実は、撮りたいのはシュールな映画だった。道徳的な娯楽モノを目指すより、枠からはみだした芸能を作りたかった。

Vol.031
井筒和幸の Get It Up !
Kazuyuki Izutsu
井筒 和幸

84年、師走に入って、ボクは日活の“ゲテモノ”(下手物)映画、『金魂巻』の準備を進めなければならないものの、伊豆の山中にある修善寺温泉にまで電車で出かけて、映画監督協会の主催する「忘年会」の一泊旅行にも参加していた。まさに、忙中閑あり。ひょいと暇ができたので、気晴らしだった。

大先輩たちの酒宴に混じって、映画談義を聞くのもいいが、旅館のカラオケバーで「宗右衛門ブルース」や「また逢う日まで」や「君といつまでも」でもぶちかまして憂さ晴らしもいいなと思って、ほんとに、他の先輩監督たちにも奮起させて唄わせてやろうと歌いまくった。この世の憂さを唄って晴らすのは千年の昔からの“芸能の基本”だろ、そう思ったかどうかは忘れたけれど、歌いまくった。

『夜の大捜査線』でアメリカ南部の黒人たちが農園で綿摘みをしている場面に流れる、レイ・チャールズの「イン・ザ・ヒート・オブ・ザ・ナイト」みたいな渋いブルースが唄えるわけではなかったが、なんとなく、歌うほどにそんな気分だった。映画渡世のしがらみが少し分かりかけた頃だったからだろう。でも、歌いながらも、よっし、今度の“ゲテモノ”、つまり≪一般からは風変わりに見える≫次の同窓会映画は、この旅館を借りてロケしてもいいなと思いついたりした。やっぱり、頭の中は映画作りのことで一杯だったのかな。親が会社社長で金持ちだが心のねじ曲がった二代目の奴や、心根は優しいのにホカホカ弁当屋で苦戦する奴や、日雇い仕事もロクにない男や、旅館の中庭の植え込みで夜中にセックスしてしまう女などを、そこの大きな露天風呂に全員で入ったらどうなるのかとか、バカみたいなことばかり発想しながら、歌って飲んでいた。

あくる朝、まだ酔いの残る中、喫茶コーナーにいた時、スポーツ紙の「角川映画で育てられた薬師丸ひろ子が、角川春樹事務所から独立か……」の記事が眼に止まった。なんだよ、薬師丸の主演で一本撮ってくれと言われてたけど、この分だとそんな話は消えてなくなりそうだな、角川から次のお鉢は回ってきそうにないな。そうなりゃ、いよいよ日活のこの“ゲテモノ”に本腰入れて取り組むしか、オレにはやることがない。意地でもガンバって撮らないとゴールデンウィーク封切りは待ってくれないなと、気分を入れ直したことを覚えている。

伊豆からの帰路、その旅館のシーンのことばかり思い巡らせていた。どんな役者たちが参加してくれたら素晴らしく風変わりな“ゲテモノ”になるか、思いつくまま、一人で笑っていた。シナリオ作りの際にアイデアとして出ていた、主人公がバキュームカーで乗り付ける「糞尿ばら撒き事件」については、まさか、修善寺の旅館でやれることじゃないし、やっぱり、露天風呂を使ったロマンポルノの日活らしい、全員丸裸の混浴大騒動でもでっち上げてスポーツ紙でスクープしてもらうかとか、愉しい悩みばかりが頭の中を行き来していた。

絶対に、常識的で倫理的で品のありそうな当たり前な映画なんて作る気はしなかった。人物がいっぱい出てきて滅茶苦茶しまくる「反映画」、つまり(前回も書いたが)、邦画の伝統を壊したモノ、つじつまの合うぎりぎりの物語、シュールで突飛な感情の流れ、ルイス・ブニュエル的な、目線のつながりも気にしない、画面の法則など破り捨てたモノ、娯楽自体を笑っているモノ、興行的に散々であろうがどうでもいい表現の自由の砦みたいな映画、10年前に先達の山本晋也さんにピンク現場で教わった「藝術と娯楽の間にある大衆芸能」としてのシャシン(映画)を、ボクはこの機会にこそ、作りたく思ったのは確かだった。

ボードビリアンの九十九一(つくも はじめ)さんをまだキャスティングする前だったが、彼とは、前の『晴れときどき殺人』やビデオ作品『COMBAてんねん』でナレーターもしてもらっていたので、この映画では今度こそ必ず、主役でお願いしようと決めていた。九十九さんなら庭の植え込みでセックスも、バキュームカーでウンコばら撒きも何もかも、きっと、そつなくやりこなしてくれるだろうと。ついでに、コメディアンの桜金造さんもシュールリアルには必要だな、そうだ、忘れてるぞ、浅草の芸人、由利徹師匠を呼ばなければ…。それからパントマイマーの中村ゆうじさんも必要だな…。女優なら、一度誘いたかったロマンポルノの風祭ゆきさんか。
彼ら、無頼派の“芸能の民”の顔を思い浮かべるうちに、特急電車は新宿駅に着いていた。

余談だけど、コロナ禍で公開が延びていた、新作『無頼』が
いよいよ、この年末12月12日より、新宿、池袋、横浜などを皮切りに
順次全国封切りされます。封切りとは(プリント缶の封を切る)という意味で、デジタル化で誰も使わなくなったが、ボクら活動屋には何ともいい響きの懐かしい言葉だ。何作目の我が子か数えてもいないが、熱かった昭和の時代にタイムスリップする“ヤクザ映画”なので、是非、年納めの気晴らし憂さ晴らしに、劇場まで足を運んでください。

『無頼』

 

12月 12 日(土) より新宿 K’s cinema ほか全国順次ロードショー!

ストーリー
太平洋戦争に敗れ、貧困と無秩序の中に放り出された日本。焼け跡から立ち上がった大衆は、高度経済成長のもとで所得倍増を追い、バブル崩壊まで欲望のままに生きて、昭和が去ると共に勢いを止めた。理想の時代から、夢の時代、そして虚構の時代へ ── 。誰もが豊かさを欲する社会の片隅で、何にも怯むことなく、たった一人で飢えや汚辱と闘い、世間のまなざしに抗い続けた 無頼の徒 がいた。やがて男は一家を構え、はみだし者たちを束ねて、命懸けの裏社会を生き抜いていく。過ぎ去った無頼の日々が今、蘇える。正義を語るな、無頼を生きろ!

監督:井筒和幸
キャスト: 松本利夫(EXILE) 柳ゆり菜 中村達也 ラサール石井 小木茂光 升毅 木下ほうか
主題歌:泉谷しげる「春夏秋冬〜無頼バージョン」
配給:チッチオフィルム 配給協力:ラビットハウス

2020年/日本/146分/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/R15+
©2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

「無頼」公式サイト:http://www.buraimovie.jp/

東京:新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサ 12月12日(土)~
神奈川:横浜シネマ・ジャック&ベティ 12月12日(土)~
大阪:第七藝術劇場 12月19日(土)~
京都:出町座、京都みなみ会館 12月18日(金)~
名古屋:シネマスコーレ 12月26日(土)~
福岡:  KBCシネマ 12月25日(金)~

以降も、順次全国ロードショー公開。

 

プロフィール
井筒和幸の Get It Up !
井筒 和幸
■生年月日 1952年12月13日
■出身地  奈良県
 
奈良県立奈良高等学校在学中から映画製作を開始。
在学中に8mm映画「オレたちに明日はない」、 卒業後に16mm「戦争を知らんガキ」を製作。
1975年、高校時代の仲間と映画制作グループ「新映倶楽部」を設立。
150万円をかき集めて、35mmのピンク映画「行く行くマイトガイ・性春の悶々」にて監督デビュー。
上京後、数多くの作品を監督するなか、1981年「ガキ帝国」で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降「みゆき」(83年)、「晴れ、ときどき殺人」(84年)、「二代目はクリスチャン」(85年)、「犬死にせしもの」(86年)、「宇宙の法則」(90年)、『突然炎のごとく』(94年)、「岸和田少年愚連隊」(96年/ブルーリボン最優秀作品賞を受賞)、「のど自慢」(98年)、「ビッグ・ショー!ハワイに唄えば」(99年) 「ゲロッパ!」(03年)などを監督。
「パッチギ!」(04年)では、05年度ブルーリボン最優秀作品賞他、多数の映画賞を総なめ獲得し、その続編「パッチギ!LOVE&PEACE」(07年)も発表。
  その後も「TO THE FUTURE」(08年)、「ヒーローショー」(10年)、「黄金を抱いて翔べ」(12年)、「無頼」(20年)など、様々な社会派エンターテインメント作品を作り続けている。
その他、鋭い批評精神と、その独特な筆致で様々な分野に寄稿するコラムニストでもあり、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している

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