金沢21世紀美術館が開館20周年展で伝えるメッセージ
「金沢21世紀美術館」で11月2日から、20周年記念展「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」が開催されています。
2004年10月の開館から今年で20年の節目を迎えた同館が、展示を通して今世界に伝えるメッセージをレポートします。
パリ社会科学高等研究院准教授のエマヌエーレ・コッチャさんのほか、館長の長谷川祐子さんもキュレーターとして参加した同展は通常より多くのスペースを使用し、彫刻やタペストリー、映像作品、華道や服飾、書道に九谷焼など幅広いジャンルのアーティスト59組の作品を展示しました。
長谷川館長は「過剰な資本主義や気候変動などで分断され、差異を強調する世界で、私たちは何が共通なのか、何を共有することができるのかを考えていきたい。相手を観察して共鳴し、手を差し伸べて新しいダンス=コミュニケーションを始めるための媒介が今回展示した作品に散りばめられている」と話します。
長谷川館長の言葉通り、国や人々、そこにある暮らしや生活するうえで排出されたもの、植物や動物、昆虫や鳥といった生き物、そして目には見えないもの(シャーマンや霊的なもの、御神木)など、「すべてのもの」の存在を感じ、共生していくことの意味を見つめ直す展示内容となっています。
同展で最大級の展示となったのは、アドリアン・ヴィシャル・ロハスさんの作品です。
床に置かれた「想像力の果て」は産業廃棄物やガラス、土やコンクリート、金属などを組み合わせた巨大彫刻で、同じ展示室の天井には1月1日の能登半島地震により破損したガラスの天井板の代わりに、イエス・キリストを身ごもったマリアを描いた15世紀の絵画「出産の聖母」の複製画「消失のシアター」を設置しています。
また、アマゾンやイヌイット、アフリカ先住民族の人々が描いた絵画も今回の展覧会で注目すべき作品のひとつです。
円形の展示室にはアマゾナス州テラ・インディヘナのジョゼッカ・ヤマノミさんが描いたドローイングが並びました。
彼が描くのはシャーマンである父から聞いた幻視や補助霊、そしてアマゾンの人々の日常です。
アマゾンの人々にとって、シャーマンの存在や霊的な存在は特別なものではなく、日常の一部として捉えられていることがうかがえます。
また、同展のポスターイメージなどになっているジャイダ・イズベルさんの絵画は、シャーマンである自身がみたヴィジョンやイメージが基になっており、生命の源や宇宙を感じさせる力強さに満ちていました。
植物神経生物学者のステファノ・マンクーゾさんは、金沢市の神社にある樹齢1,000年超えの御神木にセンサーを取り付け、1/10秒ごとに送られてくるデータでイメージを生成するインスタレーションを展開します。
日本人の私たちには身近な存在として、神社で今も静かに佇んでいるであろう御神木から随時生成されているイメージは、全く単調ではなくエネルギーの波動のようにうねり続けていたのが不思議でした。
地元石川県の工芸品「九谷焼」の製造過程で出る破片に、能登半島地震で避難している「輪島塗」の職人さんが伝統的な技法を施した作品も展示されています。
作品を出展したRediscover project実行委員会の奥山純一さんは「同じ県の伝統工芸でも交わることのなかった九谷焼と輪島塗の職人が、緊急事態として力を合わせた。元の形に戻ったものはほとんどないが、破片から新しい可能性が生まれている」と話します。
2組のアーティストの映像作品を交互に上映する展示室でも、特別な体験ができました。
マリア・フェルナンダ・カルドーゾさんはオーストラリアに生息する4~6mmの小型のクモ・ジャンピングスパイダーを撮影し、映像作品「芸術の起源について I-II」を制作しました。
プロジェクターの前には楕円形のステージが置かれ、米粒ほどの大きさのクモが出す音や振動が人間の私たちにも感じられるようになっています。
ソーレン・ソールキアさんはムクドリの大群が一つの大きな生き物のように動く様子を撮影した映像作品「ハウトヴィール・ ウォーター」「ハウトヴィール・スカイ」と、写真作品「黒い太陽」を展示しました。
ムクドリの大群の動きというものを初めて見ましたが、無数の鳥が同じ動きをしたり急に方向を変えたり、その流れが不規則なのにまとまっているのが不思議で、人間には予測できない光景に引き込まれます。
エヴァ・ジョスパンさんの段ボールで制作した彫刻「パラティンの森」「コリントの森」も、繊細さと奥行きが感じられる作品として個人的には大変魅力的でした。
展示は2025年3月16日まで。会期も長いので、冬の金沢観光の目的地のひとつとしてぜひ足を運んでみてください。
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すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー
期間:2024年11月2日(土) – 2025年3月16日(日)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
会場:金沢21世紀美術館
料金:一般 1,400円(1,100円)
大学生 1,000円(800円)
小中高生 500円(400円)
65歳以上の方 1,100円
※本展観覧券は同時開催中の「コレクション展」との共通です
※( )内はWEB販売料金と団体料金(20名以上)
※当日窓口販売は閉場の30分前まで
休場日:月曜日(ただし2025年1月13日、2月24日は開場)、12月29日~2025年1月1日、1月14日、2月25日
お問い合わせ:金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800