WEB・モバイル2023.11.01

フリーペーパーで「街に笑顔を」、つながり築き、今へ。デザインで顧客の“唯一無二”をつくる

岡山
アッパービレッジ有限会社 代表取締役
Yoshiko Murakami
ムラカミヨシコ

グラフィックデザインやHP制作、ブランディングなどを展開する岡山のアッパービレッジ有限会社。代表取締役のムラカミヨシコさんは建築系の学科を卒業後、大学職員から転身し、デザインの道を進みます。そのきっかけは「街を笑顔にしたい」という一心で始めたフリーペーパー作りでした。人脈やスキルや経験もなく、文字通りゼロからスタート。ムラカミさんは「好きだったからできた」と笑顔で語ります。ムラカミさんのこれまでの足跡とビジネス哲学をお伺いしました。

新天地の岡山でゼロからフリーペーパーを創刊。街の「面白い」を発信

アッパービレッジ設立までの経緯を教えてください。

元々、私は現在のようにネットやパソコンを使って仕事をするとか、ましてや会社を立ち上げるなんてまったく思っていなくて。大阪市立大学生活環境学科を卒業後、岡山の大学の住居デザイン学科の助手として就職しました。ボーナスで購入したWindows95がパソコンに触れたきっかけですね。
その頃、岡山に来たばかりで知り合いもなく、週末には1人でギャラリーやミニシアター、ライブハウスに通っていました。「岡山って小さい街だけど、意外とイベントがあって楽しいなあ」と思ったんです。だけど、地元の人に聞くと「岡山は何にもない」ってつまらなそうに言います。「そんなことないよ。岡山って面白いことたくさんあるよ」と発信したくて、フリーペーパーを創刊しました。

それまでに雑誌やフリーペーパーなどの編集経験がおありだったのでしょうか?

いえいえ、ノウハウもまったくないド素人だったので、すべて手探りです。はじめに試作品を作って飛び込み営業で1軒1軒回ってイベントスケジュールを送ってもらうお願いをして、スケジュールを掲載したフリーペーパーをお店に置いてもらう。当時のタウン誌は、イベントの告知が中心だったところを、イベントの報告を増やしたり、アーティストたちに寄稿をしてもらったり他にはない情報を載せました。後に広告を載せるようになりましたが、基本はボランティアでビジネスではありません。周りからは不思議がられましたが、習い事や趣味など、やりたいことや好きなことにお金をかけるのと同じ感覚だったので、まったく気になりませんでした。

フリーペーパー制作が奏功し、駆け出し好調。「人のつながり」に救われ

いきなりデザインで独立したわけではないようですね。独立までの期間は何をされていましたか?

いきなりデザイナーを名乗るにはまだ知識や技術も足りないと思いました。ちょうどその頃、岡山県立大学のデザイン学部に社会人修士課程が創設されて運良く合格したんですね。大学で助手として働きながら通おうと思っていたのですが、「両立はできませんよ」と大学に言われて、思い切って退職して、未来の可能性を選びました。
2年間通ってデザイン学の修士号を取得したので、再就職するよりも2002年4月Macとプリンタを買って、「私は今日からデザイナー」って決めたんですね。でも、今なら分かりますが、実務経験0、趣味でデザインを始めて、学校に2年間通っただけでは一般的には仕事の依頼は来ません。

となると、起業当時は仕事がなくて苦労されたのでしょうか?

それがおかげさまで、フリーペーパーを通じて知り合った方々へ起業の挨拶回りをしたところ、いろいろな人からオファーをいただけました。2カ月に1度のフリーペーパーの発行を8年間休まずに続けたことで、気がついたらどんどん人脈が広がっていて、それが私の財産になっていたんです。
連続で徹夜になるほど仕事が立て込んでしまっていたことから、知り合いのつてで専門学校の学生にアルバイトに来てもらいました。その学生がそのままうちに就職したいということで、法人化しました。「会社にしよう」「人を雇おう」などきちんとした計画があったわけじゃなく、その都度困ったことを相談して、人のつながりで助けてもらった感じですね。

自社サービスで岡山に「笑顔」を。社名に込めた想い

会社名の由来を教えてください。

ただ名字の村上をひっくり返して英語読みにしただけじゃありませんよ。デザインという言葉を入れなかったのは、仕事をデザインだけに狭めたくなかったからです。また、ア行の方が50音リストの上位に出てきますし、「ビレッジ」と「ヴィレッジ」のどちらがいいかも検討しました。
当時は「アッパービレッジ」という法人はネット検索で1件も出ませんでした。唯一出てきたのはカナダのウィスラーにあるスキーリゾート地の地名です。新婚旅行がウィスラーだったので縁を感じました。人が集まるコミュニティのイメージがあって未来志向のところも気に入っています。

アッパービレッジの会社の理念を教えてください。

「街に笑顔」ですね。 私たちがデザインや専門性を提供することで、その先の人にいい情報・商品・サービスが届く。そこから課題解決や願望達成された人が増えたら、自然と笑顔が広がっていきますよね。その気持ちはフリーペーパーを作っていた頃から変わっていません。

会社の強みが生きるデザインをクライアントに提供。ランチェスター戦略が鍵

ランチェスター戦略に根ざしたデザイン作りをされていますが、導入の経緯や考え方を教えてください。

ランチェスター戦略を勉強し始めたのは、当初は自分の会社のためでした。「もっと安定した経営をしたい」と思っていたところ、所属していた経営者の会で、ランチェスター戦略で業績を良くした社長が講義してくれました。そこではじめて「経営ってやり方があるんだ」と知りました。小さな会社はリソースが少ないですから、大手と同じ土俵にのらないように独自の強みや得意分野を作ってNo.1かオンリーワンになるしかない。集客できるパンフレットやホームページを作るには、クライアントと同業他社との差異を明確にしなければなりません。デザインにもランチェスター戦略が不可欠だと気がついたんです。
デザイナーが直接お客さまにヒアリングするところが1番の特徴ですね。直接やりとりできて要望の本質を掴めるので、クライアントのイメージ通りのデザインに仕上がり、手直しも少なくてすみます。
デザイナーがマルチタスクで見積書や請求書も作成します。自分の仕事の値段や売上が分かりますから、自分たちの給料は自分たちで作る意識が浸透しています。利益は社員さんに還元すると決めているため、頑張れば頑張るほど、社員もお金という形で還元される仕組みです。
もちろんデザイナー自身にランチェスター戦略が頭に入っていなければいけませんから、教育に時間もコストも計画的にかけています。導入して8年になりますが、アドバンテージが出てどこにも真似できない体制になりました。逆に視察の申込みが来るようになりました。

原点回帰の情報発信で強みを磨き、顧客事業にも応用。「いい人材が集まる理由」とは

アッパービレッジの未来の展望について教えてください。

働きやすい会社を目指しています。その理由はいい人材に来てほしいし、いい人材はずっと働いてもらいたいから。うちのスタッフは基本的に女性ばかりです。新卒採用した正社員が結婚して、広島に移住しましたがテレワークで続けてくれています。先月産休に入りましたが、産休中も社労士さんに仕組みを作ってもらい、正社員に復帰する計画も立てています。ライフサイクルの中で、結婚や出産しても、パートナーが転勤しても、働き続けられる仕組みを今作っている最中です。
デザイナー、ディレクター、プロジェクトマネージャーとかけ登って、その先はコンサルというキャリアプランを作ったのも、会社の成長と個人の成長を合わせて、お互いが成長する関係性を築くことが目的です。それがローカルで小さな会社でもいい人材が集まる理由です。

SDGsの取り組みについて教えてください

2023年4月1日にSDGsの動画コンテンツ配信事業「RITTA(リッタ) https://ritta-monster.jp/」を始めました。自社商品やサービスがあると、社内の働きやすさにもつながっていくと考えています。クライアントワークはお客様のスケジュールに合わせるのが基本ですが、社内サービスは自分たちで調整できるメリットがあります。
創業のきっかけになったフリーペーパーもオウンドメディアでしたので、原点に立ち返る意味もあります。さらに得られるノウハウはそのままお客さまの役に立ちます。「RITTA」事業を通じてAIに対抗できるマーケティング力やコンサル力、ディレクション力を磨いていきたいですね。

若きクリエイターが強みを打ち出すために必要な行動とは。「相手に思いを馳せて」

強みを打ち出したくても、実績のないクリエイターが強みだけに絞り込むと、仕事がなくなりそうで怖いと思います。どうすればいいでしょうか?

まず小さく試すことです。試す前に既存のお客さまに話を聞きます。いきなり絞るのはやはり怖いものです。ですから「なんで自分を選んでくれたのか」「なんでうちに頼むのか」クライアントから見た自分の特徴を聞きだすと、自分の立ち位置が冷静に見えてきます。

地方で働きたいクリエイターにアドバイスをお願いします。

この業界は好きだからやっている人が多いと思います。まさに「好きこそものの上手なれ」なので、それを仕事にできるのは幸せだというのが大前提。その好きが「誰の役に立てるか」を相手目線で考えてみると、自分を生かす道が見つけられると思います。好きを続けていくために、時々相手に思いを馳せてみればいいんじゃないでしょうか?

取材日:2023年9月10日 ライター:みなもと ひとし

アッパービレッジ有限会社

  • 代表者名:ムラカミヨシコ
  • 設立年月:2004年
  • 資本金:3,000,000円
  • 事業内容:
    【クリエイティブサポート事業】
    ブランディング
    企画・デザイン制作・コンテンツ制作
    (ホームページ、チラシ、パンフレット、コンセプトブック、ロゴ、広報誌 等)
    インナーブランディング
    (新卒採用ブランディングホームページ制作 サービス詳細:https://www.upper-village.com/recruit-site/
    【研修事業】
    ランチェスター戦略勉強会
  • 所在地:〒700-0903 岡山県岡山市北区幸町7番8号
  • URL:https://www.upper-village.com/
  • お問い合わせ先:086-221-8448

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