ホスピタリティ

番長プロデューサーの世直しコラムVol.10
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

最近、ホスピタリティという言葉をよく聞きますね。外国資本の一流ホテルや高級レストランがぼこぼこできて、オープンの時に必ず聞こえる言葉。「単なるサービスではなく、真のホスピタリティを提供します」――そんな感じで使われている気がします。

この言葉がひっかかるんですね。なんだそりゃ?と。サービスと何が違うんだろう?と。で、辞書を引いてみました。サービスは「義務、勤め、他人への奉仕、物質的財貨の生産を伴わない労働、給仕」そんなことが書いてある。それに対してホスピタリティは、「受け入れもてなす」となっている。

もう少しよく知りたくなり、語源を調べてみたら結構明快な違いが出てきました。サービスは「奴隷」を表す「Servus」が語源になっています。召使い「Servant」もここから派生しているらしい。で、ホスピタリティは「客人の保護」「客人」を表す「Hospes」が語源で、もてなす側の主人は「Host/Hostess」、病院は「Hospital」、宿泊所は「Hotel/Hostel」という具合。

つまり、サービスは「主従関係のなかで従者が仕える」という義務的イメージが基本なのに対して、ホスピタリティは「主人と客人が対等」なんですね。「お客様は神様です」みたいな考え方はサービスです。リッツカールトンホテルの従業員全員が持っているカードには、「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女である」というホテルの理念が書いてあるそうです。まさに、ホスピタリティ。

だんだんわかってきました。 なんでこの言葉にひっかかっちゃったのか。

するどい指摘、細かい考察、高いモチベーションなどを兼ね備えたお客さんと対峙することは緊張感を伴います。でも、一方、くだらないことは言われないし、張り詰めた空気に気持ちよさを感じている自分がいる。僕の大切なお客さんの一人に、そんな方がいらっしゃいます。「これは何だろう?」と、ずっと思っていました。結局その方は、ホスピタリティを重要視していたんですね。ちなみに僕は、その方からとても影響を受けています。

ホスピタリティとは「相手のことを考えて、自分ができることを考えて、何をしたら喜ばれるかを考えて、何をしたら効果的かを考えて、自分で判断してすぐさま行動する。しかも、感じよく」ということなんでしょう。

それは、実はとっても難しいことで、いろんな経験や準備や想像力が必要ですね。当然、その業種の専門知識、説得力、話法が必要になってくるし、ポーカーフェイスでいれなければだめ。困ったり、びびったり、そんな態度を一瞬でもみせたら終わり。ジェダイですよ。スターウォーズで言うところの。

なんのために、そういうことが必要なのか。

「またこの人と仕事がしたい」と思われるためですね。単純明快。奴隷的な卑屈さを持って、「なんでも言うことを聞きますから仕事をおめぐみください」ってやるんじゃなくて、「あの人と仕事するとうまくいくし気持ちいい」と思われることを目指す。そこにはもう、働かされているという感じはない。

最近、そういう感じが、なんとなく周りに足りないなあと思っているのです。「ホスピタリティ」がOxfordの英和辞書には載っているけれど、広辞苑には載ってないせいなんでしょうか(笑)。

CMの制作のマネージメントを生業とする僕らにとって、ホスピタリティは大切な概念です。

ある種サービス業に属する僕らには、完成したCMのクオリティも大切であるけれど、制作過程でおこるいろんな問題にどう対処したか?客の要望に、自分の技術や情報を持って、どう応えたか?要望以上の応対ができたか?モチベーションを下げることなく一貫して作業を進行することができたのか?「喜び」や「感動」や「快適な空間」を提供することができたのか?――そういうホスピタリティが問われているんです。まさにリッツカールトンの理念と一緒。まるごと当てはまる。

そもそもCMのプロダクションにNOはない。かと言って隷属的でもありません。新しい技術はどんどん出てくる。制度も変わる。そういうことを常にアップデイトして武器として備える。で、漠然としたものから具体的なものまで、要求に応じて「そういうことなら、こうやったらできますよ」ってにこにこして、すぐさま答える。CM制作に関してめちゃめちゃ詳しい、感じのいいモチベーションの高いお兄ちゃん、お姉ちゃんの集団。それが優秀なプロダクションなんだと思います。困った顔や嫌な顔をしない。無理だと言わない。面倒くさがらない。レベルの高い要望に余裕とレベルの高いアンサーを持つ。それがプロですね。

よく考えたら、それはどんな仕事にも通じることか。そうか。そうあってほしいですね、まじで。

これからは「ホスピタリティ」が成長する世の中であってほしいです。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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