古い×新しい=九谷焼ニューウェーブ

金沢
ライター
いんぎらぁと 手仕事のまちから
しお

今、金沢・ひがし茶屋街の近くにある複合型ホテル「HATCHi金沢」で、九谷焼の新ブランド「九九谷」のポップアップショップがオープン中だ。

去年秋に誕生した「九九谷」は九谷焼に新しい分野を「掛け算(=九九)」するというコンセプトで、九谷焼と現代の文化をマッチさせた商品を開発している。

中でも目を引くのはスケートボード型の九谷焼に、「久谷五彩」と呼ばれる鮮やかな色彩で絵付けをした「スケボー皿」だ。

デッキ部分に描かれているのは、青龍・白虎・朱雀・玄武といった「四神」など。ウィール部分までしっかり色が入っており、職人さんの繊細な技術と迫力、色味の美しさ、なによりインパクトの強さが印象的。

お値段、さすがの33万円!ただし、九谷焼の「転写技術」を施したものは、2万7,500円と比較的頑張ったら手が届きそうなお値段…。

転写のスケボー皿はふちにそりをつけ、ある程度汁気のある料理を載せても使える実用性も備えている。

こんなお皿でお料理を頂いたら、それはもうお洒落だろう。

また、美術品としての九谷焼であるスケボー皿とは少し異なるラインとして、「おじさんたち」シリーズも味のある顔で展示スペースに並んでいる。

「おじさんたち」をデザインしたのはグラフィティアーティストとして活躍する絵僧さんで、なんともチャーミングなおじさんたちは思わず手に取りたくなる魅力がある。

「おじさんたち」シリーズは日用品の九谷焼として、食器棚やテーブルの上に存在感を放ちながらちょこんと住まわってくれそうだ。

おじさんが気持ちよさそうな表情で歌っているような、丸型スピーカーもかわいい。

そんな「九九谷」をディレクションするのは、スケーターであり音楽活動も行う吉田良晴さん。九谷焼のギャラリーや工房、製土工場を備える小松市の複合施設「CERABO KUTANI(セラボクタニ)」のスタッフでもある。

吉田さんとお話する機会があったので、これまでも伝統工芸に携わってこられた方なのかと思って尋ねると、2年前の「CERABO KUTANI」オープンに際し、運営メンバーに応募するまで九谷焼は名前を知っている程度だったと教えてくださり、驚いた。

吉田さんは米軍基地のある青森県三沢市の出身で、上京後もスケボーや音楽面など海外のストリートカルチャーに親しんできた。これからは日本のことを知りたいと思った矢先、「CERABO KUTANI」の募集をみて、直感で石川県へ移住を決めた。「クリエイターとして新しいことをしたいと思った」と吉田さんはいう。

しかし、九谷焼は伝統工芸で歴史も深い。ストリートカルチャーに精通した吉田さんにとって、九谷焼の世界は新しく、挑戦も多かったことだろう。

わたしは単純に浮かんだ疑問として、「移住して新しいことに携わるのは怖くなかったですか?」と吉田さんにぶつけた

吉田さんは「わくわくもあったし、怖さや不安もあった」と答えた。それでも、「やったことのないことにチャレンジし、解決策を見つけていくことで、新しい気付きが生まれる」と教えてくださった。

スケボー皿も最初からスケートボードの形にした状態で焼くと問題も多く、職人さんたちと頭を悩ませ試行錯誤を繰り返して、最終的にはデッキとトラック、ウィールなどの部品を別々に作って組み合わせることで完成につなげられたという。

だれもが作ったことのない、やったことのないことに挑戦し悩み、また挑戦し少しずつ完成につなげていく。これこそまさに、クリエイトだ。

九谷焼の職人やほかの分野の作家、アーティストをつなげる橋渡しとしても、大きな役割を担う吉田さん。「古くからあるものと新しいものを掛け合わせて、日本っぽいけどポップな、今にフィットする九谷焼を作っていきたい」と話す。

最後に九九谷の新作として完成間近だという、スケートプール型のカレー皿の写真を見せてくださった。

歴史ある九谷焼と現代の個性や世代をつなぐコミュニケーターとしても、「九九谷」は活躍していくだろう。これから大いに注目すべきブランドだ。

プロフィール
ライター
しお
ブランニュー古都。 ふるくてあたらしいが混在する金沢に生まれ育ち、最近ますますこの街が好きです。 タウン情報サイトの記者やインターネット回線系のまとめ記事などを執筆しながら見つけたもの、感じたことをレポートします。 てんとうむししゃ代表。

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