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「うんこに人生を賭けてくれ」と言われて……。大ヒット『うんこ漢字ドリル』を作った人々

Vol.143
株式会社文響社 編集部 マネージャー 谷綾子氏、デザイン室 アートディレクター 小寺練氏
全6冊・3,018の例文すべてに「うんこ」という言葉を使用する斬新な内容。勉強を応援してくれる、メガネとヒゲが特徴的なかわいいキャラクター「うんこ先生」の存在。どこからどう見ても異例の『うんこ漢字ドリル』は、2017年3月の発売以来爆発的なヒットとなり、学習教材の売り上げとしても異例の実績を叩き出しています。『うんこ漢字ドリル』はどのようにして作られたのか。版元である株式会社文響社の編集担当・谷綾子さん(写真右)、デザイナー・小寺練さん(写真左)にお話を伺いました。

「うんこ」にアカデミックな匂いを感じた

すさまじい人気の『うんこ漢字ドリル』ですが、売り上げの最新状況を教えていただけますか?

谷さん:現在(取材日の2017年6月22日)のところ266万3,000部という状況です。おかげさまで、学習教材としてはあり得ない数字で、文響社では過去に『人生はニャンとかなる!』のシリーズで194万部のベストセラーがあるのですが、その記録を3カ月で塗り替えました。シリーズとしては歴代ナンバーワンです。

どのような経緯でこの企画が持ち上がったのでしょう?

谷さん:企画が動き始めたのは2015年3月です。社長の山本から「うんこ川柳」というものを見せてもらって。文字通りうんこを題材にした川柳で、『うんこ漢字ドリル』の例文作者である古屋雄作さんが書いたものです。「こんな感じで、うんこを題材にした漢字ドリルを作りたいんだよね」と言われました。

前代未聞で、かなり突拍子もない企画だったと思いますが……?

谷さん:低学年の子にはウケるかもしれないけど、高学年の子や女の子は大丈夫なんだろうか? という懸念は正直ありました。でも、試しに作ってもらった例文がとにかく面白くて、そのうちにアカデミックな匂いさえも感じるようになりました(笑)。

もちろん事前に入念なリサーチも行いました。学習塾に通うお子さんたちや小学校の先生にご協力いただき、例文を見せて感想を聞いてみたのですが、予想以上に良好な反応だったんです。学校の先生にはさすがに怒られるかも……と思いましたが、「面白いですね!」と言ってくださって。それで本格的に動き始めました。

1,000カットの「うんこのイラスト」をひたすら描き続ける日々

今の形になるまで、たくさん試行錯誤したといううんこ先生のデザイン案。

2015年3月から企画が動いていたとのことですが、実際に制作がスタートしたのはいつ頃ですか?

小寺さん:その年の8月にはデザイン作りがスタートしていました。例文がすべてできる前から、中のフォーマット制作などを始めていたんです。

谷さん:小寺さんは1年生から6年生まで、6冊のデザインやイラストすべてを1人で担当したんですよ。

小寺さん:全部で1,000カットくらいはあると思います。うんこのイラストをひたすら描き続ける日々でした。この役目を引き受けるにあたり、社長からは「うんこに人生を賭けてくれ」と言われました。そこまで言われると、僕も奮い立たずにはいられなくて。作業に集中できるよう会社の近くに引っ越して、うんこ漬けの毎日を送っていましたね。

「うんこに人生を賭けてくれ」なんて、普通に生きていたらまず言われない言葉ですね……。ちなみにこうしたシリーズでは、デザインはすべて1人で作るものなのでしょうか?

谷さん:いえ。通常はデザイナーやイラストレーターなど、複数のメンバーで分業します。小寺さんの場合は対応できる幅が広いので、特別です。

小寺さん:古屋さんが書く例文を見ていたら、「この絶妙にシュールな世界観を崩したくない」「感覚的な部分なのでこれは自分で完成させたい」と思いました。また、イラストのタッチや表現によっては、寒い世界観になると懸念していました。
クリエイターのエゴというか、うんこ愛というか。それで1⼈で任せてもらったんです。デザインは細部まで、徹底的にこだわり抜きました。社⻑の本気度も相当なものだったので、予算は⻘天井。やりたいと思うことはほとんどすべて実現してくれたんじゃないでしょうか。

クリエイターとしては最高の環境が用意されていたのですね。

小寺さん:そうですね。僕は文響社の前はデザイン会社に勤めていて、クライアントワークが中心だったので、「限られた時間と予算で何とかする」のが当たり前だと思っていました。それに比べて今回の仕事は、動き出した時点ではまだ発売日も決まっていなくて、時間とお金をたっぷり使える最高の環境でしたね。

「うんこ」でふざける分、ちゃんとすべきところはちゃんとする

谷さんは編集担当として、どのような役割を果たしていたのでしょう?

谷さん:私は企画者である社長とともに、進行管理やスケジュール管理など編集の全行程を見ていました。

振り返って大変だったと思うことは何ですか?

谷さん:「学習教材」としての期待に応え、教育効果を上げられるものを作ることには神経を使いましたね。「あいげん社」さんという教育図書専門の編集プロダクションに協力を依頼し、例文に問題がないか、学年ごとに難易度は適切かなど、こまかな部分を相談しながら作っていったんです。例えば4年生のドリルに「彼氏」という言葉が出てくる例文案があったのですが、「4年生の子どもが使う言葉としては適切ではない」という指摘をいただきました。そのように、学年ごとに適切な語彙があることを意識して編集していました。「うんこでふざけている分、ちゃんとすべきところはちゃんとしなきゃいけないな」と。

文響社自体、ドリルを作るのは初めての経験だったんです。一見するとシンプルな構成で、作るのは簡単そうに見えるかもしれませんが、制作工程では奥深い工夫をたくさん盛り込んでいます。近しい意味合いのものが並ぶよう出題順を構成したり、すべての漢字の書き順を載せたり。他社さんが出しているドリルも徹底的に研究しました。

小寺さんは制作の過程で、「しんどいな」と感じることはありましたか?

小寺さん:そうですね。細部にこだわる中でどんどんスケジュールが押していき、校閲担当に「少し締め切りをずらしてください……」と頭を下げたこともありました。それでも自分でやり遂げたいという思いが強かったので、デザイナーを増やしてほしいとは考えませんでした。もちろん、流し込みなど人にお願いする工程もあるのですが、デザインそのものは譲りたくなくて。仕上がりもすべて自分でチェックしなければ気が済みませんでした。

「うんこ型」をあきらめた苦渋の決断

デザイナーの小寺さんは、うんこ型の表紙デザインをあきらめるのは苦渋の決断だったと当時を振り返る。

しかし、思う存分にアイデアを反映できる制作環境ですべてを任せてもらえるというのは、クリエイター冥利につきますよね。

小寺さん:でも、デザイナーとして悔しい思いもしたんですよ。判型については当初、通常のB5版横開きで考えていました。でも途中から「うんこにこだわるなら本の形もうんこにしたほうがいいよな」と思うようになって、本気でその方向へ向かっていたんです。うんこ型の表紙デザインや色校正も進めていました。

ところが実際に制作を進めていくと、「うんこ型では体裁上、掲載できる問題数が制限されてしまう」「発売後に書店で並べにくい可能性がある」などいろいろな問題が出てきて……。泣く泣く、本当に泣く泣くですよ、うんこ型をあきらめたんです。

出版社として冷静な判断を下さなければならない局面もあったのですね。

谷さん:そうですね。「読者のことを第一に考えると、書きづらかったり棚に収めにくかったりするのはどうなのだろうか」と。原点に立ち返って考えれば、このドリルの良さは例文の面白さや中身のデザインにあるはずなので、そこに注力しようということになりました。最終判断をする立場の社長は、最後の最後まで悩み続けていましたけどね(笑)。

小寺さん:社長は本当に悩んでいましたよね。あのときがいちばん大変だったんじゃないかな……。「本当にこれでいいと思う?」と何度も聞かれました。まさに苦渋の決断だったんだと思います。僕もかなりショックで、「普通の形にしたらダメだ、ダメなんだ……」と家でもずっと落ち込んでいました(笑)。「うんこ型以上にインパクトを出せるものはない 」と思っていましたから。でも決まったものはしょうがない。普通の形でも最高に目立たせるにはどうしようかと考えて、蛍光色をふんだんに使った「ドリルっぽくない色味にする」という工夫にたどり着きました。

ドリルには勉強する子どもたちを導き、励ます役割として、「うんこ先生」というキャラクターが登場します。この人のインパクトも強いですね。

小寺さん:うんこ先生が今の形になるまでには、たくさん試行錯誤しました。もっとシュールな絵だったり、手書きのゆるい感じだったり、とにかくたくさん描きましたね。アイデアを出しまくり、制作チームでも意見を交わしながら、「お子さんが真似して書いてくれるようなシンプルな絵がいいよね」ということでこのデザインに落ち着きました。

ちなみに僕、「うんこ先生に似ている」といろいろな人に言われるんですよ(笑)。自分に似せたわけではないし、うんこ先生のようなメガネ(丸形のメガネ)に変えたのもつい最近の話なんですけど……。発売後に地元の友だちから電話がかかってきて、「あれ、自分をモデルにしたんでしょ?」と言われました。

谷さん:小寺さんは冬場によくニット帽をかぶっているんですけど、そのときは冗談抜きで本当にそっくりだと思いましたよ。

「教育とエンターテインメント」を追求し、うんこを上回るようなアイデアを

小寺さんは「うんこ先生に似ている」といろいろな人に言われるという。

『うんこ漢字ドリル』が形となり、実際に世に出てからは大変な話題となっているわけですが、感想はいかがですか?

谷さん:何だか、自分自身が付いていけていない感じがありますね。初版は3万6,000部。ここまで反響があるとは予想していませんでした。増刷の対応に追われ、発売後2カ月くらいはうんこ漢字ドリル漬けでした。ようやく最近になって落ち着き、「社会現象ってこういうことなのかな」という実感が湧いてきています。

小寺さん:インスタグラムを見ていると、毎日のようにうんこ漢字ドリルの画像がアップされているんです。お子さんたちが笑顔でドリルに取り組んでいたり、年配の方も楽しそうに見ていたり。それがもうシンプルにうれしくて。うんこ漢字ドリルをギフトにしてくれている人が多いことも知りました。制作中に冗談めかして「若いお母さん同士でプレゼントし合ってくれるかもよ」なんて話していたんですが、まさかそれが現実になるとは……。

今後はどんなことを企んでいるのでしょう?

谷さん:ありがたいことに、シリーズ化のご要望もたくさんいただいています。

ただ、私たちはうんこだけにこだわっているわけでもないので(笑)。社長はよく「教育とエンターテインメント」というテーマを追求して、うんこを上回るような斬新なアイデアを生み出していきたいと言っています。

現在、デザイナーを募集中とお聞きしましたが、どんな人だったら一緒に働きたいと思いますか?

小寺さん:そうですね……。デザイナー目線で言うと「とにかくデザインが好き」で、「情熱を持ってトランス状態に入れる」ような人ですかね。

とは言え、グラフィックデザインだけにガチガチにこだわらなくてもいいと思います。実は僕、もともとは家作りや内装に関わる仕事をしていたんですよ。思い切ってデザインを学び転職したんですが、モノづくりにあたっては今でも「立体的に見る」という癖があります。今回は紙だけじゃなく、うんこ型のテーブルや椅子も作りました。そんな風に、いろいろな角度からアイデアをくれる人がうれしいですね。グラフィックだけじゃなく、いろいろな経験を生かせると思います。うちの社長は面白いことを提案すればどんどん乗ってきてくれる人なので、やりがいもありますよ。

谷さん:確かに、社員のやりたいことを頭ごなしに否定することはなく、柔軟に取り入れてくれる会社だと思います。「予算を付けるから、やるなら責任持ってやりきってね」と言ってまかせてくれる。社長は常々「クリエイターをリスペクトしている」、「応援したい」と言っています。

「自分のアイデアを形にしたい」、「難しいことにも積極的に挑戦したい」というマインドを持っている人には、たまらない環境なのですね。

小寺さん:そうだと思います。社長は「世の中を驚かせるような仕事をしよう」、「ちまちまやるんじゃなくて、大きな挑戦をしよう」ともよく言っています。アイデアを実現したい人なら、それをプレゼンして形にできる場所です。僕はいろいろな業界を転々としてきましたが、クリエイターとして自ら発信していく喜びを感じられる今は、最高に楽しいです。

取材日: 2017年6月22日 ライター: 多田慎介

うんこ漢字ドリル

公式ページ:https://unkokanji.com/

  • 会社名 : 株式会社 文響社
  • 所在地 : 〒105-0001 東京都港区虎ノ門2-2-5 共同通信会館9F
  • 代表者 : 代表取締役社長 山本周嗣
  • U R L : http://bunkyosha.com/
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