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自分を見つめ直し、武器を増やしていくことが第一線で活躍する秘訣です

Vol.159
映画監督 アベユーイチ(Yuichi Abe)氏
「ウルトラマンネクサス」をはじめとした特撮ドラマ、人力俥夫が市井の人と触れ合う短編映画『力俥-RIKISHA-』などの実写映画、「SDガンダムフォース」といったフルCGアニメーションなど、ジャンルを問わず活躍しているアベユーイチ氏。「ひとつのジャンルに特化するより幅が広い監督になりたかった」と語るアベ氏に、どのようにして現在の地位を築いたのか、そこから大事だと思ったことを教えてもらいました。

監督になろうと思ったきっかけは人間として成長し続けたいと思ったから。

映画『力俥-RIKISHA-』のように実写映画も監督されていますが、アベさんはアニメや特撮の監督もされていますよね。

昔から興味があったのはアニメでした。僕らが子供のころは、宮崎駿監督の「未来少年コナン」や「機動戦士ガンダム」などいい作品がテレビで当たり前のように見られた時代で、それを見ながら育ったのでアニメ好きでしたね。ただ時代としてアニメは子どもかオタクのものというイメージがあり、高校の部活では映画同好会に入部したんです。ここで初めて8ミリ映画を自主製作しました。とはいっても当時はカメラを回したに過ぎない程度でしたが……。

そこで“将来は映画監督に”と思うようになったのですか?

あのころは、映画はあくまでも趣味でしたね。僕は理系の人間だったので科学者になるのが夢だったんですよ。ただ大学で、“不確定性原理”という正確にここにモノがあることを証明することができないという物理の限界にぶち当たってしまい……。“世の中ってあいまい”なんだということを知りました。以前、物理を学ぶことは“世界観を知ること”と先輩が話していたのを思い出し、なんかふっと腑に落ちたんです。そんなとき、大学の寮では仲間たちと映画の自主製作をしていて、現場で起きるアクシデントや人との触れ合い、感情を揺さぶるドラマチックな出来事が多く、これがすごく楽しかった。映画づくりに進んだほうが人間として成長できるんじゃないかな?と思い、映画を仕事にすること決めました。それからは、映画を仕事に、物理と子供のころから大好きだったアニメは趣味になったという感じです。

22歳での決断。悩まなかったのですか?

どうなるかわからない道なので、やりたいという気持ちだけで進みました。あとはどうにかなるかな~と(笑)。正直、映画監督という職業は、冷静に考えたらダメで少しバカじゃないと進めない道だと思いますね。あと不思議と自分に対する自信がありました。自分を信じているというか。無謀で怖いもの知らずなんですが、その気持ちがこの道に歩ませてくれたんだと思います。大学卒業後は専門学校に通ったんですが、何を勉強したのかはあまり覚えていないです(笑)。ただ専門学校に行ってすごくよかったのは、同じ世界で頑張っていく仲間を見つけられたこと。彼らとはいまだに続いていて、映画『力俥-RIKISHA-』を制作する際には力を貸してもらいました。みんなこの業界で今までやってこれているのでそれなりの実力者ばかり。そんな彼らに対して信頼感があるしこっちも裏切れない。このときに出会った仲間は大きな財産です。

人との出会いによって新しい道が生まれ、仲間を増やして作品をつくっていく。

映画監督として道を進もうと決めてからも人生の決断が何度もあったとのことですが…。

専門学校卒業間際、コピーライターのアルバイトをしていたのですが、そこでお世話になっていた方から卒業後も続けてみないかというお話をいただいて……。それと同時期に、特撮映画『ガンヘッド』の特撮班がアルバイトを募集していてそこに参加したんですよ。撮影現場は本当に楽しく、初めて本物に触れられてその刺激は半端なかったですね。そして、この仕事が終わったとき、次に映画『ゴジラvsビオランテ』の撮影があるから正式に特撮の助監督をやらないかという話をいただきました。そのころ、現場で色んな方と知り会って刺激をもらいたいと考えていた僕にとってコピーライターの仕事は少しかけ離れていると思っていて……。どうしても撮影現場に出たいんです!!とお断りしました。あれは25歳の決断です。その後は、特撮映画の助監督をしたりドラマの特撮のシーンを担当するなどしていました。元々理系ということもあり、特撮現場の人たちともウマがあってすごく楽しかった。ただ特撮班だと役者さんがほぼ出てこない映画のごく一部でしかない。人物のシーンを学ばなければと映画監督になれないと思い、特撮から離れて実写に携わるフリーの助監督の道を選びました。

その後どうやってアニメの世界に入っていったんですか?

最新CG技術を駆使した映画『河童 kappa』でCGや合成を、映画『ACRI』でも合成の仕事を仕切ったりしました。そこで出会った方が『ウルトラマンゼアス2 超人大戦・光と影』 を担当していて「ウルトラマン」シリーズに携わることになり……とどんどん知り合いの輪が広がってCGの方面に進んでいくようになりました。そして、富士急ハイランドの「ガンダム・ザ・ライド」という乗り物の待機中に流れる映像をつくることになりサンライズさんと出会ったのがアニメに携わるようになったきかっけです。その後、フルCGアニメーションの「SDガンダムフォース」がつくられることになり、CGに詳しい監督ということで僕になり……。本当に流れに乗ってハマっていったという感じです。

人とのつながりで今があるということですね。

本当にそうです。ありがたいことに色んな人と出会ったことで、様々なジャンルの人とつながっているのだと思います。ちなみに映画『力俥-RIKISHA-』も人の繋がりで生まれた作品なんですよ。元々は西川貴教さんのチャリティーイベントで漫画家の真崎春望先生と知り合い、脚本家のむとうやすゆきさんを紹介してもらい……。スタッフも専門学校時代の仲間ですから本当の自主製作(笑)。でもそうやって仲間を増やして色んな作品が生まれていっているんだと思います。

経験したことをムダにしないためにも“幅広い作品を手掛けられる監督”になろうと決意。

「SDガンダムフォース」の同時期に映画『Jam Films S「すべり台」』で映画監督デビューも果たしていますよね。実写映画ですがCGでつくらなかった理由はあるのですか?

SF的な内容でCGを駆使してつくろうかとも思ったんですが、でもそのとき自分がどういう監督になりたいのかということを改めて考えました。そして出した答えは、CGだけでなく人間しか出てこないドラマ性のある作品もつくりたいと。フルCGアニメーションと実写の真逆の2つを扱うことで、“幅広い作品を手掛けられる監督”になろうと決意しました。どっちも好きだから選べないというのも大きな理由でしたね。

CGアニメーションから実写まで、ここまで幅が広いとこれまでの全ての経験が活きますね。

せっかくだから今までやってきたことを全て武器にしたいなと思って。実は自分の中で、監督になるまで結構寄り道をしてきたなという思いがあるんですよ。でも映画監督って寄り道すればするほどいいんじゃないかとも思っていて。寄り道してきた自分の人生も大事だなと改めて考え、それを活かすことのできる監督になることにしました。

実写とアニメは、監督するときに考え方から違うものですか?

表現ひとつとっても異なります。例えばスピードのあるパンチを表現する際、実写だと人間が出すスピードの限界がありますが、アニメだと時間も空間もスピードも全て超えてデフォルメしてそのスゴさを表現することができるんですよ。根本が違う。では実写は諦めなければならないことばかりかといえばそうではなく、思ってもいなかった奇跡が起きる可能性も高いです。生きている人の集まりなので、思ってもみなかった映像やセリフ、表情など奇跡を目の当たりにします。どんなことでも、こちらが事前に想像していた以上のものが見えたときが幸せで、想像を超えていくことが楽しいんですよ。そういう現場に立ち会えると本当にワクワクします。

武器を増やしながら、自分のことを信じて作品づくりをしていくことが大事。

アニメーションと実写、どちらも主軸にされているアベさんにとって、第一線で活躍するためにしていることはなんですか?

経験を補充することです。実は3年ほど前、「ウルトラマン」シリーズに12年携わり、自分の知恵を出し尽くした感じになっていました。この先、同じように色んなことに携わるなら新しい武器が欲しいと思い、知り合いだったアクション監督の小池達朗さんに映像のための技術であるアクションを学びました。作中のスピード感に少し悩んでいたところもあり、このことで芝居のテンポが変わればいいなと思っていて。実際に習ってみると人の体の動きも学べました。実際に体の動きが分かるようになってからは、アニメのCGのアクションパートの演出を頼まれることも多くなりましたね。色々できることが広がったんです。やはり、いつまでも今のところに留まっているだけではダメなんですよ。

現状に甘えるのでなく、いつまでも学ぶ気持ちを持つことが大事ですね。

とはいえやみくもに学んでも意味はありません。次の10年、何をするかを考えて戦略を立てるということが大事。これまで自分が培ってきたものに、新たにどんな武器をプラスしていくのか。そしてその時代で自分の興味ある新しいことをやっていくことも大切。同じことをしていては時代の流れに乗り遅れてしまいますよ。

最後にクリエイターにとって大事な心構えを教えてください。

自分を信じることです。作品をつくっていて迷うこともあると思います。もちろん色んな人に話を聞くことも大事ですが、その意見に流されず最初に自分がどう思ったのか立ち返って考えてみましょう。自分を信じないと良い作品なんてできませんから。一番ムダなのは納得せずに人の意見を取り入れて失敗すること。自分の思い通りにやって失敗するのはいいんですよ。失敗するという経験を得ることができるから。ただ、人に言われたことをやって失敗してもそれは誰の経験にもなりません。最終的に自分を信じることです。ただ信じるのには勇気がいります。そのためにちゃんと勉強して武器を増やすことが大事。これが自信につながりますから。あと作品を途中で放り投げてはダメ。監督をしていて腹が立つことは色々ありますが、凹まず気持ちを切り替えて何とか作品をつくりあげてください。出来上がって初めてひとつの作品になるのですから。

取材日:2018年12月15日 ライター:玉置晴子

アベユーイチ(Yuichi Abe)氏/映画監督

1964年生まれ、山形県出身。1989年に映画『ガンヘッド』の特撮班として助監督を経験し、『ゴジラvsビオランテ』などを手掛ける。1994年の映画『河童 kappa』でCGと合成を担当。以降、実写映画のCGに携わる。2004年の「ウルトラマンネクサス」をきっかけに「ウルトラマン」TVシリーズの監督を務め、同年スタートのTVアニメ「SDガンダムフォース」でCGアニメの監督、翌年公開の『Jam Films S「すべり台」』で実写映画監督デビューを果たす。以降、特撮、実写、アニメとジャンルを問わず活躍。2013年から、ライフワークである短編映画『力俥-RIKISHA-』を制作している。

『力俥-RIKISHA-』

©「力俥」製作委員会

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各3,800円+税
発売元:東映ビデオ
販売元:東映

人力俥を操る俥夫と客の間におこる何気ない日常を描いた物語。監督をアベユーイチ、脚本を「戦国BASARA」シリーズで圧倒的な人気を誇るむとうやすゆきが担当。主人公の人情味あふれる気風のいいベテラン俥夫には声優の関智一が扮した。鎌倉純愛編、草津熱湯編、浅草立志編、すみだ旅立ち編をまとめたDVD-BOXが発売中。

映画『力俥-RIKISHA-』公式サイト | http://rikisha-movie.jp/

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