パワハラの問題

番長プロデューサーの世直しコラムVol.65
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

会社員をやっていると、最近、ずいぶん決まり事の締め付けが厳しくなってきたと感じるときがあります。 会社法、企業コンプライアンス、コーポレートガバナンス、個人情報保護法、下請法、プライバシーマーク、パワーハラスメントにセクシャルハラスメント。こういった言葉が一気に押し寄せてきて本当に行動に注意しなければならなくなりました。

日本では明治以来、「会社法」と題する様な法律は存在せず、商法の一部として決まり事があった程度のはなしなんですって。結構いい加減な話なんですけど。それが2005年の法改正によって「会社法」という法律が制定されて2006年の5月に施行されました。この「会社法」で「企業は各種法律をすべて遵守し、従業員一同にもそれを徹底させなければならない」と決められた。法律を守るように法律で決めるなんて可笑しな話ですが、そこから一気にやってまいりました。アンバランスな攻撃。

まあ、今まで無かった様な問題が起きる世の中になってきた訳であります。テレビのニュースになる様な、何万人の顧客データーが流出したとかそういうのは当然起きてはいけない事なんでしょうけど、いや、小さい事でも起きちゃいけないんですが、とにかく今、法やルールに抵触することが、会社ではものすごい問題になります。 日常でも、部下を怒鳴ればパワハラ。おじさんらしくスケベな冗談を言うとセクハラ。居酒屋で酔っぱらって仕事の愚痴でも漏らそうもんなら情報の漏洩です。豪快には生きにくい世の中になってきました。

ほかのプロダクションのプロデューサーから聞いた話ですが、そのプロダクションは、部下を夜、食事にさそうと「会社飲みの強制」としてパワハラにあたるそうです。だから、なんというか、食事しながら仕事の話をしたり、指導したり、本当はどう思っているのかなんて突っ込んだ話をして、他人を理解するという機会も減ってきてしまった。

で、そのプロデューサーは部下の労をねぎらおうと思って、思い切って昼飯に誘ってみたそうです。そしたら、その部下、パワハラだと言い出して、昼飯への同行を拒否して、ねぎらいたいならその昼飯分の現金をくれ。と言ったそうです。

どうなんでしょうか?そんな話。

僕は、部下の失敗には厳しいです。自分で選んだ部下と仕事をしている訳ですから、部下は自分の分身です。部下の否定は自己否定です。部下の失敗は外から見ると自分の失敗。だから部下が手を抜いたと思った瞬間や、考えが足りないときは、ものすごい勢いで怒鳴ります。自分の存続がかかっているからです。 でも、それも会社の管理部からすると「パワハラ」に相当するらしいのです。 「訴えられたら負けますよ」と。 だったら失敗すんじゃねえよ。としか思えないのです。怒らせんじゃねえ。と。

パワハラの定義は、調べると ---「職場において、地位や人間関係で弱い立場の相手に対して、繰り返し精神的又は身体的苦痛を与えることにより、結果として働く人たちの権利を侵害し、職場 環境を悪化させる行為」で、ハラスメントであるか否かの判断基準は、「執拗に繰り返されることが基本」であり、しかし「一回限りでも、相手に与える衝撃の 大きさによって」ハラスメントとみなされる。パワハラは部下の能力や落ち度の問題だけではなく、上司のマネジメント能力やダイバーシティー(職場内多様性)の無さの問題と考えられるようになってきている。--- と書いてあります。

弱い立場の人間を保護するために作られた法律やルール。確かに、意地の悪い奴がねちねちと部下をいじめているのを見た事もあります。自分の事を棚に上げて説教ばっかりする馬鹿もいます。それに反抗してもっと立場が悪くなったり、会社をやめたくも無いのにやめなくちゃいけなくなったり、いろんな人が泣き寝入ってきた歴史がこういうルールを作らせたのでしょう。

問題は、法律ができました、ルールを決めました。こうこうこういうことはアウトです。みたいな説明を受けて、従い始めて時間が経つと、それを拡大解釈して逆手にとっていい加減な事をやる弱いふりをしたずるい奴が出てくる。ということと、弱い奴は弱いままで話が終わる。ということです。

僕は怒りたくて怒っている訳ではありません。できれば怒りたくない。言い分も全部聞きます。全部聞いて怒るか怒らないか判断してみる。一生懸命やっていると言われても、一生懸命やってその程度ならプロの基準に達していませんよ。と言っている訳です。そうしないとレベルアップはあり得ないからです。

そういうことを冷静に話せばいいという人もいます。そうなんでしょうけど、そうすると「怒られている」という意識が生まれないから、また、うっかり同じ事をしてしまう事になりがちです。ちゃんと電気ショックを与えないと。だから怒鳴っているときもけっこう冷静ですよ。わざと怒鳴る。同じ失敗をしないように周りにも喝を入れているときだってある。論理的なことを怒鳴りながら言う。逆に僕が冷静にそういう話をするときは本当の恐怖がそこまできているときです。

結局、人間同士のコミュニケーションなんだから、法律が云々と言い出す前に、誰かに言いつける前に、その人との間で決着を付けろ。と思うのです。それで終わりにすればいいじゃないか。と。

部下はいつまでも部下じゃない。近い将来ピン立ちして、自分でいろんな事を判断しなきゃ行けない日が来るのです。その判断の基準となるのは、あの上司だったらこういう場合はなんと言っただろう?です。その記憶が経験になるのだから鮮明に覚えさせる必要もある。それをパワハラと言われるならば人材教育などできないのです。

部下は明らかな失敗をして上司を怒らせたのなら、ごちゃごちゃ言ってないで、そのリカバーをすることに尽力しろよ。何もいわれの無いことで嫌な思いをさせられたら、その人間に対してちゃんと反抗しろよ。上司は弱そうなやつを取っ捕まえて自分のストレスをはらしてないで、一回言ったらもうやめんかい。それより自分の業務のレベルをあげろよ。と思います。

事実と感情を分けて考えましょうよ。問題はなんだったのか?なぜそれが問題だったのか?どうしてそうなったのか?その問題はどうやったら解決するのか。ということを解消した上で、で、自分の価値観からすると腹が立つとか立たないとか。この問題は、まあ、ほとんど上司の問題なんでしょうけど。 そういうコミュニケーションを心がけておくと、訴訟を起こす様なレベルじゃない話に「訴えますよ」みたいな開き直りをされなくて済むんだと思うんですけど。

まあ、なんというか、考えてみれば当たり前の事で、法律ができないとわからないのか?みたいな部類の法律が多くなってきました。逆に言うと、被害者面して、ちょっとしたことで人をはめようと思うと簡単にはめる事もできる諸刃の刃だとも思うのです。政治的に仕組まれたハニートラップに引っかかって、閑職に追いやられる優秀な人も居る。パワハラの問題だけでなく。ギャーギャーいいすぎなんだよ。ちゃんとやればいいだけじゃんか。職場だけが人生の全てでもなかろうに、と思う事もあるのです。 国もそんなことより先にやんなきゃ行けない事があるよね~。と思うばかりです。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~

  • 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
  • 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
  • 2000年にプロデューサーに昇格。
  • 2009年 社名がリフトに変更。

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。

<主なプロデュース作品>

  • AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
  • 日清食品 焼きそばU.F.O
  • マルコメ 料亭の味
  • リーブ21 企業CM
  • コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
  • クレイジーケンバンドPV
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