プロダクト2023.02.08

エンジニアがふるさとの森を再生?地域木材の物語に配慮した製品づくり

新潟
ストーリオ株式会社 代表取締役
Kazuhisa Kimura
木村 和久
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しなやかに湾曲するランプ、丸みを帯び柔らかな表情を見せる万年筆ケース。実は全て木材で作られており、元エンジニアの木村 和久(きむら かずひさ)さんによる、世界初の技術がこれらを生み出しています。家電メーカーにエンジニアとして、日本トップレベルのデザイナーたちと仕事をする中で、デザインの意味、可能性を学んだという木村さん。「これからは、新しい価値の創造が必要になる」とストーリオ株式会社を立ち上げ、生まれ育った新潟県小千谷市でオーダーメイドDIY木材キットの販売を始めました。より独自性のあるもの、地域の魅力を伝えられないかと奮闘し続けている木村さんに、ストーリオ誕生の経緯とこれからについて、お伺いしました。

日本トップレベルのデザイナーから教わった、機能美と実用性の融合

これまでの経歴を教えてください。

高校まで小千谷市で過ごし、1982年、神奈川大学工学機械工学科に進学します。その後、世の中を見て、自分の立ち位置を確認したい、決定したいと思い、世界に通用する職を探しました。そういった条件のもと、ある家電メーカーに就職し、デザイン、商品開発、生産技術に携わりました。

希望されていた海外へはいつごろ行くことになったのですか?

設計職として入社し、3年目です。オランダに3年間行かせていただき、エンジニアとしてさまざまな経験を積ませていただきました。その後、帰国し、再び設計職として日本で経験を積みました。

前職の仕事の中で最も印象的だった出来事を教えてください。

私が担当した最も大きなクライアントがソニー株式会社でした。デザイナーさんと直接話をしながら、彼らの希望や要望を設計に落とし込んでいきます。その過程で「ここのサイズはこの大きさに収めないと全体のバランスが崩れる」「このサイズにこだわるのは、この角度から見た時、ここのアールのラインがきれいに見えるから」と、デザイナーさんが感覚的ではなく、きちんと理由を説明してくれました。デザインの素人の私でも非常に理解しやすく、デザインのポイントも分かりました。この経験は現職に生かされていると思います。

当時デザインされた製品は今もお持ちですか?

ありますよ。これはMD(ミニディスク)というデジタルオーディオメディアです。それの持ち運び可能な再生ユニットのデザインをしました。このスピーカー部分のパンチメタルの穴のピッチもデザイナーのこだわりでした。
本来であれば、もっと大きな穴が普通なのですが、見ていただいているもののように小さくすることで、離れて聞いた時に音が抜けて入ってくるように見えるでしょ?と説明されました。大きな穴だと方々に溢れる感じで、小さいとスッと真っ直ぐに飛んでくる感じだと。なるほどね、と自分の中で腑におち、いかに要望に添えるか、苦労しながら製品に落とし込んだ記憶がありますね。

時代の先読みが功を奏した!「一品一様生産」への素早い対応

独立はいつ頃から頭の中にあったのですか?

きっかけは90年代後半、ソニーに出向していた時でした。今年お亡くなりになった出井伸之会長が当時社長だった頃、「デジタルドリームキッズ」というキャッチフレーズが生まれました。「新しい技術の方向性に夢を持って進んでいこう」ということと「デジタル時代に育ったユーザーがわくわくするような製品やサービスを発信していこう」という、当時の方針です。
これを聞き、「ハードだけを作っていてもダメ。インターネットを使った新しいプラットホームを作る必要がある」と当時の私は考えました。そこで、会社の部長に新規事業部計画を提案するも、衝突してしまいまして……。結果、自らの構想を自分の手で実現するため、会社を退職し、99年にストーリオの前身「日曜大工応援隊!」のテスト販売を始めました。
その後、公益財団法人にいがた産業創造機構の「2004 にいがた・ニュー・エジソン育成事業」に選ばれたのを機に、より充実したサービスと、接客から設計・生産・出荷まで一貫した最強の専用システムを構築するために、04年からストーリオとしての歩みを始めました。

前身「日曜大工応援隊!」について教えてください。

オーダーメイドのDIY木材キット販売です。お客さまの自宅の壁面に合わせた複雑な棚などを設計し、それに合わせて木材もカットします。それらをお客さまに届けて、あとは現地で組み上げていただくという、現在も行なっている弊社の基盤となるサービスの一つです。
私が家電メーカーに勤めていた時、時代は大量生産から少量多品種へ生産スタイルが変わっていきました。その先、どういった生産のスタイルになるのか?と考えて行き着いたのが、「一品一様生産」。この家電メーカー時代に経験、考えたものを独立する際に落とし込んだ結果、オーダーメイドのDIY木材キットのインターネット販売に行きつきました。

インターネットというショーウインドーでDIY木材キットを販売するというのは、当時にしては斬新なサービスですね。

はい。住んでいる場所は関係なく、やり取りできますし、図面だけではなく、3Dのビジュアルもお見せできます。非常に好評をいただきました。
しかし、よかったからこそ、コピーされるのも早かったです。うちとまったく同じようなホームページが立ち上がったり、大きな企業が新規事業としてスタートさせたり……。当時から弊社は独自の木工技術を持っていたので、製品には自信がありましたが、なかなか大変でしたね。

社名は自分への戒め!?「お客さまのストーリーを大事にしよう」

社名「ストーリオ」の由来を教えてください。

前身の「日曜大工応援隊!」で、ネクタイ収納のDIY木材キットのご依頼をいただきました。旦那さまのネクタイをくるくると丸めて収納できる棚をクリスマスプレゼントで贈りたいという奥様からのご要望でした。
お届けから数日後、旦那さまが思いの外、喜んでくれ、毎朝ネクタイを選んで出社していく姿を見て、惚れ直したという手紙をいただきました。これをいただいた時に、プロダクトの先にあるお客さまのストーリーを大事にしようと心に決めました。
理系でプロダクト中心に考えてしまう私に対する戒め的な意味合いも含めて、「ストーリーを大事にしよう」の頭の方の文字を取り、社名とした次第です。そこから、ウッドデザインカンパニーとして、幅を広げていきたいと同時に思うようになりました。

幅を広げるために、具体的にどのようなことを始めましたか?

木材をもっと身近にするために、現代生活の中で身の回りのものを木製にできないかと考えました。90年代後半から2000年代前半まで、日本ではミッドセンチュリーブームが起こりました。おしゃれ家具が人気を集める中、特徴的な木製の家具を生活に取り入れる人も多くいました。しかし、ペンケースやメガネケース、名刺入れなど普段使うものに木製のものはほとんどない。それであれば、作ればいい。そのような発想が最初でした。

御社が全国のトップランナーである、木材の小口曲げ技術はそこに関係してくるのですね?

そうです。身の回りのものは小型であるがゆえ、木の曲げも小さくなります。ですが、当時この技術はありませんでした。ちょうどそのころ新潟県工業技術総合研究所の技術者から、新しい曲げ木技術の可能性を聞き、これに成功すれば新しい産業を生み出せる可能性があることを知り、14年から本格的にこの部門に力を入れることになりました。もともとエンジニアだった私が始めたのは、安定した曲げを可能にする機械の開発・制作でした。

そこで家電メーカー時代に培った経験が生かされるわけですね?

はい。同時に日本トップレベルのデザイナーさんたちから教えていただいたデザインに関しても頭に入っていたため、両方の面から使いやすい機械の開発を行えました。機械が完成したのは、16年のことです。

「100年後の美しい森を人々、地元につないでいきたい」。林家と手を組んだ

現在、御社では、新潟県魚沼市大白川の森から得られる木材を製品に使用されています。その理由を教えてください。

100年後の美しい森を地元につないでいきたいという思いからです。里山の木を用い、製品を作るほどに森が健康で美しくなる仕組みを地元林業家と協業しました。

最初から、大白川産の木材を使用していたのですか?

いえ、違います。最初は海外から輸入した木材、メイプルの材を使用していました。しかし、木の質が安定しないため、製品も安定して質の高いものを提供できない。そんなジレンマを感じ、「新潟で太くて大きなメイプルの木が生えていれば、自分で確かめに行けるし、生産性も上がるかもしれない」と考えました。
そんな時、糸魚川の山にめぼしい森があると分かりました。山の持ち主に交渉したところ、昔は木炭として需要のあったものの石油に取って代わられてからは需要がなくなり、木は伸び放題だったようで、「このままでは森を崩してしまうところだった」と逆にお礼を言われました。
そこで、私たちが行う産業が林業とつながることができるのではないかと可能性を感じたわけです。それから後に、小千谷市の隣、魚沼市にも同様の場所があると知り、地元に貢献する意味合いも含めて、大白川産の木材を使用するようになりました。

現在もメイプル材のみですか?

いえ、ブナ材も使用しています。森を調べた結果、ブナの木の方が多くあり、こちらを使用した方が森のため、地域のためでもあると考え、ブナ材を使う製品を増やしています。

刺激がほしい!成長し合いたい!求むのは、自分の作りたいものがある人

今後、どのような展開を考えていますか?

地域の材料を使ったシリーズを木材に限らず、作っていきたいですね。これを行うことで、小千谷市というこの地域をブランド化していきたいと思っています。地元企業とジャンルを超えたコラボレーションももっと活発に、精力的に行なっていきながら、この土地から発信することの意味、面白さというのをもっと追求したいですね。

ストーリオの目指す今後に必要なクリエーター像を教えてください。

私たちの技術をどう生かすかという考え方ではなく、自分が作りたい商品の構想を持っている方がいいですね。僕たちが考えてもみなかった視点があると刺激も受けますし、一緒に実現してみたいというふうに考えます。「その商品を作るなら、材はあそこにある。あの企業と一緒に開発できるかもしれない」などと、地元に還元できる方法をともに考えながら、成長し合えるようなクリエーターの方、まずはぜひ小千谷にいらしてみてください。

取材日:2022年12月14日 ライター:コジマタケヒロ

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

 

ストーリオ株式会社

  • 代表者名:木村 和久
  • 設立年月:2004年8月
  • 資本金:2,225万円
  • 事業内容:木製品の企画、製造、販売
  • 所在地:〒947-0021 新潟県小千谷市本町1-3-1
  • URL:http://www.storio.co.jp
  • お問い合わせ先:0258-81-0006
  • Mail:

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