の危機に瀕した鉄道の再生という明確な課題があり、その解答として提示しました。設置から8年が経過して、さまざまなメディアに取り上げていただき、湊線自体の利用者も順調に増え、延伸も決まり、ひとまずの達成感があります。 また、ひとりのクリエーターとして、自分だからこそできた仕事を残せたという気持ちもありました。その意味で、目指していた仕事に近いと思います。

小佐原さんが所属しているクリエイティブグループについてお聞かせください。

「リベラルラベル」という名前で、「イメージを遠方に飛ばすデザイン」というコンセプトを掲げて活動しています。距離、時間、 概念を遠くに飛ばすことで、新しい関係性を見出そうという試みです。駅名標や観光案内板の制作背景にも実はこの思想があります。他には、全国の中学校に配布されている美術用教材などもつくりました。15枚組のポスターなのですが、その中のひとつに岡本太郎の太陽の塔があります。太陽の塔は大阪万博のときに作られたものですが、当時の姿は現在とは少し異なり、塔は屋根から突き出し、目にはキセノン投光器が取り付けられていたそうです。そこでタイトルのデザインに屋根から突き出す塔を入れ、中学生に理解してほしいポイントが直感的にわかるよう工夫しました。

デザインの力が及んでいない地域はまだたくさんある。地域が持つ魅力を発掘して表現していきたい。

今後、力を入れていきたい仕事や活動について教えてください。

デザインの力が社会に対してできることはまだまだたくさんあります。デザインの力が及んでいない地域にも、これから積極的に携わっていきたいと考えています。 地域の魅力は地元の人にとっては「当たり前」で、気づいていないことも多く、外部の人間のほうが魅力に気づくということもあります。そう考えると、ひたちなか市に縁もゆかりもない自分が関わった事にも意味があったのかなと思います。今後もデザインを通じて地域のポテンシャルを引き出し、新しい価値をつくっていきたいですね。

取材日:2017年7月10日 ライター:植松織江

小佐原孝幸(おさはら たかゆき)

デザイナー。2009年よりアート・デザインを通してひたちなか市の活性化プロジェクトに携わる。2014年、ひたちなか市功労表彰。2015年、地域性をとりいれた『ひたちなか海浜鉄道湊線駅名標』でグッドデザイン賞授賞。2017年、クリエイティブグループ「リベラルラベル」結成。環境芸術学会所属。千葉商科大学客員講師、常磐大学非常勤講師。
リベラル ラベル(http://liberal-label.com)

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