映像2020.04.01

ここまでして映画を作るべきなのかと何回も思ったけど、辞めれないし、もう辞める気もないです

Vol.013
映画『おばけ』監督
Hiromichi Nakao
中尾 広道
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「第41回ぴあフィルムフェスティバル」のコンペティション部門「PFFアワード2019」で見事グランプリを勝ち取った自主映画『おばけ』。映画製作における作業をほぼ一人でこなした半自伝的映画は、一体どのようにして生まれたのか。監督であり物語の主人公でもある中尾広道監督に自主製作映画の面白さや、製作の裏側について語っていただきました。

「PFFアワード2019」でグランプリを最年長受賞、映画を始めたのは32歳から

 

映画を作ろうと思ったきっかけはなんですか?

7〜8年ほど前、友達の映画監督の撮影現場によく遊びに行ってて、手伝いをする上で、次第に自分でもやりたくなってきました。なんか面白そうだなと思って。そのことを話したら、「じゃあカメラ貸したるから中尾もやってみれば? 俺らも手伝うで」と言ってくれて。それがきっかけですね。映画を作り始めた当初は、今に比べればもう少しスタッフがいたんですけど、みんな自分たちの製作や仕事があって、スケジュールを立てるのがだんだん煩わしくなってきたんです。そこから自然に、自分一人だけでやれることをやっていこうという風にシフトしていきました。

チームではなく一人で映画を作ることにこだわりはありますか?

最初は一人でやるこだわりはそんなになかったです。ただ、一人でやってみたら自分の目と手が届く範囲で全部完結できるので、だいぶ気楽でいいなとは思いました。ロケハンや脚本、小道具の製作など、一人で製作することによって膨大な時間がかかってしまうんですけど、それが思考を整理する時間にもなっているので、自分のペースを考えると、一人でちょうど良かったのかなと思いますね。

撮影技術やシナリオ作りはどうやって学んだのでしょうか?

基本は前述の友人のやり方を踏襲しています。一人での撮影や、撮ってから脚本を考えたりとか。ほぼ独学ですね。やりながら覚えていった感じです。
撮影技術は基本的にカメラ置いてボタン押すだけです。あと好きな映画のシーンを何回も見てマネしたりとか。

「PFFアワード2019」では、満場一致でグランプリを受賞されました。

「ぴあフィルムフェスティバル」は自主映画の魅力を教えてくれたとても素敵な映画祭なので、ここで賞をとりたいという思いは強くありました。だから「ぴあ」で受賞できたのは本当にうれしかったです。「僕の作風のような映画にグランプリをあげる『ぴあ』もすごい」と、よく言われます。

一人だけでの映画製作の過程を作品自体に組み込んでいったら、面白いんじゃないか

『おばけ』を作ることになった経緯を教えてください。

前作の『風船』という短編を撮っているときに、僕の撮影スタイルを見ていた友人に「中尾が撮る映画よりも、中尾が映画を撮っている姿の方が面白い」と言われたことがきっかけです。この手法は僕に映画を教えてくれた友達のやり方なんですけど、録画ボタンを押して走って行って自分が映る、終わるとカメラまで戻って自分でストップさせるという、その非効率的な作業を友人が横で見ていて「そんなやりかたで映画を撮ってるなんて面白い」と。じゃあその一人での製作過程を作品自体に組み込んでみようと。今までのやり方や裏側も全部見せて、映画の中で、今見てもらっている映画を作ってるという構成にしたら面白いんじゃないかと思って始めました。

『おばけ』というタイトルに込められた意味は何なのでしょう。

一人きりで山の中で機材を抱えて撮影をしているとだんだん気が滅入ってくるんです。そこで「おばけ」というか、目に見えない何かが僕を見ていて、木陰から笑っていたり、さりげなく作業を手伝ってくれてたら愉快だなと思っていました。そこから『おばけ』とつけたんですが、キャラクター的には、水木しげる先生の漫画に出てくる、人懐っこい妖怪や精霊みたいなイメージです。

『おばけ』を作る際にまず何から始めましたか?

まず撮影ですね。よく山に行ってました。最初になんとなく構想はあったんですよ。自主映画をやっている人間が山や家の近所で撮影しているが、いろいろあって映画製作を辞めてしまう…。撮影が7割ほど済んだ時点で、撮った素材を編集していきました。その編集の「間」に合わせてセリフを考えていき、セリフがおおむね決まってから脚本の形にしました。通常の映画製作の手順から考えると真逆なんですけど、映したい映像の方が物語よりも比重が大きかったりするので、映像を軸に話を構成していきました。

撮影で苦労したことは何ですか?

屋外のロケーションと屋内の撮影で分けて話すと、屋外では天気ですね。『おばけ』はほとんどのシーンが晴れなんです。晴れの日の美しさに心を動かされてカメラを回していることが多いので、機材を抱えて山の頂上まで登っても、曇ってたら撮影ができない。そんなことが何回もあって…。天気が一番苦労しました。
屋内の撮影だと、コマ撮りアニメーションのライティングですね。全くノウハウがないので、色んな種類のライトを買ってきて照明を当てる角度を探って、どうやったら被写体が一番輝いて見えるのか、というテストを何回も重ねました。

なぜ芸人の「金属バット」さんをナレーションに起用したんですか?

『おばけ』はナレーションが重要なんです。ちゃんと話も入ってきて、なおかつ話術で惹きつける魅力を持った人は誰かなと考えたときに、自分が大好きな芸人、金属バットさんにオファーをしてみようと思いました。最初にオファーをしたときは今ほど売れてはいなかったんですけど、そのうち絶対人気が出るだろうと思っていたので、売れる前に交渉して仕事を請けてもらわなくてはという焦りがありました。まあ交渉中に一気に売れちゃったんですけど、なんとか間に合いました。

金属バットさんにはどのような演出をつけたんですか?

喋り方はほぼお任せしましたね。僕が事細かに指示をするより、自由にやってもらった方が彼らの良さが出ると思ったので。一応セリフは決まっていたのですが、ストーリー展開のポイントだけ押さえてもらい、あとはゆるくやってもらいました。また、完全にフリーでしゃべってもらうシーンもいくつか入れて、それらが違和感なく繋がるように編集では気を付けましたね。

音楽の使い方にこだわりはありますか?

弦楽器奏者の波多野敦子さんと一作目から今まで一緒に製作をしているんですが、彼女の提供してくれる曲が毎回とても良いので、僕はそれに負けないように映像の質を高めようと必死でやってます。音楽だけに助けられたくないというか、映像も音楽に見合ったものを作りたいと思っています。今作では松田圭輔君という音楽家の電子音楽も多用しています。彼の曲は波多野さんのとはまるで違うのですが、その対比が互いの音楽を引き立てあっていると思います。

製作にはどれくらい時間がかかりましたか? また、製作費用はどのように集めていらっしゃいますか?

『おばけ』のおおよその製作期間はぼちぼちやって3年くらいですね。製作費は、映画に必要なお金よりも、製作に専念するために、一定期間仕事に行かなくなるので、その間の生活費がとてもかかりますね。普段は百貨店の物流で働いていて、荷物の管理や搬送などの仕事を10年以上やっています。普通の仕事に比べると勤務日数をかなり融通してもらえるので、映画に集中して取り組みたいときは長期間仕事を休んで作業に没頭できます。映画を撮るためにそこに身を置いている感じですね。

常にほんまにこれでいいのか?というのを真剣に考えながら、一個ずつ作業をやっていくようにしています

 

劇中で映画製作を辞めるシーンがありますが、実生活では諦めようと思ったことは?

映画製作をはじめて7~8年経ちますが、辞めたいと思ったことは何度もあります。なので、その思いを映画の中でそのまま再現しました。なんの実りも無いよなと思う時期があったり、自分一人傷つくだけならまだいいのに、周りにいる人も傷つけ、いろいろなものを犠牲にして、そこまでして映画を作るべきなのか? 単純にしんどいし時間もかかるし、もう辞めたいなとは何回も思いました。けど、辞めれないですし、辞める気もないです。

次はこんな作品を撮りたいというイメージはありますか?

そんなに明確には無いんですけど、今までの自分の映画にはあんまり人が出てこなかったんです。メダカとか植物とかばっかりだったので、今後はもうちょっと人が出るような映画も撮ろうと思っています。勿論、今までの延長線上にある、メダカや植物がメインの映画も撮り続けていきます。色んなスタイルを試してみたいですね。

次に狙う賞はありますか?

僕は短編の尺が好きなんです。ヨーロッパには参加してみたい短編映画祭がいっぱいあるので、その辺を狙っていきたいなと思ってます。具体的には、フランスの「クレルモン・フェラン短編映画祭」や、ドイツの「ハンブルグ国際短編映画祭」に作品を出したいですね。

最後にクリエイターの方たちにメッセージをお願いします

あくまで僕の場合なんですけど、映画を作っていくうえで自分にウソがないか、という事をいつも考えながらやってます。スタッフのいるチームだとみんなで相談しながら作業を進めていくと思うんですけど、僕の場合は一人なので自分自身に甘えてしまい、「これ、いまいちだけど、しんどいから次いこう」ってなると、どんどん映画の質が落ちていくんです。なので、常にほんまにこれでいいのか?というのを真剣に考えながら、一個ずつ作業をやっていくようにしています。日々粛々と真面目に、誠実に取り組むだけです。

取材日:2020年2月17日 ライター・ムービー(編集):加門 貫太 ムービー(撮影):村上 光廣

『おばけ』

ポレポレ東中野にて公開 ※公開日程は公式サイトをご覧ください

“やりたい事を、納得のいくまでやり続ける”これだけを信念に、映画監督の中尾広道が作り上げた“自伝的”自主映画。制作に費やす時間や日々の手間暇を短縮して効率を優先させる映画づくりの場とは違い、ここにはどこまでも思い悩む自由がある。
世界最大の自主映画の祭典・PFFアワード2019では「オンリーワンの映画」と激賞され、最終審査員の満場一致という圧巻の評価を得て見事グランプリに輝いた。自主映画の歴史においても決定的な出来事となった『おばけ』の誕生は、公開前から異例ともいえるほどの大きな話題を呼び、遂に2020年の春、ポレポレ東中野で満を持しての劇場初公開を迎える。

 

ストーリー

手作りの宇宙で、星をひろった話
一人きりで映画を撮っている男。その姿は傍から見れば滑稽に映り、周囲の理解を得られないばかりか、妻と子供も愛想を尽かしている。そんな中、遠い空から男の孤独な作業を談笑交じりで見守る星があった。やがて男は不思議な力に導かれ――誰も知らないささやかな映画作りの過程は、やがて大きな宇宙へとつながってゆく。

監督・出演:中尾広道
声の出演:金属バット(小林圭輔、友保隼平)
音楽:TRIOLA、波多野敦子、松田圭輔
エンディング曲:真島昌利「HAPPY SONG」©︎1991 by GINGHAM MUSIC PUBLISHERS INC.
製作・配給・宣伝:wubarosier film(ヴバロジーフィルム)

プロフィール
映画『おばけ』監督
中尾 広道
1979年生まれ、大阪府出身。友人の撮影を手伝ったことをきっかけに、自身でも映画を撮り始める。可能な限り、自分一人でつくるスタイルで作品制作を続けている。世界最大の自主映画の祭典・PFFアワードでは、2015年『船』、2017年『風船』が入選し、2019年には最新作『おばけ』がグランプリを受賞。最終審査員の満場一致という圧巻の評価を受け、大きな話題を呼ぶ。『おばけ』の劇場公開に向けても自主配給の形をとり、映画制作と同じく、地道に手探りで繰り広げていく。

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