職種その他2014.11.12

Lookout! アート作品にご用心! Folkestone Triennial 2014

London Art Trail Vol.29
London Art Trail 笠原みゆき
 

Folkestoneってどこにあるのか知っていますか?ロンドンから南東へ100Km程の所にある人口4万5千人程の小さな港町です。この海辺の町で 三年に一度、アートフェスティバル“Folkestone Triennial”が行なわれています。今年で3回目。


’Giving It All That’ ©Emma Hart

’Giving It All That’ ©Emma Hart

荒廃した家の中に足を踏み入れると使われていない家の匂いが鼻をくすぐります。 狭い階段を上っていくとそこは家族パーティーの会場!ニョキニョキ床から生えている、ルバーブの茎のように真っ赤な腕が、ワインボトルやワイングラスをせっせと運んでいて、部屋の片隅にはワイングラスがゴロリ。 奥からは陽気な笑い声や歌声が聞こえてくるので覗いてみると、それは手と手すりを持ったパソコン。 上の階からは叫び声や泣きじゃくる声が聞こえてきます。


’Giving It All That’ ©Emma Hart

’Giving It All That’ ©Emma Hart

この作品はEmma Hartの’Giving It All That’。 家族が個々の部屋でそれぞれ感情的になっているものの、お互いの対話はなくコンピューターの中での外部とのコミュニケーションのみ。 一つ屋根の下で暮らしていてもパソコン、スマートフォンやTVに夢中でコミュニケーションのとれない家族、そんな家族の象徴とでもいえる作品。


‘Pent Houses' ©Diane Dever & Jonathan Wright 左の白いウインドブレーカーを来ているのがボランティアの方。見付けにくい作品はこの方達が目印になる。

‘Pent Houses' ©Diane Dever & Jonathan Wright
左の白いウインドブレーカーを来ているのがボランティアの方。見付けにくい作品はこの方達が目印になる。

建物と建物の間に突然現れた給水塔。フォークストンの歴史は中石器時代に遡り、ペント川のほとりに人が移り住んだ事から始まります。更に19世紀にはペント川の豊富な水力は工場の動力として使われました。ではその川は何処に流れているのかと地図をみてみると・・・無いのです!今はもう。 この作品はDiane Dever & Jonathan Wrightの ‘Pent Houses’。 DeverとWrightは、NYの給水塔を模した5つのタワーを制作し、ペント川のルート、僅かに地下に残る水脈に沿って町の5カ所に設置しました。 何千年、もしかするともっと以前から流れていた川が、このたった100年程の間に失われたという事実。私たちが文明化と呼ぶ都市開発がいったい何であるのかもう一度考えさせられます。 ちなみにターナーが1845年にこの川を描いたスケッチが残っていてテート・ギャラリーのコレクションで見る事が出来ます。 ▼ターナーのスケッチ(テート・ギャラリーコレクション)


‘Clay Window and Clay Steps’の一部 ©Andy Goldsworthy

‘Clay Window and Clay Steps’の一部 ©Andy Goldsworthy

海辺の町らしいお店やレストランの並ぶ旧大通り。 建物は商店かなにかのようですが、外からは窓が何かで覆われていてよく見えません。 中に入るとそこは別世界!暗闇の中、彫刻刀で切り込まれたような線の間から外の光が差し込み、静けさの中、時折外の喧噪が聞こえてきます。

写真はAndy Goldsworthyの‘Clay Window and Clay Steps’の一部(Clay Windowの部分)。 この作品は商店の窓とその隣の通路の階段を地元の海岸から採取した粘土で覆ったインスタレーションで、その同じ粘土は建築レンガの材料として使われてきました。窓に貼付けただけの粘土壁は数週も経たないうちにひび割れやがて崩れ落ちます。 Goldsworthyはその短いサイクルで刻々と変化する様子は、季節に影響される町の経済、 再生過程を象徴しているといいます。


'Vigil' ©Alex Hartley

‘Vigil’ ©Alex Hartley

‘Vigil’ ©Alex Hartley

‘Vigil’ ©Alex Hartley

何の変哲もない浜辺のリゾートホテル。 でもよく見ると最上階の壁に何か?実は壁にはキャンプ用のテント一式が取り付けてあってどうやら中には人が! Vigil(寝ずの番)という文字も見えます。この作品はAlex Hartleyの‘Vigil’。山に入り塔を立てその天辺で一人修行した、登塔者聖シメオンのように、海風の強いホテルの壁を通常の登山具で登りテントを設置したHartley。Hartleyの元々の企画書は海岸の絶壁にテントを張るということだったそうですが、あえて市街地に持ってきた事で近年のオキュパイ運動や監視カメラを彷彿させ作品に社会性が生まれました。


‘Is Why the Place’ ©Tim Etchells

‘Is Why the Place’ ©Tim Etchells

The Electrified Line ©Gabriel Lester こちらの竹の彫刻もまた閉鎖した鉄道路線上に設置されていた。

The Electrified Line ©Gabriel Lester こちらの竹の彫刻もまた閉鎖した鉄道路線上に設置されていた。

海岸沿いにはしる鉄道路線に沿って歩いていくと、旧鉄道駅Folkestone Harbour駅に出ます。 ゲートが開いているので中に入ってみると!ネオンの作品はアーチィストで作家、演出家のTim Etchellsの ‘Is Why the Place’。 ネオンはこういっています。‘Coming and Going is Why the place is there at all‘(行き来はそもそもそこにその場所があるから)1849年に開通し国内リゾート地として栄え、戦中は人や物資を大量に運び、さらにロンドンからヴェニスまで走った豪華列車オリエント急行の停車駅であったこの駅も今年の5月末には閉鎖されました。一方で2009年にはフォークストンの他の駅、Folkestone West駅に新たに高速鉄道が開通、フランスの高速鉄道LGVとドーバーから繋がり、フォークストンからロンドンまで最速で僅か52分で行く事が可能になりました。 一時は廃れた港町もまた活気を取り戻すのか、そうなれば皮肉な事に今のような空き地や空き家を利用したアートの形態はとれなくなるでしょう。 変わりゆく小さな港町をこの先アートがどのような役割を立たしていくのでしょうか。

 

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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