ロマンホラー!深紅の「こんにゃく」

近畿
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

白か灰色が定番のコンニャク
だが世間には意表を突くコンニャクもある

こんにゃく。
コンニャク芋をすり下ろしてあく抜きして固めた食品。
秋から冬になればおでんの定番の具として親しまれる食品。

さてコンニャク。
基本的には半透明である。

内部に皮の砕片、あるいはヒジキや青のりを加えることもあるので、それらの色を反映して灰色に、あるいは薄緑に映えることもある。だが基本的には白系統、灰色の半透明。

滋賀県の琵琶湖東岸
近江八幡の赤コンニャク

だが世間にはそんな常識にとらわれない、真っ赤なコンニャクがあるという。そんな赤コンニャクがあるのは近江の国、現在の滋賀県だ。それも琵琶湖東岸の近江八幡の街に伝承されている。

赤いコンニャク。あたかも新鮮なレバーのようなコンニャク。
全体の容姿は約15㎝四方、厚さ3センチほど

酸化鉄(つまり鉄サビ)から作られた伝統的な赤系統の着色料・ベンガラで染められたものだ。一節によれば何かにつけて派手好きな織田信長の命により、赤く染められたという。関西でも近江八幡市にのみ伝承されているもので、東日本ではほとんど流通していない。

 

先日、都内は京橋にある滋賀県アンテナショップで、かの赤コンニャクを購入。冷蔵庫の中でしばらく寝かせた後、十月も中旬を迎えておでんが恋しくなったおりにようやく開封。

この通りまっかっか。
(あいにく開封時の写真を撮り忘れました)

鉄さび由来の赤色ゆえ、深紅というより微妙に茜色を帯びる。まさに生命の色。

四角く成形された生レバーと言われればたやすく信じ込んでしまうだろう。実際にそのフォルムを最大限に生かし、今では禁じられた「レバ刺し」のイミテーションとして食される例もあるらしい。「精進のレバ刺し」としてビーガンにもおすすめだろうか。

自分自身、おでんのコンニャクは「手綱コンニャク」に加工の上で煮たてるという妙なポリシーがある。

だから赤コンニャクもその通り加工。

まずは端から1㎝~5㎜の厚さに刻み、中途に建てに切れ目を入れる。その切れ目に一方の端を挿入することでコンニャクは「結び型」となる。縁結びとの関連でハレの席では定番のコンニャク加工。なにより表面積が増すため、煮込んだ折には味の染み込みが良くなる利点がある。包丁を入れれば、世間一般的なコンニャクよりも粘りが少なく「さくっ」とした切れ具合。

コンニャクは手綱型の上で下茹で。

練り物は熱湯を回しかけて油抜き。

 

その上で共々だし汁で煮込んでおでんの完成。

もともとコンニャクそのものは、ほとんど味がしない。酸化鉄、鉄サビで色付けしているとはいえ、鉄の匂いも味もしない。だがコンニャク独特の臭みもそれほどしない。おでんの出汁で煮含められてしみ込んだ出汁の味を、歯ごたえと共に味わうのが身上だ。

普通のコンニャクは微妙に「ねちっ」とした歯ごたえ。
だが赤コンニャクはコンニャクそのものの弾力こそ有しながらも「さくっ」とした歯ごたえ。

これはこれでなかなかよろしい。

滋賀県の琵琶湖東岸、近江八幡周辺でのみ流通する赤コンニャク。おそらく都内では京橋の滋賀県アンテナショップでのみしか入手できない赤コンニャク。

ロマンホラー・深紅の歯触りを楽しむのも秋の楽しみ。
(団塊ジュニア期のジャンプ愛読者でなければ刺さらないフレーズ)

 

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。2004年よりフリーライター。食文化やアウトドア、そして故郷である北海道の歴史文化をモチーフに執筆中。 著書に『図解アイヌ』(新紀元社)、執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(宝島社)、『アイヌの真実』(ベストセラーズ)など。現在、雑誌『時空旅人』『男の隠れ家』で記事執筆中。

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