沖縄民謡 「コイナーユンタ」の身もフタもない結末

沖縄
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

本日の記事も、平成初期発売のCD『南海の音楽/八重山・宮古』より引用してみたい。

南海の音楽/八重山・宮古

「南海の音楽/八重山・宮古」
1991年10月、キングレコードより発売

< 合唱『狩俣ぬくいちゃ』の元歌となった村人の歌声はじめ、
19曲の民謡が納められたこのCD。第6番目の収録曲は八重山地方の民謡「コイナーユンタ」。

 

ミカンの木に花が咲く
コイナ鳥が止まる 

 

1
うふだきぬ くしぃなか コイナ マタコイナ
ざらだきぬ すばなか コイナ
(大岳の後ろに 
ザラ岳の側に)

 2:
ばなぎゃきぬ むより コイナ マタコイナ
かばさきぬ さしゃうり コイナ
(ミカンの木が生えている 
香しい木が差し出している)

 3
うりんずんぬ なるだら コイナ マタコイナ
ばがなちぬ いくだら コイナ
(初夏になったので
若夏になったので)

 4
はなや しるさかりょうり コイナ マタコイナ
なりぃや あおさくぬみょうり コイナ
(花が白く咲いて
実が青く稔って)

 5
こいなてぃる とうぃぬどぅ コイナ マタコイナ
こかりてぃる とるぬどぅ コイナ
(コイナという鳥が
コカルという鳥が)

 CDに収録された歌と歌詞の小冊子はここで途切れている。
八重山の緑滴る大森林、常緑の緑を誇るクネンボ(ミカン)の木に
野鳥が留まり花をついばむ。大自然の美しき調和。
やがて鳥は卵を産みヒナを孵すのだろう。
ヒナは親鳥の情愛を一身に受けてはぐくまれ、美しく巣立っていくのだろう。

あたかもNHKで日曜夜7時30分より放送の動物番組「ダーウィンが来た!」の世界。

ラストシーンでヒゲじいが「また来いな!」なんて寒いギャグを放つのだろう…
こんなイメージを抱かれる方も多かろう。

 

歌詞はここで途切れている
唄にはまだ続きがある

 昭和45年発行の『八重山古謡 上巻』より、その後の歌詞を探ってみよう。
なお煩雑さを避けるため、標準語訳のみなのをお許し願いたい

 

どうしたら捕らえられるか
どうやったら捕らえられるか

 より糸を仕掛けても捕らえられない
罠を仕掛けても捕らえられない

 すぐに家に走り戻り
暇をかけずに家に帰り

 自分の弓を持ってきて
案山子の弓を持ってきて

 すばやく山に入り
暇なく峰に行き着いて

 自作の弓に弦をかけ
案山子の弓で射捕り

 時もかけず射捕り
暇もかけず刺し捕り

あわれ捕らわれたコイナ鳥
その運命は?

 

ここからは、八重山言葉の歌詞と標準語訳をともに載せてみよう。

 外ぬ子にん 焼かしょうり コイナ マタコイナ
内の子にん あばしょうり コイナ
(妾の子に焼かせた
実子にも焼かせた)

 

ここでいきなり愛人の子に実子という、
家庭内のドロドロが忍び込んでくるのだ

 内ぬ子ぬ 焼きぃ鳥 コイナ マタコイナ
んが焼きぃぬ 臭さ焼きぃ コイナ
(実子が焼いた鳥は
苦く焼け 臭く焼け)

 外ぬ子ぬ 焼きぃ鳥 コイナ マタコイナ
んま焼きぃぬ 香焼きぃ コイナ
(妾の子が焼いた鳥は
美味く焼け 香ばしく焼け)

 

いきなりの「料理対決」

そして…

 

外ぬ子や内なし コイナ マタコイナ
内ぬ子や外なし コイナ
(妾の子は実子のように褒められ
実子は妾の子のように冷遇された)

 

 

はっきり言って「はぁ?」な結末

野鳥の健やかな成長を願い、射られる鳥の運命を嘆くのは、
肉などスーパーで買えば済む現代都会人の感傷だ。
それでもいきなり妾の子と実子の料理勝負、
挙句は負けた実子が「料理が下手」というだけでそれまでの立場を失い冷遇されてしまう。

 

ほんとうに「これでいいのか」としか言いようがない結末。

知らぬが仏、言わぬが花ということか。

 

※参考文献

『八重山古謡 上巻』 喜舎場永珣 沖縄タイムス社 1970

 

 

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。 2004年よりフリーライター。専門はアウトドアライターだが、近年では出身地・北海道の歴史や文化をモチーフに執筆。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)、執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(2019年 宝島社)など。

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