台湾のゴスペル?ツォウ族の合唱

神奈川県
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

日本人になじみ深い
台湾の風土と文化

コロナの流行はいまだ収まらない。
例年ならば春爛漫、ゴールデンウイークの予定にワクワク、出費にヤキモキされられる四月下旬だが、今年はそんな期待にも悩みにも無縁なのが辛いところ。

 そんなわけで、せめてネットで海外の名所旧跡を覗きみてみたいと考える次第である。

 日本人にとって一番お手軽な海外といえば「台湾」。
温暖な気候。南国のフルーツ。飲茶に夜市の牡蠣オムレツにタピオカミルク、漢民族の「いいとこどり」ともいえる食文化。
台湾語や北京語が分からなくとも、筆談と日本語、英語である程度の意思疎通が可能である当地。親日的な風土もあり、まさに日本人おすすめの「海外」である。

 台湾の本来の民族
「台湾原住民」

さて現在の台湾はある意味「民主主義。資本主義国の中国」である。住民の大半は漢民族である。
だが漢民族は12,3世紀以降に大陸本土から渡来した外来民族であり、それ以前から台湾に住んでいた人々の子孫こそ「台湾原住民」である。一説には、太古にマレー半島方面から海流に乗って台湾にやってきた民族とされ、漢民族よりも彫りが深い、はっきりした顔立ちが特徴。「美男美女が多い」と称される。

 

※「原住民」の語は現在の日本マスコミ界では「不適切」とされ、「先住民」の語が適切とされる。だが台湾では「先住民」の語は「既にいない住民」を指し、こちらが不適切とされる。そこで当記事では台湾の慣習に従い「原住民」で統一する。

 台湾原住民のうち西部平原に住んでいたものは早々と漢民族に同化してしまったが、東部平原や山岳地帯、南東の島嶼に住んでいた民族は今でも特有の文化を守り伝えている。2021年現在、「台湾原住民」は、東部平原を中心に居住するアミ族、南部の山岳地帯に住むパイワン族、北部の山岳地帯に住むタイヤル族をはじめ、ブヌン族 、プユマ族、ルカイ族、ツォウ族、サイシャット族 、タオ族、サオ族 、クバラン族、タロコ族 、サキザヤ族 、セデック族 、カナカナブ族 、サアロア族、16部族が認定されている。

 学者を驚嘆させた
原住民の伝統音楽

台湾原住民には、独特の「音楽文化」がある。戦時中の1943年に台湾全土を巡って原住民族の村落でフィールド調査をした日本人音楽学者・黒沢隆朝は独自性と芸術性の高さに讃嘆している。近年でもアミ族の合唱が英国のアーティスト・エニグマによってサンプリングされ、「リターン・トゥ・イノセンス」に使用されたのは記憶に新しい。この折は「先住民の伝統文化の著作権」についてひと騒動持ち上がったが、それでも台湾原住民の音楽文化が全世界に知れ渡る機会ともなった。

 台湾原住民が部族ごとに独自の言語を持つのと同様、音楽文化も独自の伝承がある。東部平原に居住するアミ族音楽の持ち味は、男女がそれぞれのパートに分かれて歌う自由対立合唱(混声合唱、ポリフォニー)。澄んだ声質と朗らかな節回しが特徴である。

 一方で、今回紹介したいのは台湾最高峰の玉山の西の麓に居住する「ツォウ族」。
彼らの合唱は、男声による荘重な節回しを特徴とする。

前記の日本人音楽学者・黒沢隆朝は「黒人霊歌(いわゆるゴスペル)にも匹敵する」として絶賛していた。

文章で四の五の言ってもその良さは伝わらないゆえ、動画でご確認いただきたい。

 

戦の神をまつる祭礼「マヤスビ」での儀礼。
男性女性にわかれ、それぞれミトコンドリアの鎖状に手をつなぐ。
混声合唱ではなく、1パートの旋律で合唱する。それゆえに「荘厳」な雰囲気が醸し出される。

 ゴスペルより、むしろグレゴリオ聖歌に通じる神秘性だろうか。

 筆者は台湾東部、花蓮や台東の街で幾度もアミ族の豊年祭踊りを鑑賞している。
だがあいにく西部山岳地帯、ツォウ族の神事を参観する機会には浴していない

 コロナ以降にはぜひ訪れてみたいものである。

 

プロフィール
フリーライター
角田陽一
北海道生まれ。2004年よりフリーライター。アウトドア、グルメ、北海道の歴史文化を中心に執筆中。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)。執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(宝島社 2019年)、『アイヌの真実』(ベストセラーズ 2020年)など。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP