低予算映画ならではの 悩みのヘルプができるのではないかと 考えてやっている

東京
株式会社ムーンシネマ 代表取締役 下畑朋子氏
 
制作プロダクションが、特徴や特色を生かして会社を伸ばす。言葉にすると至極当たり前のことだが、実際はそれが難しい。戦争に勝つための優れた武器ならば、より国力のある国が開発できるし、購入できる。でも、武器になる会社の特徴となると、そうはいかない。むしろ驚くような小さな会社が、「好きな一心で」とか「こんな風になったらいいのに」とかの着想を形にしたら、クライアントやマーケットから大受けに受けた――そういう記憶が遺伝子に組み込まれているから、人は仕事に夢を抱くことをやめないのだと思う。株式会社ムーンシネマも、設立者の「映画への夢」が会社の特徴となり、サクセスストーリーを紡ぎ始めている映像制作プロダクションだ。代表取締役の下畑朋子さんがインタビューに応じてくれた。

大御所撮影監督のアシスタントをした経験が、 運命の出会い。演じる側から演出する側へ転身した。

ムーンシネマは映画の制作プロダクションですか?

はい、そうです。代表取締役である下畑朋子が、プロデューサーも監督も兼ねている映画制作会社と考えていただいてけっこうです。現場ではあくまで監督として振る舞っていますしディレクターネームを使っているので、若いスタッフの中には、私が社長だなんてことを知らない人もたくさんいるようです(笑)。もちろん、現場はそれでいいと思ってます。

もとは女優だったそうですね。演じる側から演出する側に転じた動機はなんだったのですか?

約10年間役者をやって、大成しなかった、職業として成功しなかったというのは事実としてありますが(笑)、演じているうちに作ることの楽しさに気づいてしまったんです。

大きなきっかけはあるんですか?

取材風景

ある、低予算映画の現場で、低予算がゆえに出番の済んだ役者までが、スタッフの手伝いをすることになった。そこで坂本善尚さんという撮影監督のお手伝いをしたことが、運命的な出会いでしたね。坂本さんは、映画界では知らない人はいないという大御所。撮影の間、その坂本さんの傍らにいさせてもらって、「映画を撮るということは、こんなに楽しいことなんだ」というのが骨に染みるように伝わってきた。そのときの体験が高じて、後に、自費で、自分の脚本で、自主制作映画まで作ってしまいました。

なるほど。演じるだけでは飽きたらず、みずからメガホンをとる役者さんが過去にもいましたが、自主制作までするケースは少ないですね。

で、その自主制作の経験が会社設立を決意させたんです。自主制作は、リスクが大きすぎるし、いろんな意味で自己満足に陥りやすい。真剣に映画に取り組むなら、会社組織が必要だと考えました。また、女優業だけで生活できなかった分、10年間様々な会社で経理、営業、企画、採用などの実務経験をしていたことが会社設立へのビジョンと自信につながりました。

低予算映画のために美しい映像をストックしようと考えた。 それがヒット商品『ハイビジョン日本紀行』を生んだ。

会社設立早々に、ヒット商品を生み出したみたいですね。

ハイビジョン日本紀行

『ハイビジョン日本紀行』ですね。シリーズは、『魂の華炎』『春夏秋葉』『日本の夏』と3作品出ています。通販としては、かなり売れていると思います。価格設定が低いので、利益はあまり大きくないのが玉に瑕なんですけど(笑)。

拝見しましたが、花火はいいですね。いつでも好きなときに高名な花火大会の、素晴らしい花火が観られるのは、嬉しい。日本の風景を追い続ける「春夏秋葉」も、かなり和む。映像パッケージ商品の企画力、ありますねえ。

動機はあくまで映画なんです。花火や紅葉のような映像は、撮影スケジュールと撮影できる時期がぴったりとマッチすることなんてマレ。特に低予算映画では、季節に合わせてスケジュールを組むことなんてほぼ不可能。なので、そういう綺麗な映像素材をあらかじめ撮っておいて、必要なときに使いたいと考えました。「とにかく、全国をロケハンしよう!」というのが動機です。それで2003年の7月に会社を立ち上げて、7月下旬には花火大会を追いかけ始めていました。12月には『魂の華炎』としてリリースしていますが、実は、最初からパッケージで売り出す予定があったわけではないんですよ。

『ハイビジョン日本紀行』は、今後も続く?

もちろんです。この春も、ロケに出発する予定です。また日本を一回りすることになるでしょうね。この3年で日本を4周していますが、日本は歩けば歩くほど綺麗な風景に出会える、奥の深い国なんです。各シリーズとも、ハイビジョン映像で映画にも、ハイビジョン放映にも使える映像であることが徐々に知れわたって、TV局さんからの使用問い合わせも増え始めています。

たくさん売れているということは、たくさんのファンがいるということですよね。

そうなんです。だから、エンドユーザーさんとお話するのが楽しい。メールでの感想もありますが、感想を寄せてくださる方のほとんどは電話で、私が直接お話させていただくことが多いです。花火の話題で盛り上がって、1時間話し込んだこともありました(笑)。花火つながりって、けっこうバカにならないですよ。気に入っていただけると、次回作もちゃんと買ってくださるし、お友達は紹介してくださるし。むしろ、「もっと宣伝してくれなきゃ、ファンが気づかないよ」と叱咤激励されたりもします。やってみて、気づいたんですけど、花火って、毎年何百万人もの人が会場に足を運ぶ国民的な人気者じゃないですか!100万人単位の人が潜在的なファンだと考えたら、これは、かなり大きなビジネスなんですよね。

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期せずしてスタート早々からヒット商品を生み出して、会社は順風満帆な船出だったんですね。

いえいえ、そんな簡単ではありません。3年目を迎えて、やっと軌道に乗り始めたという感じですね。

でも、映画をやりたい一心だけで立ち上げた会社にしては、順調な滑り出しだと思うんですが。

スタートにあたっては、ひとつ幸運なことがありました。それは、今やハリウッド映画でも4割がこれで撮影されているというハイビジョンカメラ「SONY CINEALTA HDW-F900」が手もとあったこと。レンタルすると日建てで10万円はする機材を、ムーンシネマ設立に参加してくれた会社が所有していたことですね。CINEALTAがあったから自社制作の映画でも、スタッフに払うギャラが捻出できた(笑)。とにかく花火大会を撮影していこうというところから生まれた『ハイビジョン日本紀行』の制作も、カメラ手配のリスクがないからできたことだと思います。

純粋に夢を追いかけていると、どこかでちゃんと幸運が待ち構えていてくれる?

そういうことなのかもしれません。

すべては、「映画を作るため。作り続けるために」。 だから一見散漫に見える業務内容には、 混乱も、不効率もない。

HPを拝見すると、その他にもロケーションコーディネイトやキャスティングデータベースなど、制作プロダクションらしくない感じの業務がリストアップされていますが?

ロケーションコーディネイトも、低予算映画ならではの悩みのヘルプができるのではないかと考えてやっていることです。予算がない映画は、ロケハンにさえ苦労します。そこで、私たちが日本紀行で培ったロケハンの情報を提供したり、各県のフィルムコミッションの情報を提供しようというもの。特に最近は、私の出身地でもある九州のコーディネイトに力を入れています。あまり知られていないのですが、九州は各県にコミッションがあって、積極的に映画撮影を誘致しようとしているんです。そんな各コミッションと、東京の映画制作者の橋渡しができたらいいなと思う。もし要望があれば、ロケハンの代行も引き受けるつもりでいます。

キャスティングデータベースとは?

文字通り、役者のデータベースです。ここを通して気に入った役者に出会えたら、直接本人かマネージャーに連絡してくださいというもの。手数料などはいただいていません。まったくの公開データベースですね。若手の役者さんのチャンスを広げる一助になれれば、それで十分と考えているサービスです。

CMやPV(プロモーションビデオ)の制作も手がけているようですね。

この3年で2本の短編映画を自社制作していますが、そのたびに、撮影や照明の「映画界の大御所」といわれるような方が集まってくださって、毎回クオリティの高い映像を作ることができました。今は、それが評価されてCMやPV(プロモーションビデオ)の発注が増えているんです。いつの間にか、会社の経営を支えつつありますね。特徴は、高いクオリティの映像と、CMを映画制作のコストで作ること。超一流のスタッフが、映画と同じ意気込みとギャランティで参加してくれているので実現していることです。CMのお仕事は、請負仕事としての魅力だけでなく、映画制作のスポンサーさん探しの機会とも考えているので、大切にしています。

業務はかなり多岐にわたっていますが、労力がいろんなところに割かれたりする混乱はないのですか?

取材風景2

そうですね、第三者の目には「あれもこれも」と映るかもしれません。でも、内部では、「すべては映画作りのため。会社として映画を作り続けるため」という最終目標がしっかりしているので、混乱することはないですよ。ロケの手配とキャストとスタッフが揃えば、映画ができる。根本にあるのは、そういう発想なんです。

これまでも、これからも、 映画への夢を中心に活動する会社。

今後のビジョンは?

まず、直近の目標は、撮影技術、編集技術のレベルを上げること。スタッフの数を増やすこと。そして、来年を目標に、長編映画の制作を考えています。さらに将来的には、撮影スタジオとシネマレストランを作りたいとも考えています。

映画にまつわる夢だけでできあがっている会社みたいですね。

夢ばっかり膨らんでいるですけどね(笑)。アホですね。怖いもの知らず。それをみなさんに珍しがっていただいて、面白がってもらえているのが救いです。とにかく、たくさんの方に支えていただいてここまで来れている会社なんです。

夢を語るだけで支援者が集まるなんて、うらやましいですね。

映画業界には、そういう方がたくさんいらっしゃるんです。私の語る夢を面白がるだけでなく、「じゃあ、手伝うよ」とふたつ返事で現場に来てくださる。他の世界ではなかなかないことでしょうね。ある撮影監督が突然亡くなられ、お通夜からお葬式とお手伝いに行ったとき、故人を偲んで語り明かし、それがご縁で、高名な照明技師さんが、今では私にとってかけがえのないスタッフのお一人になっているなんてこともありました。人こそ人生の宝物、財産ですね。

取材日:2006年1月12日

株式会社ムーンシネマ

  • 代表取締役:下畑朋子
  • 業務内容:
    • 映像(映画・ドラマ・CM・ドキュメンタリー等)の制作
    • 映像撮影機材・撮影用衣装等のレンタル業
    • ロケーションコーディネイト代行業務等
    • 上記付随業務(DVDソフト制作・販売等)全般
  • 設立:2003年7月1日
  • 東京営業所:東京都中野区東中野5-23-6-1208
  • TEL:03-5925-3547(東京SP)
  • FAX:03-5925-3548(東京SP)
  • URL:http://moon-cinema.webin.jp/
  • 代表E-mail:moon-cinema@webin.jp
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