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ルールが変わると

番長プロデューサーの世直しコラム Vol.126
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

アメリカのプロバスケ、NBAのシーズンが終わりました。
今年はゴールデンステートウォーリアーズというチームの優勝でした。
このチームが本当にすごい。3ポイントの長距離シュートを平気で決める
選手たちの集まるチームです。

僕が高校2年生の時まで3ポイントシュートのルールはありませんでした。
どこから入れても2点。だから大きい選手が有利でした。
ゴール下で確実に得点できる方がリスクが低いからです。

センターというポジションの、体が大きくガッチリした人がとにかく重宝されました。
どれだけ大きい選手が活躍するかで勝敗が分かれていました。
ゴール下でがんばる大きい人にとにかくパスを入れてゴリゴリシュートに行く。
アメリカでプロバスケができてからずっと長い間こういうやり方がバスケでした。
バスケの選手はデカイ方が有利、という常識はここで定着したんだと思います。
僕はこの時期を「戦艦の時代」と呼んでいます。

3ポイントのルールができてから、マイケルジョーダンのような比較的小さい
選手が、外からも3ポイントが打てて、スピードがあり、カットインしてダンクもする。
という時代に入って行きます。3ポイントの精度が今ほどじゃなかったのですが
3ポイントを打たれると怖いので、ディフェンスが広がる。広がるとゴール下の
大きい選手にパスが入る。もしくはジョーダンの様にドリブルで切れ込む。
突っ込んでくるんじゃないかとディフェンスが収縮すると外からシュートする。
みたいな外中外中という攻撃パターンの時代がありました。
このパターンは今でもバスケの基本ではありますが。
この時期は「空母と戦闘機の時代」です。

バスケのオリンピックで使われる世界共通の国際ルールは毎オリンピックの後に改定が
あります。それは、NBAやNCAA(全米大学体育協会)などが試験的に使ってみたルールが
効果的なルールだと国際ルールにどんどん取り入れられて行くからです。
そもそも選手の肉体的な格差を是正するためのルールが3ポイント。
3ポイントのラインもルールになった当初から、今は2メートルほど後に移動しました。
つまり少しずつ遠くなっているのです。
選手がどんどん進歩して以前の距離だと入れるのが簡単になってきたからです。

僕が高校生の頃、ロサンゼルスオリンピック後のルール改定で3ポイントのルールが追加されました。高校の体育館でみんなで3ポイントのラインをテープで貼ったのを覚えています。 で、喜び勇んでシュートしてみたら届きませんでした。現役の選手だったのにです。
そんな遠くからシュートするなんて考えていませんでした。無理だなこりゃ。と。
今のスリーの距離はそれより遠いのです。

で、今年優勝したウォーリアーズ。
3ポイントを確実に決めるので有名なスプラッシュブラザーズというコンビがいます。
3ポイントが綺麗に入ると水面に石を投入れたようにゴールネットが動くのでスプラッシュ。
3ポイントシュートをノータッチで決める人たちという意味です。

今の選手たちは生まれた時には3ポイントルールがすでに存在していた人たちです。
そんなに難しく考えてないんですね。3ポイント決めるなんて。
戦い方をみていると、ゴール下にパスが入っても、そこからわざわざ
外に出してスリーを狙うようなプレイも見られるようになりました。
ダンクしても2点じゃん。的な空気。
考えてみれば1.5倍の効率で点が稼げるんだからこんなにいいことはない。
ペヤングの焼きそばですよ。得した感じ。
10点差で負けていても、昔は5本決めなきゃいけなかったところを3本で
ほぼ追いつくんですから10点差がセーフティなリードではなくなりました。

試合の結果の得点も、戦闘機の時代は100点が目処でしたが、今は130点くらい
とった方が勝つ。といった様なことになっています。
僕は「ドローンの時代」になったなと思います。

そう考えていくと、時代ってほんとうに変わっていくんだなあと思います。

戦争のやり方の変遷で表現できるほどに、バスケの戦術が変わってきた様に、
いろんな仕事の仕方も、コンピュータとインターネットのおかげで様変わりしました。
最近入ってくる新入社員も生まれた時からパソコンとネット社会があったのです。

映像資料を探すにも、夜中にTSUTAYAに行って、昔見た映画の記憶をたどってVHSの
レンタルビデオを担いで帰ってきてた時代から、
ネットで検索して世界中の映像がパソコンの前だけで手に入る時代になりました。
映像の合成にしても、1時間10万円位の値段の編集室で何日も徹夜して合成していた
作業が、会議室で、または自宅のMacでできる様な時代でもあります。

僕らがやっていた作業は「力技」と呼ばれるものが多かった様な気がします。
ゴール下でゴリゴリやっていた様なものです。
体が丈夫な人と根性のある人の方が有利だったのです。

技術の革新とは、今までは、めちゃくちゃトレーニングして鍛えた人間しかできなかったことが
、進歩する機械の力を借りて簡単にできる様になる。力技を必要としない世の中です。
ただし、それと引き換えに、簡単にできる様になった故のスピードと精度を要求される様に
なってきました。お金を払う人の要求のレベルも格段にスピードが上がってしまいました。
今日言って明日持ってきて。みたいな仕事も格段に増えました。できるでしょ?と。

ただ、間違っちゃいけないのは、3ポイントのシュートは効率が良くても、機械の革新の
恩恵をうけているわけではなく、所詮、人がやっていることですね。飽くなき反復練習の末に
身につけた技術に変わりはない。血のにじむ様な練習してるんですよ。それでもスランプになったりイップスになったり、プレッシャーのかかるところでは失敗したりもする。

それと同じ様に、機械が進歩して、それがスタンダードになったら、 それもやはりオペレーションしているのは人間なので、また、技術レベルの上がった場所での 人間の力技対決に立ち返ると言うことです。それがもう起こっている。

技術の進歩と出来ることの増え方に、少し人間がついていけなくなってきた様に感じます。
だから特に若い人たちの心が壊れ始めている。 よくわからないまま、スピードと精度を問われて、作るものが面白いかどうかわからない。
じっくり考えて作った訳ではないものに、いいも悪いもないからです。
やって当たり前で、評価もされたかどうかわからない様な気分になる。
ドローンのオペレーターも心を病むらしい。ゲームの様にやってることで人を殺しているから。

システムやルールが変わっても、やってるのは所詮、人。と言うことですな。
やらせる側が機材や技術的に出来ることがわかっていても人には限界がある。と言うことを
理解してないといつか事故になる。上司は特にそれを意識するべきなのです。

36(サブロク)協定も大事で基準ではあるけど、法律だから絶対守んなきゃいけないのなら、
それを盾にとっても追っつかないほど要求のスピードが上がっている現状をどうするか
考えないとね。全部スリーポイントしかシュートするなと言われても無理なのと同じ。

バスケも3ポイントシュートは、決まれば美しいけど、なんと言うか、ジョーダンが突っ込んで行って2~3人、空中でかわして入れてくる2点のゴールの方が興奮したんですよね。 ウォーリアーズは強いけど、なんか足りないんですよ。勝てばいいってもんじゃないよ君たち。
こんなこと続けてたらサッカー見ちゃうぞ。

効率だけを尊重してないで、じっくり考えたり休んだりネタを収集したり。
時間をかけるために早めにプロジェクトをスタートする決まりにしたり。

スピードの上がりすぎた技術にブレーキを踏んで、人間らしくヤンなさいと言うことが
「働き方改革」ですよって国が言ってくれたら腑に落ちるんだけどな。
それを目指すために具体的に働く時間を決めましょう。その時間内にこれまでやっていた
クオリティでやった人が優勝です。そうなる技術とアイディアを考えましょう。 みたいなインフォメーションになればいいのに。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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