ゴールデンカムイの謎 その7 リスは不吉な生き物?

北海道
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

ゴールデンカムイ
セリフに見える「先進性」

ゴールデンカムイ第一巻 第3
小樽近郊の山林を巡る杉元とアシㇼパは、巨大なエゾマツの根元に行き当たる。
基本、北海道で「マツ」といえばアカマツやクロマツではなく、エゾマツやトドマツを指す。
正月の松飾も、エゾマツかトドマツで作る。だがこの2種の樹木は、植物学上ではマツと別種、むしろモミの木に近い。そのため「松ぼっくり」は細長い形となる。

さて、杉元とアシㇼパが行き当たったエゾマツの下には、松ぼっくりが落ちていた。
だがエゾマツの細長い松ぼっくりは何者かにかじられ、尻尾を残した「エビフライ」のような形になっている。

 アシㇼパは言う。
「このエゾマツはリスの餌場だ」

そしてリス捕獲用のくくり罠を仕掛け

「リスは木の実しか食べないから肉が美味い」
「毛皮も売れるから現金が手に入る」

 このやり取りは重要である。

アシㇼパが「アイヌの新しい女」であるが端的に示されている。
何故なら、アイヌの伝統文化ではリスは「不吉なもの」とされているからだ。

 アイヌ文化では
毛嫌いされるリス

北海道に生息するリスは、エゾリスとシマリス2種。
エゾリスはアイヌ語でニヨゥ(木渡り)、あるいはトゥス・ニンケ(巫術で消える)と呼ばれ、
シマリスはルオゥ・チロンヌㇷ゚(縞ある獲物)と呼ばれる。
だがエゾリスもシマリスもアイヌ文化では「不吉なもの」とされていた。

それは何故か

リス独特の手を合わせるようなしぐさが、みじめで貧乏たらしいとされたものらしい。
狩りに出かけた折にリスに出会ったら、そして手を合わせるようなしぐさをされたら、
縁起が悪いとしてその日の狩りは切り上げた。
そして笹束で体を払い、厳重に清めたという。

昔話の中でも、リスは妖怪女と組んで村人をたぶらかす存在として登場する。

この「リスは縁起が悪い」とのジンクスは北海道アイヌばかりではない。意外なことに、平成令和の現在、首都圏近郊の奥多摩や檜原村方面を猟場とする若手ハンターの元でもささやかれている。
リスを見た日は、なぜか獲物の当たりがないという。

 

貨幣経済の浸透で
利益をもたらすリス

 

そんなリスだが、明治以降に毛皮の値段が上がればそれほど嫌われなくなり、
狩ったのちはイナウ(木製の御幣)をかかげて魂を神の国に送り返し、新たな獲物の来訪を願った。

 

時は明治後期

リスに嫌悪感を抱かず、毛皮の儲けと肉の旨味を期待する。

アシㇼパはまさに新しきアイヌ女性なのである。

 

写真は(c)Gin tonic

※参考文献

『コタン生物記Ⅱ 野獣・海獣・魚族篇』更科源蔵・更科光 法政大学出版局 1976年
『図解アイヌ』角田陽一 新紀元社 2018年

 

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。 2004年よりフリーライター。専門はアウトドアライターだが、近年では出身地・北海道の歴史や文化をモチーフに執筆。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)、執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(2019年 宝島社)など。

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