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つくりたいもののイメージは つくりたいと思った瞬間に 頭の中に完成イメージができあがる

Vol.41
造形作家 宇田川誉仁(Yasuhito Udagawa)氏
 
おお、これはトカゲかとわかるものものあれば、架空の生物だろうなと思うものもある。共通するのは、無数の部品がむき出しになったメカニカルなテイスト。宇田川さんの一連の作品は、昨日見た悪夢のようでもあり、天からつかわされた現代の天使のようでもある。つまりは、見たこともないファンタジックな造形を有しているということ。実は、ひょんなことから某コレクターの所蔵品を見せてもらう機会があり、度肝を抜かれたのがつい最近のことでした。その方から「この人の作品はかなり評価が高くて、NIKE JAPANのオフィスのエントランスにも採用されている」と聞き、そんな高名な作家を知らないとはまだまだ勉強が足りんなと思った次第でした。 そんなこともあり、「いつかは」と胸に秘めていたら、思いが通じ、お会いできることに。仕事場に直接乗り込み、いろいろ聞いてきました。
キカイナサイセイ

[キカイナサイセイ(Lizard)]
W600mm x L1200mm x H140mm 1998
個展[ボクハキカイナミュータント]:相鉄ギャラリー・横浜 photo by Johnny Murakoshi

琵琶鮟鱇

[琵琶鮟鱇]
W370mm x L940mm x H1620mm 2007
photo by Johnny Murakoshi

Defender

[Defender (シロサイ)]
W220mm x H310mm x D270mm 2002
日経Win-PC '02.7月号表紙用オブジェ
photo by Johnny Murakoshi

つくろうと思った瞬間に、頭の中に完成のイメージができあがる。

自己紹介のとき、肩書きはどうしています?

「立体をつくってます」と自己紹介することが多いです。造形作家と呼ばれるのも、オブジェクリエイターも、ピンとこないですね。だったら、「オブジェを制作してます」のほうがいい。肩書きに縛られるのはいやだから、ほとんど自称することはありません。仕事としては、立体はもちろん、平面イラストを描くこともあるわけで。

立体作品は、イメージイラストを起こしてからつくる?

基本的に、事前に絵を起こしたりはしません。僕は、イラストレーターが立体オブジェを手がけたというケースではないですから。子供の頃から好きでやっていた創作が、そのままつづいているだけ。だから、素材も紙粘土のまま(笑)。 つくりたいもののイメージは、つくりたいと思った瞬間に頭の中に完成イメージができあがります。あとは、それに近づけてつくっていくだけです。

創作に本腰を入れ始めたのは、いつごろから?

もとはサラリーマンで、仕事の合間に趣味としてつくっていたんですが、会社が倒産して、こちらが仕事になった。倒産の2年くらい前からグループ展に出品すると売れたり、特注作品の注文がきたりするようになっていたので、自然にそうなった感じです。

会社と作品づくりは、両立していたんだ。

いや(笑)、昼間会社へ行って、夜作品をつくって――という感じで、寝る時間はなくなっていましたね。

仕事としての作品づくりは、面白い?

雑誌の仕事でも「こういう作品をつくってくれ」という依頼は、まずないんです。「何かつくってください」と言われてから、じゃあどうしようかと。企業からの依頼の場合は、「今回は、このアイテムを入れるのだけは必須」みたいな提示はありますが、あとは自由。そういうやり方だから、やっぱり楽しいです。

で、フィギュアとは、どう違う?

ほとんど同じですね(笑)。ただ、フィギュアは複製のための原型をつくりますが、僕の場合は一点だけつくる。そこが違いますね。

ダルマシアン

[ダルマシアン]
W140mm x D140mm x H85mm 2003
個展[RE-BIRTH]:Living Design Galerry OZONE・新宿
photo by Johnny Murakoshi

Belockey

[Belockey]
W250mm x H165mm x D220mm 2004
photo by Shovel Head

Good & Evil

[Good & Evil]
W450mm x L520mm x H400mm 2005
SRAM社広告用オブジェ
photo by Ryuicha Okano

ある日、真っ白なシューズが届く。 NIKEとの本格的な関係のはじまり。

NIKEとの仕事は?

2001年から約7年、計11~12個くらいつくっています。あの会社はとても「乗せ上手」。こちらが1言うと10返ってくるので、また20返そうと思える。やっていてとても楽しい。NIKEとの仕事を通して、世界が広がった感じもします。

NIKE

何がきっかけで?

それ以前からNIKEの関係者との接触はあったのですが、ある日突然、NIKEの本社から真っ白なシューズが送られてきた(笑)。 NIKEによる「WHITE PRESTO PROJECT」への参加要請でした。白いシューズをキャンバスがわりに絵を描くというものでしたが、私は絵ではなく立体をつくりました。そして、それがきっかけとなり、次の「WHITE DUNK PROJECT」へとつづくわけです。 テーマは「真っ白なDUNK SHOESを手にとって感じたものを表現して欲しい。ルールはなし。制限もなし」。さすがに面白ことするなあと感心させられ、もちろん参加しました。その他、「ZOOM : E-CUE Project 」「R9 PROJECT」「Kobe project」「Lance Armstrong project」とプロジェクトの依頼があり、NIKE JAPANのエントランスにディスプレイすることにもなった。

ある日突然というのが、粋ですね。

NIKE社は、世界中のアーティストの動向をかなりリサーチしているみたいですね。日本の刊行物などが定期的に送られていて、そんな中で僕の作品も目にとまったとのことでした。

なんといっても、あのNIKE社からの依頼を受けているというだけで評価だって上がるでしょう。

そこはちょっと難しくて――特に日本人の友人の場合、「NIKEから仕事が来ている」と言うと、とても驚いてくれるのだけど、「NIKEか、それは凄い」で終わってしまう。「どんなものをつくっているの?」という興味を示してくれる人が、少ないんです(笑)。外国の友人と話すと、必ず「で、どんなものをつくってるんだ?」と聞かれるので、それを話すのが楽しいんです。そこは、ちょっと不満です。

とはいえ、NIKEのための仕事は、他の仕事にもつながりますよね。

ただ、広告の仕事ではないですから。そんなに露出度が高くないので、一般の人の目に触れることもあまりないし、あれを見たということで仕事の依頼が来ることも少ないです。仕事につながるのはむしろ、雑誌の表紙ですね。

創作で生活するようになって、 いろんなことを学んだ、知った。

仕事の成り立ちというか、構成はどんな具合?

販売は、大きな柱ですね。そちらでは、「ワンダーフェスティバル」というフィギュアの展示会に、年に2回出品しています。雑誌からの依頼に応じて表紙用の作品などをつくるのがもうひとつの大きな柱で、最近ではE-メールによる依頼も増えています。

普通、イラストレーターが立体作品を手がける場合は、アートディレクターとの打ち合わせが必須だし、ときにはアートディレクターからの指示に従ってつくるわけですけど。

僕の場合は、そういうの一切ないです。そういうやり方があるのは、雑誌の仕事をするようになってから知ったのですが、かえって新鮮でしたね。なるほど、そういうやり方をするのかと勉強している感じです。

なるほどねえ。

そういうやり方の場合、どういう写真を撮るかも決めていて、そのアングルだけつくるらしいですね。広告の仕事は、それが基本だそうです。ところが僕は、そんな器用なことできないから、映らないところも含めて隅々まできっちりつくる。あるとき撮影に立ち会ったら、カメラマンが「あっちからも撮れるし、こっちからも撮れるから迷う、困った」と頭を抱えていました(笑)。

雑誌の仕事などは、締め切りがあるからきついんじゃないですか?

いや、むしろ締め切りがあって助かります。ないと、いつまでもつくっていて、終わらない(笑)。強制的に終わらせないと、一度完成と思ったものも、翌日には、「ここ直したい」――って、際限ないんですよ。 逆に、僕が驚いているのは、広告の世界に締め切りを守らない作家がたくさんいるらしいということ(笑)。撮影の日になって、「できませんでした」と言ってくる人がいて、まわりもそれを寛容に受け止めているのにびっくりしました。建築の仕事ではあってはならないことだったので。

そういう感じで撮影が済んだ作品は、どうしている?

ほとんど売ってしまいますね。編集部からや、雑誌を見た方から「譲って欲しい」という依頼が来ますから。

作品の発送は、郵送?

基本的に、とりに来てもらっています。譲る相手の半分くらいは海外の方なのですが、その場合も、とりに来てもらうことが条件になります。郵送では、壊れちゃいますから(笑)。

「とりに来る」の条件を飲むんだ(笑)、凄い。それはもう、顧客とかファンとかじゃなくて、パトロンですね。

そう思います。パトロンといっても良いですね。

Memory IC

[Memory IC (オオカバマダラ)]
W440mm x H620mm x D180mm 2003
日経Win-PC '03.12月号表紙用オブジェ
photo by Johnny Murakoshi

Earlin

[Earlin]
W295mm x H215mm x D135mm 2004
photo by Shovel Head

タルロボ1号

[タルロボ1号]
W230mm x H310mm x D225mm 2000
東京書籍 平成14年度用中学校技術教科書表紙用オブジェ
photo by Johnny Murakoshi

PJ-09

[PJ-09]
W215mm x L305mm x H320mm 2006
日経パソコンの自作 '06.夏号表紙用オブジェ
photo by Shinji Yamada

生態と形態と色彩からのインスパイアが、 着想の大きなファクターになっている。

自分の作品は、どんなところが評価されていると思いますか?

よく言われるのは、「Crazy」(笑)。「こんなものをつくっちゃって」という意味だと思うんですけど。

作品の着想は、どんなところから?

たぶん、3つくらいファクターがあります。まず、生態。動物固有の生態は、作品の大きなヒントになっています。たとえば食虫植物の捕食の仕組みが面白いと感じて、「じゃあ、ここがもっとダイナミックに虫を捕まえる仕組みはどうだろう」というようなことが、アイデアとして膨らむ。 もうひとつは、形態。形態のアレンジで、「こんな形のもの、いたら面白い」ですね。そしてもうひとつは、色彩。自然界に生息する動物の持つ色は、人間のイマジネーションを超えたものが多くて、刺激を受けることが多いです。

影響を受けた作家は?

好きな作家はいますけど、影響を受けたかと考えると、ないような気がする。影響はむしろ、大好きなオートバイのメカニズムやロボットアニメからの影響のほうが大きいですね。

10年後、20年後のビジョンは?

あんまり深くは考えていません。とりあえず現時点は、趣味でやっていたことで生活できているわけで、それだけで十分に幸せ。楽しいですから。

ただ、ある日、雑誌からの依頼も、作品を買ってくれる人もなくなるということ、あり得ますよね。

なんとか、なると思っています。少なくとも、サラリーマンを続けていたら経験できなかったことがたくさんありますし、いろんなことを知るのは楽しいですから。

知るだけで、楽しいってことあるんですか。

さっきの広告の世界のこともそうですし、会社が倒産したとき、「ああ、これ以降は立体つくって売って暮らすのか」と覚悟したんですが、活動していくうちに雑誌から声をかけてもらって、“使用権”が収入になることがわかってとても感動した。そういうことごとが、いちいち楽しいんです。サラリーマンを続けていたら、絶対にわからなかったですもんね。

そういうところに喜びを見つけられる人は、強いと思うなあ。楽しみつつ、創作で生活するようになって13年か。どうですか、振り返ってみて。

特別な感想はないですけど、最近、「あなたの雑誌の仕事を見て、この世界に進んだ」という作家がチラホラ現れるようになって、ちょっと感慨深いですね。

最後に、若手クリエイターたちにエールをお願いします。

そうですね……僕から何か言葉を贈るとしたら、「継続は力なり」ですかね。続けているうちに見えてくるものって、絶対にあるものです。僕が今、心から実感しているのは、それです。僕は、人生において職は変えましたけど、これ(創作)は小学生の頃からずっとやっている。もっと言うと、工作が好きだと自覚したのは幼稚園の頃で、その延長線上に今があるとも言えます。30年以上続ける中で失敗を積み重ね、新しい技術を見つけてきたからできるのであって、いきなりつくれと言われてもできないよなあ、こんなの――と自分でも思ってますから(笑)。

取材日:2008年7月2日

Profile of 宇田川誉仁

宇田川誉仁氏
  • 1967年 東京生まれ
  • 大学卒業後、建築設計事務所で7年間勤務の傍らオブジェ制作をてがける。
  • 1996年~ "craft factory SHOVEL HEAD" として創作活動に専念
  • 1997年~2003年 月刊パソコン誌 [日経Win-PC]の表紙オブジェを制作
  • 1999年~2000年  季刊模型誌ホビージャパン別冊[S・M・H]にて[SHOVEL HEAD 棲物図鑑]を連載
  • 2004年~ [日経Win-PC]内の『パーツのつぶやき(文/折野冬葱)』にてイラスト掲載開始、季刊パソコン誌 [日経パソコンの自作] の表紙オブジェ制作開始
  • 現在、書籍表紙や企業広告等で作品発表をすることが多くなっている
"craft factory SHOVEL HEAD" HP http://www.ugauga.jp/
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