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映像2021.08.04

沖田修一監督最新作『子供はわかってあげない』「上白石萌歌さんと細田佳央太さんにはキャラクターの日常を実際にやってもらいました」

vol.030
映画『子供はわかってあげない』監督
Shuichi Okita
沖田 修一

軽やかで味わい深い傑作として支持を集める田島列島の同名コミックを、『南極料理人』の沖田修一(おきた しゅういち)監督が映画化した『子供はわかってあげない』。家族とともに楽しく暮らしている、上白石萌歌(かみしらいし もか)演じる朔田美波(さくた みなみ)。

彼女は、書道部男子の細田佳央太(ほそだ かなた)さんが演じるもじくんとの出会いをきっかけに、美波は幼いころに別れた実父、友充(演:豊川悦司)の居場所を探し当てます。そして海辺の街で夏休みを一緒に過ごすことに……。高校生の青春を瑞々しく描きながらも、温かい空気が流れるユーモアあふれるこの夏の話題作です。今回は沖田監督に、マンガと映画の違い、映画作りで大切にしていること、上白石さんや細田さんらが行ったキャラクター作りについて、などを語って語ってもらいました。

 

無理に“要素”を入れずに映画として魅力的な部分を活かす

原作を映画化のオファー前から読まれていたと聞きましたが。

ずいぶん前ですが、なんとなくマンガが読みたくなって本屋で何気なく手に取って読んだのがこの作品でした。なんか不思議な世界で面白いなって。そして上下巻という長さもちょうどいいし、映画になりそうって思っていたんですよ。

それも柔らかな印象から勝手に女性監督かな?って。別に誰も何も言っていないんですけど(笑)。そうしたら「数年後、監督をやってみませんか?」とお話しをいただいて。好きな作品でご縁もあってお受けしました。

荒唐無稽かつ甘酸っぱさが残る原作を2時間で描ききるのは難しくなかったですか?

確かに。原作のキャッチコピーですが「水泳×書道×アニオタ×新興宗教×超能力×父探し×夏休み」なんてたくさんの“要素”があったので、それを全部映画にするのはなかなか難しいと思いましたね。

さらに意外とユーモアの中に観念的なセリフがあったりする作品なので。何を削って、どこを膨らますかは悩みましたが、そこは脚本家のふじきみつ彦さんと、プロデューサー皆で話し合いながら進めていきました。

ただ、脚本には時間がかかりました。書き終えては丸っとやり直しを繰り返して……。予定していた時期に撮影ができなくて完成が1年くらい延びたのですが、その間も書いていて。まぁ夏しか撮影できない作品だったので、ここでダメなら来年、と踏ん切りがついたのは逆によかったかもしれないです。

映画は美波と友充の親子の物語になっていました。

今回、初めてのマンガ原作の映画化ですが、無理に要素を入れ込まなくていい気がしました。もじくんのお兄さんの千葉雄大さん演じる明大(あきひろ)。彼の探偵としての活躍などハードボイルド的な部分は、あえて描かなかったです。“美波がお父さんに会いに行く”という親子の話の方が映画として分かりやすかったし、魅力的になるなって。

 

マンガと比べて人間が演じる映画には“声”がある

二人をつないだ劇中アニメ『魔法左官少女バッファローKOTEKO』のキャラクター

マンガと映画の表現方法はやっぱり全く違いますか?

当たり前ですが映画には“声”があります。もちろんマンガはセリフがあるので、読む人によって“声”を想像しているとは思いますが、映画はそれをはっきり明示します。明大も原作では見た目が女性なんで、声はどっちの方がいいかな? と悩みましたね。

あと、マンガは頭身が少し小さく書かれていて、美波も中学生やもっと小さい子に見えがちなんですが、実際は18歳という設定。その「子供と大人の中間をどう描こうか」とも悩んで……。想像していたシーンを実際に撮影してから気づくことがたくさんありました。

やっぱり映画は人間が演じるんで生々しさがあるんですよ。ただ、逆に人がやった方が伝わることもあるというか。そういう部分を映画では強調しています。

上白石萌歌さんの美波、細田佳央太さんのもじくんがすごく自然な演技をしていたのも印象的でした。

上白石さんは当時19歳だったのですが、本当に美波っぽいんですよね。それこそ大人と子供の中間で。飄々(ひょうひょう)としているんですよ。細田くんもいまどき珍しいくらい純粋で真面目な若者でした。

役になってもらうために、クランクイン前になんとなく準備期間が取れたので、上白石さんには水泳、細田さんには書道を実際にやってもらいました。上白石さんはこれまで大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(NHK/2019)をはじめ、いろいろなドラマで泳ぎの演技をやっていたのですが、背泳ぎはこの作品が初めてだったそうです。でも本当に上手で。そうやって役の得意なことや日常を実際に体感して、二人が美波やもじくんになっていったような気がします。

同じことをして役が馴染んでいくんですよ。それをやる時間があったのがありがたかったし楽しかったです。それらは台本になかったりするのですが(笑)。

それはお2人だけなのですか?

朔田家を演じた皆さん、斉藤由貴(さいとう ゆき)さんと古舘寛治(ふるたち かんじ)さん、上白石さんと弟役の浦田統くんには実際に遊園地に行っていただき遊んでもらいました。

今思うとかなり無理なことをお願いしていますね。そしてそんな4人をチラチラ見るために後ろから僕たちがくっついていって(笑)。結構ヤバい集団に見えたかもしれません。

役作りの一環としてこのようなことを昔からされているのですか?

いや、ここまではないですね。初めてですよ。そしてみんなもびっくり(笑)。でも楽しさや関係性を画(え)に持ち込みたかったので。考えると本当にやってよかったなと思います。

 

この年齢になったから? 感情移入したキャラクターは実のお父さん

豊川悦司(とよかわ えつし)さん演じる実のお父さんは、マンガとはまた違ったリアルかつ面白いキャラクターに仕上がっていましたが……。

あれは豊川さんならではですよね。豊川さんに決まってからは、こんなこと言ったら面白いかな? など、なんとなく想像して書いている部分もありました。娘に対する複雑なお父さんの気持ちは、描いていて面白かったです。

僕自身、高校生の娘がいるわけではないのですが、何か一人で舞い上がっちゃうところとか、娘と一緒にいたいと思うところとか、すごく分かるなって。3歳で会えなくなった娘が高校生になって訪ねてきたら、何を話していいか分からないけどうれしいはずなんで。

自分がこの年齢になったというのもあるのかもしれないですが、どこかお父さんの物語としても見ているところがありました。一番感情移入できたキャラですね。

監督のお気に入りのシーンを教えてください。

最初の朔田家のシーンですね。何気ない朔田家の日常をロングカットで撮ったんですが、すごく大変で……。正直、撮影のときに感じた吐き気まで覚えています(笑)。 セリフなんてあってないようなもので、みんなのグルーヴでできあがったものというか。

段取り臭くならないように、何気ない会話や行動で“幸せ家族”を作っていく。弟役の子はセリフがなく、行動だけを指示しながら自然にやってもらって。本当の家族が描けたような気がします。

ラストの屋上のシーンも圧巻でした。

あそこもよかったですね。ここは上白石さんと細田くんが、がんばってくれたというか。めちゃくちゃ暑い日の屋上なのに二人ともすごく集中してくれて。こちらからは台本以上のことはちょこちょこと話したくらい。あとは俳優に任せました。

上白石さんの涙は本当にすごかったですね。マンガみたいだったのでびっくりしました。ちょうどクランクアップの日だったこともあり「最後にやるだけやって終わろう!」みたいな感じもよかったのかも。全てをラストシーンにぶつけられたと思います。

 

これまでの蓄積されたものが作品に反映される

そもそも、監督はなぜ映画監督を目指されたのですか?

そこまでマニアックではなかったんですが昔から映画は好きで、高校生のころには映画関係の仕事に就きたいと思っていました。そして日本大学芸術学部映画学科に入学して映画がより身近になっていって……。

自分で脚本とかを書くようになったら、書いたからには撮らなきゃ形にならないと思い、自分で撮るようになりました。映画と言っていいものなのかは微妙ですが、短編映画みたいなものをちょこちょこ撮っていました。で、作ったらやっぱり見せる。その繰り返しの中で仕事になっていったという感じです。

大学では「監督コース」を選んだのですか?

それが、「撮影・録音コース」を選びました(笑)。学費が高かったので払いがいのあるコースの方がいい気がして。機材とか触れるようになった方が手に職をつけられて、将来、仕事として活かせそうだと思っていたんですよ。

ただ行ってみたら全然モチベーションが上がらなくて(笑)。やっぱりカメラマンより監督がやりたかったんでしょうね。自分でもよく分かっていなかったんですが。

そこでも脚本を書いて、撮影して、を繰り返していたのですが、すごくよかったのは、自分の周りは技術者ばかりだったこと。その人たちに手伝ってもらって撮っていました。そのなかで単純に作る側にいたい、という自分の気持ちが分かってきました。

学生時代から映画を撮っていた沖田さんは、監督になるために努力していたことなどありますか?

これというのはないですね。皆でこういうのを撮ったら面白くない? こういうのを作らない? というのをひたすら繰り返していただけです。

とくに学生時代は全部自分たちでやらなければいけないので、ロケ場所を借りに行ったり、かけ辛い電話もたくさんしなきゃいけなかったりと疲れることがたくさんあったんですよ。でも今思い出すとそれすら楽しかったですね。

映画製作に対する気持ちは変化していますか?

もちろん変わったり、ぐるぐる回ったりといろいろしています。いいことも悪いこともいっぱいあるんで。

こっそり新人のつもりでいるんですけど、そういうわけにはいかないときもたくさんあって。無知はすごい力になったりするのですが、知ってしまった故に強くなれなかったり、人の気持ちを気にしすぎてやりたいことができなかったり、昔はできていたことができなくなったり……。

もちろん今しかできないこともあります。これからもずっと変化し続けるのだと思いますね。常に葛藤。何かを悩みながら現場にいる感じです。

監督はクリエイターにとって何が大事だと思いますか?

健康。これが一番ですよ。もうセンスとか言っていられない(笑)。監督はやっぱり現場の頭なので、そこが動かなくなったら全員が何をしたらいいか分からなくなってしまう。監督はそれだけ責任がある仕事なんですよ。

そう考えたらやっぱり健康でいなきゃ。あとは、やっぱり過去の知識の蓄積ですね。どんなものもそうだと思いますが、やっぱり「過去のものを見て習え」ですから。これは監督だけではなくカメラマンや俳優なども同じ。過去の何かしらの作品をイメージしながら作品に携わっていると思います。

今回の作品も過去作からインスパイアされたものはあるのですか?

そうですね。僕はこの撮影へ入る前に参考になるかと『バタアシ金魚』(90年)を見たんですが、見返したら単純に面白いなと。10代の女の子が水の中でぷくぷく浮かんでいるシーンなどは印象的でしたね。

やっぱり自分の作品には、これまで影響を受けているものが投影されている部分はあると思います。そのためにも、いい作品をたくさん見ることは大事だと思いますね。

取材日:2021年6月30日 ライター:玉置 晴子 ムービー撮影・編集:椎名 健司

『子供はわかってあげない』

🄫2020「子供はわかってあげない」製作委員会 🄫田島列島/講談社

8月20日(金)全国ロードショー

出演:上白石萌歌 細田佳央太 千葉雄大 古舘寛治 / 斉藤由貴 / 豊川悦司

監督:沖田修一 脚本:ふじきみつ彦 沖田修一 音楽:牛尾憲輔 原作:田島列島『子供はわかってあげない』(講談社モーニングKC刊) 企画・製作幹事:アミューズ 制作プロダクション:オフィス・シロウズ 配給:日活

公式サイト:https://agenai-movie.jp/
🄫2020「子供はわかってあげない」製作委員会 🄫田島列島/講談社

 

ストーリー

高校2年、水泳部女子の美波はある日、書道部男子のもじくんとの運命の出会いをきっかけに幼い頃に別れた父親の居所を探しあてる。何やら怪しげな父にとまどいながらも、海辺の町で夏休みをいっしょに過ごすが。。。心地よい海風、爽やかに鳴る風鈴。…超能力!?そして、初めての恋に発狂しそう!お気楽だけど、けっこう怒濤の展開。誰にとっても、宝箱のような夏休み。はじまりはじまり~。

プロフィール
映画『子供はわかってあげない』監督
沖田 修一
1977年生まれ、愛知県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。数本の短編映画の自主制作を経て、2002年に発表した『鍋と友達』が第7回水戸短編映像祭にてグランプリを受賞。2006年には、初の長編となる『このすばらしきせかい』を発表。2009年、『南極料理人』が大ヒットを記録し、国内外で高い評価を得る。2012年には『キツツキと雨』が第24回東京国際映画祭にて審査員特別賞を受賞し、第8回ドバイ国際映画祭で日本映画初の3冠受賞を達成。その後、『横道世之介』(13年)『滝を見にいく』(14年)『モヒカン故郷に帰る』(16年)『モリのいる場所』(18年)『おらおらでひとりいぐも』(20年)などを手掛けた。

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