映像2019.10.02

活字と映像は仲の悪い兄弟みたい。だからこそ原作が大切にしている部分はきちんと描きたい

Vol.007
映画『閉鎖病棟―それぞれの朝―』監督
Hideyuki Hirayama
平山 秀幸
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(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

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『愛を乞うひと』や『エヴェレスト 神々の山嶺』など人間ドラマを多く手掛けている平山秀幸監督。最新作『閉鎖病棟―それぞれの朝―』は、1995年に発表された帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)原作の「閉鎖病棟」(新潮文庫刊)を監督自ら脚本を担当し、精神科病棟を舞台にした優しき人間たちを描いています。「原作に描かれている一番大事なコアな部分は曲げちゃいけない」と語る平山監督に、原作の映像化について感じること、脚本家と監督の関係性についてなど語っていただきました。

笑福亭鶴瓶さんが演じた秀丸さんという人物像が心に残った

原作が発表されたのは1995年なので約25年前、監督が原作と出合ったのが2008年とのことですが、帚木蓬生さんの原作を映像化したいと思ったきっかけは何だったのですか?

帚木さんの原作はそれまでも読んでいて、常に映画化できないかな?と思っていたんです。ただ、そのころは夢に見ていただけで。でもこの作品を読んだときは、本気で映画にしたいと思いました。ひとつは、原作に描かれている土壌が僕と帚木さんの出身の福岡県だったということ。映画では言葉は変わっていますが、小説では九州弁だったしね。また、登場人物のなかでも笑福亭鶴瓶さんが演じた秀丸さんという人物像がすごく心に残りました。彼の見せる“自己犠牲”に圧倒されてました。彼を真ん中に据えた映画をつくりたいと思いました。

原作と出合ってから11年越しの映画化ですが、ここまで時間がかかった理由は何かあったのでしょうか?

まぁ映画にするといってもすぐにできるわけではないので(笑)。ただこうやって時間がかかって良かったと思っています。とくにここで描かれている精神医療やその周辺の出来事については、この10年でいろいろ変わってきています。もちろん医療の進歩もありますが、患者や周辺の人の人権意識も変化しつつあると思うんですよ。今回のテーマに関しても昔だったらもっと乱暴に描いていたんじゃないかなって。入院患者であるチュウさん(綾野剛)を疎む妹夫婦が登場しますが、昔だとあぁいう人を単なる悪人として描いてしまいがちだったと思います。でも今はそうとは限らない。善か悪かなんてひと言では言い切れないですからね。

秀丸さんを演じた鶴瓶さんには監督がオファーしたとのことですが……。

お手紙を書かせていただきました。鶴瓶さんは噺家さんで、演技をずっと勉強してきた方ではないんですが、そこがすごく魅力的です。例えばある一点を見つめた鶴瓶さんの横顔にホラーっぽい曲をかけると、その場面が急にホラーっぽく怖く感じるんですよ。逆に優しい音楽をかけると優しい人物に見える。なんか見ているこちらに何かを考えさせるというか訴えかけてくるものがあって。表情とか喜怒哀楽の型にはまらないすごさを持っている人だと思います。存在感が他の人とは違うんだなって改めて感じました。

脚本家と監督は相反する存在だとやってみて気づきました

今回は初めて脚本も手掛けられましたが、実際にやってみていかがでしたか?

いやぁ、大変でしたね。これまでどれだけひどいことを脚本家のみなさんに言ってきたのかと改めて思いました(笑)。やっと監督と脚本家の双方の気持ちが分かったというか。全く違う仕事だと思いました。脚本家というのはセリフを書きますが、監督は現場でセリフを削るんですよ。例えば「おなかが空いた」というセリフがあるとしたら、監督だとそれを言わずに芝居をしてもらう。その相反する存在が脚本家と監督です。でもその2つが共存しているのが映像の面白さでもあると思いました。

現場に行ったらすぐに監督目線になり、脚本に対しては俯瞰的に見つめていた感じなのでしょうか?

そこがどうなるんだろう?って始まる前はドキドキしていたんですが、現場に行っても脚本家であり監督でしたね。ただ、脚本はあくまでも作品の青写真でしかないんですよ。それはやはり現場で変えていかないと映画にはならない。僕の映画は最初から道筋は一本あるんですが、その通りには電車は走りません。脱線したり、ときには全く違うところに落ちちゃったりしながらも最終的にはゴールにたどり着く……というか。現場に行くと色んな意見が入ってきます。その度に脚本家の僕としてはむっとしたり納得したりして進んでいきました。もちろんそれを決めたのは監督の僕ですが(笑)。脚本通りに映画をつくったら、それは価値観がひとつしかありません。それだと僕には面白くない。映画ができあがるまでに色んな人の意見が入ってくると、そのたくさんの価値観の中から一番いいものを選べる。それが映画なんだと思います。みんなといろいろ意見を交わしながらつくっていく……。いい作品は現場で生まれていくんだと思います。

活字と映像はアプローチの仕方が全く違うからこそ大事にすべきことがある

これまで『愛を乞うひと』や『エヴェレスト 神々の山嶺』など原作のある作品も数々手掛けていますが、原作から映画にする際に大事にしていることは何ですか?

映画屋って偏屈な人が多いから、原作通りには撮らないよっていう人が多いんですよ。みんな変わりもんなんで(笑)。ただその中で忘れてはいけないのは、原作に描かれている一番大事なコアな部分は曲げちゃいけないってこと。活字と映像は全く別モノで、例えば今回の秀丸さんにしても、原作しか読んでいない方は頭の中で色んな俳優さんで想像しているわけですよ。100人いたら100通りの秀丸さんがいる。でも映画の場合は、鶴瓶さんと問答無用で提示しているので他の人のイメージが入ってくる余地はないんです。そういうジャンルなだけに、その原作に込められた思いを外してはダメで……。活字と映像ってアプローチの仕方がかなり違うので、“すごく仲の悪い兄弟”みたない感じがします。

今回だと、主となる登場人物の人数を整理したり、舞台となる時代を変えたりしているほか、副題の「-それぞれの朝-」に象徴されるようにみんなが旅立っていく姿が描かれています。

そこが本作のコアでしたね。秀丸さんをはじめとした3人の今後は、すごく大変なことが待っていると思います。ただ、あの朝日のシーンに象徴されるように、大ハッピーエンドにすることはできないけれどみんなを応援しているというか。そんな思いを伝えたかったです。

何かを伝えたいというより、その道の職人になりたいと思った

幼少時代から映画監督に憧れていたのですか?

僕はラジオのディスクジョッキーに憧れていたんです。「オールナイトニッポン」が好きでアナウンサーになりたくて。けれども九州出身で方言があるためその夢はすぐに諦めちゃいましたね。で、昔から好きだった映画に携わりたいと思ってこの世界に入りました。昔の田舎って娯楽は映画くらいしかなかったんですよ。ですからよく親に連れて行ってもらい、それで映画好きになって……。たくさんの作品を見て、評論も読んで、シナリオも読んでいましたね。でも、僕は自分の中の何かを積極的に伝えたいという気持ちはよく分からなかった。これは今でもそうなんですが……。ただ、その道のプロになりたい、職人になりたいとは思ったんです。それは今も変わらない気持ちです。

映画に携わったのは何がきっかけだったんですか?

最初、知り合いに長谷川和彦監督を紹介してもらって、「映画をやりたいです!」と言いに行ったんですよ。当時、長谷川監督は初監督作品『青春の殺人者』を準備していたんですが、それならば人手が足りないのでと、その日から突然荷物を運搬するトラックの運転手になって……。トラックには、撮影備品やカメラなどが積んであって、映画に携われている携わっている!って感じがしましたね。ちなみにその現場が、今でも伝説になっているほど肉体的にも精神的にもすさまじくって……。それでこの業界を辞めていった人も多かったんですが、僕はそのすさまじい感じや混乱したところが自分の性にあっていたのかな? 楽しかったとは思わないけど、あの現場にいたことがどこか自分の自信になったところもあります。

映画館のあり方がどんどん変わっていますが、今後はどのようになると思いますか?

映画館がなくなっていくのかもしれないですね。音楽で考えると昔は巷に音楽が溢れていたけど、今ではみんなイヤホンをしていて。そうやってよりパーソナルになっていくのかも。ただ、僕たちは映画館で観てもらうためのモノをつくっているので、やっぱり映画館で観てほしいという気持ちはあります。大きなスクリーンで観て分かることもあると思うので。それから映画館で観ると他人と共有できます。いい作品を観てみんなで話すのも盛り上がりますが、ひどい作品を観るともっと盛り上がります(笑)。そう考えると映画館ってひとつのコミュニケーションの場でもあると思います。一人で面白いかどうかを判断するより、多くの人と観てあーだこーだ言うのは楽しいですね。

2本目が撮れるプロになるためにはネタを探す目を養う

監督にとって映画監督に必要なことは何だと思いますか?

“野次馬根性”ですかね?興味があるものは取りあえず覗いてみるという気持ちが大事だと思います。昔、映画監督になろうとすると、助監督をやって現場を知ってしばらくしてから映画監督になるというのが当たり前で、かなり時間がかかりました。でも今では携帯電話で撮ることもできる時代です。そうやって誰でも監督になれる今、重要になってくるのが、どこまでプロなのかってこと。1本目は撮れるけど2本目はテーマが見つからず撮れない……という人が増えていると思います。そういうときに大事なのがネタを探す目です。これを養わないと、作品は生まれてこないと思います。

何事も興味を持つということが大事ですね。

そこで好きなモノや自分が撮りたいモノを見つけていけばいいと思います。ちなみに同じ映像を扱うにしても、僕たちが始めたころと違って、今は、CGやアニメなど細分化されてたくさんの種類の映像表現があります。それらを意識しながらモノをつくることも今の人たちには大事ですね。せっかく世界が広がっているのだからそれを利用しないなんてもったいない。そして一番大事なのは“好きであり続ける”こと。これは大前提です。僕がここまで映画監督を続けられているのも、映画を好きであり続けていたからだと思います。

 

取材日:2019年8月27日 ライター:玉置 晴子 ムービー:村上 光廣

『閉鎖病棟―それぞれの朝―』

キャスト:笑福亭鶴瓶 綾野剛 小松菜奈
坂東龍汰 平岩紙 綾田俊樹 森下能幸 水澤紳吾 駒木根隆介 大窪人衛 北村早樹子
大方斐紗子 村木仁 / 片岡礼子 山中崇 根岸季衣
ベンガル 高橋和也
木野花 渋川清彦 小林聡美
原作:帚木蓬生『閉鎖病棟』(新潮文庫刊)
監督・脚本:平山秀幸
配給:東映 ©2019「閉鎖病棟」製作委員会

ストーリー

11月1日(金) 全国ロードショー
長野県のとある精神科病院。それぞれの過去を背負った患者たちがいる。母親や嫁を殺めた罪で死刑となりながら、死刑執行が失敗し生き永らえた 梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)。サラリーマンだったが幻聴が聴こえ暴れ出すようになり、妹夫婦から疎んじられているチュウさん(綾野剛)。不登校が 原因で通院してくる女子高生、由紀(小松菜奈)。彼らは家族や世間から遠ざけられても、明るく生きようとしていた。そんな日常を一変させる殺人事件が院内で起こった。加害者は秀丸。彼を犯行に駆り立てた理由とは—– ?

プロフィール
映画『閉鎖病棟―それぞれの朝―』監督
平山 秀幸
1950年生まれ、福岡県出身。大学卒業後、長谷川和彦監督作『青春の殺人者』(’76年)の進行係として映画界入り。1990年『マリアの胃袋』で監督デビュー。『ザ・中学教師』(’92年)で日本映画監督協会新人賞を受賞。『学校の怪談』シリーズが大ヒットし、『愛を乞うひと』(’98年)でモントリオール世界映画祭国際批評家連盟賞など数々の賞を受賞。『ターン』(’01年)、『笑う蛙』(’02年)、『必死剣鳥刺し』(’10年)、『エヴェレスト 神々の山嶺』(’16年)など監督作多数。

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