映像2020.03.04

事故の裏にある人間ドラマを描いて、“人間の強さ”を表現したかった。

Vol.012
映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ) 監督
Setsuro Wakamatsu
若松 節朗
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© 2020 『Fukushima 50』製作委員会

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© 2020 『Fukushima 50』製作委員会

福島第一原発事故の知られざるドラマを日本映画史上最大級のスケールで映画化した『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)。風化させてはいけない福島第一原発事故をリアルに描き、そして共感を呼ぶ人間ドラマにしたのは、『沈まぬ太陽』など骨太な作品を数多く手がけている若松節朗(わかまつ せつろう)監督。映画にするうえで大事にしたこと、映画だから描けたこと、主人公である福島第一原発1・2号機当直長・伊崎利夫を演じた佐藤浩市さん、福島第一原発所長・吉田昌郎を演じた渡辺謙さんら俳優陣のすばらしさについて語っていただきました。

映画だからこそ、事象を伝えるのではなく、そこにあった人間ドラマを描けると思った

本作を作ろうと思った理由を教えてください。

NHKさんで放送されているドキュメンタリーなどを見ていて、作業員それぞれにドラマや気持ちの葛藤があったのだろうと感じました。ドキュメンタリーは事象をとらえることができますが、僕は人間ドラマとしてこの事故を見つめて、彼らの心の中を描きたいと思いました。あと僕たちは事故のことは知っているけど、実際に原発の中でどんなことが行われていたのか、どういう人たちが支えていたのかなど知らないことが多すぎて……。そのひとつが、海外メディアが彼らのことを“Fukushima 50”と称賛していたという事実。そのようなことを多くの方に知ってもらうことが大切だと感じました。

映画というエンターテインメントとして見せるためにこだわったことはありますか?

やはりリアリティです。実際にあった出来事を描いているドキュメンタリー的な映画なので、ウソを感じさせたらダメ。説得力を持たせるにはリアリティしかないんです。そのため、施設のセットを含め、建屋の爆発や津波の再現など相当リアリティを追求しました。セットも本当に精巧だったと思います。

実際に、何度も取材に行かれたのでしょうか?

取材することで得る知識はたくさんありました。ただ僕たちが取材に行っても設備を写真に収めることはできないんです。当たり前ですが秘密の要素が多くて……。そのため、全部メモをしてそれを再現するという形にしました。基盤とかも大変でしたね。あと、作業員たちの心の動きに関しては門田隆将さんの原作ももちろん大事にしていますが、実際に作業員の方たちとお話をさせていただきました。印象的だったのは、未曾有の事故だけに当時のことをあまりよく覚えていらっしゃらない。マグニチュード9.0なんて誰もがそれまで体感したことがなく、彼らも訓練は相当していたと思いますがそれを超えていく大きな地震だったので、冷静に対応していたとはいうものの、やはりパニックを起こしていたのではないかなと。リアル感を心がけて誠実に時系列に沿って組み立てていきました。

リアルに創作を合わせることで、よりこの本質が描かれるのですね。

やはり映画は何を伝えたいのかが一番大事で。1・3・4号機は水素爆発により大破しましたが、なぜか2号機が爆発しなかった。この理由はいまだ解明されていないんです。偶然だけどそういうことがあった。世の中なんて人知に及ばないこともいっぱいあります。そういう説明できないことを、“人間の力”で乗り越えられたのかもしれないという風に見せることができたらいいなと思いました。自然の驚異に負けなかった彼らがいたから、彼らが頑張ったから爆発が防げた。そう映ってほしいというか……。もちろん自然をないがしろにしたことによって起きた事故ですが、福島の男たちの“人間の力”もすごいということを伝えたかったです。

人間ドラマを描くからには俳優の力が必要。芝居はときに演技を超えてリアルになる


© 2020 『Fukushima 50』製作委員会

“人間の力”のすごさを伝えるためには、あの場にいた人物を演じる役者のみなさんの力が必要だったと思います。

まさしくそうで。今回出ていただいた役者のみなさんは本当に素晴らしかったです。今のは芝居じゃないよね?と思うくらいリアルで。伊崎らがいた中央制御室、吉田さんがいた緊急時対策室の2つの場所が主な舞台になっていたのですが、中央制御室は大体5日間の話を8、9日くらいかけてずっと追って撮っていきました。「明日は3月12日、明後日は13日を撮ります。みなさん段々疲れていきます」くらいしか伝えていなかったのですが、本当にみんな疲れた感じで来てくださって……。きっと寝てなかったんだと思います。そして日を追うごとに髭も伸びてきて。多くを伝えなかったのに、こちらの意図を汲み取ってくださり、本当に見事だと思いました。普段の役者さんはメイクをしますが、この現場はいらない。お風呂にも入っていない汚い男たちがいっぱいいる。これぞリアルでした。ちなみに最初の方はカットをかけても普通でしたが、3月15日あたりを撮っていると、カットがかかった瞬間に床に寝てしまう人もいて。もう役そのもの。限られた時間の中で、みなさん本当に入り込んでいただいた。しかし、死を目の前にした男達は強くたくましかったです。

とくに演技のすごみを感じたところはどの部分ですか?

もちろんどのシーンも素晴らしかったですが、やはり防護服を着てバルブを回しに行くシーンは印象に残っています。20分で作業をしなければならない焦りみたいなものと作業員として平常心を保たないといけないという複雑な感情、バルブを回すことができなかった彼らの、人を助けたいという思いと、誰よりも原子炉のことを理解していたプロだからこそのプライドが傷ついた悲しさ、そして現実のやるせなさといった思い……。どの人をとっても一つの感情だけで表現することができない複雑な感情がうごめき合っているんですよ。それはもう芝居ではなく、彼らが本当に持っている感情表現でとてもリアルでした。

主人公である福島第一原発1・2号機当直長・伊崎利夫を演じた佐藤浩市さん、福島第一原発所長・吉田昌郎を演じた渡辺謙さんがそれぞれの場所でのリーダーとのことですが、お二人には事前に何か話されましたか?

この映画で伝えたいことについてはお話ししました。だけどそれだけ。浩市さんはクランクイン前に制御室にいる役者たちに向けて役者のたたずまいを伝え、「この事故をきちんと伝えましょう、俺たちは戦友だ」と話し、みんなが同じ気持ちで撮影に臨もうとされていました。そして対策室の撮影は多くのエキストラが入っていたのですが、謙さんは初日にみなさんの前で「福島にいる人達を感じながら、ウソのない映像をきちんと伝えましょう」と話されて。もう力強かったですね。監督は何も言わないのにみんなが同じ方向を向いてくれる。ちょうど撮影時はラグビーワールドカップ2019日本大会をやっていたのですが、この現場も“ワンチーム”だと感じました。映画の中で、原発の爆発を防ぐためにどうしたらいいかということを考えて、スクラムを組んで一生懸命一歩ずつ進んでいく。素晴らしいチームですよ。

これがパーフェクトという映画を作ることができない。だから面白いんだと思います

実際に出来上がった作品を見て感じたことは何ですか?

この作品は、静と動、明暗などを意識して撮っています。例えば、ブザーが大きく鳴り響くところや作業員たちが気持ちを吐露するときや疲れ切って口数が少なくなっている静けさ、電気が煌々とついた対策室の明るさと停電して真暗闇の制御室……。これは映画としてすごく効果があったと思います。とくに暗いシーンになるとお客さんは身を乗り出すように見て何かを探して、静かなシーンになるとみんな声をきちんと聞こうとする。実際に試写会で後ろの方の席からみなさんを見て、効果的に機能していると気づかされました。あと、後半になると知らず知らずのうちにハンカチを出して泣いている……。泣かそうと思ったわけでもないシーンでも感情移入してもらえたみたいで、本当にありがたかったです。

これまでいろいろな作品を撮られている監督でさえ、出来上がってから、あのシーンはこうすればよかったなどと思うこともあるのですね。

そんなのは当たり前です。例えば、死を覚悟した伊崎が作業員に「もう出ていけ」というシーンなんて僕のミステイクで芝居の尺が足りませんね。もし時間があれば、伊崎をはじめ泣いている作業員たちの表情をきちんと押さえることができたんですよ。でもだからといってそれが正解なわけでなく……。伊崎が避難所で父親と会うシーンに山場を持っていけたのも間違っていなかった。もう監督は難しいですよ。これがパーフェクトという映画はなかなか作れないんですよ。でも映画ってそういうものかもしれないですね。

これまでも、日本航空123便墜落事故を扱った山崎豊子さん原作の『沈まぬ太陽』の映像化など、骨太の作品を撮られていますが、そういう作品を作るうえで心掛けていることはありますか?

伝えるべきことをきちんと伝えるために、どうすればいいかを悩むことです。今回は、撮影前に原発についての知識をスタッフにも出演者にも持ってもらうことから始めました。スタッフやキャストには、原子力発電所はこうやって電気を作っているんだという話から、専門用語の意味などをまとめたパンフレットを作って、事前に読み込んでもらうようにお願いしたりして。現場では時折、抜き打ちテストみたいに、「メルトダウンの意味とは?」とか質問を出したりもしました。それくらいして、スタッフとキャストが同じ方向を向くための下地を作りました。やはりこういう特殊な題材の映画では、全員で補い合うことも大事です。良い作品はそこから産まれます。

美しく咲く桜と廃炉になった原発……。今だからこそ感じ取ってもらいたいことがある

9年経った今だから描けたこともありますか?

福島という場所はものすごく美しい場所だったんですよ。それを人間が汚してしまった。ラストシーンで、伊崎と美しい桜並木を映していますが、あの桜並木は帰還困難区域で、いまだに誰も立ち入れない場所。こんなに美しい桜を誰も見られないというのはどういうことなのか。この桜はこれから未来永劫ずっと咲き続けます。それと同時に、原子力発電所はこれから40年50年かけて廃炉にしていく。伊崎は自分たちが放射性物質を出してしまった事に後悔を感じています。それは悲しいという事実だけでなく、美しい満開の桜があるからこそ複雑な想いになります。そして今年は復興オリンピックが開催されて聖火は福島からスタートする。なんかドラマチックですよね。この作品を見て、再び福島について考えてもらえればと思います。

この作品はどのような人に見てもらいたいですか?

日本人にはみんな見てほしい。とくに小学生や中学生などの学生にはぜひ見てもらいたいです。そしていずれ海外も視野に入れて発信していきたいなと考えています。自然の驚異と原発の怖さ、そして人間の強さ、おろかさもです。これが伝えられればいいですね。

最後に、監督が作品を作るうえで大事にされていることを教えてください。

常にピュアな心を持つことです。僕はラブストーリーが好きなのですが、そういう作品を作るときは、常に相手の女優さんを好きになっています(笑)。でもそういう気持ちにならないといい作品は撮れないですから。それは今回みたいな骨太の作品も同じで、みんなで戦うぞ!という気持ちにならないと撮れない。その作品に対してどういう気持ちで向き合っているのかは、意外と作品に出てしまうものなのです。当たり前ですが、映画を好きという気持ちは大前提です。好きという気持ちは絶対に辛い気持ちに勝りますから。自分の仕事を大好きになることが、クリエイターの第一条件です。

取材日:2020年1月16日  ライター:玉置 晴子 スチール:あらい だいすけ ムービー(撮影・編集):村上 光廣

『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)

© 2020 『Fukushima 50』製作委員会

2020 年 3 月 6 日(金)全国公開

出演:佐藤浩市、渡辺謙
監督:若松節朗
配給:松竹、KADOKAWA

 

ストーリー

マグニチュード9.0、最大震度7という巨大地震が起こした想定外の大津波が、福島第一原子力発電所(イチエフ)を襲う。浸水により全電源を喪失したイチエフは、原子炉を冷やせない状況に陥った。このままではメルトダウンにより想像を絶する被害をもたらす。1・2号機当直長の伊崎ら現場作業員は、原発内に残り原子炉の制御に奔走する。全体指揮を執る吉田所長は部下たちを鼓舞しながらも、状況を把握しきれていない本店や官邸からの指示に怒りをあらわにする。しかし、現場の奮闘もむなしく事態は悪化の一途をたどり、近隣の人々は避難を余儀なくされてしまう。

官邸は、最悪の場合、被害範囲は東京を含む半径250㎞、その対象人口は約5,000万人にのぼると試算。それは東日本の壊滅を意味していた。

残された方法は“ベント”。いまだ世界で実施されたことのないこの手段は、作業員たちが体一つで原子炉内に突入し行う手作業。外部と遮断され何の情報もない中、ついに作戦は始まった。皆、避難所に残した家族を心配しながら―

 

プロフィール
映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ) 監督
若松 節朗
1949年生まれ、秋田県出身。テレビドラマのAD、演出補を経て、共同テレビジョンに入社。「振り返れば奴がいる」(93年・フジテレビ系)、「やまとなでしこ」(00年・フジテレビ系)など人気ドラマの演出を手掛ける。映画監督として『ホワイトアウト』(00年)、『沈まぬ太陽』(09年)で日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。『柘榴坂の仇討』(14年)『空母いぶき』(19年)、「弟」(04年・テレビ朝日系)「救命病棟24時」(フジテレビ系)など監督作多数。

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