「ジョジョ」の名セリフから読み解く昭和後期のテレビ界隈
団塊ジュニアのバイブル
『週刊少年ジャンプ』そして『ジョジョの奇妙な冒険』
先月の記事「ゴールデンカムイの謎21 ニヘイゴハン」を書いていた折、ふと思い出し添えたネタ
血は栄養素の塊である
石仮面かぶって人間やめてなくても食べたい
団塊ジュニアの年代ならば思わすハッとして、続いてニヤリとほほ笑むネタであろう。
団塊ジュニアが小学から中学へ指しかかる年代といえば昭和の60年代。
高度経済成長の成功で敗戦国・日本は経済大国・ニッポンへと脱皮し、平成初期のバブル絶頂へと至る時代。まさに夢溢れる時代。小学校高学年から中学にかけての団塊ジュニアには、ナショナルのキャッチフレーズの如く明るい未来が約束されている?はずの時代。
そしてネットも無い時代ゆえ、紙媒体が、少年漫画雑誌が大盛況の時代。団塊ジュニアの母数の多さも相まって少年ジャンプの黄金時代であった。
さて、そんな昭和末期に連載されていたマンガと言えば「ドラゴンボール」、「北斗の拳」そして「ジョジョの奇妙な冒険」。
昭和61年の12月より連載開始されたジョジョはまさに奇妙だった。
「ドッギャーン!」の効果音にて幕を開ければ、石の祭壇に横たえられる美女
奇妙な石仮面に生贄の返り血が振り撒かれれば側面から骨針が飛び出し、後頭部を刺し貫かれる族長。
彼は死なない。奇怪な仮面から伸びる骨針から後頭部を刺し貫かれているのに…
族長は叫ぶ
「我はついに手に入れたぞ、永遠の生命を!」
オサ!オサ!と歓喜する群衆。
舞台は代わって19世紀末期の英国。
英国貴族、ジョージ・ジョースターⅠ世。彼は妻・メアリー、生まれたばかりの長男・ジョナサンを伴った旅行のおり、古物商店で「アステカで発掘された石仮面」に惹かれて買い求めた。だが、その帰りに馬車の転落事故に遭遇、メアリーはジョナサンを庇って落命、ジョージは意識を失う。
そこへ通りかかった飲んだくれのコソ泥、ダリオ・ブランドー、さっそく事故場泥棒を企むが、偶然に意識を回復したジョージに「命の恩人」と勘違いされてしまう。
時は12年ほど流れてロンドンの下町。
ジョージ・ジョースターからの多額の礼金で酒場を始めたダリオだがほどなく店をつぶし、妻は苦労の末に死に、今や自身も病に侵された。ダリオには親に似もつかない美形の一人息子・ディオがいた(本当にダリオの子なのかな?)。自らの命が長くないと悟ったダリオはジョースター家に手紙を送り、遺されるディオの後事を託すのだった。
一方、ジョージ・ジョースター卿の一人息子・ジョナサン、通称ジョジョも12歳。養子に来たディオを友好的に迎えるものの、ディオは実子であるはずのジョナサンを徹底的にイジメて追い詰める。友人を取り上げ、初恋の人のファーストキスを奪い(直後に泥水で口を洗われたが)、挙句はボクシングで卑怯な反則技。この辺りの描写は辛かった。昭和62年に移り2月から3月、4月に至るまでジョナサンいじめの羅列。スクールカースト低かった読者は自身の身の上と引き比べてつらかったろう。そんなストーリー展開が災いしてか、どんどん読者が離れ人気が落ちた、という噂もあながち嘘ではなかろうに。
繰り返される嫌がらせにたまりかねたジョナサンはついに暴発してディオを殴り倒した。ディオの血がパッと飛んで、ジョースター邸の廊下に飾られた例の石仮面に降りかかる。石仮面は血を吸い取って…作動し側面から骨針を突出させた。その意外な変容を、ジョナサンは見ていた。軽蔑していたはずのジョナサンに殴られたショックで泣きわめくディオも、やはり見ていた。
時はまた流れてジョナサン20歳。
どこをどう鍛えたのか、身長195㎝体重105㎞のマッチョになっている。北斗の拳にスタローン、シュワルツェネッガーが流行った80年代後半的な流れだ。何故かディオとも表面上は仲直りして、大学ではフットボールの名コンビとして周囲の称賛と羨望を集めている。
だがあくまで友情は表面的なもの。ジョナサンはディオに友情を感じていない。ディオは密かに養父・ジョースター卿に毒を盛り、ジョースター家の財産横領を企んでいた。
そして、バレた。
進退窮まったディオは、例の「石仮面」での完全犯罪をもくろむ。原理こそ不明だが、石仮面に血を振りかければ骨針が側面から飛び出す。仮に被った状態で血を注いだならば、飛び出す骨針は要領よく頭蓋を貫くだろう。当然、被った当人は絶命してしまうだろう。ジョナサンは考古学者として、あの石仮面を研究している。自分の指にあえて傷をつけて滲ませた血を振りかけてまで、骨針が飛び出す原理を丹念に探っている。だから仮にジョナサンに石仮面を被せて作動させたなら、彼は骨針に脳を刺し貫かれて絶命してしまうだろう。ジョナサンが石仮面を研究していることは、周囲の誰もが知っている。皆は「研究中の単純な事故」と見なして処理してしまい、俺に疑いは及ばないだろう…ジョジョ、君の研究で君が死ぬんだ!
ディオは石仮面の効果を確かめるべく、ロンドンの貧民窟で老いた浮浪者にかぶせてみた。令和の今ではポリコレに引っ掛かりとても少年誌になど載せられない方法で。
そして知ってしまった。石仮面は単なる拷問処刑用具ではない、人間の脳を刺激させるシステムであることを。脳を刺激された人間は若者であれば永遠に若いまま、老人であれば20歳前後に若返ることを。そして良心を失い邪念に支配された、怪力の吸血鬼に変貌することを。その吸血鬼の唯一の弱点は、太陽の光であることを。
頭脳明晰なディオは、それらをすべて学習してしまった…
実の父親(ダリオ)殺し、養父(ジョースター卿)殺人未遂、ジョースター家の財産横領未遂…ディオを逮捕すべく英国警察がジョースター邸に集結する。包囲網が狭まる中、ディオは石仮面を取り出して叫ぶ
「おれは人間をやめるぞ! ジョジョー‼」
以降、石仮面を作動させて不死身の吸血鬼となったディオ、DIOとジョースター一族の戦いが数代に渡り持ち越される『ジョジョの奇妙な冒険』。
前記のように昭和61年、1986年暮に連載が始まった当作品は昭和から平成を通り越して連載期間37年間、この令和5年にはウルトラジャンプ3月号にて「ジョジョ第9部」の連載開始。
作者・荒木飛呂彦氏は(公式には)昭和35年生まれの62歳、だが容貌は30代でも通るルックスもイケメン、「石仮面かぶった不老不死の吸血鬼じゃないか?」「究極生物じゃないか」とのうわさは尽きることが無い。
昭和後期のテレビからうかがう
ジョジョの名セリフ
さて…
ここからようやく今回の記事の本題。
ディオが人間として、最期に発したセリフ
「おれは人間をやめるぞ!ジョジョーッ‼」
この台詞を昭和62年初夏連載時にリアルタイムで見聞きした団塊ジュニア、そしてより上の年代は多少の懐かしさを覚えたであろう。
この元ネタ、とも思われるCMが存在していたのだ。
当時より数年前の昭和50年代末期、
公共広告機構において、以下のキャンペーンが流されていた
「覚せい剤やめますか それとも人間やめますか」
その数年前に放映された「もったいないおばけ」と共に、団塊ジュニア世代の心身を寒からしめたことであろう。
一方、石仮面で人間をやめたディオ
不老不死の吸血鬼となったディオは並みいる警官らの「生命」を無造作に吸い取り搾り取る。搾り取られた残渣はゾンビとなる。
自分の研究から、こんな化け物が生み出されてしまった…
責任を感じたジョナサンは化け物どもを殲滅させるべく屋敷に火を放ち、ディオを滅ぼした?戦いの中で重傷を負う。ディオにファーストキスを奪われた初恋の人・エリナと再会して介抱される中、謎の健康法を操る派手なシルクハットの御仁・ツェペリ男爵に見いだされ、彼から吸血鬼を完全消滅せしめる技「波紋」を伝授される。だがディオは実は生きていた。メタタァと潰れる蛙よ哀れ。
一方、こちらはロンドンを離れた寒村・ウインドナイツ・ロット。老婆ふたり連れが丘の斜面に連れ立って日向ぼっこしている。
二人の会話
「ねえ…
丘の上の墓地のそばの館に人が越して来たのを知っとるかい?」
「ああ…
なんでも病人がおられて療養にとるそーな。
それよっかあんた!知っとるけ?ハリーさんとこの娘
家出したそーな」
「んー聞いた聞いた。今どきの若い者は…
ったく!」
場面は暗転し、「ハリーさんの娘」と思しき女性を「今まで食べたパンの枚数のうちの1枚」よろしく命を吸い取って捨てるディオとその手下の場面へと移る
ここで取り上げたいのは老女の噂話。
台詞の疑問詞
「知っとるけ?」
みょうな訛りもまた団塊ジュニアの琴線に触れる台詞ではなかろうか
昭和50年代後半と言えば、お笑いバラエティーの黎明期ともいえる時代。土曜の民放夜8時、怪物番組「8時だヨ!全員集合!」の同時刻にまだ30代のビートたけしに明石家さんまが主演を張っていた「オレたちひょうきん族」
たけしがゴテゴテにデコレーションされたコスチュームの、あえてカッコ悪いヒーロー「タケちゃんマン」を、明石家さんまは怪人に変装する。
「ナンデスカマン」「妖怪人間シットルケ」
ナンデスカマンは周囲に「なぁーんでぇーすかぁー?」と妙な節回しで質問を繰り返す。
当然、視聴者の子どもたちは学校で真似する。業を煮やした教師が直々に「人に物をきくときに、『なぁーんでぇーすかぁー?』などと妙な節をつけてはいけない」とお説教した昭和58年。
一方で妖怪人間シットルケは名前の通り、周囲に「知っとるけ?」のセリフを繰り返す薄汚れた着物にボサボサの着物、登場時には舞踊団を取り巻きに引き連れ、
しっとるけのケ
しっとるけのケ
などとと歌い踊る。
元歌は大正時代の流行歌「まっくろけ節」
昭和後期の小学生といえば「ぼくのおばあちゃんは明治生まれのコンピューター」だった時代。明治、それよりも若い大正時代はある程度なじみ深い?時代。「東京節」や「私の青空」など昭和初期の流行歌がコマーシャルソングとしてリバイバルされていた時代。「テレビばかり見てると●カになる」とご機嫌斜めの熟年世代をなだめる上でも、格好のアイテムであったことだろう。
どす黒いロマンホラー苦しいほどの肉体の感覚とインクベタベタの血の迸り
読むのが怖かったジョジョ一部
そんな中でもホッさせられる昭和後期のテレビ事情
翌年、実質的に昭和最後の年だった1988年に連載されたジョジョ第二部。ジョナサンの孫、ジョセフ・ジョースターが「石仮面の発明者」と戦う物語のなかで「のりピー語」を発する場面もありましたね。
※文中の「太字の斜体」は、マンガからの引用です。
※メイン写真は、去る令和5年2月19日に東急田園都市線渋谷駅構内で撮影した壁画です。