カニの王子

東京
コピーライター
TOKYO♨脳内散歩 その1
コジマカツヒコ

宣伝のシゴトをはじめて30年ほど。みなさん、腰、大丈夫ですか?

学校の部活で蓄えた筋肉は、就職を境に貯金を食いつぶすように減り続け、30歳の時にヘルニア勃発。

健康ランドのジェットバスでケアをしたりサプリを飲んだりしてやり過ごしてきたけれど、これではイカン。

腰回りの筋肉をちゃんと補強し直さねば!  と通い始めたのがプールでした。

 

しばらくは黙々と水中ウォーキング。でも隣のレーンで颯爽と泳ぐシニア勢を眺めていると悔しい。

できれば自分もカッコよく泳ぎたい。 見栄を張りたい。

それから2年、今では週に4日は通い詰める立派なアディクトになりました。

 

「カニくん」とはお気に入りの公営プールでときどき会います。彼は知的障害を抱える若い男の子です。

 

水泳を趣味にされている方はけっこうご存じかもしれませんが、障害を持つ方々がたくさん訪れます。

そして知的障害を抱える人たちはちょっとハイテンションな場合が多いです。

カニくんもそうで、ロッカー室で着替えているとそぉ~っと後ろからやってきて「ひょゃぁぁーー!」と叫ばれたりします。

しかも「前へならえ」のポーズで。

心臓によくないです。もう慣れましたけれど。

 

けれど一転、温水プールのフリーエリアをワッシワッシと歩きまわっている彼はとても表情がおだやか。

ぼくも企画がまとまらず頭の中がぐるぐるイライラしていてもいつのまにか消えています。

ぬるまったい水には体と心をほぐす効果が間違いなくあると実感しています。

 

カニくんに話を戻すと、彼の特徴はもうひとつ。目に映る風景が(たぶん)ぼくと違うこと。

もう少し正確に表現するなら目に映る風景を別なものに見立てているようです。

 

彼と顔を合わせるプールのロッカールームはクリーム色のスチール板の本体に、

ブルーのとびらとグレーのとびらが組み込まれています。

まぁいかにも公共施設といった愛嬌のないカラーリング。

 

カニくんはロッカールームのブルーのとびらを指差して言います。

「うぃイ」→(何度か聞いて「海」と言っていると理解)

 

オフホワイトの床に置かれたラベンダー色のベンチを指差して、

「くぃら」→「くじら」

 

ロッカールームを海だと思っている? それとも海へと繋がる連想を、いま表現している?

 

 

そしてある時、

 

「かにののぉじ~」

「かにのぉ~じ」

「カニのおうじ」

 

“カニの王子” なのだとわかりました。今、目の前に

海があって、クジラがいて、カニの王子さまがいる。たぶん。いやきっといる。

 

ぼくが現実だと思っていた毎日は、実は脳内世界だったりして。

そんな「マトリックス」的な瞬間に、なんだか気持ちが楽しく、ザワザワしてしまいました。

ぼくの目には見えない世界が彼には見えている。カニの王子さまが世を治める海の王国。アメイジング!

(甲殻類の王子というキャラクターは企画で思いついたこと無かったなぁ。)

 

以来、心の中で彼を「カニくん」と呼んでいます。

 

年の瀬の吉祥寺の市場でタラバガニを見かけ、彼のことを思い出しました。

シゴトや心が迷走したらぜひプールへ。脳みそまで洗われちゃうかもしれません。

 

 

プロフィール
コピーライター
コジマカツヒコ
就活に乗り遅れたまま心晴れやかに学校を卒業。なつかしのマスコミ電話帳を片手に「使ってくれませんか?」の電話勧誘を繰り返し「ゆ」のページに書かれていた制作会社に潜入。それが33年前のこと。それから流通やメーカーのハウスエージェンシー、某電鉄会社の広告代理店を経てフリーランスに。得意領域は流通とメーカーの広告と販促ツールいろいろ。趣味は水泳と愛猫の育成、あとお酒と無駄話。信条は『世界はそれほど敵じゃない』です。

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