努力に対するジェネレーションギャップ

Vol.187
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

「トップガンマーヴェリック」というトム・クルーズの映画が

爆発的にヒットしている。

「トップガン」という映画は、米海軍航空隊のパイロット養成所で

イチニを争うパイロットの技術を競い、実践で試され、友情が芽生える。

的な内容で公開され大ヒットしたのが僕が高校3年生の時だった。

受験前だったけど映画館に見に行って勇気をもらった覚えがある。

まあいいや。その続編。

 

僕の周りのおじさんの歳のみんながこぞってこの映画を何回も繰り返して見るのだ。

それがすごいと思った。

映画の出来自体は崎陽軒の炒飯焼売弁当のようで、食べたいものが全部入っていて

一つ一つが美味しく、足りないものはなく、多すぎるものもない。

少し量も少なめなのでくどくなくお腹いっぱいになる手前で

もう一個食べたい。という感じなのだから何回か見る気持ちもわからなくない。

とにかく最近の映画の中では飛び抜けて面白いのは確かである。

 

僕は本も映画も一回観たらもう観ないというルールを自分の中に持っている。

そうしないと真剣に観ないからだ。本は、資料的価値があるもの以外は

一度読んだら必ず捨てる。

そこから見てもマーヴェリックのリピーターは度を越している。よくわからない。

 

それに対して、今、世の中で不思議がられていることは、若者が映画を倍速で見る

倍速視聴、だし、音楽はサビの部分からしか聴かず、前奏が邪魔だという話。

これもまた極端だ。

「トップガンマーヴェリック」は、そんな若者はどう思っているんだろうか?

心配になって聞いてみたら「めちゃおもしろかったっす」という答えばかり返ってくる。

崎陽軒だからな。前作なしでも面白いもんね。

「倍速で飛ばしてみてねえだろな?」「まだ映画館でしか見れないす」

これがネット配信されたら飛ばされてしまうんだろうか?

 

 

おじさんたちと若者のすごい温度差がここにあると思いました。

 

倍速視聴は日本、そして中国などで若者に多く見られる傾向なのだそうです。

そんな若者たちを「タイパ至上主義」というそうです。

タイパってなんだ?と思ったら、タイムパフォーマンスだそうで、

コスパ、タイパが今の日本の若者には重要なんだそうですね。

 

今回のこのコラムも若い編集者からの提案で取り上げているけど、

いろんな資料を読んでいたら驚くべきジェネレーションギャップが存在する

ことがわかりました。これ、結構、大人たちが共通の認識、常識として受け入れて

行かないと、ワカモンがすぐ会社を辞めちまう。という嘆きに歯止めがかからないと

思うくらいすごいですよ。

 

例えば

上司が新人の部下に会議に資料を作らせようとすることがある。

上司は部下に自分で考えさせて育てようと思って、答えを言わず「とりあえずやってみて」

とやることが多い。自分で考える力を養ってほしいからだ。

 

それが若者には迷惑千万な話らしいのだ。

 

とりあえずやっても、わからないことがたくさん出てきて途方に暮れるし、

自分で考えたところで、とりあえずやってもどうせ失敗してやり直しだし、

自分で考えてやっても上の人にいろいろなおされて結局相手の希望通りにさせられるなら、

最初から教えてよ。

どうすればいいのか知ってるんだから、教えてくれればいいじゃん。

 

と思っているらしいのです。

そしてこの思考回路は上司たちをめちゃ怒らせるということも気づいている。

 

大人は若者に、自分で考えて突破する成功体験を自分が責任取れるうちに

味合わせてあげたい。と考えているんでしょう。

しかし残念ながら、若者にその想いは届きません。

「なんだこの無駄なやり取り」と思われるのがオチです。

彼らは「無駄なく最短ルートで成長したい」と考える。

昔と違ってインターネットやSNSには、さまざまな情報が存在します。

そこには仕事の答えもたくさんあると、若者は思っている。ググれググれ。

自らが難しいことに挑んで無駄に時間をかけるより、SNS上の友達から答えを聞けばいい。

そのほうが仕事もはかどると真面目に考えているのが若者なんだそうです。

 

ゲームの世界の感覚なんですね。きっと。

現在のゲームは「解き明かすこと」ではなく、「やりこむこと」を前提に作られている。

攻略法を知ってる人がいるならシェアしてよ、有益な情報は広めたほうがみんなの得になるでしょ、わたしも裏技に気づいたらツイートするからさ。って感じのことを思ってるみたいです。

 

若者は、正解を探すまでの過程じゃなくて、正解を見つけた「あと」に試行錯誤するんだよ。

別に「試行錯誤」や「ムダ」自体が嫌いなんじゃないんだ。

それをするタイミングが違うだけなんだ。という叫びもネット上に見つけました。

 

すごいでしょ?へーそんなこと考えてたのね。ごめんね。と思いました。

 

若者からすると、大人たちは「攻略本」のない時代のゲームをまだやっている。

と感じるらしいのです。

若者を「コスパ、タイパ重視で答えをすぐ知りたがる」と蔑むのをやめろ。

おっさんたちとは努力に対するジェネレーションギャップがあるんだよ。

試行錯誤は正解を知った後で応用させる方がやりやすいんです。と。

 

わかるんだけど、本当に気持ちはわかるし、僕の世代でも

めんどくさいからどういうふうにしてほしいか早く言えよと上司に思ったこと

ありますよ。

でもね、僕はそういう文化はいくら時代が変わっても結局違うと思うんですよ。

 

 

日本電産の創業者、永守重信さんの言葉。

 

「その時点では、実現不可能なことをまずいってみることが大切」

 

「失敗だけが人間の筋力をつくります。精神力を付けて人間の幅を広げていく。

 人間の器を大きくする。成功ではなく失敗が器を大きくする。」

 

「自分と真剣に向き合って、『今どんな経験が自分に必要なのか』を日々問いながら、

 毎日を過ごす。そして「これこそ我が人生」と思える日々を過ごしてください」

 

こういうことに尽きると思うんです。

 

トップガンマーヴェリックという映画は実はそういう映画だったんですね。

おじさんたちは、今できないこと、忘れかけていたことを心から引き摺り出された。

夢見ていたことも。

ちょちょ、もう一回言ってトム。あー、そうなのよトム。と。

 

タイパ至上主義。倍速で映画を見て、答えを求める。

スマホに全てを詰め込んで、仕事にも最初に答えを求める。

そういうことが真に正しいとされる世の中になったときは、日本はもうないでしょうね。

議事録みたいな文書しか作れない奴らだらけの想像力と好奇心のない国になるよ。

 

人が答えを知っているようなことを後から工夫したところで、それは作業ですね。

仕事ってそうじゃないんですよ。複雑そうに捉えた単純作業をぐだぐだ言いながら

やってるなら会社は辞めますよ。すぐに。俺だって嫌になる。

 

大人たちもばかみたいに自分がされたことを若者に押しつけるんじゃなく

正しいやりかたとその順番を間違わないように。他人の気持ちや立場を理解できるような

正解を教えてあげる、時代の変わり方に敏感でも芯はぶれない大人でなければ

いけないんだと、これ書いていて思いました。マーヴェリックみたいに。

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

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