乗っ取り、プロジェクト失敗、スキャンダル―苦境を乗り越えて「田舎だからこそできる」事業を

青森
有限会社アイ・クリエイト 代表取締役
Noboru Kudo
工藤 騰

※映画『犬部!』は撮影及び協賛協力にて参画

青森県八戸市で、プロスポーツチームの試合会場における制作演出や、映画の宣伝事業を手掛ける有限会社アイ・クリエイト。代表である工藤 騰(くどう のぼる)さんは、さまざまな苦境を乗り越えて事業を築いてきました。現在の事業やそのバックグラウンド、クリエイターへのメッセージを伺いました。

「会社を乗っ取られた」のも「良い経験」

これまでのキャリアを教えてください。

東京で就職して数社を経験した後に、元の上司とバイク便の会社を起業し、経営していました。従業員150人ほどの企業で、アイ・クリエイト創業前の2004年までで10年ほどの実績がありました。しかし実はこの会社、一言で言うと「乗っ取られて」しまったんです。コンサルティングで参画していた企業が、経営者である私たちには何の相談もなく株式を他社に譲渡してしまい、私たちは経営権を失ってしまいました。20代で「会社を乗っ取られる」なんてことはなかなかないので、良い経験をさせてもらいましたね(笑)。
その当時、私は会社の求人広告などの広報活動を担当していて、デザインや写真撮影の技術を学んでいました。そこで、クリエイティブな部門を独立させた形でアイ・クリエイトを設立したのです。

起業しようという思いは元々お持ちでしたか?

幼い頃に亡くなった父も貿易会社を経営していたということもありましたし、自分で決定権を持って仕事をしたい性分なので、起業をしようとは考えていました。バイク便の会社はその第一弾でしたね。振り返ると、学生時代はサッカー一筋で良い成績を残すこともできましたが、まだプロになる道がない時代でした。いずれプロ化した際には“スポーツエンターテインメントに携わりたい”という思いを高校時代に漠然と持っていました。

バイク便のお客さまとのつながりで、エンターテインメント業界へ

東京ではどのような仕事を手掛けられたのですか?

バイク便の会社時代のお客さまは大手広告代理店や、クリエイティブな仕事をしている方々でした。テレビなどの主要メディアの制作現場でもバイク便はよく使われていて、われわれの会社も数えきれないほどの現場に携わりました。そんな中で仲良くしていただいていたのが、レースクイーンの業界では随一の芸能事務所の社長さんでした。
アイ・クリエイト設立時には、その会社からファンクラブの運営などをお任せいただきました。そうした前職でのつながりから、エンターテインメント業界でお仕事をさせていただくことになりました。芸能人がいるようなメディアの現場に立ち会うことも多く、そこから映像などの世界にも興味を持つようになりました。そうして、「グラビアアイドル」DVDなどの制作や、今も行っている映画の制作・宣伝事業を手掛けるようになりました。

苦境を乗り越え、故郷で事業を開始

八戸市に拠点をうつしたきっかけを教えてください。

2010年頃、独自の動画配信プラットフォームを作るプロジェクトを行っていたのですが、資金が枯渇してプロジェクトは失敗してしまいました。さらに所属タレントのスキャンダルが重なり、東京での仕事も潮目となっていました。
私は八戸市近郊の五戸町というところが地元なのですが、その頃に地元で1人暮らしをしている家族の病気が悪化してしまい様子を見に帰郷していたとき、東日本大震災が起こりました。そこで八戸に残ることを決め、「地方でもできる仕事を」と元々手掛けていた映画に関する事業を八戸市で始めました。過去には、青森リンゴとアニメのコラボレーション企画を手掛けるなど、地域活性化につながる事業も行っています。

現在の事業内容を教えてください。

「東北フリーブレイズ」という八戸市を拠点にしているアイスホッケーチームの映像制作や演出、広告制作を行っています。チームは「FLAT HACHINOHE(フラット ハチノヘ)」というアイスアリーナを拠点としていますが、このアリーナには全国でもまれな、場内を一周するLEDリボンビジョンがあります。当社では、会場を盛りあげるための演出用コンテンツを制作し、ビジョンに流しています。また、広告については新聞などの紙媒体がメインとなっています。
アイスホッケーのプレーシーズンは毎年9月から翌年の3月までとなっており、オフシーズンには映画の宣伝の案件を手掛けています。公式Webサイトを制作したり、宣伝広告などの運用を行っています。

また、ボランタリーな活動ではありますが、「八戸駅かいわいで盛り上がり隊」という団体で「八戸フェスティバル」という地域活性化イベントも開催しています。イベントではフリーブレイズとコラボレーションすることもあります。

特に印象深い仕事はありますか?

初めて映画制作に関わった作品『ブルックリン橋をわたって』という映画の仕事が印象深いものでした。私はキャスティングとスチール撮影を担当したのですが、映画ロケ地がニューヨークでした。俳優さんをホテルから地下鉄を使って現場までアテンドし、ブルックリンブリッジやダウンタウンのカフェで撮影など、とても刺激的な時間を過ごしたことを覚えています。

撮休の日に、タイムズスクエア、グラウンドゼロ、セントラルパークなどを巡ったのですが、マンハッタンの中心、五番街に行った時のことです。Appleのビルの向かい側に人だかりができてるのを発見し、近づいてみると撮影が行われていました。黄色いドレス衣装をまとった女優さんが歩いてるところを撮影してましたが、洋画をほとんど知らない私は誰かわかりませんでした。同行してた俳優さんが「はっ!あれミランダっ」と言って、女優さんに気付いたようでした。数年後、あの現場が『セックス・アンド・ザ・シティ』のオープニング撮影だとわかり、今ではあの出来事が、ハリウッド映画の規模感を想像できる、私の映画映像制作の羅針盤となっています。

「田舎だからこそできる」可能性

今後の展望を教えてください。

東京にいた経験が長いので、制作現場のノウハウを若い世代に伝えていきたいと思いを持っています。そして、新しいコンテンツに常に挑戦し、「田舎でもこういうことができる」「田舎だからこそこういうことができる」ということを見せて、子どもたちや若い世代に刺激を与えたいですね。現在考えているのは地方でのドラマ制作です。今はまだ実例はありませんが、配信プラットフォームに直接、企画を持ち込んでの制作は地方においても可能性があると感じています。
また、直接の事業ではありませんが、青森県内にデータセンターをつくることも目標に掲げています。青森は空路も陸路もアクセスが良いので、データセンター向きの立地だと感じています。データセンターができることで、シリコンバレーのようにICT人材が育つことで、地域が活性化すると考えています。

制作現場には「第三者に伝える力」が重要

どんな方と一緒に仕事をしたいですか?

ともに制作を行う上では、第三者に伝える能力が高い方と一緒に仕事をしたいと思います。映画のように50人以上のスタッフがいる現場では、香盤表(シーンごとの場所、内容、登場人物、小道具などを表にしたもの)やスケジュール表など、テキストで伝えることが多くなります。しかし、Web動画から始めたクリエイターさんの場合、1人で撮影から編集まで完結してしまうことがほとんどで、情報共有をする必要がないため、伝えるノウハウを持っていません。大きい案件になるほど、伝えるためのノウハウが必要となりますので、映画業界の経験者の方が良いと感じています。

クリエイターは米をつくれ!?その真意とは

最後に、クリエイターやクリエイターを目指す方にメッセージをお願いします。

AIの発達によって、われわれの仕事は奪われていくように感じますが、人の心を動かすのは最後には人の手を介したアナログな部分だと感じています。クリエイターには、自分で汗をかいてアナログな部分を極めてほしいです。そのために何をするかというと、自然の営みを見て本質を学ぶというのが一つの手です。例えば、田舎にいるのであれば、米を作ってみる。どのように山から水が来て稲を育み、どのようなプロセスを経て米として自分の口に入るのかを経験するということです。机の上の勉強ではない本物の経験は、説得力を生み、本質を捉えることにつながります。また、自分の「引き出し」を増やすことにもつながります。そうしたことが仕事の上でのコミュニケーション、第三者へ伝えるべきことや制作物にも生きると思います。

取材日:2025年5月16日 ライター:川村 忠寛

有限会社アイ・クリエイト

  • 代表者名:工藤 騰
  • 設立年月:2004年12月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:プロスポーツの演出コンテンツ企画・制作、映画の広報企画・制作、映画制作
  • 所在地:〒031-0042 青森県八戸市十三日町15 フラワーエイトビル3F 八戸ニューポート内 room-A
  • URL:https://icreate-co.jp
  • お問い合わせ先:kudou@icreate-co.jp
  • 電話番号:070-2014-0660

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