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CREATIVEクリエイティブ好奇心

「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」は完全にインディペンデント、かつ自主製作映画にこだわる世界でも稀有な映画祭です

Vol.156
ぴあフィルムフェスティバル(PFF) 総合ディレクター 荒木啓子さん
全国に数多ある映画祭のなかで、40年の歴史を持つ「ぴあフィルムフェスティバル」(以下PFF)。“新しい才能の発見と育成”を掲げ、多くのすぐれた監督と映画を世に紹介してきた。中心となるコンペティション部門「PFFアワード」では、これまで森田芳光、塚本晋也、石井岳龍、園子温、荻上直子など、名だたる監督を輩出。およそ120人の入選監督が映画・映像の第一線で活躍しており、PFFの映画業界への貢献は計り知れない。1992年よりPFFの総合ディレクターを務める荒木啓子さんに、映画祭について、映画の現在地と今後の展望についてうかがった。

映画を愛し続けてきた「ぴあ」の映画祭に、忖度はいっさいなし。

ここ数年は国内でも多くの映画祭が開催されています。先駆けであるPFFはどのような性格の映画祭ですか?

PFFは、公募作品から⼊選作品を選んで、各賞を決めるコンペティション部門の「PFFアワード」を<発見>、このコンペティションおよびPFFアワード応募者にぜひ体験してほしい映画を紹介する「招待作品部門」を含めた映画祭「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」を<紹介>、そして新⼈監督を劇場デビューさせる映画製作「PFFスカラシップ」や海外映画祭を体験する「場」などを<育成>として、<発見><紹介><育成>を3つを軸に活動しています。

PFFが他の映画祭と違うのは、民間企業であるぴあ株式会社が主催してスタートしたこと。1972年に創刊した⽉刊『ぴあ』は、⼤学の映研で映画を作っていた学⽣が、より多くの⼈に映画を⾒てもらいたいと始めたエンターテインメント情報誌です。彼らにとって8mmで⾃主映画を撮っている⼈たちは、『ぴあ』と併走する⼤切な存在でした。その後、『ぴあ』の認知が高まるなか、⾃主映画の監督を世の中に紹介しようと、1977年にPFFをスタートさせました。2017年4⽉にPFFの趣旨に賛同する法人、団体の支援をいただき、PFFを公共的な活動として⼀般社団法⼈化しました。

PFFは当初からインディペンデントで、かつ⾃主映画にこだわり続けてきました。忖度はいっさいなし。それは今もブレていません。純粋に最初の理念を貫き通すことが⼤事なんです。そんな映画祭は世界じゅう探しても他にありません。もともと映画祭はヨーロッパで始まったものですが、ヨーロッパの国際映画祭は映画という文化を使っての国際交流であり、国威高揚であり、国家事業です。PFFとは成り⽴ちも性格も違いますね。

映画祭の総合ディレクターとはどのような役割ですか?

名称はディレクターですが、実際の仕事はプロデューサーと言う方がわかりやすいでしょう。PFFでは映画を紹介するだけでなく、監督の存在を中⼼において、映画の素晴らしさを伝えたいと考えています。そのためには映画祭の哲学が必要。映画祭にとって⼤切なことは何かを追求し、その判断基準となるラインを作ることが、総合ディレクターの重要な役割です。PFFの哲学は、監督を作り⼿としてきちんと扱うこと。まったく無名の監督を高名な監督と同じように扱い、最⾼の設備で⼊選作品を上映すること。クリエイターの誇りを高く掲げることです。

また、「社会における映画とは何か」を考えるのも総合ディレクターの仕事です。映画会社のスタジオで映画を作っていた1970年代までは、映画1本の製作費が3億も5億もかかるのが普通でした。でも、そのシステムは完全に崩壊してしまった。今は3万円でも映画が作れます。PFFスカラシップを始めた1984年と違って、長編映画を作るのも簡単になりました。毎年のように事情が変わっていくなかで、社会における映画とは何かを考え続け、答えを出していくのが私の役割だと思っています。

総合ディレクターとしての仕事の面白さとは何ですか?

作品を通してある人物(監督)の可能性に賭けるのがPFFアワード。私はFacebookもツイッターもやっていないので情報が少なく、幸いなことに余計な先入観がありません。作品を観た後で監督本人に会うのは、作品と本人との間にギャップがあったりなかったりして(笑)。面白いですね。毎年毎年違う⼈に会えるのもこの仕事の醍醐味です。また、映画祭という場所で、観客と映画の出会いの瞬間に遭遇できることは大きいですね。

映画を仕事にするって、映画を好きだ嫌いだ、という感覚がなくなっていくことだと思います。好き、あるいは特別であることは当たり前であると同時に、好悪を超えて、映画について考えていくことが仕事。だから、純粋な「映画ファン」でいること、仕事にしないことのほうが、映画と共にいるには幸せかもしれませんよ。

クリエイターはみな平等。PFFはクリエイターが世に出るチャンスを作りたい。

PFFアワードの審査方法について教えてください。

今年は529作品の応募があり、18作品が⼊選しました。入選作品を決定する審査は16⼈のセレクションメンバーと私で⾏います。いろいろな⼈の視点が必要なので、セレクションメンバーは外部の⽅をメインに構成します。⼀次審査では「1作品を途中で⽌めずに通しで、必ず3⼈以上のメンバーが観る」というルールを設け、⼆次審査では2⽇かけて徹底的に討議します。多数決ではなく合議制です。賞を決定する最終審査は5⼈で構成し、映画監督などトップクリエイターの⽅々に参加いただいています。

これを毎年、一次審査と二次審査は3月から6月にかけて、最終審査は9月にやっています。PFFの審査はすごい丁寧にやっているんですよ。というのは、PFFアワードは応募者を落とすためではなく、新しい才能を発見するためにやっているから。だから、絶対に見落としてはいけないんです。それに付き合ってくれるセレクションメンバーは本当にありがたい存在です。感謝してます。

応募にはどのような条件があるのですか?

応募条件は1年以内に完成した自主製作の映画であること。上映時間、ジャンル、年齢、国籍などの規制はいっさいありません。見せたい映画を応募してくれればいい。映画を作っている人はみな尊く、クリエイターは平等と考えているので、才能ある監督にはチャンスを作って、世間に注目してもらいたい。そういう装置としての映画祭を目指しています。

近年の傾向としては、⼥性監督の⼊選が増えていますね。2018年は応募者の21.7%が⼥性で、⼊選した⼥性監督は18名中8名の44.4%でした。今年のベルリン国際映画祭や⾹港国際映画祭の受賞者は全員⼥性で、⼥性監督の活躍は世界的な傾向です。でも、⽇本は少し事情が違うと思います。職業として成り⽴つかわからない業界に、⽇本の男性が向かわない傾向が始まったのかもしれません。

自主製作の定義はあるのですか?

何をもって⾃主製作とするか、あるいは商業映画とは何か、という議論は常にあります。以前は「誰からも頼まれずに作る映画」が⾃主製作であるという言葉を使っていましたが、今は⾃主映画と商業映画が昔のようにきっぱりと分かれていません。区別するのは難しいですね。例えば、映画学校がすごく増えていますが、学校が製作費を負担する課題作品は⾃主映画と⾔っていいのか。⼀⽅、レイトショーで公開される商業映画はほとんどが⾃主映画です。結局、作り⼿が⾃主映画と思えば、それは⾃主映画なんですよ。⾃主映画かどうかは、作り⼿の⼼の持ちようというか、作品から感じられるスピリッツや香りですね。英語で説明する場合はself-producedという言葉を使ってみたりもしましたが、規定するなら企画、製作、監督、が個人であるもの? しかしやはり、定義というよりはスピリッツかなと思います。

日本全体が冬眠している今、映画人は世界を目指すべし。

これからの映画業界はどうなっていくと思われますか?

1950年代から60年代にかけて、⽇本⼈は何らかの意識を持って映画 を作って、それが世界にアピールするレンジがありました。⿊澤明、⼩津安⼆郎、それに⼤島渚もそうです。ところが、映画産業が衰退して世界をマーケットにするしかないこの時代に、⽇本は世界に目が向いていない。悪い意味で鎖国状態になっている。⼦どもの頃から世界を意識させられた ことがない今の若い世代には、海外との距離が大きく、多くの大人たちと同じくものごとを⽇本の中だけで考えているから、映画がどんどん弱くなって いるんです。これは「映画とは何か」という別の課題になります。この重い課題を考えつつ、⾃分たちの映画祭を運営していくという、2つの視点が必要だと思っています。

ヨーロッパの映画祭で話題にあがりやすいのは、深刻な社会問題があって、それについてもがいている国の映画です。かつてのアフリカ、中東、東欧がそうですね。⽇本の場合、テーマとなる社会問題はあふれているのに、それがクリエイティブにつながらない。この怖ろし いほどの⾃⼰規制はどこから⽣じているんでしょうか。PFFアワードの応募作品には、いじめやDV、幼児虐待をテーマにした映画もありますが、どれも同じような表現で、ディテールを追っていない。表層的で記号的で、まだ自分の問題に昇華してない、あるいは仕方がわからない感が伝わります。

若い監督でも表層的な作品になってしまうのですか?

若いからこそ表層的になってしまうのです。⽇本はお⾦があります、豊かです、平和です、って、思わなくてはならない空気が溢れているでしょう? 現実は違いますよね。でも、⽇本は⼤丈夫、⼤丈夫って⾔い聞かせられて、⽇本全体が冬眠している状態です。この状況の中できちんと問題意識を持った映画を作っても、感応できる⼈が少なくなっているから、映画をはじめ表現が迷走する。かなり切実に危機です。

しかも、⽇本は文化にお⾦をかけなくなっていますよね。若い⼈が映画の仕事で収⼊を得るためには、⾃分が何を作るべきか覚醒して、世界を目指すしかありません。世界で成功すれば収入の桁が違います。そして⼗分な収⼊があれば好きなクリエイションができるし、後進を育てることだってできます。

厳しい状況のなかで、クリエイターがすべきことは何でしょうか?

自分にしかないオリジナリティを追求すること。オリジナリティというのは、誰の真似もしてはいけないということではありません。これならコツコツ続けられるということを、時間を惜しまずに深く掘り下げていく。クリエイティブって、自主映画って、そういうものですよね。やりたいこと、やれることをやるしかない。さらに周りのサポートがあればラッキーですね。今はYouTubeなどで作品を簡単に発表できます。昔と違って窓口は目の前にあるんです。あっという間に世界ですよ。クリエイターにとってこんなに素晴らしい時代はありません。

その一方でなぜ映画祭が必要かというと、そもそも映画とは大勢の人と一緒に観て、驚いたり感動したりするものだからです。映画館のスクリーンで他者と一緒に観る機会を絶やさないことが大事。なぜなら、他者と一緒に観ないと自分の作品の真価がわからない瞬間があるからです。スマホで観る映画はパーソナルなもので、それがパブリックになる瞬間が必要なんです。クリエイティブはパブリックという側面がないと力を持てませんから。それに、一人ひとり反応が違うことを知り、人はみな違うことを体感できるのも貴重な体験になります。

映画を観ている人は、観ていない人より感応力が高いと思いますよ。なぜなら映画って簡単に世界を知ることができるから。たくさん映画を観ている人は、ものごとを面白がる能力が磨かれるはずです。

若い世代が映画館へ行かなくなっています。どうしたら足を運んでもらえるでしょうか?

映画が好きな⼈は、映画を観ない⼈を映画館へ誘ってほしいですね。読書でもスポーツでも何でもそうですが、いったん始めると習慣になるものです。昔は親や近所のお姉さんお兄さんが⼦どもを映画に連れて⾏ったし、学校で映画館に⾏く学校動員もありました。映画って最初は誰かに連れて⾏ってもらうものですよね。家でビデオを観るのもいいし、ひとりで映画館に⾏くのもいい。でも、⼤勢の⼈と⼀緒に観ることが映画本来の楽しみなんですよ。その体験はしたほうがいいと、次代に繋げていくのが映画ファンの使命です。

取材日:2018年7月9日 ライター:根本聡子(Sawa-Sawa)

荒木啓子(あらき けいこ)/ぴあフィルムフェスティバル(PFF)総合ディレクター

雑誌編集、イベント企画、映画と映像の製作・宣伝などを経て、1992年、「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」初の総合ディレクターに就任。PFFアワードの応募促進や選考システムの改善、招待作品部門の充実など、25年以上にわたってPFFを牽引している。

-“監督”の存在を通し、映画の素晴しさを伝える-
ぴあフィルムフェスティバル(PFF)第 40 回記念開催

今年 40 回目の記念開催を迎える、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)は、若手映画監督の登竜門として 1977 年よりその地位を築き、120 人を超える監督たちを輩出。PFF 出身監督の活躍は現在の日本映画界を牽引するのみならず、今や世界からも注目される存在となりました。

  • 日付: 2018年9月8日(土)〜22日(土) ※月曜休館
  • 場所: 国立映画アーカイブ(旧東京国立近代美術館フィルムセンター)東京都中央区京橋3-7-6
  • 内容:PFFアワード2018、招待作品部門では、「ロバート・アルドリッチ特集」や映画講座、関連企画などを予定
  • URL:https://pff.jp

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10/27に渋谷・佐世保・長崎で始まり2/3に佐世保でグランプリ作品が決定する短編映画祭です。
グランプリを始め各受賞作品は、アジア最大級の米アカデミー賞公認国際短編映画祭 Short Shorts Film Festival & ASIA のコンペティションに挑戦します。

  • 2018年10/27(土)~2/10(日)
    1次審査合格作品 無料2次審査上映・舞台挨拶・1次審査合格表彰 @渋谷ユーロライブ(予定)
  • 2018年12/1(土)、2(日)、8(土)、9(日)
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  • 2019年1/13(土)、14(日)
    PFFアワード2018、招待作品部門、映画講座、関連企画などを予定
  • 2019年2/2(土)、3(日)
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  • URL:http://eizousya.co.jp/tanpen/about.html
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