WEB・モバイル2016.02.24

奇跡的にできた絶妙なバランスで成り立つ 唯一無二のクリエイティブ集団「Rhizomatiks」

Vol.124
株式会社ライゾマティクス 代表取締役/クリエイティブ・ディレクター 齋藤精一(Seiichi Saito)氏
著しい進化と拡大を続けているデジタル業界。その中で、秀逸なクリエイティブでアートと広告を両立する稀有な存在として注目を集めている会社があります。それがウェブから空間におけるインタラクティブ・デザインまで、幅広いメディアをカバーする高い技術力と表現力を併せ持ったクリエイター集団「Rhizomatiks(ライゾマティクス)」です。国際的な評価も高い彼らですが、国内では広告の仕事よりむしろ、2015年の「六本木アートナイト」、「MEDIA AMBITION TOKYO」といったアートプロジェクトでその名が知られています。

自身もクリエイター、アーティストとして、世界中からオファーの絶えない多忙な日々を送る代表の齋藤精一さんに、今年(2016年)、設立10周年のアニバーサリーイヤーを迎えた「ライゾマティクス」について伺いました。クリエイターとして、アーティストとして、経営者として、様々な視点を持つ齋藤さんの目線の先にあるものとは?

 

美術作家であるために、 アートと広告の両輪でライゾマティクスを旗揚げ

 昨年(2015年)12月に東京青山のスパイラルホールで行われたダンスインスタレーション「border」。観客がパーソナルモビリティ「WHILL」に乗って舞台を体験する。

昨年(2015年)12月に東京青山のスパイラルホールで行われたダンスインスタレーション「border」。観客がパーソナルモビリティ「WHILL」に乗って舞台を体験する。

「ライゾマティクス」を立ち上げて、どのくらいになりますか?

会社を設立して、ちょうど10年目になります。2016年の7月で10周年を迎えるので、記念展覧会など色々な企画を考えているところです。「ライゾマティクス」という名前についてはそれ以前、2001年から使っていました。真鍋(同社取締役 真鍋 大度さん)と一緒にアメリカでインスタレーションをやった時が最初です。

「ライゾマティクス」という名前には、どのような意味があるのですか?

僕と真鍋が共通して好きな思想に、「rhizome (リゾーム)」というものがあって。ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』という哲学書の序章に出てくる言葉です。「地下茎」、簡単にいうと「根っこ」みたいな意味です。「根っこ」って、本質がある部分じゃないかと思っていて。技術的に新しいことを追求し、新しい表現を創るという僕たちの仕事に対する思想にもマッチするし、響きのかっこよさもあって「ライゾマティクス」という名前をつけました。

会社を作ることにしたきっかけは何だったのでしょうか?

2003年の越後妻有アートトリエンナーレをきっかけに、僕はアーティストとして日本へ帰ってくるつもりでした。しかし、日本でアーティストとして作品だけで生計を立てることは難しいということもわかっていました。実際、アメリカにいる時もアーティストとしての活動とは別に、企業のウェブサイトを作ってお金を稼いでいました。広告として、デジタルクリエイティブはお金になる時代だということを実感していたんです。だから、日本でも広告で生計を立てようと思いました。 とはいえ、すべてをマネタイズするという発想ではなく、作りたいものを作りつつ、その中でマネタイズできるものをマネタイズしていくという発想で、真鍋や千葉(同社取締役 千葉 秀憲さん)も同じ方向を見ていたので、自然と一緒に会社を作ることになりました。つまり、「アートと広告を両輪」とすることは設立当初からのコンセプトでした。

ライゾマは、奇跡的にできた会社 絶妙なバランスを保てている現状規模がベスト

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ライゾマティクスにとって「競合」は、ありますか?

なかなかうちと同じような体質、思想の会社はないと思うんですよ。ライゾマティクスは、ウェブから空間におけるインタラクティブ・デザインまで、扱うメディアが広いですし、アートや研究開発といったリサーチの活動を絶妙なバランスで行うことができている奇跡的な会社です。ウェブ制作とかステージ制作とか、1つの分野で切り取って見ると、近い会社はあるかもしれませんが、全体的な活動で考えると、完全に競合にあたるような会社はないですね。

スタッフの方は、何名くらいいらっしゃいますか?

社員は今、35名ほどです。一般公募で募っていますが、フリーランスや取引先として一緒にやっていた方が仲間になっていくというケースも多いですね。新卒採用は行っていません。なんらかの技術に特化した方でないと、いきなり入ってもなかなか難しいと思います。ですので、入社の際にスキルセットは必須条件です。また入社時から3年後のスキルのレベルは向上していて欲しいと思いますが、そのために、特に何かを教えるとか教育するということではなく、各々の仕事をやる中で成長していくことが理想です。そのために、みんながつくりたいもの・やりたいことをやれる環境をつくることが僕の仕事だと思っています。 もう1つ、採用の際に求めることは「人間力」。他の人たちときちんとコミュニケーションが取れることです。本当にベーシックなことですが、当たり前が当たり前として通用することとスキルがあることのバランスって案外難しかったりもするんですよね。

今後、会社の規模を大きくしていくことは考えていらっしゃいますか?

僕個人としては、規模を大きくしていくという考えはありません。というのも、これ以上大きくしてしまうとプロジェクトについても人についても把握ができず、クオリティの確保が難しくなってしまいます。僕たちの考え方やライゾマの精神みたいなものが薄まるのではないかと危惧しています。 うちはもともと、自分たちが作りたいものを作るために設立した会社です。誰も作ったことのないもの、見たことのないものを作る会社。今いるメンバーは、ちゃんとそのライゾマのDNAをもっていて、自分ができること・求められていることを把握して動くことができています。特にKPIを課しているわけではないのですが、それぞれが特化した技術に応じて、アートと広告のどちらもバランス良く表現しているんです。だから、人数が増え過ぎた時、その思想が薄れてしまうのではないかという懸念が大きく、人数規模の面では今がベストだと思っています。

では、アートと広告のお仕事のバランスについては、どのようにお考えですか?

特に比率を何:何にしていこうと考えているわけではありません。 うちは、アートという「根っこ」があるからこそ、みなさんを魅了する広告をつくることができたと思っています。アート作品を制作する中で試した技術や表現を広告の仕事へフィードバックする、そういうシステムを持っているのです。その強みを活かして、時代のあり方に臨機応変に対応していきたいと考えていす。この先、社会がどうなっていくのかは、わかりませんからね。 以前は、インスタレーションが広告表現として受け入れられるなんて、想像できませんでした。それが、今ではバイラルフィルムやステージ演出などで求められるようになりました。もちろん、僕たちとしてはそうなったらいいなと思って、周りを啓蒙してきたつもりですが、今のような状態は想像していませんでした。

アートプロジェクトの推進は、先人の義務

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齋藤さんは、会社の枠を超えて幅広い活動をされていますよね。

美術の世界にいるアーティストたちも、食べていけるような世の中にはなって欲しいと思っています。まだまだ日本では、アーティストが作品で生計を立てることが難しいのが現状です。社会のしくみといった背景もありますが、何よりアーティスト自身が積極的にビジネスチャンスを掴める場があることが大事だと思います。 「六本木アートナイト」や「MEDIA AMBITION TOKYO」は、それを目指すプロジェクトです。美術の世界の人たちにビジネスの機会と表現の場を与えたいと考えて、参加しました。僕自身アーティストとしていろいろな困難に直面した経験がありましたから、若い人たちは、できるだけそういうことをショートカットして進めるようにしたいと思っているのです。それは、先人の使命ですよね。

他に、今、注力している活動はありますか?

「まちづくり」です。「地方再生」という言葉はよく耳にしますが、それらは本当にワークしているんだろうかという疑念からの興味があって参加しました。テクノロジーは、「まちづくり」にもっと活かせると思うんですよ。いろいろな人が「地方ICT」についていろいろな考えを提唱していますが、僕は、「decentralize」つまりセンターを持たないということだと考えています。独立採算というか、地方は地方のなかでエコノミーが完結している状態にもっていくということです。 地方の情報をデジタイズし、シェアしていくことがその第一歩だと思います。それぞれの地域で求めているもの、困っていることを可視化してシェアしていく。逆にそれがあり余っている地域もあるかもしれない。そこからマッチングが始まるのです。デジタル、クラウド、オープンデータ、そんな言葉が叫ばれる今の時代にこそ、やっていくべきことだと思います。

「まちづくり」に関して、実際にどのような活動をされているのですか?

2015年の12月に開通した仙台の市営地下鉄東西線のブランディングをお手伝いをさせていただきました。地下鉄を単なる乗り物ではなく、付加価値を見つけて「まちのコミュニケーションツール」にしていくという、市民参加型のプロモーションです。僕は他の5人のクリエイターと一緒に、映像やCM制作で参加させていただきました。 他にも、「石巻2.0」という東日本大震災を経験した石巻市をバージョンアップさせるためのプロジェクトに参加して、地元の工業高校でワークショップを開いたりもしています。

1つ達成した瞬間に、“次の目標は何なのか?”を見つける

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2020年に向けて、考えていらっしゃることはありますか?

才能のある人たちに囲まれている人間として、何か必ずやるべきだと思っています。 僕個人としては、「まち」を使って何かを表現するということにすごく興味があります。広告は、どうしてもお客様が遠い。「まち」で何かを表現することは、ギャラリーで作品を発表するのと似ていて、自分たちがつくったものが人々にどう受け入れられているのかを間近で確かめることができます。 KDDIさんが増上寺で行ったユーザー参加のイベント「FULL CONTROL TOKYO」が、まさにそういう例でした。誰でも観れて、誰でも参加できて、誰もがハッピーになれる。そんなまちをつくれたらいいですね。

最後に、クリエイターに向けて、メッセージをお願いします。

伝えたいことはいっぱいあるのですが(笑)。一番大切なことは、自分の「やりたいこと」「つくりたいもの」を見つけることです。色んな先人たちが言っている、当たり前のことですが。今、どんな学科でどんな分野のどんな勉強をしているということよりも、これから何をつくりたいのか?そこを定めることの方が重要だと思います。ゴールが見えると、そこに辿り着くための道筋が見えて、必要なスキルや知識を必ず得ることができます。つくりたいものは、音楽でもバイクでも、何だっていいと思うのです。焦点を絞って見つけていくことが大事です。 でもこれって、プロになると忘れがちなことなんですよ。1つ達成した瞬間に、次の目標は何なのか?もっとその先の目標は何なのか?ということを見定めることをしないと仕事の仕方がブレたり、ルーティンになったり、モチベーションを失うことにもなります。 クリエイターを目指している方、クリエイターとして活躍している方、そして僕自身も含めて、「何をつくりたいのか」これだけは常に持ち続けましょう。

取材日:2015年12月11日 ライター:的場友見

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Profile of 齋藤精一

1975年神奈川県生まれ。株式会社ライゾマティクス代表取締役。東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師。東京理科大学、コロンビア大学にて建築学を学ぶ。卒業後ニューヨークでクリエイティブ活動を開始。2003年「越後妻有トリエンナーレ」入賞を機に日本でのクリエイティブ活動を開始し、2006年にライゾマティクスを設立。次々と新しいクリエイティブを世に送り出し、多数の広告賞を受賞。世界的に注目される存在に。「六本木アートナイト」や「MEDIA AMBITION TOKYO」などのアートプロジェクトの推進役も務める。

株式会社ライゾマティクス:http://rhizomatiks.com/

 
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