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CREATIVEクリエイティブ好奇心

クリエイティブの「楽しさ」「厳しさ」をすべての社員へ プロダクトをつくり、ビジネスを体感する本気の人材教育

Vol.137
株式会社丹青社 経営企画統括部・経営企画室人材企画課 松村磨さん、松山新吾さん、西村愛望さん
大型商業施設から博物館、展覧会・イベントなどの空間づくりを手掛ける株式会社丹青社。そのイノベーティブな発想は、独自の人材教育「人づくりプロジェクト」によって支えられています。入社間もない新入社員がチームを組み、第一線で活躍するデザイナーや職人とともにプロダクトの完成を目指す3カ月。その成果をアウトプットする場として、2016年10月には「人づくりプロジェクト展2016 あたらしいケシキ」が開催されました。同社はなぜ、人材教育にここまでの手間と時間をかけているのか。取り組みを主導する経営企画統括部・経営企画室人材企画課の担当部長・松村磨(まつむら おさむ・写真中央)さんと課長・松山新吾(まつやま しんご・写真左)さんは、「単なる研修ではなく、事業につながる取り組み」と話します。プロジェクトに参加した入社1年目の西村愛望(にしむら めぐみ・写真右)さんからは「大きな自信につながった」という声も。空間デザインをリードする企業での、人材教育の舞台裏に迫ります。

一部上場企業という規模感だからこそ生まれた課題

第137回 クリエイティブの「楽しさ」「厳しさ」をすべての社員へ プロダクトをつくり、ビジネスを体感する本気の人材教育

大掛かりな新入社員教育を始めたきっかけを教えてください。

松村さん:当社のビジネスは「提案して空間をつくる」こと。そこにはデザイナーやクリエイターだけでなく、営業や施工など、さまざまな職種の人間が関わります。どんな立場の人でもクリエイティブな考え方を持てないと、場合によっては「ただ現場にいるだけ」ということにもなりかねないんです。クレームやトラブルが発生した際、何を改善すれば良いのかを考えられなくなってしまうということが起こっていました。

本来「クリエイティブ」とは、誰もが楽しめるようなものであるべきです。「素敵」とか「楽しい」「きれい」というのは、誰もが等しく五感で感じられるものだと思うんです。しかし、デザイナーや職人などのプロフェッショナルの中には、それを楽しく語る人もいれば難しくしてまう人もいるのが事実です。そういうこともあって、かつてはクリエイティブという言葉が、クリエイティブなことをやったことがない人にとって、果てしなく遠い存在になっているような状況がありました。思ったことを素直に言うと「勉強もしていないのにそんなことを言うな」といった反応をされることも。

当社には文系・理系両方の出身者が入社して、さまざまな学部出身者がそれぞれの能力を発揮しています。美術やデザインを学んだことがある人もいれば、そうでない人もいますが、実は最終的なクオリティーに差は出ないんですよ。そんな経験則もあり、クリエイティブというものをもっと自分に引き寄せて欲しいと考え、入社後間もない時期に基礎を固めるための研修としてスタートしました。

新卒採用後のフレッシュな時期だからこそ、こうした教育が重要だということですか?

松山さん:そうですね。現場に出れば、失敗はつきものです。しかし、失敗体験を重ねても、なかなか良い経験として定着しないという問題がありました。その原因の一つには、当社が規模を拡大していく中で、高度に分業し、細分化された業務を担当していることもあったと思います。

もちろん、会社の規模感を生かしていくためにも、分業して各部署が役割を果たすことは重要です。一方、分業することでの壁をクリアにしていくには、クリエイティブを理解しなくてはならない。実際のフローでは協力会社とともに具体的な提案をクライアントに持っていくのは皆がやることなので、「どこからどこまでが自分の仕事」という意識ではなく、「すべての範囲が自分の仕事に含まれているんだ」という認識を持つことが必要だと思っています。

一部上場企業という規模だからこそ生まれる課題なのかもしれませんね。

松村さん:そうかもしれません。小規模な制作会社のうちは濃密なOJTで人が育てられていたのでしょう。しかし、向き合う仕事の量が増えていき、分業していく過程で「それぞれの仕事がつながっている」という意識が薄れてしまって。それを取り戻さないといけないという思いもありました。

技術革新が進み、情報の更新頻度が高まっていく中では、協力会社とのやり取りも日々スピードアップしていかなければなりません。そこへ向き合うことに先輩社員の時間が大きく割かれ、新入社員のOJT教育に手間をかけることが難しくなっていきました。そこでまずは私たちの部署で教育体制をつくることになりました。2005年に立ち上げ、初めは制作部門を対象とした技術教育からスタートしました。

「研修プログラム」ではなく「プロジェクト」として 外部パートナーと真の関係性を築く

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最初は一部の部署だけで行っていたのですか?

松村さん:はい。しかし、研修を行う中で、先ほどお話したようにクリエイティブに携わるのは制作の人間だけではなく丹青社の人間すべてだと気づいたのです。営業部門にしても、クリエイティブを中心に置かずに「予算だ、納期だ」とお金の話ばかりしていては良い提案などできませんし、何よりお客さまにつまらない思いをさせてしまうでしょう。そこからこのプロジェクトは全社に広がりました。

プロジェクトでは、外部のパートナーと組んで制作するのですか?

松山さん:外部のデザイナーさんだったり、丹青社のデザイナーだったり、協力会社さんだったりとさまざまです。本業に近いことを、入ってすぐの新入社員が経験します。3カ月間のプロジェクトのうち、前半の2カ月でプロダクト制作をし、残りの1カ月でプロセス発表のプレゼン準備をするという流れです。

 

3カ月間、新入社員という貴重な戦力を、利益を見込めない教育期間に投じるというのはすごいですね。

松村さん:確かに一見すると、金銭面での利益が見込めない取り組みに映るかもしれません。しかし、「人づくりは研修プログラムではなくプロジェクト」だと私たちは言っているのですが、このプロジェクトはしっかり利益を伴っています。それは何かというと、「外部との信頼感の強化」。そしてそこから生じる「新しいつながりやネットワーク」です。

新入社員は、外部のクリエイターとチームを組む上で評価を得なければなりません。その過程の中ではさまざまな関係者との間で信頼感を築き、強い結束力をつくる必要があります。こういったつながりこそが、後々まで続く真のパートナー関係を生む。むしろこれは、研修というより現業(現場での業務)なんです。実際に取引先である企業さまに参加していただいたり、金融機関に後援で入ってもらったりと、年を追うごとにその輪が拡大しています。

このプロジェクトは「ビジネスの場である」と。

松村さん:はい。新入社員は、導入研修で学んだ技術や知識を応用して、生の現場でのクリエイティブに生かします。そして展覧会というアウトプットの場においては、外部の方々に対して自分の言葉でプレゼンをするという経験をします。新入社員が外部のプロフェッショナルと簡単に接することができるという点では、いい場を設けていると思います。

2011年からは展覧会も開催されていますね。

松山さん:当初はシェルフ展という名で行なっていましたが、ここ3年はシェルフを飛び越え、「人づくりプロジェクト展」として開催しています。制作プロセスやコンセプトを重視して発表しています。自由な状況下でプロダクト制作を行っていますが、「予算」というリアルな制約はある。その中でいかにしてデザイナーの意図を形にしていくか、外部の協力会社を含めたコミュニケーションを通じた学びこそがポイントなのです。

また、この展覧会にはクリエイティブ関係者や教育コンサルタント、経営者など様々な立場の方が来場され、「人材教育」の意見交流の場ともなっています。

「人づくりプロジェクト展2016 あたらしいケシキ」会場の様子写真 太田拓実

「人づくりプロジェクト展2016 あたらしいケシキ」会場の様子
写真 太田拓実

リアルな現場でクリエイターの厳しさに接し、 チーム一丸となってプロダクトを形に

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プロジェクトへ実際に参加した西村さんのお話も伺えればと思います。 まずは、簡単なプロフィールをお聞かせください。

西村さん:私は2016年4月に丹青社へ入社しました。大学時代は芸術工学部の工業設計学科というところで、主にプロダクトデザインやパブリックデザインの勉強をしていました。一つ上の先輩から展覧会の案内をもらったり、お話やアドバイスを聞いたりしていたので、「人づくりプロジェクト」については入社前から知っていました。外部のデザイナーさんといきなり仕事ができて、先輩のフォローもなくシビアな状況のもとで、社会人としての自立心も鍛えられるところが面白そうだと感じていました。

でも、始まる前は正直、不安もありました。実際のプログラムでは、自分たちでデザイナーさんとしっかり向き合い、丁寧に仕事を進めていくという責任感を持てるようになり、プロジェクトに参加したことが今では大きな自信になっています。

 

プログラムは、入社何日目からスタートするのですか?

西村さん:20日目です。それまではビジネスルールの基本を人事部で勉強します。その後は経営企画室のもとで同期入社の仲間とチームを組み、デザイナーさんとの打ち合わせのアポを取ることからスタートしました。私は藤森 泰司(ふじもり たいじ)さんと組むことになりました。

最初の出会いはどのような印象でしたか?

西村さん:藤森さんはどちらかというと物静かな方で、淡々とご自身の思い描いていることを伝えてくださいました。当時の私たちには分からないことも多くて……。でも、「一つのプロダクトを完成させる」という目的は私たちも藤森さんも共通していたので、一生懸命藤森さんの考えを理解し、自分たちの考えも藤森さんに伝えることで、アイデアを形にできるようコミュニケーションを取っていきました。

特に苦労したのはどんなことでしょう?

西村さん:つくり方はどうする? 素材は? 仕上がりは? と、たくさん悩みました。特に予算と納期の制約がある中で完成に向けて進めていくのは、やはり難しかったですね。

途中、藤森さんに「この仕上がりでは納得がいかない」と言われてしまったこともありました。デザイナーさんにサンプルを見ていただいて、了承をいただいた上で制作を始めるというプロセスを、私たちが納期について焦って、素材のサンプルがないまま進めてしまったことがありました。当初のプロセスをしっかり踏んでいれば、そんなことにはならなかった。プロジェクトの中でリアルな仕事の厳しさを感じ、反省するとともに、とても勉強になりました。

参加した同期の中にはデザイン系出身ではない人もいて、最初は専門用語を共有できず苦労するシーンもありました。チームのメンバーで情報を共有し合ったり、助け合ったりして、取り組みを前に進めていきましたね。

実際に制作したプロダクトでは、デザインにどのような意図を込められているのですか?

西村さん:最初の打ち合わせで藤森さんからいただいたのは「裏返しの収納」というワードだけだったのです。スケッチをいただくと、タンスの裏側にあるようなフラッシュ構造の片面を意識した意匠が描かれていました。「普段は見えないところに収納する」という意味です。このスケッチを見て、そのコンセプトの意味を考えていくことで、裏返しの収納という意図が少しずつ分かるようになっていきました。

出来上がったプロダクトを見たときの喜びは大きかったです。実際に工場にも行って、つくる過程を見ていたので、感動はひとしおでした。

※木で枠を組み両側に板を貼ったもの。

3カ月間の経験は、西村さんの中でどのように生かされているのでしょうか?

西村さん:打ち合わせの現場でお客さまとやり取りする際に、具体的なイメージができるようになりました。関係者とのコミュニケーションも、自信を持って臨めるようになったと思います。これまでは営業部門での業務を経験してきましたが、今後はプランナーとして新たな挑戦を始めます。学生時代に学んだこと、プロジェクトで学んだこと、営業部門で学んだこと、これらをすべて生かし、さまざまな視点を持って仕事に取り組みたいと考えています。

ありがとうございます。最後に、松村さんに改めて今後のプロジェクトの展望を伺えればと思います。

松村さん:今後は新卒入社の社員にとどまらず、中堅の社員教育にも力を入れていきたいと考えています。このプロジェクトで課されるお題は、中堅社員にとっても難しい内容だと思います。

経験年数に関わらず「自分の持っていないもの」を自覚することが大切。入社後5年から10年を目安に、業務に慣れてきた社員にも、新たな学びや発見の機会をつくっていければと考えています。今後も丹青社一丸となってクリエイティブ力向上に向けて、この「人づくりプロジェクト」をさらに強化し、拡散していきたいですね。

取材日: 2016年12月5日 ライター: :多田慎介

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