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漫画界では稀有な分業体制で 作品の完成度は高くなると確信していた

Vol.33
劇画家 さいとう・たかを(Takawo・Saito)氏

『ゴルゴ13』であまりに有名なさいとう・たかをさんは、同時に、「劇画」というジャンルそのものを作った人と言ってもいい方です。ウルトラ長寿というか、スーパーヒットというか、モンスターのような作品というか、国民的スナイパー(笑)というか、とにかくありとあらゆる賞賛の形容詞が、ほとんどすべて当てはまる金字塔を、いまだに打ち立てている最中であり、ご本人もバリバリの現役。本当のモンスターは、さいとうさん自身だという言い方もできます。ゴルゴの背中に男の美学を感じて育った我々として(昭和生まれ「よ」・笑)は、あれやこれやと理屈はいらない。会えるだけで、嬉しい。という、さいとうさんへのインタビューでした。

 
©さいとう・たかを/さいとう・プロ/小学館

©さいとう・たかを/さいとう・プロ/小学館

単純に考えてもわかると思うんですが、 ドラマを作る才能と絵を描く才能は別ものです。

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さいとうさんはキャリア50年以上、「劇画」というジャンルの生みの親だ。

今年で、52年になります。私がこの世界に入ったころは、漫画といえばイコール「手塚漫画のようなもの」。私たちが目指したようなドラマものは、ママっ子扱いでした。でも私はそういうものがやりたいし、そういうものしかできない。やがて手塚先生が私たちの描くものを「ストーリー漫画」と呼ぶようになり、うしおそうじ(牛尾走児)先生が「漫画物語」という呼称を使うようになった。でも、私はどうしても気に入らなくて……。それで「劇画」という名称を考え出しました。

少年ではなく、青年を相手にしたものを描くと心に決めていた?

そうですね。この世界には青年向けのジャンルが必要だと確信していました。大人が読めるドラマを描けば、大衆小説と肩を並べる世界になるんだと信じていました。

さいとうさんのキャリアが52年、『ゴルゴ13』の連載が39年。安定した長い人気は、やはり青年向けがゆえでしょうか。

それはあると思います。子供はどんどん新しいものを求めますが、大人の心を掴めば安定した支持を得られるだろうとは考えていた。ただ、ここまで長くつづくとは思っていなかったですよ(笑)。自分が今も現役でいることなんか、想定外です。「意外な自分」と思っています。

さいとうさんの功績、さいとう・プロダクションの特色として、当初から漫画界では稀有な「分業体制」を敷かれたことがあげられます。

単純に考えてもわかると思うんですが、ドラマを作る才能と絵を描く才能は別ものです。どちらも特別な才能だし、両方持ちあわせている人なんてそうそういるものじゃない。でも業界は、そういう人ばかり探していた。手塚治虫先生ような人材をね。映画にたとえるなら、チャップリン級の天才ばかり探し求めるようなものです。無茶苦茶ですよ(笑)。私は、分業で、いろいろな才能を持ち寄れば作品の完成度は高くなると確信していたし、そうしただけのことです。かなり異端扱いされましたが(笑)。

「さいとう・プロダクションのスタッフの待遇は、業界一だ」という風評も聞こえてきます。

私は、アシスタントというのを使ったことはありません。一緒に仕事をする人はスタッフだと考えてきたし、相応に遇するのは当然と考えてきましたから。さいとう・プロダクションには、キャリア40年の人だっています。大切な仲間です。

さいとうさんは成功されましたが、第2、第3のさいとう・プロダクションは生まれていないように見えます。

その通りです。勘違いしていたのは、私のほうかもしれない(笑)。結局、漫画の世界に入ってくる人材というのは、みな、「我こそは大天才」と思っている人ばかりなんです。そんな彼らにとって、私はライバルでしょ。ライバルが何を言っても、聞くわけないんですよ。「勝手にしろ」だし、「何ほざいとんじゃ」です(笑)。

読者が見たことのない世界を見せることが 娯楽の王道だと思うんですよ。

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さいとうさんのお話には、映画界の引用がとても多い。あきらかに、映画ファンですね。

映画は大好きですね。ビデオパッケージも含めれば、今も週に10本は観ています。分業体制を考えたのは、映画を作るイメージからです。

『用心棒』に大きな衝撃を受けたというお話を、どこかでされていましたね。

はじめて観たとき、当時は映画館に入れ換え制がなかったので、1日映画館に居つづけました。出られなくなってしまった。あの映画に関しては、今でも、すべてのシーンを全部憶えています。ただ、そんな話をすると、黒澤明のファンだと決めつけられてしまうのが不満です(笑)。この場を借りて、ちょっと違うと言っておきたいです。他の黒澤映画では、つまらなくて途中で映画館を出てしまったものもありますから。だいたい、私は、監督や脚本家で映画を選ぶタイプではないし、事実、ほとんど名前を知らないんです(笑)。

日本映画の隆盛も知っているし、その凋落も同時体験した。

あのころは、ほんとイライラしましたね。腹が立った、何をしているんだと言いたかった。1973年に『エクソシスト』がヒットしたときなんか、激怒しました。なぜあれを日本でやらないんだとね。そのころ、私は、盛んに映画関係者に「ホラーをやるべきだ」と言っていた。安く、おもしろいものが作れるのはホラーなんだからと。

そんな時代を経て、今、日本の映画はかなり元気を取り戻したように見えます。ジャパニーズホラーなどは、世界的に評価されている。

まだまだ、でしょう。ホラーが当たったら、今度はホラーばかり作っている。特に、役者が育っていない。韓国の映画界を見てください、若い役者がみんなうまいでしょう。あれに比べれば、日本の若手は学芸会です。

何が問題なのでしょう。

日本の映画と漫画には、共通した問題があると思います。私はそれを「四畳半もの」と呼んでいるんですが、作家が、自分の身辺の世界ばかり描くようになった。全面否定はしません。そういうジャンルもあっていい。でも、そればかりなのはあきらかに問題です。映画も、漫画も、私は大衆娯楽だと思っている。要は、読者が見たことのない世界を見せてあげることが娯楽の王道だと思うんですよ。お茶漬け食べているシーンを延々と1時間見せるような作品ばかりになって、日本映画は凋落した。娯楽の原点を見失ったから、本当の映画マニアが日本映画を観なくなってしまったのです。資料を集める努力などしなくても描ける私小説タイプの作家が増えている漫画界にも、同じ問題があります。

自分でもまったく予測できないので、 ネームが一番不安です。スケジュール的には。

©さいとう・たかを/さいとう・プロ/小学館

©さいとう・たかを/さいとう・プロ/小学館

さいとうさんは締め切りを落としたことがないのでも、有名ですね。やはり、仕事がど真ん中にある生活をされているのでしょうか。

正月三が日には、絶対に仕事をしないと決めています。

ということは、他の363日は仕事(笑)。

そういうことに、なりますね(笑)。

締め切りを落とさない秘訣は?仕事のサイクル作りに秘訣があったりするのでしょうか。

絵は、ものすごく計算できます。作業のスケジュールは物理的な組み立てで、簡単にできる。難しいのは、私たちの世界で「ネーム」と呼ばれる構成づくりですね。1日中机の前にいても5枚しか書けないこともあれば、20枚書けてしまうこともある。自分でもまったく予測できないので、ネームが一番の不安です。スケジュール的には。だから、ネーム作りに入ったら、人には会わないようにしています。

なるほど、さいとう・たかをさんほどの方であっても、ネーム作りというのは苦しい作業なのですね。

ほんと、しんどいですね。ネームですべてが決まりますからね。いくら絵を立派に描いても、構成がつまらないとどうにもなりませんから。ネームは家でやることも多いんですが、トイレに行くときなどに、「夢遊病者のようになっている」と家内に言われます。

彼は、ものすごくストイックな人物です。 とにかく、そのストイックな生活を楽しんでいる(笑)

趣味は?

ないです。ないので、聞かれたら「自分です」と答えることにしています。

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なんか、哲学的ですね。

だって、こんな不思議なものないでしょう。自分が作ろうと思ったわけでもないのに、勝手に生まれてきた、こんな物体。

どんな風に楽しむのですか。

まず、脳みそですね。放っておくと、とんでもないこと考えたりするでしょう。まず、それを楽しみます。今こうしているときも、頭の中ではいろんなことを考えていて、そこに瞬間的にエネルギーが生まれている。それを楽しみます。

それ、一般的に「夢想」というものですね。子供のころから、そんなことをしていた?

そうです。そうです。

では、『ゴルゴ13』の話題に。彼は世界中からいろんな依頼を受けて仕事をしていますが、最終的な目的、目標は何なのでしょう(笑)。

どうなんでしょう(笑)。彼は、ものすごくストイックな人物です。とにかく、そのストイックな生活を楽しんでいる――という答えでどうでしょう(笑)。

全集の中には、時折「ゴルゴの休日」や「ゴルゴの人命救助」などの閑話休題的なエピソードが入ってきて、それがまたいい味だったりします。最近、そういうストーリーが少なくはないですか?

おお、そうですねえ。昔はよくやったけど、最近はやってないなあ。私としても、やっていて一番楽しいのはそういうものだったはずなんだけど……。どうりで、最近仕事が辛いはずだ(笑)。そうだったのか(笑)。

なんと言っても『ゴルゴ13』は、脚本(原作)陣の作るお話のおもしろさが他にはないものですよね。

そうですね。これまで延べで40~50人の脚本家の方に参加してもらっているかな。この体制を組むにあたって、私がひとつだけ決めたのは、「新人を使うこと」でした。若手が、若い感覚で、一生懸命に情報を集めて話を作るべきだと思った。それが的を射ていたのが、この作品の長寿の秘密なのかもしれません。

では、最後に。若いクリエイターたちに、エールを贈っていただければと思います。

ジャンルはなんであれ、創作を始めた当初には、みんな自分の世界を作ろうとするものです。しかし、あえて言うなら、それはとんでもないことです。私からみなさんには、真似することを怖がるなとメッセージしたいですね。真似は、どんどんしていきゃいいんです。真似して真似して、自分のものにしていく。創作はみんな、物真似から始まる。それを忘れないでほしい。「これが自分のやり方だ」とか「これが自分の世界だ」は、後から出てくるものなのですから。

取材日:2007年10月26日

Profile of さいとう・たかを

profile

プロフィール大阪府堺市西区出身。貸し本漫画時代に劇画という分野を確立。大衆向け漫画(アクションを取り入れたものが多い)から子供向け漫画まで幅広く手がける名実ともに劇画界の第一人者 【作品リスト】 『影狩り』 『空気男爵』 『雲盗り暫平』シリーズ 『ゴルゴ13』シリーズ 『藤枝梅安』シリーズ 『サイレント・ワールド』 『ベリー・ファーザー』 『サバイバル』シリーズ 『007』シリーズ 『台風五郎』 『劇画 小説吉田学校(戸川猪佐武の『小説吉田学校』を漫画化) 『デビルキング』シリーズ 『バロム・1』シリーズ 『ブレイクダウン』シリーズ 『漂流』 『無用ノ介』シリーズ 『OPERATION G.G.』 『鬼平犯科帳』シリーズ 『太平記 マンガ日本の古典』 『毒ダネ特派員カスガ(『KASUGA』シリーズ) 『挑戦野郎』シリーズ 『捜し屋禿鷹登場!!』シリーズ

 
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