映像2020.11.04

大庭功睦監督が『滑走路』で商業作品で初メガホン! 夭折の歌人・萩原慎一郎の想いを水川あさみ、浅香航大らが物語へ昇華

Vol.020
映画『滑走路』監督
Norichika Ooba
大庭 功睦
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32歳の若さで命を絶った歌人・萩原慎一郎の歌集を映画化した『滑走路』。そこにはいじめや非正規雇用を経験しながら、それでも生きる希望を託した短歌が収録され多くの共感を集めています。そんな作品を、『シン・ゴジラ』(16年)の助監督や『マチネの終わりに』(19年)で監督助手として関わった大庭功睦(おおば のりちか)さんが監督し、歌集をモチーフにした群像劇として新しい物語を誕生させました。

自死した青年の死の真相を探る厚生労働省の鷹野(浅香航大)、子どもを欲しいと思いながらも夫とすれ違いを感じる切り絵作家・翠(水川あさみ)、幼なじみを助けたことで、いじめられるようになった学級委員長(寄川歌太)の3人の人生が描かれる本作。

大庭監督に本作の誕生について、演技について、映画への熱い思いについて語っていただきました。

歌集に散りばめられた点を線で結んで映画にしていった

歌集をモチーフにされていますが、どのように物語を紡いでいきましたか?

歌集には作者の萩原さんが日常の中で感じた一瞬の感情が瑞々しく描かれていたのですが、それらの感情の閃きを点だとすれば、映画ではそれをストーリーという線で結んでいく作業が必要で。

すぐに思いつくのは、萩原さんご本人を投影した人物を登場させたり、学級委員長の物語、つまり萩原さんの若き頃をフィーチャーしたストーリーですが、それだとこの歌集が持っている、散りばめられた点の多様なあり方みたいなものを拾いきれないなと思って。

そんなとき、この歌集のWebの書評欄を見たんです。そこには、若いころいじめられた過去を持つ人、非正規雇用者など、映画で描かれている人生と同じような生き方を余儀なくされている方たちの、実体験をふくめた気持ちのこもったレビューが多数書かれていました。

それで、これだけ読んだ人が自分のことのように受け止められる作品なら、散りばめられた点を無理に束ねずに、群像としてストーリーにしていけばいいとひらめいたのです。

そこで、30代後半に差し掛かった切り絵作家の翠、厚労省の若手官僚の鷹野、いじめの標的になった中学2年の学級委員長といった、年齢も性別も違う3人がメインの物語になったんですね。

そうなんです。とはいえ、映画としては3人の話が完全に独立しててもダメで。群像という形は取りつつも、この3つの点がつながっていくところに物語のカタルシスを設けられたらと思いました。

今回は脚本を桑村さや香さんが担当されていますね。どのような話し合いのもと、物語を作られたのですか?

最初に、桑村さんが歌集を読んでイメージしたストーリーをいくつか持ってきてもらい、その中から切り絵作家の翠の話を膨らましていきました。僕は僕で、鷹野のパートに関しては具体的なアイデアがあったので、それらを合体させて、そこに二つのエピソードの架け橋となる中学生のエピソードを織り込みながら組み立てていった感じです。

僕はどちらかというと分析的な目で見てロジカルに物を考える人間ですが、桑村さんは直観的な方で、ポンといきなり素晴らしいアイデアを出してくるタイプ。それに桑村さんは、劇的なことを自然なエピソードとして描くことに長けているんですよ。

僕もそういう作り方を心がけているので、桑村さんの描き方は結果的に演出にもフィットしたと思います。

あと何よりも言いたいことを全部言える間柄だったのがよかった。僕の言ったことを桑村さんもきちんと受け止めて返してくれましたし、桑村さんもやりたいことがブレなかった。充実したやり取りができました。

映画はキャッチーさと繊細さの両方が必要だと思う

人生に悩む主人公を演じた、水川あさみさん、浅香航大さん、寄川歌太さんの演技も素晴らしかったです。

僕は、映画って作り込むほどに観客の日常に由来するリアリティからどんどん離れがちになると思います。もちろん、ハリウッド作品のように、ダイナミックな物語やスペクタクルな画(え)作りなどキャッチーな魅力で引きつけるという面もありますが、それと同時に、僕はやはり観ている人の細かい感覚のひだにまで届くような繊細さも必要だと思います。

そんな「キャッチーさ」と「繊細さ」の両方を兼ね備えているのがこの3人。ちゃんと役をインプットして、表現するときに役に引きずられすぎず、自分の感情もプラスして力強く演じる……。表現者としての力を存分に発揮していただけたと思います。

現場ではどのようなディレクションをされたのですか?

僕がお芝居をするわけではないので、現場では歩くスピードや表情のニュアンス、目線の位置など具体的なことを言うのみでした。

撮影前にいろいろお話をさせていただきました。水川さんは出演が決まってすぐに「話がしたい」と連絡をくださり、翠という役について細かいところを含めて話し合うことができました。水川さんの方から、こちらの懐に飛び込んでいただいた形です。

そのときに話したことの一つに、翠と夫の拓己(水橋研二)は表面上うまくいっているように見えて、実はわだかまりがあるように見せたいので、大事なセリフを言うシーンまで「視線を交わさないで欲しい」というのがありました。

会話をしていてコミュニケーションは取れているようだけど、その2人の間にある溝を表現したくて。水川さんも水橋さんもそれに乗ってくださったんですが、実際現場に入るとどうしても視線が合っちゃうんですよ(笑)。

これには困ってしまいましたが、現場判断で“視線が合ってもすぐそらす”ようにしてもらいました。そしたら逆にこれが、気まずさを表現していて……。イメージしていたよりさらに良くなりました。

周りからの感想はいかがでした?

ご覧いただいた方によって感情移入する登場人物が違うのが面白くて。でもそのバラバラなところが、この作品の発端になった歌集のレビューの有り様とまさに一緒なので、企画意図が実現できた証だと思っています。

あと、山根貞男さんという尊敬する映画評論家の方から、いじめの標的になってしまった学級委員長が校舎の廊下に飾ってある絵を見てクラスメートの天野(木下渓)と話をする場面、あのシーンを褒めていただいて。

これは僕も撮っていてコンテと芝居がうまくハマッたと思っていたので。そこを褒めていただけたのがうれしかったです。

人と協力してひとつの作品を作るのが映画の魅力

本作が商業映画監督デビュー作になりますが、自主映画と商業映画の違いを感じましたか?

自主映画は“自分で撮りたいものを、撮りたいように撮る”というワンストップなんですよ。すべて自分の好きなようにやるという。一番の違いはそこですね。

脚本に桑村さんがいらっしゃって、2人のプロデューサーとともに作品としてどう成立させるかを考えていく作業。意見を最大限尊重し合いつつ、譲れないところはしかと主張し、4つの脳から絞り出すように1つの作品を作り上げていった感じが、群像として描くこの作品に合っていたと思いますし、作品がより多層的になって厚みが出たと思います。

例えば、自主映画はシナリオを書くときどうしても主観になりがちですが、今回は桑村さんが主観的になっているなら僕は客観的になってより幅広い視線で作品を観ることができました。

自分一人で作っていると、自分の想像を超えるものはなかなか生まれないですもんね。

そうですね。映画ってやっぱり人と作るものだと改めて感じました。その人との関わり方、または他者感覚が映画の形や手触りに影響してくると思います。

人を一つの円だとすると、その円と他の円が重なりあうところに表現が生まれるといったような、その円と他の円が重なりあうところに表現が生まれるといったような、そんなイメージです。その重なる面積、形、色によって生まれてくるものは全く変わってくる。そんなことを改めて考えさせられる制作でした。

逆にこれは頑張りたいと感じたことはありますか?

現場で出したOKはもちろん全て嘘のないものですが、もう一押しやってみてもいいかな?と思っても「もう1回」と言えなくて。ただ、現場は映っているものだけではなく、俳優とスタッフの呼吸や意識が一番乗ったときにOKを出すことも大事だと思っています。

それによって得られる現場の躍動感が、その先の演技をよくしていくことも多々あるので。ただ、もしかしたら粘る勇気がもっと必要かもしれないです。そういう意味では僕はまだこれからかもしれません。

いい画(え)が撮れたときの喜びはかけがえのないもの

映画監督を目指したきっかけは何だったんですか?

親が映画好きだったので、よく一緒に映画を観ました。僕が住んでた田舎町では決して起こらないだろうサスペンスやスリラーなどの作品が好きでした。非現実的なところに憧れたのかもしれないです。

そのまま映画少年になり、映画を作る仕事にあこがれるようになったんですけど、でも同時に「下手に映画に手を出して才能がないことがバレたらどうしよう」という怖さもありました。でもそういう自分をぶち壊したいと思って。

日本映画学校に入学したのが転機になりました。学校では、僕は退路を断つような気持ちで臨んでいたので、周りの人とは覚悟がちょっと違ったかもしれないです。

これまでの自分をぶち壊したいと思った理由はあったんですか?

自分の弱さをひた隠しにして、「才能はあったかもしれないけど機会に恵まれなかったんだよ」などと一生言い続けるような大人にだけはなりたくないと、その一念ですね。

「立ち直れないぐらいの挫折を経験してしまうかもしれない」と考えると、一歩踏み出すのは怖かった。それでも映画の世界に飛びこみたい気持ちの方が強かったです。

学校で映画について深く勉強していくにつれ、僕はすぐには監督にはなれないと気づきました。3年学んだだけじゃ知識も経験も全く足りない、そんな半端な道じゃないなと。なので卒業後は、まず現場で、映画作りを学んでいかなければと思い、助監督をするようになりました。

助監督時代を含めて、辞めようと思ったことはありますか?

初めて見習いの助監督として入った現場がすごくきつくて。3週間ほどの撮影だったのですが、毎日2時間ほどしか寝られず、ヘロヘロでした。クランクアップのときは大抵皆で喜ぶんですが、僕は全然喜べなかったですね。「この仕事を続けたら、これが永遠に続くんだ…」と、その時「やめるなら今だな」と思いました。

でも「ここ辞めたら負け犬だな」とも思って。右も左も分からないのに仕事をミスしたら蹴られて怒鳴られて、当時は現場が厳しかったから「こんな理不尽に屈したくない」と。だって屈したらゼロじゃないですか。

なので、頑張って自分に下の人がつくような立場になったら、僕が味わった理不尽さを解消したいと思いました。監督になりたいという気持ちより“意地”の方が強かったです。

それがいつからか「楽しい」に変化したのですか?

楽しいはほとんどないですよ(笑)。100の出来事のうち2くらい。でもそれがすごく濃いんですよ。助監督としてついてて、自分の裁量でいいカットが撮れたときなど、脳内麻薬がドバッと出るんです。自分が関わってこのシーンが生まれたんだと実感したときはすごく楽しい。それに依存してやっている状態です。

迫力と迫真性をもった映画を撮り続けていきたい

今後はどのような作品を撮りたいのですか?

昔から戦争映画を撮りたいんです。僕の祖父は戦争に行きました。生死をかけた戦いをしていて、あと10cm立っている位置がズレていたら流れ弾に当たって死んでいたという経験があり……。そういう人が肉親にいるのが驚きで。戦争が終わって75年経ってその記憶はどんどん薄まっていて、最近ではそういうことを実感できる最後の世代なのかもと思うことがあります。

なので、戦争の無残さや激しさを映画が持っているイメージの喚起力をフルに活用して伝えられたらと思っています。塚本晋也監督が『野火』(15年)のようなすごい作品を作られましたが、僕は大岡昇平の原作を初めて読んだときに圧倒されて「映画化したい」と思いました。その気持ちは今も変わらないです。

『プライベート・ライアン』(米、98年)のように少数の兵士にスポットを当てて、その精神性に深く分け入る映画を作ってみたいです。

映画の魅力は何だと思いますか?

モーションとエモーションにおける迫真性だと思います。僕は高校時代に観たコーエン兄弟の『バートン・フィンク』(米、91年)にめちゃくちゃ衝撃を受けました。

ジョエルとイーサンという2人の天才、本来なら彼らの頭の中にしか存在しないことが、あたかも今そこに実在するような迫真性をもっているのに圧倒されて。それこそが映画の魅力だと思っています。

監督がクリエイターとして大事にしていることを教えてください。

僕は長い映画の歴史の中で培われてきた物語や技術を、畏敬の念をもって引き継いでいく意志が必要だと考えています。そのうえで、今しか作れないものを作って、これから先に渡していく。過去と未来の結節点になる必要があるんです。

特に僕は、よき職業監督になりたいと考えているので、その思いが強いです。軽くない役割だと思いますが、その責に耐え得る仕事を続けていければと思っています。

取材日:2020年9月15日 ライター:玉置 晴子 ムービー撮影・編集:加門 寛太

『滑走路』

ⓒ2020「滑走路」製作委員会

11月20日(金)全国ロードショー

出演:水川あさみ 浅香航大 寄川歌太 木下渓 池田優斗 吉村界人 染谷将太 水橋研二 坂井真紀 原作:萩原慎一郎「歌集 滑走路」(角川文化振興財団/KADOKAWA 刊) 監督:大庭功睦 脚本:桑村さや香 主題歌:Sano ibuki「紙飛行機」(EMI Records / UNIVERSAL MUSIC) 撮影:川野由加里 照明:中村晋平 録音:西正義 装飾:小林宙央 音楽:永島友美子 編集:松山圭介 VFX:田中貴志 助監督:桜井智弘 制作担当:赤間俊秀 製作:「滑走路」製作委員会、埼玉県/SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ 制作プロダクション:角川大映スタジオ、デジタル SKIP ステーション 配給:KADOKAWA ©2020 「滑走路」製作委員会 PG12

 

ストーリー

厚生労働省で働く若手官僚の鷹野は、激務の中で仕事への理想も失い無力な自分に思い悩んでいた。ある日、陳情に来た NPO 団体から非正規雇用が原因で自死したとされる人々のリストを持ち込まれ追及を受けた鷹野は 、そのリストの中から自分と同じ 25 歳で自死した青年に関心を抱き、その死の理由を調べ始めるが──。

公式HP:kassouro-movie.jp
プロフィール
映画『滑走路』監督
大庭 功睦
映画『滑走路』監督 大庭 功睦 氏 1978年まれ、福岡県出身。熊本大学文学部卒業後、日本映画学校(現・日本映画大学)映像科に入学。卒業後、『ガリレオ』(2007年)、『進撃の巨人 反撃の狼煙』(2015年)などのドラマや『シン・ゴジラ』(2016年)『マチネの終わりに』(2019年)など数々の映画の制作に携わる。2010年染谷将太主演『ノラ』を自主製作。「第5回田辺・弁慶映画祭」にて市民審査員賞、「第11回TAMA NEW WAVE」にてベスト男優賞(染谷将太)を受賞。2018年には『キュクロプス』を自主製作し、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018」にてシネガー・アワード、北海道知事賞をダブル受賞。「第18回ニッポン・コネクション」および「第15回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」の国内長編コンペティションでも正式上映された。

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