自分を開示すれば人も心を開いてくれる。ラブレター代筆屋小林慎太郎に学ぶ、人付き合いのコツ

Vol.184
ラブレター代筆屋
Shintaro Kobayashi
小林 慎太郎

IT企業の人事部で働きながら、気持ちを伝えたい人をサポートする「ラブレター代筆屋」をしている小林慎太郎さん。 依頼者になりきって、ラブレターを書く。その活動を支える土台には、人間関係を構築するうえで意識したいことや、世の中に文章を発信する際に役立つヒントが隠れていました。

ラブレター代筆屋を始めたきっかけも含めて、詳しく伺いました!

勇気が出ない人は、僕のところに来てほしい

さっそくですが、まずは「ラブレター代筆屋」の仕事内容を教えてください。

あまり聞き慣れない仕事ですよね(笑)。「ラブレターを渡したいけど、自分で内容をまとめられない」という人のために、代わりに文章を考える仕事です。「プロポーズしたい」「復縁したい」「感謝の気持ちを伝えたい」など、依頼内容はさまざまです。 代筆と言っていますが、仕事の範囲は文章を提案するところまで。特別な理由がない限り、文字を書くのは依頼者にお願いしています。

文字から伝わる人間性や感情があると思うのと、あとは単純に、僕が書いたら、ラブレターを渡した相手に、筆跡で「他の人が書いた」とバレてしまうので(笑)

実際に、どんな流れで仕事が進んでいくんですか?

ホームページやSNSから依頼を受けたら、まずはヒアリングをします。「誰にラブレターを送りたいのか」「どんな気持ちを伝えたいのか」「手紙を渡す目的」など、時間をかけてお話を伺っていきます。

仕事で一番時間をかけるのは、「ヒアリング」です。依頼者の気持ちを理解しないと、ご本人になりきってラブレターを書くことはできないから。

「この人は、家ではどんな過ごし方をしているんだろう?」まで考えるんです。依頼者の日常までイメージできるようになったら、やっとラブレターの執筆にとりかかります。

小林さんの運営するデンシンワークスHP http://dsworks.jp/

AbemaTVの番組で、お笑い芸人「EXIT」の兼近さんになりきって、相方のりんたろー。さんにラブレターを書く企画もしていましたね!手紙の内容を拝見したんですが、「兼近さんが書いたのでは?」と疑ってしまうくらい、ご本人らしさが詰まっていて驚きました。

ありがとうございます!あのとき実は、ご本人にヒアリングができなかったんです。EXITさんのインタビュー記事を読みまくったり、SNSの投稿を細かくチェックして、兼近さんのイメージを膨らませていきました。

それがよかったのか、ファンの方にも「かねちーっぽい!」と喜んでいただけました。

ラブレターの依頼者を理解するために、意識していることはありますか?

「依頼者と会う前の時間」を、すごく大切にするようにしています。メールが届いたらすぐに返信したり、文章を丁寧に書くようにしたり。

代筆屋を始めたばかりの頃は、「お会いしてからが勝負!」と思っていたんです。そのせいで、依頼者が僕に警戒心を持ったまま顔を合わせることになってしまい、ヒアリングが上手にできないこともありました。

会う前から、人との関係性は作れるんですよね。対面以外のコミュニケーションを重要視し始めたら、会話がスムーズに進むようになりました。

「会う前の時間」を意識するのは、ラブレター代筆屋以外の仕事でも大切ですね!今までの依頼の中で、特に印象的だったことはありますか?

依頼内容はすべて濃いので、何か一つというものはないですが……。僕の想像を超えていた依頼だったのは、「自分から自分への手紙」です。

「応援されたい」「励まされたい」「好きと言われたい」。そういった気持ちを、「自分自身からの言葉で満たしたい」という依頼があるんです。実際に自分で手紙を書くよりも、自分になりきった他人の文章を読むことで、救われる気持ちがあるんだと思っています。

あとは、「ラブレターを渡そうと思っていたけど、話してスッキリしたからもういいです」と、依頼をやめる方もいました。

そんなこともあるんですね!自分の気持ちを言語化したことで、未練が断ち切れたんでしょうか?

ずっと言えなかった気持ちを吐き出したことで、区切りがついたのかなと思います。人に話すだけで、前に進めるときもありますから。

ラブレター代筆を始めた頃は、告白かお礼の手紙くらいしか想定していませんでした。でも、ふたを開けてみたら、自分では想像していなかった依頼も多くて驚いています。僕が思っている部分以外にも、この仕事の価値があると思うとうれしいですね。

「こんな人にラブレター代筆屋を使ってほしい」という願いはありますか?

僕に依頼してくる人の中には、2つのパターンがあるんです。「文章をうまく書けない」と悩んでいる人と、「気持ちを伝える勇気が出ない」と困っている人。ぜひ依頼してほしいのは、勇気が出せない人です。

文章がうまく書けない人は、うまいと思えないままでいいから、自分で書いたものを渡したほうがいい。ラブレター代筆屋だからって、誰よりもうまい文章が書けるわけでありません。自分で書けるのであれば、それに越したことはないんです。

気持ちを伝える勇気がない人は、ぜひ僕のところに来てほしいです。人と話しているうちに、「気持ちを伝えてみよう!」と思えるかもしれないし、こんがらがった思考を整理できるかもしれません。一歩を踏み出すお手伝いができれば、僕もうれしいです。

自分を開示すれば、相手も開示してくれる

小林さんがラブレター代筆屋の仕事を始めたのは、何がきっかけだったんですか?

端的にいうと、「自分にとって楽しいことを追求したくなったから」です。 会社員としての仕事は、自分の裁量だけで決められないことも多いですよね。30代半ばになって、「これからの人生、やりたいことを思い切りやらなくていいのか?」と思ったんです。

ビジネススクールに通ったことも、きっかけになりました。経営について学ぶことができたので、「自由に決断できる仕事で得た知識をアウトプットしたいな」と。副業を始めたばかりの頃は、他にプレゼン指導や就活生の面接指導もやっていました。

小林さんは、本業はIT企業の人事なんですよね。プレゼンや面接指導はイメージできるんですが、ラブレター代筆屋だけ異色ですよね……?

僕自身が、昔からラブレターで気持ちを伝えることが多かったんです。直接話すのは苦手だったので、手紙に書いて渡していました。周りにその話をすると、「ラブレターをもらってみたい」「渡してみたいけど書き方がわからない」という声が多くて。

そこで、「独学だけど、ラブレターを書いていた」過去があるから、ラブレターをもらいたい人と、書きたい人の、橋渡しができるんじゃないかと思ったんですよね。 「ラブレター代筆屋」の響きもキャッチーで面白いかなといざやってみたら、代筆の依頼がずば抜けて多かったので、一本に絞ったんです。

ご自身でラブレターを書いていたのは、何かきっかけがあったんですか?

小学生のときに、下駄箱に手紙を入れてくれた女の子がいたんです。たった一言、「すき」って書いてあって。それが、すごくうれしかった。ものすごくドキドキして、一気に相手を意識するようになりました。

手紙の力を、そこで実感したんだと思います。それから、相手に気持ちを伝えたいときは手紙を選ぶようになりました。

ちなみに、手紙をくれた女の子とはその後どうなったんですか?

残念なことに僕からは、手紙のことを何も聞けなくて。やがて彼女は転校してしまって、それきりです。小学校時代の、甘酸っぱい思い出ですね。

先ほど「直接気持ちを伝えることが苦手だった」とおっしゃっていましたが、対面でのコミュニケーションも?

人と関わること自体が、あまり得意ではなかったです。人への興味も薄かったし、相手の気持ちを想像することも苦手でした。

大学卒業してすぐは、システムエンジニアとして働いていたんです。その仕事を選んだのも、人との接点をあまり持たなくていいと思ったからで。

システムエンジニアから、どうして人事に?

僕の希望ではなく、会社の意向だったんです。システムエンジニアの適性があまりにもなかったのか、もう少し人と関わってほしいと思われたのか。どうしてなのか、自分でも分からないんですよね。

異動したばかりのころは、不満もありました。「システムエンジニアとして入社したのに、どうして?」って。人付き合いが苦手な自分に務まるとも思えませんでした。

ただ、そこはやっぱり会社命令なので、やらないわけにはいかない。なんとか人事の仕事と向き合い、人と関わるうち、少しずつコミュニケーションの苦手意識が薄れていったんです。

いきなり人事の仕事をするようになって、余計にコミュニケーションが苦手になる可能性もあったかと思います。どうして、人との関わりを前向きに捉えらえるようになったんですか?

仕事で人と関わるうちに、自分のことを開示すれば、相手も開示してくれると気付いたんです。相手が気持ちをオープンにしてくれると、やっぱりうれしいんですよ。会話も弾むし、何を言ったらいいのか分からない不安も薄らぐ。

働きながら、自然にコミュニケーションの勉強ができたんだと思います。人事をやっていなかったら、ラブレター代筆屋もやっていなかったと思います。

文章のうまさは差別化にならない

文章を発信する場がインターネットの中に増えて、自分の書いたものを人に見てもらいやすくなったと感じています。同時に、「この文章でいいんだろうか?」と不安を感じる機会も増えたと思うのですが、どうすれば「人の目に触れる不安」を払拭できると思いますか?

自分の書いた文章が人の目に触れることに、怖さを感じるのはよくわかります。

でも、自分の中に書きたい衝動があるなら、どんどん書いて発信していけばいいと思います。人目に触れる不安が強いなら、書いても発信しなければいいだけ。

自分の文章を発信するときに不安を感じるのは、書きたい衝動以外に、何か別のことを考えているからじゃないでしょうか。

別のこと、とは……?

「SNSでバズりたい」「お金を稼ぎたい」「評価されたい」など、書きたい気持ち以外のことです。言ってしまえば、書くこと以外に、頭を使う余裕があるんですよね。

書きたい気持ちに没頭できないなら、いっそのこと「書かない」のも、選択肢の一つです。「文章を発信する不安」と、「書きたい気持ち」を比べて、「不安はあるけど書きたい!」と思えることが大切ではないでしょうか。

書きたい衝動があれば、「上手に書けているかな」と気にしすぎなくてもいい?

文章レベルは、正直あまり考えなくてもいいと思います。SNSやブログの文章を読むと、うまいと思う人が今は本当に多いんですよ。だからこそ、文章の上手い下手は差別化にならない。

人をひきつける文章は、うまいかどうかよりも、書いた本人の熱意がこもっているかだと思います。どんな気持ちで書いているのか、文章で何を伝えたいのか。

書きたい衝動が文章からにじみ出ていれば、それで十分だと思いますよ。

取材日:2020年11月11日 ライター:くまの なな

ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。

ラブレター代筆屋として出会った人たちとの、実際のやり取りを綴った一冊。「遠距離恋愛中の彼女にプロポーズしたい」「離婚した妻と復縁したい」など、大きな決断の手助けをラブレター代筆屋に求めてくる依頼者。依頼者の気持ちと真摯に向き合うラブレター代筆屋の感情が、素直に描かれています。

プロフィール
ラブレター代筆屋
小林 慎太郎
1979年東京都に生まれる。立教大学を卒業後、IT企業に入社。会社員として働きながら、「自分が楽しいと思えることを追求したい」と、ラブレター代筆屋の活動を開始する。これまでにCX「アウト×デラックス」、TX「ABChanZoo」、NHK「おはよう日本」、TBS「グッとラック!」、TMX「5時に夢中!」に出演。
■ホームページ:http://dsworks.jp/
■Twitter:@DenshinWorks

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