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絵画になったパフォーマンス!? Marvin Gaye Chetwynd @Sadie Coles

Vol.70
London Art Trail 笠原みゆき

Sadie Coles HQ の入り口

“I want to be an insect protein entrepreneur, 2018" © Marvin Gaye Chetwynd

“Bat, 2018" © Marvin Gaye Chetwynd

うわぁーモスラ!その隣には蜜柑色のコウモリ!どちらも3メートル程の手作り感のある出で立ちで、天井まで届きそうな大きな絵画のパネルにピタリと貼り付いています。広々としたギャラリー内には同様のサイズの巨大な絵画がずらりと並び、それぞれから存在感のある動物や操り人形やらが飛び出して空間を圧倒しています。今回はソーホーにある Sadie Coles HQより、Marvin Gaye Chetwynd(マービン・ゲイ・ チェットウィンド)の個展、Ze & Perの紹介です。ギャラリーはピカデリーサーカスから徒歩5分。

奥:Pompeiian Wall, 2018 中央:"Medusa, 2016" 手前左:Samurai Bat, 2018 © Marvin Gaye Chetwynd

その先に進むと奥の壁一面は古代遺跡の壁画のような装飾で覆われています。どこの壁画のレプリカ?作品のタイトルに"Pompeiian Wall, 2018"とあるのでポンペイの遺跡?でも違うみたい?実はリウィアの別荘(Villa of Livia)として知られる古代ローマ遺跡の一つで、初代ローマ皇帝アウグストゥス(Augustus)が、妻である皇后リウィアと暮らした邸宅の壁画(前1世紀末頃-1世紀前半)のデジタルプリント。そして中央には謎のゼンマイ仕掛けの上半身マントヒヒの人魚"Medusa, 2016"がどっしりと座っていて、左手前にはコウモリの絵のプリントが…。さて、先ほどのモスラに戻ってみると、つぶらな瞳の先に見える背景画に見覚えあり?こちらもまた、同じくリウィアの別荘の壁画。作品は “I want to be an insect protein entrepreneur, 2018"。楽園として地下に描かれたこの仮想庭園を背景に、同じく地下で一生のほとんどの時を過ごす幼虫の野望を描いたのでしょうか。

"Jesus and Barabbas(Odd Man Out 2011), 2018" © Marvin Gaye Chetwynd

褐色の肌に極彩色の衣で中近東の人々を彷彿させる操り人形たち。背景画には陶酔した目でこちらを見据える女性、その画面手前では半分野獣のような男性が盃を傾けています。この背景画はビクトリア朝時代の奇才リチャード・ダッド(Richard Dadd)の酒の神バッカスとその信者のマイナスを描いた"Bacchanalian Scene"のデジタルプリント。ダッドは20歳で王立美術学院入りするなど若くして才能を認められながらも、25歳の時中東をスケッチ旅行中に精神に異常をきたし始め、26歳の時に「悪魔がそこにいる!」と実の父親を殺害してしまいます。その後は王立ベスラム精神病院(第25回コラムで紹介)で精力的に作品を生み出した作家。チェットウィンドのこの作品のタイトルは"Jesus and Barabbas(Odd Man Out 2011), 2018"。"Odd Man Out"は彼女が同ギャラリーで2011年に行った、来場者を選挙に参加させ聖書の言い伝えを基に投票結果の是非を問うたパフォーマンスの作品の題名。そうです、もうお気づきかもしれませんが、操り人形や背景画は実際にそのパフォーマンスで使われていた人形、背景幕を再構築して"絵画"に仕立てたものだったんです。

The GateKeepers, 2018 © Marvin Gaye Chetwynd

Salamanders, 2018 © Marvin Gaye Chetwynd

Moray Eel and Staff, 2018 © Marvin Gaye Chetwynd

チェットウィンドは前衛的なパフォーマンスアーティストとして知られる作家で、翌年2012年にはパフォーマンスアーティストとして初めてターナー賞にノミネートされています。ここで展示されてる他の作品も皆元々彼女のパフォーマンス作品で使われていた舞台セットやコスチュームだったりします。とはいえ、こうしてみるとやはり、実際のパフォーマンスが見たい!というのが本音ですが、本来ならば写真や映像でしか保存できないパフォーマンス作品をこういった形で保存、再提示するのもありなんだなと考えさせられました。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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