グラフィック2013.10.23

『かみの工作所』 ~町の印刷所が生み出す魔法のような紙作品とは

Vol.98
福永紙工株式会社 社長 山田明良さん
精巧な紙の模型や、1枚の円形の紙から魔法のように出来上がる紙の器など、見ても触っても作っても「驚き」があり、「楽しめる」製品の数々。これらを産み出しているのは、ごく普通の町の印刷所だった…そんなおとぎ話が、現実に存在しました。デザイナーとのコラボレーションで『かみの工作所』プロジェクトを展開する福永紙工株式会社の山田明良社長に、プロジェクトへの想いや今後について、興味深いお話を伺って来ました!

MoMAのミュージアムショップでも販売! デザイナーと町の印刷所の協同作品

失礼かもしれませんが、御社は“どこにでもある普通の印刷所”の雰囲気ですね。

ええ、ごく普通の印刷所、ですよ。厚紙を中心に扱っていて、化粧箱や製品パッケージの印刷から加工、組み立てまでをワンストップで請け負うことができる印刷会社です。ただ、印刷業界はどんどん環境が変わっていて、以前ならば仕事が来るのを待って、それを無難に仕上げていけば良かったのですが、デジタルが普及した今ではそうはいかない。市場が縮小していく中で、自分たちで生き残りの道を考えなければならない状況になっています。

その環境の中で『かみの工作所』を始めるキッカケは?

デザインディレクターの萩原修さんと出会い、何か一緒にやろう、と話し合ったのが最初のキッカケです。萩原さんは地場産業の企業とデザイナーとの協同プロジェクトを立ち上げて、展覧会などのプロデュースを行っている人。デザイナーとのネットワークがある人ですから、紹介してもらったデザイナーがうちの印刷所に遊びに来てくれるようになったんです。そこで、うちの技術や設備を見て、ここで何ができるか、何を作りたいかを発想してもらいました。その発想を具現化して、せっかく作ったのだからお披露目をしようと展示会を開催したら、思ったよりも反響があって「こんなにおもしろがってもらえるのか」と手応えを感じましたね。

空気の器

空気の器
©Fuminari Yoshitsugu

具体的に、どんな反響があったのでしょう?

まず多くのメディアが取材に来てくれて、いろいろな媒体で取り上げてもらいました。海外からの問い合わせも多く、各国のミュージアムショップや、ニューヨーク近代美術館(MoMA)からも、うちの作品を扱いたいと話が来ました。また、「空気の器」はドイツの世界的なデザイン賞である“レッドドットアワード2012”でプロダクトデザインの最優秀賞を受賞したんですよ。

クリエイティブな価値を付けることで 普通の印刷所からプロダクトメーカーへ

テラダモケイ

1/100建築模型用添景セット No.36 ぶどう狩り編
©Kenji MASUNAGA

そこで生み出された作品は、商品化されて販売していますよね。普通の印刷所がプロダクトメーカーになるなんて、とても珍しいことなのではないでしょうか。

同業者からは変わり者だと思われているでしょうねえ(笑)。うちのヒット作に建築模型用の添景を製品化した「1/100建築模型用添景セット」シリーズがあるんですが、これは何度もテストを繰り返しながら生産し、今ではいろいろなバリエーションを制作しています。この精巧さやリアルさに大きな反響があって、クチコミで広がっていき、多くのミュージアムショップやインテリアで販売しております。普通の印刷所だったのに、クリエイティブな価値が付いた瞬間にイメージが変わったのです。

それまでクリエイティブな要素はまったくなかったのですか?

これまで製品パッケージはワンストップで作れます、と言っていましたが、企画やデザインのクリエイティブワークはできなかった。いわゆる下請けの印刷会社ですから、すでに決定したデザインを元に作るわけですが、デザイナーの存在は遠くて、その想いやコンセプトはこちらには伝わらず、作っていてモヤモヤしていたんですよね。こちらとしては最高のアウトプットを出したつもりなのに、その色や質感が違うと言われても、デザイナーと直接話はできず、伝言ゲームでダメ出しされるだけ。それがデザイナーと向かい合って作れるようになったことで、これまでとは違う価値のあるものを生み出せるようになりました。

クリエイティブの力で新たな市場を開拓 新規事業の売上は約4割!

会社として、新しいマーケットを開拓できたんですね。

今では新規事業の売上が全体の4割近くになりました。今はプロダクトが一人歩きして、うちの印刷会社としてのプロモーションをしてくれています。

4割近く!すごいですね!

ただ、あまり成功事例とは思っていないんですよね。ミュージアムショップやWebで売っていますが、そこまで大ヒット!と言えるほどの売上があるわけではないんです。

十分に成功事例だと思いますが…

メディアに多く取り上げてもらって注目されたこと、デザイナーと協同してプロダクトを生み出せたこと、この2点は確かに成功だと思います。特にデザイナーとの協同では、これまで培って来た技術の新しい活かし方に気づかせてもらったり、これまでできないと思い込んでいたことができるようになったりと、いろいろなメリットがありました。しかし、ビジネスとして考えるとまだまだですね。ひとつの商品を作るのに、時間や人手の開発コストがいろいろな意味でかかりすぎている、と感じています。

ニッチな市場を追求 マニアックな印刷会社として知名度を高めたい

では、今後はどのような展開を考えているのでしょうか?

私たちが作っているものは、とがった層に受け入れられるニッチなプロダクトですが、この“ニッチな市場”はまだまだ開拓できると考えています。特に海外は紙のプロダクトをアートとして捉える傾向が強いので、海外の扱いを増やしていきたいです。

じぶんでつくる紙のスタンプキット (無印良品コラボ)

じぶんでつくる紙のスタンプキット
(無印良品コラボ)
©Fuminari Yoshitsugu

大手企業とも積極的にコラボレーションしていますね。

JR東日本やトヨタ自動車と組んで、テラダモケイシリーズの中で中央線と駅舎の添景や、クルーザー車を組立てられる添景セットなどを制作しました。他にも“無印良品”の良品計画と、商品開発から一緒に取り組んでいます。このような大きな会社と直接付き合いができるようになったのも『かみの工作所』で発信し続けていたからこそです。

いわゆる“町の印刷所”からは考えられない事業内容になっていますね!

印刷業界は経費削減のための効率化やマニュアル化が追求されているのですが、それとは完全に逆行した職人のマニアックな印刷ができる会社としての道を突き進みます。デザイナーとの協同で様々な作品を生み出して発信していくことで、知名度を高めていきたいですね。少し予算が潤沢で、やりたいことができそうだとデザイナーが考えたとき「やりたいことを叶えてくれそうな福永紙工に相談してみよう」と思い出してもらえる、そんな存在を目指しています。

『かみの工作所』で販売されている商品は、どれもワクワクします。特にテラダモケイ「1/100建築模型用添景セット」シリーズ、作ってみたいです!

ありがとうございます。1/100建築模型用添景セットシリーズは、大人のプラモデルとしてモノ作りが好きな人に人気なんですよ。作る人によって、作品の顔が違う自由度の高いモケイです。完成した添景はHPから投稿できますので、ぜひ作ってみてください!

【取材対象者】 福永紙工株式会社 代表取締役 山田明良氏

【取材対象者】
福永紙工株式会社
代表取締役
山田明良氏

◆かみの工作所 http://www.kaminokousakujo.jp ◆福永紙工ネットショップ「かみぐ」 http://www.kamigu.jp

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