グラフィック2022.12.14

創作活動をビジネスにするには?イラスト雑貨販売を軌道に乗せた「バランス感覚」

京都
合同会社ネキニ 表取締役
Hidenobu Imai
今井 英展

クリエイティブを志す人なら皆ぶつかるのが、「創作活動をどうやってビジネスにするか?」という課題。企業に所属するのはひとつの方法ですが、フリーランスのクリエイター活動となると、自分が作ったもので稼ぐ方法こそが、一番の悩みどころでしょう。この悩みに向き合い、販路を拡大してきたのが京都市の合同会社ネキニの代表取締役、今井 英展(いまいひでのぶ)さん。妻であり、イラストレーターの今井 有美(いまいゆみ)さんのイラストを使ったオリジナル商品を制作し、販売しています。数多くのグッズを取り扱い、市内で販売の実店舗もオープンさせた今井さんに、「創作活動をビジネスで成功させる」コツを伺いました。

水彩画イラストのオリジナルブランド「ポンチセ」。 「流行に左右されない仕事を持ちたい」妻のグッズ制作からスタート

御社の事業内容を教えてください。

ネキニが手がけるのは、自社ブランド「ポンチセ」の商品の販売です。ポンチセは、イラストレーターとして活動する妻が立ち上げたブランドで、水彩画イラストをプリントしたカードやレターセット、カレンダーなどのオリジナル商品を企画・制作しています。
ポンチセの販路の中心は、インターネットです。自社サイトのほか、minne(ミンネ)やCreema(クリーマ)といった作家の販売サイトであるハンドメイドマーケットプレイスにも出店しています。また、比率は小さいですが、手作り市などのイベントや、雑貨屋さんへの卸し、自社店舗での販売も行っています。

奥様はずっとイラストのお仕事を?

妻は美大を卒業し、一時は企業で働いていましたが、2002年にフリーランスのイラストレーターに転向しました。書籍の装丁や企業の広告イラストなど、引き合いは多くあったものの、デザインには流行りがつきもの。流行に左右されて仕事が増えたり減ったりすることに、常に不安を抱えていたようです。
そこで、自分自身の力で売り上げを立てるため、また、イラストを広めて新しい仕事を開拓するため、イラストを使ったグッズの制作を始めました。そこで生まれたのが、オリジナルの雑貨ブランド「ポンチセ」です。

今井さんも、ポンチセ立ち上げ当時から事業に関わっていらっしゃったのですか?

いえ、ポンチセの商品制作や販売は、妻がひとりで行っていました。私は、ただ横で見ていただけで。正直言うと、事業化できるほど売れるとはまったく思っていなかったんです(笑)。私は当時、ECサイトやWebサイト制作のディレクターをしながら、自身で海外からカメラなどを仕入れて販売する個人事業を手がけていました。

「手づくりブーム」で販売が軌道に乗り、合同会社ネキニを立ち上げ

ポンチセの商品の販売スタートは、今から10年前、2012年のことだったそうですね。

はい。最初の商品は、イラストが印刷された名刺サイズのミニカードでした。これは、今でもポンチセの看板商品です。作家向けの販売サイトで販売を始めましたが、最初のうちは、日に注文が1〜2件くらい。それでも、焦らず、とにかく継続を目指しました。そうして、1年、2年と続けているうち、だんだんとファンの方が増えていき……世間の「手作りブーム」の流れに乗ったこともあり、3年目には、妻ひとりでは発送作業が追い付かないくらいまで注文が増えました。そこで、だんだんと私が商品の発送や経理を手伝うようになっていったんです。

会社を作ったのは、どのような経緯で?

会社を設立したのは、ポンチセ立ち上げから5年ほどが経った頃です。売上額が大きくなってきて、法人化したほうが税制のメリットがある、と判断したためです。私が行っていた個人事業と、妻のポンチセの販売事業を統合する形で、ネキニを立ち上げました。
「ネキニ」という社名は、私がつけました。「ねき」というのは、関西の方言で「近く」という意味なんです。「近くにおいで」なら「ねきにおいで」みたいな。お客様や関わってくれる皆さんにとって、近い存在でありたい、そんな想いを込めて名づけました。

実店舗を持つことで、インターネットの販売額がアップ

ポンチセは、実店舗での販売もしているそうですね。

はい。2020年、京都・北山駅の近くに実店舗をオープンしました。といっても、実店舗を持つことへのこだわりがあったわけではありません。販売のほとんどを占めているのは、インターネットでしたから。北山の店舗を持ったのは、発送作業などを行うバックオフィスが必要だったのと、税制のうえで有利になるから、という事情があったからです。
しかし、想像以上に、「実店舗がある」というメリットは大きく出ました。実店舗ができたことで、インターネット販売の売り上げに、大きな変化が出たんです。

それはどのような?

実店舗がなかった頃は、初めてのお客様は、金額の小さいものを少量買われることがほとんどでした。商品が良いかどうか、ちゃんと送られてくるかどうか、まずは試してみよう、という意図でしょう。手作り作家市場は、個人で出展している方が多いため、商品のクオリティや顧客対応に問題があることも少なからずあるためです。
それが、実店舗ができてからは、初めてでもまとまった額を買っていただけることが増えました。初回の購入額の平均が、明らかに上がったんです。「実店舗を出すくらいまで安定した売り上げがある」「何かあった時はお店に行ける」という安心感で、信頼していただきやすくなったのだと思います。実店舗があることで、インターネット販売の単価がアップする。これは、思っていた以上の収穫でした。

そのほかにも、売り上げにつながったコツは何かありますか?

多少無理をしてでも、商品のラインナップを増やしたことです。作り手側からすると、同じ商品を作っていたほうが原価を抑えられますし、在庫を抱えるリスクも少なくて済みます。しかし、お客さまの視点に立ってみると、たくさんの商品から好きなものを選ぶほうが、ワクワクしませんか?「どれにしよう」と迷う時間も、買い物の楽しさですから。
制作コストはしっかりと管理しつつも、妻には「新しいデザインをどんどん作ってほしい」と伝えていました。カードのイラストの種類を増やしたり、カレンダーやハンカチ、レターセットなど、グッズの幅を広げたり……商品のバリエーションの多さから、何度もリピートしてくれるお客様が増え、継続した売り上げを上げられるようになりました。

創作という「アクセル」と、コスト管理という「ブレーキ」を使い分ける

ポンチセのように、創作活動をビジネスとして成り立たせるカギは何でしょうか?

「こだわり」と「コスト」。相反するふたつの感覚を両立させることが、作家活動をビジネスとして続けていくための、重要なポイントなのだと考えています。作家活動から入ると、どうしてもコスト意識が薄くなってしまう。いいものを作ろうとするあまり原価が高くなり、売れても利益にならない、というのはよく聞く話です。だからといって、最初からコストを気にして作った作品は、小さくまとまりすぎて、作家さんの個性が失われてしまう。両者のバランスを取るのは、本当に難しいことです。
私たちの場合は、妻が創作活動に専念し、私がコスト管理を一手に担っています。いわば、妻がアクセルで、私がブレーキ。ふたりでそれぞれの役割を受け持つことで、バランスをとっているんです。

実際にこれまで、「ブレーキ」をかけた商品はありますか?

たくさんありますよ。例えば、壁をデコレーションするアイテムとして人気が高い「ウォールステッカー」。ニーズはあるはずだし、イラストとの相性もいい。だったら「作ってみよう」となるでしょう。でも、私はブレーキをかけました。ウォールステッカーは、最小ロットが大きく、制作の初期にかかるコストが大きい。もし売れなかったら、在庫を抱えたまま大赤字になってしまうでしょう。だから、作るのは資金に余裕がある時であって、今じゃない、と判断しました。

「自分に足りないもの」補てんし、ビジネスをコントロール 

なるほど。デザインではなく、コストの面から考えるのですね。

逆に、デザインはすべて妻に任せていますから、私がとやかく口出しすることはありません。そこは自由に、好きにやってほしい。私が見るのは、あくまで、数字の面だけです。

お互いを信頼して任せ合える、ベストパートナーですね。

創作活動をビジネスにしようと思ったら、まずは、自分の性格を知ることが重要です。その上で、自分に足りないものを持っている人や、自分とは違う性格の人に、アドバイスをもらうといいでしょう。良いビジネスパートナーが見つかれば何よりですが、ひとりであっても「自分に足りないもの」に自覚的になり、意識してコントロールしていく。それが、うまくバランスをとるコツなのではないでしょうか。

「消費」ではなく「生産」できる創作活動に。「石の上にも3年」が大切 

 

創作活動をビジネスにすることには、どんな意味があるとお考えですか?

経験を通して思うのは、ビジネスでない創作活動は「消費」に近いのではないか、ということです。作ったものを誰かに褒めてもらい、ただ満足して終わる。これは、生み出す行為ではなく、消費する行為なのではないか、と。ビジネスとしてちゃんと利益を出せたら、そのお金で次の商品や作品を生み出せるでしょう。これは、「生産」です。自分の力で、消費活動ではなく、生産活動をしていく。それが、創作をビジネスにする意味だと思っています。

今後、取り組んでいきたいことはありますか?

今は妻のイラストだけを扱っていますが、今後は、別の作家さんのラインも増やしていけたら、と思っています。事業の継続性を考えると、商品開発の幅を広げて安定させていくことが必要です。良い作家さんと出会い、その方の商品を作っていくことを、会社の中期的な目標にしています。

作家活動を目指すクリエイターに対してのアドバイスはありますか?

初めは皆、売り上げが1円もないところから始まります。その時期をいかに耐え、ファンを増やしていくかが大切です。始めたことを、まずは3日続けてみる。その次は、3ヶ月頑張ってみる。そして、3年耐えてみる。しんどい時期は確かにありますが、耐えていかないと積み上がらないものもあります。ポンチセも、3年目でやっと事業として成り立つようになりました。「石の上にも3年」という言葉があります。好きなことを仕事にできるよう、苦しくても、できる限り頑張って続けてみてほしいと思います。

取材日:2022年11月7日 ライター:土谷 真咲

合同会社 ネキニ

  • 代表者名:今井 英展
  • 設立年月:2017年11月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:
    1.イラストレーション、コンピューターグラフィックス、商号デザインの企画、制作及び販売
    2.日用雑貨品、服飾雑貨品、キャラクター商品の企画、デザイン、製造及び販売
    3.インターネットを利用した通信販売及びその代行
    4.インターネットを利用した情報提供サービス及びそれに関するコンサルティン グ
  • 所在地:〒603-8052京都府京都市北区上賀茂松本町38-1 北山ランドアート2F
  • URL:http://nekini.co.jp/
  • お問い合わせ:http://nekini.co.jp/inquirey/

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