「あるコピーライターの一日」

第78話
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
Akira Kadota
門田 陽

それはある日のことでした。朝5時起床。ここ数年、目覚まし時計に頼ることなく早起きです。第一声は「トリプルコークフォーティーン・フォーティ!!」のはずだったのですが案の定思い出せずに昨夜メモしたノートをめくりながら「なんだっけ~?」がこの日最初に発したコトバになりました。

顔を洗い、うがいをして机の前へ。2台のPCと2台のスマホ(いずれも私物と社用)のメール等を開きます。特に何もないことを確認して台所へ。冷蔵庫にあったチャーハンとハンバーグをレンジでチンして紙皿に移して朝ごはん(※写真①)。

※写真①

高校生男子のようなメニュー。朝はこんなガッツリな日もあれば何も食べない日もあります。5分で終了。服を脱ぎ、メガネを外して(年に2~3回メガネを外し忘れてエライ目にあいます)シャワーを浴びます。バスタオルで髪を拭き終えると洗濯機を廻して再びデスクへ。朝6時。少しずつ外が明るくなってきました。ここから2時間フリータイム。ユーチューブとネットフリックスのお気に入りを総チェックしながら雑誌や本を眺めているとすぐに8時になります。検温です。もう丸2年の習慣。測り終わると会社の上長へ健康状態と今日の仕事内容等をスマホで業務連絡。仕事モードに変身です。

午前9時仕事開始。午前中に2件のリモート打ち合わせ。いつの間にかこの仕事のやり方にも対応できるようになりました。移動時間がないのと打ち合わせ中のムダな会話が減ったこと、そして遅刻やハプニングやおバカな空気等のロスがほとんどありません。携帯電話が普及したときにも同様の気持ちになりましたが文明の利器の発達で人間はどんどん忙しくなっている気がします。会議中にダジャレを言う人などもいなくなりました。テレワークだとボソッと言うことが難しいですよね。

お昼です。マスクを付けて(帽子はすでに被っています)徒歩2分の吉野家へ。食べ終わりセブンイレブンで食後のデザートを仕入れて一旦家に戻ります。うがい手洗いを済ませ買ったばかりの杏仁豆腐を5秒で平らげ満足感を味わいます。この日、午後は夜までリモートがなく余裕があるので月に一度は必ず行く場所へ向かいます。

さて、何百回通っても新宿駅には慣れません。この日も目的地とは逆の西口に出てしまいました。やれやれと思いながらキョロキョロすると目の前の看板が気になり近寄ってみると案の定でした(※写真②)。

※写真②

「ポイ捨てダメだぞ~」、そうです、ダジャレです。ただし文字(コピー)だけではわからないタイプ。僕は勝手に「絵オチ動物型」と呼んで分類しています。で、ここからがややこしい僕のマイルール。一人でいるときにダジャレを見つけたら同じタイプのダジャレを思い付くまでそこに立ち止まること。子どもの頃からのクセです。ただし誰か人と一緒のときにはやりません(実際は心の中では考えています)。「カエルが鳴くから帰ろう」と悩みましたが来たばかりなのでそれはやめて「牛乳おかわりモーいっぱい」とマスクの下でつぶやき東口へ向かいました。

目的の場所、紀伊国屋書店新宿本店に到着。

大好きな本屋さんです。いつも通っている近所の三省堂も好きですが、ここに来るのには理由があります。1984年。僕はまだ二十歳。憧れのコピーライター糸井重里さんのサイン会が新宿の紀伊国屋書店で開かれることを告知で知りました。情報源は週刊文春。まだネットなど皆無の時代です。行きたくてたまりません。二十歳のくせに親からもらったお年玉と慣れないガテン系のバイトをして合計5万円を作り、飛行機(スカイメイトを利用)を使って新宿紀伊國屋に初めて行ったのでした。ドキドキしました。糸井さんからサイン(※写真③)をしてもらったこととそのあと一人で居酒屋に入ったことは覚えているのですが、どこに泊まったのか帰りはどうしたのかの記憶が飛んでいます。

※写真③

とにかく本屋さんのあまりの大きさ(当時地元福岡にはまだ大型書店がなかった)に圧倒されたのと糸井さんの姿を見て興奮して他の記憶が抜け落ちたのだと思います。そうです。ここに来ると「いつかコピーライターになりたい!」と思ったあの頃の気持ちがほんの少しですが戻ることがあるのです。それが何だと言われると何でもないのですが、捨ててはいけない気持ちなのだと思える僕はまだまだ青いのかもしれません。2時間滞在。コロナ禍でなければもう少しゆっくりしたところですが、地下鉄を乗り継いで会社へ向かいます。僕宛に届いた郵便のピックアップ。フリーアドレスになってからもこの郵便の受け取りだけはリアルしかできません。

17時半。わずかな時間ながらも会社からの帰り道といえば一杯やるのがルーティン。

新橋にある行きつけの小さな飲み屋さん「薺」(※とりとめないわ第7話参照)で軽い食事とアルコールでエネルギーを補給。1時間で切り上げて電車を乗り継ぎ帰宅。20時からこの日最後のリモート会議でクライアントさんからのダメ出しを受けて21時に終了。テレビを付けるとカーリング日本女子チームの笑顔がこぼれていました。それを横目に明日までにやることと明日やることをノートに書いて寝るまでにやれるとこまでやっておしまい。明日の第一声も決めました!おやすみなさい。

ところで、この翌日の朝は無事に「ナイスぅ~」で始められた話はまたの機会に。

 

プロフィール
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
門田 陽
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。 TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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