ゴールデンカムイの謎 その11 味噌とオソマは、実際にあったエピソード?

北海道
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

兎のツミレ汁は味噌味が美味い
味噌って何?オソマ?

ゴールデンカムイ第2巻 8
雪原の中でイセポ(ウサギ)を捕えたアシㇼパと杉元。
だが脱獄囚の乱入で冬季の川に転落し、凍死の危機に陥る。
銃弾を利用した発火法で何とか火をおこし、焚火で体を温めて命を拾い、
とりあえずは落ち着いたところ。

ここでようやく、先ほど捕らえたウサギの調理法と相成る。

 調理法はリスと同様にチタタㇷ゚、アイヌ伝統の、肉のタタキ料理。
ウサギはリスより大型ながら、可食部分が案外すくないという。
そこで、骨ごと鉈で叩いてミンチ状にする。
ちなみに日本本土でも、かつては農村でウサギのタタキ肉料理が食されていたという。
もちろん生食されず、肉団子汁に仕立てる。

普段ならウサギのチタタㇷ゚は生で楽しむであろうアシㇼパも、和人の杉元のために火を通して肉団子汁に仕立てる。
具は乾燥させたカルㇱ(キノコ類)にプクサ(行者ニンニク)。味付けは恐らく塩味。
アイヌ料理の味付けは、基本的に塩のみ。
アイヌには製塩法がないので、塩は和人との交易でのみ得られる貴重品だった。

 

脂濃いリスの肉に比べ、ウサギ肉は淡白でさっぱりした味わいが持ち味だ。
焚き火で暖まり、体の内部からも暖まる杉元。
ここで例の名場面と相成る

 「味噌入れたら絶対合うんじゃないの?コレ」

「ミソってなんだ?」

「杉元それオソマじゃないか!」

「オソマ?」

「うんこだ!」

 味噌=オソマは
実際にあったエピソード

味噌も糞も一緒
日本人からしてその外見の類似性を悟るお味噌
カレーが汚いギャグの定番になる一方で、
日本の伝統食品も別の文化圏から見れば汚い連想になるのは仕方がない。

 さて、この一幕、マンガ的な創作ではない。
実際にあったエピソードをもとにしたストーリーなのだ。

 漫画「ゴールデンカムイ」の重要なエッセンスであるアイヌ料理。
その参考文献は『聞き書きアイヌの食事』と『アイヌの四季』である。
いずれも明治後期に10代、ちょうどアシㇼパと同じ年代だった、
北海道日高地方出身の1アイヌ女性の聞き語りをまとめた良書。

彼女の記憶は10代のころに始まる。
近所の和人の家に、頼まれていた縫物を届けに行った。
帰り際、お礼として包みを背負わされた。
家に帰って開けてみたら、オソマ(糞)だった!

何でウェンシャモ(悪い和人)はウンコなんかくれるのか。

だがオンネフチ(婆さん)は平然とそのオソマをオハウ(汁物)に溶かし、
美味いから飲めという。
だがオソマの汁なんかとても受け入れられず、その日は食事をしなかった。
彼女が意を決し、オソマ汁を飲んだのは、三日後のことだという。

彼女が「オソマおいしい」と言ったかどうかはさすがに不明。

 味噌をオソマと間違うエピソードは、彼女の体験に限ったものではない。
遠く離れた北海道東部、十勝地方出身の1アイヌ女性も、やはり幼少期の体験を語る。

「開拓に入った和人が、子どものウンコのようなものを食っていた。それが味噌だった」

 アイヌの食文化にも
受け入れられたお味噌

だが味噌は美味いもの。次第にアイヌ民族の食生活でも受け入れられるようになった。

味噌汁が飲めなかった日高地方の1アイヌ女性も、
成人後には自身で大豆を煮て味噌を仕込み春の山菜を「酢味噌和え」にして楽しんでいたという。

 ちなみアイヌがハルイッケウ(食べ物の背骨=根幹)と呼んで大切にした春の山菜、プクサ(行者ニンニク)、
その持ち味を最大限に生かした調理法こそ、酢味噌和え。
葉を生のままで漬け込んだ「味噌漬け」なんかも飯に合ってよろしい。

 

※参考文献

・『アイヌの婚姻』瀬川清子 未來社 1972
・『日本の食生活全集48  聞き書きアイヌの食事』農文協 1992
・『アイヌの四季』計良智子 鍛冶明香 明石書店 1995
・『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』中川裕 集英社 2019

 

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。2004年よりフリーライター。アウトドアや北海道の歴史文化を中心に執筆。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)、執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(宝島社 2019年)、『アイヌの真実』(ベストセラーズ 2020年)など。

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