ATMに忘れたペットボトルの〈翌日〉

東京
編集&ライター
Juzooo
じゅーぞー

 銀行の即日の振り込みは、午後3時まで。普通に会社に勤務していると、朝の出勤前か昼休みに会社の近くのATMコーナーで実行するしかない。  僕の場合、たいてい朝、出勤の途中にあるATMに立ち寄って行うことが多い。ただでさえ、朝は忙しい。遅刻しないためには、朝の5分はかなり貴重な時間だ。かといって昼休みは混んでいる確率が朝の時間帯よりも高いので、どうしても貴重な5分を犠牲にして、朝のうちに済ませた方が安 心だし、気持ちも安らぐ。  その朝も、そんな感じで会社の手前にある某都市銀行のATMコーナーに、地下鉄の駅を出て、いつもより早足で向かった。しかし、不幸なことに2台しかないATM機は、その朝は先客がいた。おまけにその後ろに2人も待っている。困ったどうしよう。その4人のうちの2人が、結構時間をかける案件を抱えていたら、5分という予定の時間が過ぎる危険性がある。  よく見ると、4人のうち3人が高齢者だ。高齢者はマシーンに弱い。諦めて昼休みにすべきか? いやままよと、僕はATMコーナーに並んだ。1分、2分と無駄な時間が過ぎていく。手に持った飲みかけのミネラルウォーターのペットボトルを無意識に揺らす自分に気づいたが、どうしようもない。  3分が過ぎた。諦めるか、そう思った時、2台のATMが同時に空いた。 「よしいける!」  ミネラルウォーターのペットボトルを台の脇に置くと、僕は急いで2件の振り込みを済ませた。幸い振り込み先はカードに登録されているので、スムーズだ。気がつくと後ろにウエイティングの人が2人。2人とも、さっきの僕と同じようにイラついた表情をしている。少し焦る……。  急いで終わらせ、早足でATMコーナーを出て、そのままの歩調で会社へと向かった。もう会社は目の前だ。良かった、遅刻しないで済んだ。そう思った時、僕はようやく気がついた。飲みかけのミネラルウォーターのペットボトルをATM機の台の上におき忘れてきたのだ。でも今から戻ったら完全に遅刻になる。仕方ない、諦めよう。そしてその日は、ATMコーナーに忘れたペットボトルのことは忘れて終わった。  翌朝、いつものコースで地下鉄の駅から会社へと向かう。ふと、昨日ATMコーナーにペットボトルを忘れたことを思い出したが、どうせ 掃除の人が片付けてしまったに違いない。  そう思いながらATMコーナーの前を通りかかった時、僕の飲みかけのペットボトルが、昨日と同じATM機の台にのっているのが見えた(写真)。あれから24時間はたっている。誰も何もしなかったのか。「さわらぬ神に祟りなし」ということだろう。今日はATMコーナーは無人だ。僕は一瞬、ペットボトルを回収しようかとも考えたが、止めておいた。誰かがいたずらして、中に何か入れていたら怖いからだ。というわけで、僕も「さわらぬ神に祟りなし」を決め込んだ。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP