人とうまく話す

番長プロデューサーの世直しコラムVol.114
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

会社の制作の新人の女の子から質問されました。 「なんというか、うまく話せないんです。どうしたらいいでしょうか?」 返答に困ってしまった。

会社の歓送迎会の席で、黙ってるだけの新人の子に 「なんでずっと黙ってるの?なんか面白いこと言いなよ」 と半ばいじわるで言った事への返しがこの質問だったのです。

仕事をしていて思うのは、新人だけでなく大人になっても、打合せ中にずっと黙っている人がいる、ということ。 人が集まって意見を交換する場で、自分が一番下っ端だとしても、よくそんな長い時間黙っていられるものだと関心してしまうくらい黙っている人がいるのだ。

最近はノートパソコンを打合せ中に開いている人が多いのだが、それと睨めっこして、打合せなのに一度も口を開かない人もいる。 何しにきたんだろう?と思う。 そう思って覗き込むと、関係ない他の案件のメールに返答している奴もいる。 帰れよ、お前。 そう言うと「急ぎの案件だったので」とかお決まりの返事が返ってくる。 他の案件のメール見んなや。打合せに集中しろよ、こら!と。 なんか仕事やってる振りの、いい隠れ場所にパソコンが使われているんだなあ、と思う。 夜中に代官山の本屋さんで、一人でやりなさいと。

会社のパソコンのメールには毎日驚くほどのメールが入っている。 大体、チームの全員にccが付いていることが多いから、自分に直接伝えられた件でもないけど、一応知っといてね的なメールが多いのだ。そういうメールの差出人は、打合せで口を開かない奴の名前が多い。 そんなメールは文章も事務的で下手くそだから読む気もしない。 で、知らんぷりしてると「メールに書きましたけど」って言われるのだ。 だから何?伝えたつもりですか?メールに書いてccで送りつけただけでしょ? 確認もしないんだし伝わってませんよね、と意地悪な気分になる。

最近は驚くことに、会社に入ってくる若者たち、特に男に多くなってきたのは 「僕、童貞なんです」っていう奴ら。 女の子と付き合ったことがありません、と恥ずかしげもなく言うガキ。

数年前まではビックリしてたけど、最近は慣れちゃってウンザリしてきました。

物凄く極端な言い方をすると、男の子は若い時に、これから生きていく上での色んなことを女の人に教えてもらうものです。ある女の子を好きになって、振り向いてもらうのに作戦を練って、成功して関係を維持する。これは世間的なことを何も知らず、金もない若い頃の男には大変な苦労ですね。 そこには言葉と若さしか武器がないのでそれを駆使しないといい目にはあえません。 ご飯のこと、ファッションのこと、ものの言い方、音楽のこと、映画のこと、本のこと、やったらダメな行動、なんでか分からないけど言ったらダメな言葉とか。 なんで怒っちゃったのかわからなくて真剣に考えたり話し合ったり。 好きな女の子と真剣に向き合って得られる人間性の成長は、野郎ばっかりたむろしているときに比べて格段の違いがあります。

仕事も恋愛もそうなんだけど、うまくいかない時の事を前提にして、僕なんかがお客さんの前で発言なんか……とか、告白して振られたら傷つくなあ……とか怖がって行動を起こさなければ、結局何も起きないし、クソつまんねえ奴になる。それは怖くないのか?と思うのです。

会社の飲み会があったとして、偉い人や怖い人のそばに座るのが嫌で、端っこに気の合う奴らだけで集まっていつもと同じ話をしているケースも、せっかくのチャンスを逃していることになる。 というか、目上の人間と話したりするのは勇気や体力がいるし面倒くさいんだけど、そこにぶつかっていく労力を出し惜しんだら何も得られない、というのも恋愛と一緒。 積極的にぶつかっていく奴を横に見ながらそいつを「政治家だ」とか「上を目指す奴」とか 揶揄して自分のできないことを正当化したりしても意味は無いのです。ただの妬み。

そんな感じだからうまく話せないのです。

色んな経験をして、自分以外の他人が何を考えているか想像できるようになる。 それができないといつまで経ったって上手く会話するなんて無理です。 裏を返すと、上手く人と話せないという人は、そこが解らないから自信がない。 自信がないから緊張する。だから切り出す勇気を持てなくて話ができない。 そういうことだと思うのです。

怖いことに、この広告の仕事をしていてわかった残酷な事実は、喋らない人から消えていく。という事です。 どんなに真面目で、会社の書類をちゃんと期日を守って提出しても、打合せで黙ってなにも言えない人は矢面に立つ気がないと判断されます。 アイディアが無いと判断される。 面白くないと判断されると仕事は増えません。 あの人を呼ぶと打合せが盛り上がる、仕事が盛り上がる、と思われるから仕事に呼ばれるのです。 全部そうだとは言い切れませんが、余計な事を言いまくらない限り大体そんな感じだと 思うのです。

日本の学校の中に根強く残る、余計な事を言わなければ取り敢えず損はしない、という感覚、男女交際禁止的なバカの建前が、社会に出るとスゲー邪魔なのです。 コミュニケーション下手人間を沢山生んでいる。 学校の風潮を真に受けた、控えめが美徳だと思っている奴は可哀想ですね。 匿名でネットに他人の悪口書いてるくせに、面と向かっては話さない。

言わなきゃいけない事は直接ハッキリ言う。泣き事や言わなくてもいい事は言わない。 そこが大事なんだと早く気付けよ。終わってからメール書いてこないで、面と向かって言ってくれ。たのむ。

メールでのコミュニケーションの文化は、クソみたいな学校教育の暗い文化、つまり学校をオペレーションする側が面倒くさい事が起きないように、とにかく大人しくしとれ、という考え方と上手く結びついて大量に発生した「人と話す勇気を出し惜しむ様な奴ら」に重宝されてスタンダード化しようとしているけれど、大事な事は1対1で直接言うということだと思う。最悪でも1対1のメールは読みたくなりますし。

とういわけで、相変わらず極論ではありますが、Ccの文化を信用せず、ちゃんと恋愛をしていれば上手く話せるようになりますよ。仕事も上手くいくんじゃ無いかと思うのです。 1対1の関係性をちゃんとできない人とコミュニケーションをとるのは、なかなか難しいでしょ? と、新人の子にいいたいのです。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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