職種その他2019.09.11

卵が街にやってきた! Exbury Egg @Lakeside Centre

vol.86
London Art Trail
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

レイクサイドセンターの二階から見える Southmere Lake

「あそこに見える大きな卵は一体何の水鳥の卵でしょうか。」初老の男性が指差す方角を見れば、なんと湖の真ん中に巨大な卵が浮かんでいます。「何の卵かって言われても…。」思わず言葉を失う私。全長6メートルほどのその卵は、大人が十人は入れそうな大きさ。 そして波で大きく揺れる卵の上ではまだ羽の色の変わりきっていない若いカモメが三羽、サーフィンを楽しんでいるではありませんか。

一番左がStephen Turner。来場者にプロジェクトの説明をしている。

数週間後、卵が上陸したという噂を聞きつけ、早速訪れてみます。上陸先は湖の辺りにオープンしたばかりのアートセンター、Thamesmead Lakeside Centre。「The egg is open!」と書かれたサインに誘われ、敷地に入るとあの卵がお出迎え。卵には梯子がかかっていて中に入れるようになっています。もうお分かりかと思いますが、実はこの卵はアートプロジェクトで、通称エッグマンこと、Stephen Turnerの Exbury Egg。Exbury Eggはターナーと Space Place & Urban Design (SPUD)、建築事務所PAD Studio、ボート職人 Paul Bakerとの共同制作作品。南イングランド、ハンプシャー、Exbury Estateの Beaulieu River に浮かぶエコモバイルハウスとして2013年に建てられました。ターナーは実際に2013年から1年間陸を離れ、川に浮かぶこの卵の家に住みリサーチや制作を行いました。自然に溶け込むことで気候変動、地球温暖化による河川の生態系の変化を肌で感じられたそうです。その後、卵とターナーは英国各地の水辺を巡り、様々な地元コミュニティーやアーチィストとコラボレーションを重ねながら今回南東ロンドン、テームズミードのSouthmere Lakeにあるレイクサイドセンターにやって来たわけです。

一番右で説明をしているのがJ D Swann

J D Swannのワークショップ

さて、前おきが長くなりましたが、卵の中に入ってみます。中は想像以上に広く、ワークショップが行われていました。ワークショップを行っていたのはJ D Swann という鳥探偵。「Thamesmead’s Best Beaks with J D Swann」と題して、湖畔に生息、または訪れる鳥たちを観察し、自分のお気に入りの鳥のパーツを見つけて組み合わせ、お気に入りの鳥を作っちゃおう!というもの。

クチバシの写真

こちらはクチバシの写真のシート。鳥は全てスワン探偵がこの付近で目撃したという鳥で、全18種。そんなにいろいろな鳥がこの湖畔に住んでいるの?とまず驚かされます。クチバシ、頭、胴体、羽、尻尾、足がそれぞれ別々に印刷されたシートをもらい、鳥の名前を当てながらお気に入りを切り抜いてパーツを組み合わせていきます。「あ、これ、ドードー鳥のクチバシだ!」と誰かが叫ぶと、「ドードー鳥がこの辺に住んでいますか。」とすかさずスワン探偵が答えます。そうですよね、いないですよね、何しろルイスキャロルが不思議の国のアリスを書いた時にはもうすでに絶滅していたわけですから。

Nela鳥

こちらはこの女の子が作ったNela鳥。ジュベニール(若鳥)のようです。J D Swann はアーティストCalum F. Kerrのパフォーマンスのキャラクターでターナーの卵を間借りして夏いっぱいこの家族向けのワークショップを行っています。卵は来春までこのレイクサイドセンターに留まりターナーはアーチストインレジデンスとして地元のアーティストとのコラボレーションを重ねていくそうです。この先が楽しみです。

レイクサイドセンター

ロンドン最南東に位置するテームズミードは1960年代に第二次大戦後の住宅不足を補うため、当時のGLC(Greater London Council) によって、ロンドンのベッドタウンとして人工的に作られた街です。人が住めない沼地を埋め立て人口池や湖をもうけ、歩道と車の車道を立体的に分離し2階の広いデッキはすべて歩く人に開放するという斬新なコンクリート住宅街は、当時の建築界でも話題を呼んだそう。湖の辺りにはヨットクラブもオープンし、当時移り住んだ人々はセーリングや釣りを楽しんだのだとか。しかし建てられて間もなく撮影されたスタンリー・キューブリックの映画『時計じかけのオレンジ』(1971年)のロケ地としてのイメージがまるで予見であるかのように、地域コミュニティーが育たないまま犯罪が増え、やがて人は離れ、街は荒廃していきました。そんな忘れ去られた町にも50年後の今、新たに再開発の波が押し寄せています。そして同時にアートコミュニティーを育てることによって町を再生させようという動きも始まっています。今回紹介したレイクサイドセンターも実はその一環。テームズミードを所有する住宅協会のPeabody とアーティストスタジオ団体のBow Arts が共同で、抜け殻となっていた元ヨットクラブを改築して、40室のアートスタジオを持つアートセンターとして今夏にオープンさせたのです。負のイメージのつきまとうキューブリックのロケ地のBinsey Walkに並ぶ住宅も、現在取り壊しが進められており、訪れた日にはレイクサイドセンターからその瓦礫へと化していく過程を眺めることができました。

プロフィール
London Art Trail
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。 ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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