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過去は予想不可能?! @Calvert 22

Vol.62
London Art Trail 笠原みゆき

Calvert 22

オーバーグラウンド、ショーデッチ駅を出て大通りを北へ、画材屋の先の小道を右に入り、数年前までに改築して一変した通りを歩いていくとCalvert 22のサインが見えてきます。中に入ると夏らしい緑のウェルカムドリンク?が目に入り、心地よいソファーに座ってテレビを眺めると写し出されているのは宙に浮かぶレーニン像を見守る観衆!今回は東ヨーロッパ、ロシア、そして中央アジアの現代美術を専門とするCalvert 22より。ショーデッチ駅から徒歩5分。


“Once in the XX Century, 2004” © Deimantas Narkevičius


さて、先ほどのTV映像はリトアニアの首都ヴィリニュスからで、住民がレーニン像の設置に歓声を上げています。あれ、ヴィリニュスのスターリン像って、ソ連崩壊の直後撤去されて、代わりに自由の象徴としてギタリストのフランク・ザッパの像が建てられたんじゃなかったっけ?(注:ザッパとリトアニアは何の関わりもないけど、ザッパの顔がユダヤ人ぽいからいいんじゃない(リトアニア政府) みたいな感じで……。)実はこの映像、1991年のスターリン像撤去の動画を逆まわしに上映しているもので、Deimantas Narkevičius の“Once in the XX Century, 2004”。像の撤去に喜ぶ観衆が像の回帰に喜ぶように見えてしまう不思議。

“Sprit Intoxication and Absorption, 2016” © Jura Shust

緑のドリンクはミントのカクテルじゃなくて、液体洗剤(飲みたくなーい!) ここでロシアの科学者ウラジーミル・ヴェルナツキーの登場。ヴェルナツキーは地球発達には第3段階あり、生命の出現がジオスフィア(無生物の物体)からのバイオスフィア(生物圏)への転換をもたらし、人類の‘認識の出現’が、さらにノウアスフィア(叡智圏、精神圏)へと進化するという仮説を提示。果たして彼は頭でっかちになりバイオスフィアのサイクルから外れ、環境汚染は当たり前、ケミカルまみれの得体の知れない食べ物や飲み物を喜んで飲み食いする現在の人類の姿を皮肉にも予見していたのでしょうか? 1920年代、彼は生命体が他の物理的力と同様に惑星を変貌させるほどの力を持っていることを数々の論文で主張していたそうです。作品は Jura Shustの“Sprit Intoxication and Absorption, 2016”。

一階の展示室。隣には本屋とカフェ、地下にも展示室がある。

“Atlas, 2017” © Felix Kalmenson

宇宙船のようなもの、気になりますよね。中を覗いてみます。7面のスクリーンに写し出される、宙をくるくる回っている頭の上に岩を抱えた男性像は、ギリシャ神話のアトラス、それともシーシュポス?よく見ると中央には80年代のソ連時代の腕時計が西暦2000年を指したまま止まっていて、先ほどの像は反時計回りに回っています。2000年から始まったプーチン政権は現在も続き、“ツァーリ”とも呼ばれる彼の独裁政権はソ連時代を飛び越して帝政時代に逆戻りしているともいえるのかも?作品は Felix Kalmenson の“Atlas, 2017”。

The New Chelyuskinites, 2012 - 2014 © Emily Newman

地下にいくと、パペットに地図、飛行機のプロペラ、イラストやメダルに台本などと、膨大な資料が展示されていて、中央には映像が上演されています。1933年、ソ連の探検隊は蒸気船、チェリュースキンで、北極海航路を砕氷船を使わずに通過出来るかという航海を試みます。シュミット隊長に率いられ、美術家や作家を含む112名を乗せた船は運良くベーリング海の入り口にまで到達するものの、最後は大氷塊と衝突し沈んでしまうのですが……。しかし実はこの話にはソ連バージョンと国際バージョンがあって……。2012年、ピッツバーグにてEmily Newmanは年老いたロシア系ユダヤ人移民とすっかりアメリカンライフにとけ込んでいるロシア移民の子どもにソ連の歴史を伝える国際交流のプロジェクトを依頼されます。でもソ連の歴史って、重くて暗い感じで、ちょっと…ということでチェリュースキン号の冒険の実話を基にした芝居をこの二つのグループに演じてもらうことを思いつきます。Newmanはそこでリサーチ、芝居の制作のため、サンクトペテルブルクへ。プロジェクトの参加を呼びかけるクラブを立ち上げると、美術館の職員、司書、北極探検家、美術家、舞踏家、音楽家、チェリュースキン熱愛者、“クラブ”の子どもとその親まで巻き込んだ、エンドレスなコラボレーションが生まれます。映像では舞台の制作過程からクラブでのスピーチ、参加者とのプライベートな談話、勲章メダルを外す本物のチェリュースキネツ(Chelyuskinites =チェリュースキンの乗員のこと)も登場するなど、ソ連の時代とその崩壊を体験した、体験していない世代が一体となって芝居、The New Chelyuskinitesを作り上げている姿が印象に残ります。
展示のタイトルは“The Future is Certain; It’s the past Which is Unpredictable”。過去は予想不可能って、ソ連時代のジョークからきているそうです。展示では、アーティストにそれぞれ、ロシア革命やソ連の歴史を再解釈してもらうという試みでした。 Calvert 22ではロシア革命100周年にあたり、今年一年に渡ってロシア革命をテーマとした展示、パフォーマンスやトークイベントなどを開催していて、また次回の展示にも訪れてみたいと思います。





Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

© Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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