グラフィック2020.07.22

少数精鋭集団が紡ぎ出す、広告メディアデザインの未来とは?

東京
有限会社NONESUCH 代表取締役社長
Shuji Tamiya
田宮 秀次

インターネットメディアや紙媒体のデザインから、映像モーショングラフィックまで、広告を主体とした幅広いデザイン制作を行う有限会社NONESUCH(ノンサッチ)。マルチクリエイターとして活躍する代表の田宮秀次(たみや しゅうじ)さんは、クライアントに各業界をリードする大手企業が名を連ねるようになった今も、「当たり前のことをしているだけ」と仕事に対する真摯(しんし)な姿勢を崩しません。会社を設立して15年、5人の精鋭スタッフを率いて大規模案件を次々とこなす田宮さんに、仕事やスタッフへの思い、これからの時代のクリエイター像などについて、お話を伺いました。

さまざまな現場を経験できたからこそ、仕事の幅が広がった

デザイン業界を志したきっかけを教えてください。

10代の頃、アメリカのカウンターカルチャーに興味があり、中でもニューヨークのファッションや音楽、アートに傾倒していました。アンディー・ウォーホル、キース・ヘリング、ジャン=ミシェル・バスキアといった作家のポップアートにとても刺激を受けたんです。周囲に同じ趣味を持つ友人が多く、兄が「Macintosh Color Classic(マッキントッシュ カラークラシック)」という、当時では珍しいコンピューターグラフィック(CG)ができるパソコンを所有していたこともあり、自分でもグラフィックデザインを始めてみようと思いました。

最初は、DJによる音楽イベントなどを開催するクラブのフライヤーやポスター制作から始めたのですが、まだCGを使ったデザインが少なかった時代で、新鮮さがあったのでしょう。私がデザインした制作物は、都内有名クラブの方々からとても重宝がられました。デザインを仕事にしたいと思ったのは、そんな原体験によるものかもしれません。その後インターネットが普及するにつれ、ホームページの制作にも興味が湧き、25歳で制作会社に就職しました。

どのようなお仕事をされたのですか?

その会社はイベント関連の業務を一貫して行っていたので、クリエイティブはチラシやリーフレットをはじめ、ホームページやプレゼン用の映像まで多岐にわたっていました。私がグラフィックデザインから映像までできるようになったのは、そこでさまざまな現場を経験できたからだと思います。どんなことにも興味を持ち、がむしゃらにチャレンジを繰り返す日々でしたね。

独立して会社を設立しようと考えたのはなぜでしょう。

仕事をしながら趣味の制作も続けており、あちこちから引き合いがあって、自分が面白いと思うことができる環境が整ってきました。自分たちでアイデアを提案してディレクションする仕事に魅力を感じていたことが一つのきっかけです。また、当時はアニメーションを駆使したWebコンテンツが作れる「Flash(フラッシユ)」という制作ツールの全盛期で、これを使って本格的な仕事につなげていきたいと考え、33歳のときにNONESUCHを設立しました。

事業は順調でしたか?

いいえ。最初は大きな仕事はありませんでした。転機が訪れたのは、知り合いがある広告代理店に移り、大手パソコンメーカーのカタログ制作の仕事を紹介してくださったときです。私が紙媒体からWeb、映像まで一手にできたことで、広告代理店やメーカーの方々からWebサイトの制作なども発注してもらえるようになり、徐々に大手のクライアントも増えはじめたんです。

常に120%の力で応え、求められたこと以上の成果を返す

大手企業の信頼を得るのは大変だったと思います。仕事をするうえで大切にしていることはありますか?

「来た仕事は断らない」ということでしょうか。それに加えて、案件に対して120%の力で返すことを心掛け、常にクオリティーはどこにも負けないように制作しています。ありがたいことに、クライアントから「最初は違う制作会社に頼んだけど、田宮さんだったらどういうものが出来上がるか見たかったのでお願いしたい」と、お声をいただくことも。

そう言われると、自然と「120%の力を出して挑まなければ」という気持ちになりますよね。だから必ず「こうしたらもっと面白いんじゃないか」という提案をするようにしています。

そのために作業ではどのようなことを心がけていますか?

まず、作るものに対してどんな要素が盛り込めるのか想像し、いったん頭に全部を詰め込みます。つまり、アイデアの足し算をしていくんですね。すると、全く関係ないようでも連動する要素が見えてくる。

例えば、和をテーマにしたものを制作するときに、世阿弥の著書や近代文学作家の小説などを読み返すこともあります。最終的にデザインには落とし込めなかったとしても、そこで得られた知識や考え方がエッセンスとして入っているだけで、制作物が少し変わってくるんです。足し算をするようにものを考えると、後で引き算がしやすくなります。反対に、後から要素を足していくのは、時間や労力の浪費につながることが多いですね。

あまりプラスアルファの部分を増やしすぎると予算の心配もしなければなりませんが、上手にやりくりしながらどうにか完成させたという案件も少なくありません。小さな積み重ねが、大きく面白い仕事につながることもあるのだと考えています。そのためには技術力だけでなく、アイデアも日々磨かなければいけませんし、人脈を広げることも大切です。アイデアの刺激を受けるためにも、周りの友達はすごく大切にしています。人と話すことは、それが仕事に直接関係ない分野や内容であっても、プラスになることが多いですよ。

その蓄積で、アイデアの引き出しが増えていくのですね。

同じ業種や会社のチーム内で話し合うことも重要ですが、音楽やファッションなど、全く異なる業種の人と話すと、思いがけない発想が得られて、アイデアが膨らむことも。話し相手からも「こういうのもいいよね」というアイデアが出てくると、もう最高ですよね。

言いたいことは50%しか伝わらないもの

御社は従業員5人の少数精鋭体制です。仕事の効率化のため、どういった取り組みをされていますか?

スタッフの数が多ければいい仕事ができるかというと、私はそうではないと思います。制作会社は一般的に、ディレクションやグラフィックデザインなどの業務を何人かで分担することが多いのですが、いくらコミュニケーションを密にしても、各自の考え方をきちんとチームに伝達するのは難しいでしょう。

私はいつも「人には自分の言いたいことが50%ほどしか伝わっていない」という前提で物事を考えています。つまりスタッフの数が多いと「本当に作りたいものの半分程度しか実現できていない」といったことが起きてくる。少人数であれば仕事がスムーズに回り、結果としてクオリティーも高めやすいので、時間を使ってでも「しっかりと伝える」ことを大切にしています。このやり方が必ずしも時代に合っているかは分かりませんが、あながち大きく外れてはいないと実感しています。

ちなみに、当社は残業がないんですよ。制作しながらデザインシミュレーションを行い、最終的に私がしっかりとクオリティーを高められる猶予をもって動いているため、スタッフの残業はゼロです。まあ、私の役割が多くなるということはあると思いますけどね(笑)。

すごいですね。他にも、スタッフに対する向き合い方を聞かせてください。

スタッフには、適材適所を心掛けながらも、少しずつ重要なポジションを与えていくように配慮しています。というのも、制作をしている人間はどうしても職人気質なためか、いきなりディレクションまでできるかというと、そううまくいかないことも。だからといって会社に閉じこもるのではなく、お客さまに会ってみるなど、スタッフにはどんどん外に出て経験を積んでほしいと考えています。

細部まで意識して制作できるクリエイターは優秀

今後、デジタルメディアはどう変わっていくとお考えですか?

すでにWeb自体に人工知能(AI)を実装したコンテンツやサービスが増え、サーバーやWebのアプリなどを使えば、コーディング不要で気軽にWebデザインができるようになってきました。今後は、デザイン力を生かしたインタラクティブな制作物が、ますます重要視されてくるでしょう。

Webメディアに関していえば、ビッグデータを活用したサービスの普及に伴い、ユーザーインターフェース(UI)の可能性は広がる一方です。5G通信が一般的になると、これまで以上に面白い動画コンテンツが増えるでしょう。クリエイターはそういった新しい情報や価値に対して常にアンテナを張り、少しでも時代の先に進めるように、準備しておく必要があると考えています。

クリエイターのあり方も時代に合わせて変わっていくということですね。田宮さんが考える優秀なクリエイターとはどのような人材ですか?

「細かいところまで考えているかどうか」で、クリエイティブに絶対的な差が出てきます。余白の取り方や文字組みの仕方などに「なぜそうデザインしたのか?」と聞かれたときに、説明できる人を見ると「なかなかやるな」と感じますね。デザインイメージだけでなく、仕事の進行設計まで詳細に考えられる人はデザインセンスもいいし、クリエイターとして優秀だと思います。

最後に、これからの時代を担うクリエイターにメッセージをお願いします。

何か一つのことに黙々と打ち込むことも大切ですが、自分が興味を持ったことや気になったことなど、あらゆる知識を貪欲に吸収してやろうという姿勢を持ってください。また、どんなことも怖がらずにやってみる、どんどん挑戦していくという積極性も重要です。常に120%の力で、お互い未来を切り開いていきましょう!

取材日:5月29日 ライター:小泉 真治 ※オンラインにて取材

有限会社 NONESUCH

  • 代表者名:田宮 秀次
  • 設立年月:2005年8月
  • 資本金:160万円
  • 事業内容:インターネットメディアデザイン制作、紙媒体デザイン制作、映像モーショングラフィック制作
  • 所在地:〒107-0062 東京都港区南青山5-4-35 たつむら青山マンション1106
  • 電話番号:03-5774-0260
  • URL:https://www.nonesuch.jp/
  • お問い合わせ先:tamiya@nonesuch.jp

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP