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誰かの人生のスイッチを押せる演劇の魅力 演劇をもっと身近な日常の選択肢に

仙台
株式会社boxes 代表取締役 鈴木拓氏
開業5年目を迎えた株式会社boxesは、仙台市宮城野区で演劇の企画制作を中心に、演劇に関する幅広い事業を行う企業です。代表取締役の鈴木拓氏は、高校生の頃から演劇に魅せられ、東日本大震災を機に起業を決意しました。演劇がもっと世の中の身近な選択肢になるように、仙台ではパイオニア的な存在として活動する鈴木氏に、開業への思いや事業内容、今後の展望まで興味深いお話を、たっぷりと語っていただきました。

きっかけは高校の同級生の舞台、演劇という総合芸術に惹かれて

まずは創業までの道のりについて教えていただけますか?

もともと高校生の頃から演劇に携わっており、高校を卒業してすぐ劇団に入り、自分で劇団を作る活動をしていました。 最初は舞台監督という仕事をしておりましたが、20代後半から企画制作も手がけるようになりました。しかし、東日本大震災で東京の演劇界の第一線でトップランナーとして活動されている方々と出会い、一つの企業として演劇に取り組みたいと思い起業を決意しました。

どのような思いが原動力となって開業されたのですか?

そうですね、少し複雑なお話になりますが、前提として私たちのように地域で演劇活動をしている者は「アマチュアイムズ」がとても強いのです。 もちろん、お客さんに観ていただきたいし、あわよくば演劇で生活をしていきたいし、有名になりたいと思っていますが、普段、日中は別の仕事をしています。夜みんなで集まって稽古をして、大道具も衣装も自分たちの身の回りでやれることをやって、チラシも自分たちで作ります。 普通、何かを作るとなれば、第三者のプロの手に何度か渡ります。例えば、本の出版も流通や編集などの過程で、プロの方の目に触れます。しかし、演劇というのは不思議なもので、本と劇場を選んだら自分たちだけで上演できます。しかも観客が身内ばかりであっても、どっちみち大変な思いでやりきった達成感でいっぱいになりがちです。しかし、これを会社にするというのはアートをビジネスにするようなものです。でも、逆にそれをやってないから、演劇が一般の方に親しみづらいものになってます。ですので、演劇を職業として成り立せることで、仙台で演劇をやることに夢を持てるようにしたいと、開業させていただきました。

演劇は子どもの頃からお好きだったのですか?

いえいえ、まったく違いますね。むしろ子どもの頃は、学校の体育館で演劇を見せられても、冷めているようなタイプでした。 高校生の時に、仲の良い同級生の部活の公演に誘われて、面白いなと思ったのが演劇に興味を抱いたきっかけでした。 その劇中で上演された作品は、当時とても流行っていた東京のプロ劇団『キャラメルボックス』が、高校生向けに演じやすく台本をまとめた短編SF作品で、小学生や中学生が観ても理解できる上に、少し複雑な伏線が張ってあるものでした。 その作風に衝撃を受けたのです。今まで私の中の演劇のイメージは、人情ものや感性に語り掛けるような少し理解しがたい作品が多いイメージでしたが、こんなにもストーリーが面白い演劇があるんだと思いました。それから、演劇部に所属する友人が多いこともあり、演劇部へ出入りするうちに、演劇は総合芸術と呼ばれるだけあって、大道具さん、音響さん、照明さん、衣装さん、メイクさんがいて役者がいる、いろんなジャンルのクリエイターがいることが面白いなと思って、少しずつのめり込むようになりました。

実際に起業されていかがでしたか?

正直なところ、会社を経営することに関して無知だったので、大変なことばかりでした。 アマチュアイムズには、利益を上げるより大切なことがたくさんあって、「この土地で、この時に作品を上演することで、世の中に手触りを残す」といった類のことが常に最優先されるので、お金を稼ぐことが下手でした。自分たちが信じている作品をやれば、おのずと人が付いてくれると思っていました。でも、会社を経営する上では、それだけではダメで、お金を稼ぐことも、将来のビジョンを描くこともとても大切だと、起業して改めて感じました。 特に良かったのは、このすべてに気づけたことです。もしも起業していなかったら、ただ好きなことをやっているだけでしたし、会社という機能があるだけで演劇に関して客観性を高められますし、県や市と仕事をする上でも信頼を得られます。

マネジメント業務とテクニカル業務を並行する新しいスタイル

会社名の由来はなんでしょうか?

劇場って「ハコモノ事業」と呼ばれていて、中にいろいろな機能があって1つの施設になります。私たちは場所を持たず、いろいろな劇場や空間が仕事場になるので、それを束ねるボックスの複数形にしました。あとはパッケージングする意味も含まれていますね。ラッピングされてプレゼントとして皆様に提供するような、お客様と作品を繋ぐ演劇制作。作品は一緒だけど、私たちが関わることで見え方が変わったらいいなという思いを込めました。

現在の業務内容について教えていただけますか?

大きくわけて2つの事業を展開しています。 1つ目は企画制作などのマネジメント業務、2つ目は現場でモノを作りクリエイションするテクニカル業務になります。この2つを並行して行う企業はとても珍しくて、基本的にはどちらか1つを専門的にやることが多く、東京ではどちらも並行して、複合的にやっている企業はあり得ません。 私自身が好奇心旺盛な性格で、基礎の勉強をしていなくても、アイディアを駆使して、時間がある限りいろんなことをやってきた経験から、どちらもできるようになりました。正直なところ単純に作ることが好きなんですよね。これがきっと総合的にできるという当社の強みでもあり、専門性を突き詰めきれていないという弱みでもあると思っています。ただ、東北ではほかにそういう企業はないので、自分たちがやらなければと思ったことが大きいですね。 また、細かくお話すると仕事内容は多岐に渡り、ホテルの手配から舞台上に出てくる小道具の手配、キャストの送迎などもあり、作品によって求められることはまったく異なります。 この仕事をする上で、どのスキルが必要か?というと、よくものを知っていて、コミュニケーション能力が高いことではないでしょうか。

お仕事をする上で心がけていらっしゃることは何ですか?

これもまた、少し難しい話になりますが、ギャップを埋めることを心がけています。 以前あった例として、日本の現代演劇界のトップランナーとして知られる劇場から、東京で上演した作品を、仙台でも上演したいというお話をいただきました。しかも、それを市の事業団と一緒に進行することになり、その間に立って通訳をするような専門家の力が必要になって、私たちが間に入ることになりました。劇場というものはとても特殊なスキルが必要で、作品を買い付けて、売って、席が埋まるだけであれば作品は消費されてしまいます。本当に良い作品だからこそ、きちんとその魅力を伝えられるように宣伝をして、観客の方々に「これは観てみたい!」という思いを持って、劇場へ足を運んでいただきたいのです。しかし、正直なところ、仙台ではまだ演劇を楽しむ価値が浸透しておらず、東京の劇場と市の事業団、どちらの立場も考えて、そのギャップを埋められるように心がけています。あとは、正直なところ、以前から地元で一緒に演劇をやっている仲間たちから、会社を起業して、演劇を使って金儲けをしてると思われてしまうというギャップもありますね。

鈴木さんが、頑張れる理由はなんですか?

きっと面倒くさいことが好きなんでしょうね(笑)。 私自身が面白いものを観たい、それに、それくらい面白いものを仙台の方々に観ていただきたいです。いい作品を作っていれば、必ずお客さんが来るって昭和の時代から言われて来たけど、待ちの姿勢ではなく観やすい環境を作るって大事で、作品があふれているからこそ、ほんとに面白いと思うものを広めたり、伝えることって、とても大事だと思っております。

世の中において演劇がもっと身近なコミュニケーションツールに

株式会社boxes

鈴木さんが感じる演劇の魅力とは?

よく言われるのは、テレビは日常ですし一般的に映画は年に数本くらい観る機会があって、不特定多数の人に発信できますし、その分、万人受けするように作られている部分もあります。しかし劇場は、テレビや映画に比べて観る機会は少ないですが、観客席数が決まっていてインパクトがある要素なども取り除かずに上演しているので、何千人に1人の人生を変えてしまうような出来事が起きます。言うならば、感動や衝撃を与える数は少なくても、密度が濃いと思います。ですので、同じテストで採点されて順位を付けられる今の日本の教育制度において、人と違う感性や個性を持っている子が、不適合と判断され「劣」と評価されてしまい、どんどん引きこもってしまう。正直なところ、今の日本はそういう子たちをあまり救えない環境にあると思います。でも、その子たちには別な才能があるのかもしれないので、演劇を観ることで「自分はこのままで良いのだ!」とか「好きなことが見つかった!」など、何かに気づくような衝撃を与えられるんじゃないかと思うのです。実際に過去にはそういう実例もあって、それが演劇の魅力だと思っています。心の奥のスイッチを押せるようなイメージですね。

御社でイチから制作された作品もあるのですか?

これまでに、1本作りました。実は長塚圭史氏と繋がりがあって、長塚氏に仙台へ滞在していただいて、俳優のオーディションをから練習、公演まで1年かけて一緒に作品を作り上げた経験があります。 日本(東京)は世界で一番初演の多い国なのです。つまり、作品が消費されている状況です。演劇は一度にたくさんの方が観るわけではないので、本当に良い作品は何度も上演されるべきで、ヨーロッパの場合は劇場が作品ごと買い取ってくれるので、長い間作品が上演されます。 長塚氏もこの状況を憂いておられて、震災後、何度も被災地を支援していただいた繋がりから、仙台で1本作品を作りたいという思いがあり、ご一緒できたのです。これからも3年に1本くらいは、上演していけたらよいと思っています。

今後の展望について教えていただけますか。

世の中で演劇を観るという行為が、日常の選択肢の一つになればいいと思っています。映画やショッピングに行く感覚で演劇を観るようなイメージですね。 また、演劇は日常生活の課題にも応用が効くので、ただ単純に公演としてチケットを購入して観ていただくだけではなく、子どもたちに向けて小さな芝居を作ったり、ダンスのワークショップをしたりすることで、コミュニケーション能力を上げたり、身近な生活のスキルに役立つものだと思っています。演劇をみなさんにとって身近なものにしていくことが、当社のミッションだと思います。

最後にクリエイターの方々へのメッセージをお願いします。

舞台芸術もグローバリズムが進んでおり、舞台を作る上で国境はほとんど関係ありませんし、海外との共同制作も増えています。それに他ジャンルのクリエイターとのコラボレーションも増え、ダンサーや書道家、音楽家、美術家、建築家と一緒に作品を作ることもできます。むしろ、そういう作品を発信していくべきだと思っています。どの分野のクリエイターの方々とも、コラボして作品を手掛ける可能性があるので、ぜひご興味のあるクリエイターの方々には声をかけていただき、一緒に仙台でしかできない新しい作品を作っていけたらと思っております!

取材日: 2016年12月5日 ライター: 桜井玉蘭

 

株式会社boxes様

  • 代表者名(よみがな): 代表取締役 鈴木拓(すずき たく)
  • 事業内容: 創造的な舞台作品の企画、製作、運営 劇場など文化施設の企画・運営・管理 舞台監督、技術監督、演出部、制作業の請負 舞台芸術や各種イベントのコンサルティング 大・小道具のデザイン及び製作 照明・音響・映像機材機器のレンタル、販売 ワークショップ事業のコーディネイト 東北の次世代を担う人材育成
  • 所在地: 宮城県仙台市宮城野区高砂1-11-9
  • URL: http://boxes-inc.jp/
  • お問い合わせ先: tel.022-353-9755 / fax.022-774-1935
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