映画『HOKUSAI』企画・脚本の河原れんが語るクリエイターの心得「表現したい気持ちを信じる」

Vol.192
映画『HOKUSAI』企画・脚本/作家
Len Kawahara
河原 れん
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伝説的な浮世絵師・葛飾北斎の生涯をたどった映画『HOKUSAI』が公開中です。本作で企画・脚本を務めた、河原れん(かわはら れん)さんが明かしたのは、映画製作の裏側にあった苦労。そして、クリエイターとしての矜持(きょうじ)でした。

また河原さんには作家としてのお話も伺いました。「地べたに這いつくばり床をなめるような気持ちで。それができなければやらない方がいい」という編集者の言葉で“作家としての覚悟”ができたという河原さん。来歴からクリエイターへのアドバイスまで聞いたインタビューです。

 

映画『HOKUSAI』を企画の裏側にあった河原さんの苦労

多くの方が知っているだろう浮世絵『冨嶽三十六景』。他にも多くの名作を残した浮世絵師・葛飾北斎。本作は彼の知られざる生涯にスポットを当てた作品です。どういったきっかけで、北斎をテーマにした映画を作ろうと思いついたのでしょうか?

神奈川県の三浦海岸へ友人の5歳になる息子さんを連れて行ったとき、その子が水平線上の富士山を見て「北斎だ」と言ったのがきっかけでした。

おそらく北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を想像したんでしょうけど、その言葉をきっかけに「北斎の人生を私たちはどれほど知っているんだろう」と考えるようになって。

日本人でありながら、海外の偉人より知らないことばかりというのも「恥ずかしい」と思い調べ始めたら、逸話もたくさんある魅力的な人物だと分かり、これは作品にできると思いました。

北斎は「歴史的資料がほとんど残されていない」そうですね。映画は史実とフィクションを織り交ぜた魅力的な作品に仕上がっています。脚本作りではさまざまな苦労があったと思います。

物語を作るための基礎となった年表作りは、大変でした。北斎がどのような生涯を歩んできたのか、時系列をしっかりと記録した資料はなかったので。

北斎のそれぞれの作品が出た時期を縦軸として、浮世絵師の喜多川歌麿や版元の蔦屋重三郎との出会いや、記録が残っている周辺人物が語っていた“北斎像”もたよりに、想像に想像を重ねて完成させていきました。

また、北斎については「報酬をもらってもその辺に投げておいた」「人生で90回も引っ越した」など逸話がたくさん残っています。これらはどこを切り取っても話をふくらませられるんです。ただ、一つ一つのエピソードを全て書いていくと脚本としては膨大な量になってしまう…。そこでところどころをかいつまみながらプロットを書き、決定稿まで30回ほど書き直しました。

作り手としての苦労の先で、ようやく気持ちが開放されたのはいつでしたか?

2019年12月24日。クリスマスイブの日、編集作業がようやく終わったときにホッとしました。脚本だけの作品ではそこまで立ち会いませんが、元々の企画から携わっていましたので。

作業中は橋本一(はしもと はじめ)監督と、お互いのこだわりをぶつけていました(笑)。脚本どおりに撮影した映像をすべて繋ぐと約3時間40分ほどになってしまい、それを約2時間に収めるために、どこを切るべきかと意見を交わして。役者さんがじっくり演じてくださった成果で、カットするには惜しい場面ばかりだったのでだいぶ悩みました。

 

北斎と重三郎のような関係性。作家としての自分を作った編集者からの厳しい言葉

北川景子さん主演で映画化もされたデビュー小説「瞬」や、生野慈朗(しょうの じろう)監督と共同脚本の映画『余命』など、過去の作品は現代劇が続いていました。一方、今回の映画『HOKUSAI』は時代劇です。その違いはありましたか?

いえ、北斎自身は現代風にいえば“ロックスター”のような生き様ですが、それは、江戸時代であっても現代であっても変わらないと思いました。

現代のスターたちの偉人伝にもそれぞれ「苦しみもがく時代」がありますが、北斎にもそれと似た苦労があったと思います。結局、クリエイターはオリジナリティを見つけようとし、自分が何を表現したいのかともがいているんですよ。

北斎は若いときから絵は上手でしたけど、作品づくりのために通った美術館でその絵を見たら面白くないと感じることもありました。色々な修行先でも上手いと認められるけど、すぐに辞めてしまったりと、彼はきっと「なぜ、自分らしい絵が描けないのか」と葛藤していたとも思えるんです。

結果として、北斎は重三郎に才能を見出されて浮世絵師として大成していくわけですが、そこまでのクリエイターとしての苦労は、やはり普遍的なものだと気が付くことができました。

その北斎と重三郎の関係で言うと、河原さんにとって、クリエイターとしての自分を引き上げてくれた方はいましたか?

幻冬舎の編集者・菊地朱雅子(きくち すがこ)さんです。文芸界を代表する編集者の方ですが、菊地さんがいなければ、作家や脚本家なんて仕事はできていなかった。

十数年前、デビュー小説『瞬』の初稿を送ったら、翌日に「出版しましょう」と返事をいただいて。そこから、作家として必要なことを数多く、厳しく、叩き込まれたのも覚えています。

その初稿にみっちりと修正箇所が書き込まれていたのもいい思い出。今となっては、自分が編集者だとしたら、しょせん他人である作家に対して、あそこまでやらせる強い思いを持てるかと…本当に感謝しかありません。「作家となるからには地べたに這いつくばり床をなめるような気持ちで。それができなければやらない方がいい」と菊地さんに言われて。それがこの道で生きていく覚悟を決められた理由です。

 

心に残った出演者の言葉「夢中になれるものを作れるのは幸せだよね」

 

クリエイターとして、作品作りのアイデアを見つけ、ふくらませるために日頃から心がけていることは?

世の中へのアンテナは常に張っています。ただ私は流行を追うのではなく、離れた場所からフワッと「俯瞰して見る目」を大切にしていて。いわゆる“神の視点”をなるべく意識しているんです。これってクリエイターであるならば誰もが持っておくべき姿勢だと思います。

習慣化している座禅が、その目を養うのに役立っているかもしれません。座禅は感覚的にまっさらにもなれてリセットできますし、息抜きにもちょうどいいんですよ。クリエイターは一つの作品へ没頭すると、追い込まれてストレスを抱えることも多いと思います。

また現代は物を書いたり、描いたりするのにパソコンへ長時間向かうとか、物理的にも追い込まれやすい環境にあると思うんです。そんなときは座禅をしながら深呼吸をして頭や体をほぐすんです。朝の数十分ほどですが、だいぶリラックスできます。

今日からでも座禅を実践したくなりますね。具体的なアドバイスが出たところで最後に、このサイトを見ているクリエイターの方々に向けてメッセージをいただければと思います。

自分が何を表現したいのか。その気持ちを信じるのが一番だと思います。作品作りには正しいも間違っているもないし、実現させるための方法も無数にあるので、信じた通りにやればいい。

結果的に、世の中から評価されずに苦しくなるときもあるけど、自分なりに、この仕事を選んだからにはその時に出せる限りの全力を作品に注ぐしかないと思うんです。

今回の映画で舞台挨拶があり、晩年の北斎を演じた田中泯さんが「撮影中は夢中だったよね」「夢中になれるものを作れるのは幸せだよね」と言ってくださったのですが、本当にそのとおりだなと思って。

小説でいえば、今日書いた5ページ分を明日にはすべて消したくなるような日もあります。それでも瞬間的にでも楽しめるときが来るのであれば、クリエイターとしてはすごく幸せではないかと思います。

取材日:5月27日 ライター:カネコシュウヘイ

 

河原れんさんが企画・脚本を担当した映画「HOKUSAI」にちなんで、北斎館のエコバッグ「神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」をプレゼントいたします。ご応募お待ちしております!
ご応募はコチラ

『HOKUSAI』

©️2020 HOKUSAI MOVIE

全国公開中

主演: 柳楽優弥 田中 泯
玉木 宏 瀧本美織
津田寛治 青木崇高 辻󠄀本祐樹 浦上晟周 芋生 悠 河原れん
城 桧吏 永山瑛太 / 阿部 寛
監督:橋本 一 企画・脚本:河原れん 音楽:安川午朗
配給:S・D・P
製作:「HOKUSAI」製作委員会
©️2020 HOKUSAI MOVIE
公式サイト:www.hokusai2020.com 公式SNS:@hokusai2020
第33回 東京国際映画祭 クロージング作品

 

ストーリー
何があっても絶対に諦めず、描き続けた、その先にー。腕はいいが、食うことすらままならない生活を送っていた北斎に、ある日、人気浮世絵版元(プロデューサー)蔦屋重三郎が目を付ける。しかし絵を描くことの本質を捉えられていない北斎はなかなか重三郎から認められない。さらには歌麿や写楽などライバル達にも完璧に打ちのめされ、先を越されてしまう。もがき苦しみ、大自然の中で気づいた本当の自分らしさ。北斎は重三郎の後押しによって、遂に唯一無二の独創性を手にするのであった。ある日、北斎は戯作者・柳亭種彦に運命的な出会いを果たす。二人は良きパートナーとなっていく。70歳を迎えたある日、北斎は脳卒中で倒れ、命は助かったものの肝心の右手に痺れが残る。それでも、北斎は立ち止まらず、旅に出て冨嶽三十六景を描き上げるのだった。そんな北斎の元に、種彦が幕府に処分されたという訃報が入る。その後も生涯、ひたすら絵を描き続ける。描き続けた人生の先に、北斎が見つけた本当に大切なものとは…? 今だから、見えるものが、きっとあるー。

プロフィール
映画『HOKUSAI』企画・脚本/作家
河原 れん
東京都出身。上智大学法学部卒業後、2007年にデビュー作の長編小説「瞬」で作家の道へ。同作は、2010年に北川景子主演で映画化。以降、テレビドラマ化された小説「聖なる怪物たち」や「女優堕ち」、東日本大震災ノンフィクションをテーマにしたノンフィクションノベル「ナインデイズ 岩手県災害対策本部の闘い」を刊行。松雪泰子主演の映画『余命』では、生野慈朗監督と共同で脚本を担当。絵本や書籍プロデュースなども手がけ、クリエイターとして幅広く活躍。

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